事件番号
平成17(行ウ)126
事件名
行政文書不開示決定処分取消請求事件
裁判年月日
平成19年1月30日
裁判所名・部
大阪地方裁判所 第7民事部
結果
原審裁判所名
原審事件番号
原審結果
判示事項の要旨
事業者が省エネ法に基づき提出した定期報告書に記載されている事業所ごとの燃料の種類別使用量や電気使用料等の情報が,情報公開法5条2号イの不開示情報に該当しないとして,近畿経済産業局長がした行政文書一部不開示決定が取り消され,開示が命じられた事案
全文
主文
1 近畿経済産業局長が,原告に対し,平成17年1月6日付けでした行政
文書一部不開示決定(ただし,平成18年5月19日付け行政文書開示決
定によって変更された後のもの)のうち,別紙1不開示情報目録1記載の
情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分を取り消す。
文書一部不開示決定(ただし,平成18年5月19日付け行政文書開示決
定によって変更された後のもの)のうち,別紙1不開示情報目録1記載の
情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分を取り消す。
2 近畿経済産業局長は,原告に対し,原告の平成16年8月6日付け行政
文書開示請求に基づいて,別紙1不開示情報目録1記載の情報が記録され
た行政文書の部分につき開示決定をせよ。
文書開示請求に基づいて,別紙1不開示情報目録1記載の情報が記録され
た行政文書の部分につき開示決定をせよ。
3 原告のその余の訴えを却下する。
4 訴訟費用はこれを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 近畿経済産業局長が,原告に対し,平成17年1月6日付けでした行政文書
一部不開示決定のうち,別紙1不開示情報目録1及び別紙2不開示情報目録2
記載の情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分を取り消す。
1 近畿経済産業局長が,原告に対し,平成17年1月6日付けでした行政文書
一部不開示決定のうち,別紙1不開示情報目録1及び別紙2不開示情報目録2
記載の情報が記録された行政文書の部分を不開示とした部分を取り消す。
2 近畿経済産業局長は,原告に対し,原告の平成16年8月6日付け行政文書
開示請求に基づいて,別紙1不開示情報目録1及び別紙2不開示情報目録2記
載の情報が記録された行政文書の部分につき開示決定をせよ。
開示請求に基づいて,別紙1不開示情報目録1及び別紙2不開示情報目録2記
載の情報が記録された行政文書の部分につき開示決定をせよ。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,近畿経済産業局長に対して,行政機関の保有する情報の公
開に関する法律(以下「情報公開法」という。)3条に基づき,エネルギーの
使用の合理化に関する法律(平成17年法律第93号による改正前のもの。以
下「省エネ法」という。)11条に基づき各事業者から提出された定期報告書
の開示請求をしたところ,同局長がその一部につき情報公開法5条2号所定の
不開示情報に該当するとして不開示とする処分をしたため,原告が,上記一部
不開示決定処分の一部の取消しを求めるとともに,同部分につき開示処分の義
務付けを求めている抗告訴訟である。
1 本件は,原告が,近畿経済産業局長に対して,行政機関の保有する情報の公
開に関する法律(以下「情報公開法」という。)3条に基づき,エネルギーの
使用の合理化に関する法律(平成17年法律第93号による改正前のもの。以
下「省エネ法」という。)11条に基づき各事業者から提出された定期報告書
の開示請求をしたところ,同局長がその一部につき情報公開法5条2号所定の
不開示情報に該当するとして不開示とする処分をしたため,原告が,上記一部
不開示決定処分の一部の取消しを求めるとともに,同部分につき開示処分の義
務付けを求めている抗告訴訟である。
2 法令の定め
(1) 情報公開法
情報公開法は,何人も,同法の定めるところにより,行政機関の長に対し,
当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができるものとして
おり(3条),行政機関の長は,上記の開示請求があったときは,請求に係
る行政文書に5条各号に掲げる不開示情報が記録されている場合を除き,当
該行政文書を開示しなければならない(同条柱書)。
(1) 情報公開法
情報公開法は,何人も,同法の定めるところにより,行政機関の長に対し,
当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができるものとして
おり(3条),行政機関の長は,上記の開示請求があったときは,請求に係
る行政文書に5条各号に掲げる不開示情報が記録されている場合を除き,当
該行政文書を開示しなければならない(同条柱書)。
そして,同条2号イは,法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個
人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより当該法人等又は当
該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの(以
下「利益侵害情報」という。)を不開示情報に掲げる一方,同号ただし書は,
人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要である
と認められる情報は,不開示情報から除かれるものとしている。
人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより当該法人等又は当
該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの(以
下「利益侵害情報」という。)を不開示情報に掲げる一方,同号ただし書は,
人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要である
と認められる情報は,不開示情報から除かれるものとしている。
(2) 省エネ法等
ア 経済産業大臣は,燃料及びこれを熱源とする熱(以下「燃料等」という。)
の年度中使用量が政令で定める数値以上である工場を燃料等の使用の合理
化を特に推進する必要がある工場(以下「第一種熱管理指定工場」という。)
として,電気の年度中使用量が政令で定める数値以上である工場を電気の
使用の合理化を特に推進する必要がある工場(以下「第一種電気管理指定
工場」といい,第一種熱管理指定工場と合わせて「第一種エネルギー管理
指定工場」という。)として,それぞれ指定することができる(6条1項)。
イ 第一種エネルギー管理指定工場を設置する者(以下「第一種特定事業者」
という)は,毎年,経済産。 業省令で定めるところにより,第一種熱管理
指定工場にあっては燃料等の使用量その他燃料等の使用の状況並びに燃料
等を消費する設備及び燃料等の使用の合理化に関する設備の設置及び改廃
の状況に関し,第一種電気管理指定工場にあっては電気の使用量その他電
気の使用の状況並びに電気を消費する設備及び電気の使用の合理化に関す
る設備の設置及び改廃の状況に関し,経済産業省令で定める事項を主務大
臣(経済産業大臣及び当該工場に係る事業を所管する大臣をいう。27条
1項。以下同じ。)に報告しなければならない(11条)。
ア 経済産業大臣は,燃料及びこれを熱源とする熱(以下「燃料等」という。)
の年度中使用量が政令で定める数値以上である工場を燃料等の使用の合理
化を特に推進する必要がある工場(以下「第一種熱管理指定工場」という。)
として,電気の年度中使用量が政令で定める数値以上である工場を電気の
使用の合理化を特に推進する必要がある工場(以下「第一種電気管理指定
工場」といい,第一種熱管理指定工場と合わせて「第一種エネルギー管理
指定工場」という。)として,それぞれ指定することができる(6条1項)。
イ 第一種エネルギー管理指定工場を設置する者(以下「第一種特定事業者」
という)は,毎年,経済産。 業省令で定めるところにより,第一種熱管理
指定工場にあっては燃料等の使用量その他燃料等の使用の状況並びに燃料
等を消費する設備及び燃料等の使用の合理化に関する設備の設置及び改廃
の状況に関し,第一種電気管理指定工場にあっては電気の使用量その他電
気の使用の状況並びに電気を消費する設備及び電気の使用の合理化に関す
る設備の設置及び改廃の状況に関し,経済産業省令で定める事項を主務大
臣(経済産業大臣及び当該工場に係る事業を所管する大臣をいう。27条
1項。以下同じ。)に報告しなければならない(11条)。
ウ上記経済産業大臣の権限は工場の所在地を管轄する経済産業局長に,上
記主務大臣の権限は地方支分部局の長に,それぞれ委任されている(27
条2項,エネルギーの使用の合理化に関する法律施行令〔平成17年政令
第228号による改正前のもの。以下「省エネ法施行令」という。〕15
条1項,2項)。
記主務大臣の権限は地方支分部局の長に,それぞれ委任されている(27
条2項,エネルギーの使用の合理化に関する法律施行令〔平成17年政令
第228号による改正前のもの。以下「省エネ法施行令」という。〕15
条1項,2項)。
3 前提事実(当事者間に争いがないか弁論の全趣旨及び証拠〔書証番号は特記
なき限り枝番を含む。以下同じ。〕により容易に認定できる事実)
(1) 近畿経済産業局長は,省エネ法11条に基づく定期報告を受ける権限を
同法27条2項,省エネ法施行令15条2項により主務大臣から委任され,
また,情報公開法に基づく行政文書の開示及び不開示の決定をする権限を情
報公開法17条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令15条
1項の規定に基づく告示(平成13年経済産業省告示第173号)により経
済産業大臣から委任された被告に属する行政庁である。
株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼」という。)は,第一種熱管理指定
工場及び第一種電気管理指定工場である加古川製鉄所を設置する者である。
住友金属工業株式会社(以下「住友金属」という。)は,第一種熱管理指
定工場及び第一種電気管理指定工場である和歌山製鉄所を設置する者である。
花王株式会社(以下「花王」という。)は,第一種熱管理指定工場及び第
一種電気管理指定工場である和歌山工場を設置する者である。
鐘淵化学工業株式会社(現株式会社カネカ。以下「カネカ」という。)は,
第一種熱管理指定工場及び第一種電気管理指定工場である高砂工業所を設置
する者である(甲1,2,弁論の全趣旨)。
なき限り枝番を含む。以下同じ。〕により容易に認定できる事実)
(1) 近畿経済産業局長は,省エネ法11条に基づく定期報告を受ける権限を
同法27条2項,省エネ法施行令15条2項により主務大臣から委任され,
また,情報公開法に基づく行政文書の開示及び不開示の決定をする権限を情
報公開法17条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令15条
1項の規定に基づく告示(平成13年経済産業省告示第173号)により経
済産業大臣から委任された被告に属する行政庁である。
株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼」という。)は,第一種熱管理指定
工場及び第一種電気管理指定工場である加古川製鉄所を設置する者である。
住友金属工業株式会社(以下「住友金属」という。)は,第一種熱管理指
定工場及び第一種電気管理指定工場である和歌山製鉄所を設置する者である。
花王株式会社(以下「花王」という。)は,第一種熱管理指定工場及び第
一種電気管理指定工場である和歌山工場を設置する者である。
鐘淵化学工業株式会社(現株式会社カネカ。以下「カネカ」という。)は,
第一種熱管理指定工場及び第一種電気管理指定工場である高砂工業所を設置
する者である(甲1,2,弁論の全趣旨)。
(2) 原告は,情報公開法3条に基づき,近畿経済産業局長に対し,平成16
年8月9日,請求する行政文書の名称等を「平成16年8月9日までに受理
した最新年度の省エネ法第11条に基づく定期報告書(燃料等・電気共に第
2表以下を除く)」とする行政文書開示請求書(同月6日付け)を提出し,
行政文書開示請求(以下「本件開示請求」という。)をした(乙1)。
(3) 近畿経済産業局長は,本件開示請求に係る行政文書として,省エネ法1
1条に基づいて第一種特定事業者から平成16年8月9日までに提出された
最新年度の定期報告書(合計1176通)のうち熱管理に関する定期報告書
(様式第4)の報告者等に関する記載欄及び第1表(燃料等の使用量)並び
に電気管理に関する定期報告書(様式第5)の報告者等に関する記載欄及び
第1表(電気の使用量)を特定した(甲1,弁論の全趣旨)。
1条に基づいて第一種特定事業者から平成16年8月9日までに提出された
最新年度の定期報告書(合計1176通)のうち熱管理に関する定期報告書
(様式第4)の報告者等に関する記載欄及び第1表(燃料等の使用量)並び
に電気管理に関する定期報告書(様式第5)の報告者等に関する記載欄及び
第1表(電気の使用量)を特定した(甲1,弁論の全趣旨)。
(4) 近畿経済産業局長は,定期報告書の第1表(様式第4及び様式第5双方
の第1表をいう。以下同じ。)には各工場の燃料等又は電気の使用量等に関
する情報が記録されており,情報公開法13条1項所定の第三者情報に該当
するものであったことから,同項の規定に基づき,平成16年8月24日付
けで,対象文書である定期報告書を提出した各第一種特定事業者(国及び地
方公共団体を除く。)に対して意見書の提出を求め,同年9月24日までに
当該各事業者から意見書の提出を受けた(弁論の全趣旨)。
の第1表をいう。以下同じ。)には各工場の燃料等又は電気の使用量等に関
する情報が記録されており,情報公開法13条1項所定の第三者情報に該当
するものであったことから,同項の規定に基づき,平成16年8月24日付
けで,対象文書である定期報告書を提出した各第一種特定事業者(国及び地
方公共団体を除く。)に対して意見書の提出を求め,同年9月24日までに
当該各事業者から意見書の提出を受けた(弁論の全趣旨)。
(5)ア近畿経済産業局長は,前記(4)記載の意見書(提出がない事業者につい
ては,意見がないものと扱われた。)を参考にして定期報告書記載の情報
の不開示情報該当性を検討し,平成16年10月8日付けで合計246通
の定期報告書について,同年12月10日付けで合計664通の定期報告
書について,いずれも提出者等に関する事項のうち個人情報等に該当する
部分は情報公開法5条1号の不開示情報に該当するものとして,法人等(国
等を除く。)の印影については利益侵害情報に該当するものとして,これ
らの部分等について不開示とし,第1表についてはすべて開示するとの部
分開示決定処分をした(弁論の全趣旨)。
ては,意見がないものと扱われた。)を参考にして定期報告書記載の情報
の不開示情報該当性を検討し,平成16年10月8日付けで合計246通
の定期報告書について,同年12月10日付けで合計664通の定期報告
書について,いずれも提出者等に関する事項のうち個人情報等に該当する
部分は情報公開法5条1号の不開示情報に該当するものとして,法人等(国
等を除く。)の印影については利益侵害情報に該当するものとして,これ
らの部分等について不開示とし,第1表についてはすべて開示するとの部
分開示決定処分をした(弁論の全趣旨)。
イ近畿経済産業局長は,平成17年1月6日付けで,残りの266通の定
期報告書のうち,52通については上記アと同様の部分を不開示として第
1表についてはすべて開示し,214通については,上記アの不開示部分
等に加え,第1表に記載されている項目の全部又は一部を不開示としその
余を開示する部分開示決定をした。上記第1表記載項目の不開示について
は「法人に関する情報であって,通常一般には入手できない当該法人の事
業活動に関する内部情報であり,当該情報を競業他社が入手し,パンフレ
ット等により生産量の情報を知り得た場合,製品当たりのエネルギーコス
ト等が推測され,製品当たりの製造コストが類推可能となり,競業他社と
の競争上の不利益や,販売先事業者との価格交渉上の不利益が生じること
等が想定される。従って,これらの情報を公にすることにより,当該法人
の権利,競争上の地位,ノウハウ等正当な利益を害するおそれがあること
から,法第5条2号イに該当するため,これらの情報が記載されている部
分を不開示とした。」との理由が付されていた(甲1)。
(6) 原告は,平成17年2月23日,経済産業大臣に対し,前記(4)イ記載の
214通の定期報告書の部分開示(一部不開示)決定処分に関し,それぞれ
第1表の項目の全部又は一部につき情報公開法5条2号イに該当するとして
不開示とした点を不服として審査請求を行ったが,当審の口頭弁論終結時に
おいて裁決はされていない(弁論の全趣旨)。
期報告書のうち,52通については上記アと同様の部分を不開示として第
1表についてはすべて開示し,214通については,上記アの不開示部分
等に加え,第1表に記載されている項目の全部又は一部を不開示としその
余を開示する部分開示決定をした。上記第1表記載項目の不開示について
は「法人に関する情報であって,通常一般には入手できない当該法人の事
業活動に関する内部情報であり,当該情報を競業他社が入手し,パンフレ
ット等により生産量の情報を知り得た場合,製品当たりのエネルギーコス
ト等が推測され,製品当たりの製造コストが類推可能となり,競業他社と
の競争上の不利益や,販売先事業者との価格交渉上の不利益が生じること
等が想定される。従って,これらの情報を公にすることにより,当該法人
の権利,競争上の地位,ノウハウ等正当な利益を害するおそれがあること
から,法第5条2号イに該当するため,これらの情報が記載されている部
分を不開示とした。」との理由が付されていた(甲1)。
(6) 原告は,平成17年2月23日,経済産業大臣に対し,前記(4)イ記載の
214通の定期報告書の部分開示(一部不開示)決定処分に関し,それぞれ
第1表の項目の全部又は一部につき情報公開法5条2号イに該当するとして
不開示とした点を不服として審査請求を行ったが,当審の口頭弁論終結時に
おいて裁決はされていない(弁論の全趣旨)。
(7) 原告は,同年7月29日,前記(5)イ記載の214通の定期報告書の部分
開示(一部不開示)決定処分のうち別紙1不開示情報目録1記載の情報が記
録された行政文書の部分(以下「本件不開示部分」という。)及び別紙2不
開示情報目録2記載の情報が記録された行政文書の部分を不開示とした各部
分(以下「本件一部不開示決定」という。)の取消しを求めて,本件訴訟を
提起した(顕著な事実)。
(8) 近畿経済産業局長は,本件訴訟提起後,本件開示請求の対象である定期
報告書を提出した第一種特定事業者に対して改めて意見聴取を行った上,平
成18年5月19日付けで,別紙2不開示情報目録2記載の情報が記録され
た行政文書の部分をいずれも開示する内容の行政文書部分開示決定処分(以
下「本件変更決定」という。)をした(乙9,10)。
報告書を提出した第一種特定事業者に対して改めて意見聴取を行った上,平
成18年5月19日付けで,別紙2不開示情報目録2記載の情報が記録され
た行政文書の部分をいずれも開示する内容の行政文書部分開示決定処分(以
下「本件変更決定」という。)をした(乙9,10)。
4 本案前の主張
被告は,本件訴えのうち,本件変更決定により新たに開示されることとなっ
た部分(別紙2不開示情報目録2記載の情報が記録された部分)に係る本件一
部不開示決定の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠いて不適法であると主
張し,原告は特にこれを争わない。
被告は,本件訴えのうち,本件変更決定により新たに開示されることとなっ
た部分(別紙2不開示情報目録2記載の情報が記録された部分)に係る本件一
部不開示決定の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠いて不適法であると主
張し,原告は特にこれを争わない。
5 本案の争点及び当事者の主張
本件における本案の争点は,① 別紙1不開示情報目録1記載の各情報(以
下「本件数値情報」といい,個別の情報については同目録記載の番号を付して
「本件数値情報①」のようにいう。)が利益侵害情報(情報公開法5条2号イ)
に該当するか否か,② 本件数値情報が同号ただし書の不開示情報除外事由に
該当するか否かである。
本件における本案の争点は,① 別紙1不開示情報目録1記載の各情報(以
下「本件数値情報」といい,個別の情報については同目録記載の番号を付して
「本件数値情報①」のようにいう。)が利益侵害情報(情報公開法5条2号イ)
に該当するか否か,② 本件数値情報が同号ただし書の不開示情報除外事由に
該当するか否かである。
(1) 本件数値情報が利益侵害情報に該当するか〔争点1〕
[被告の主張]
ア利益侵害情報該当性の判断基準について
(ア) 情報公開法5条2号イにいう「権利,競争上の地位その他の正当な
利益」とは,法的保護に値する権利一切,公正な競争関係における地位,
ノウハウ,信用等法人の運営上の地位が広く含まれる。また,法人等に
は様々な種類,性格のものがあり,その権利・利益も多様であるので,
不開示情報該当性の判断に当たっては,当該法人等の性格や権利利益の
性質等に応じ,当該利益の要保護性,行政との関係,競争事情等を十分
に考慮する必要があるほか,他の情報と照合することによってその利益
を侵害するおそれが生ずるか否かも問題とすべきである。
ア利益侵害情報該当性の判断基準について
(ア) 情報公開法5条2号イにいう「権利,競争上の地位その他の正当な
利益」とは,法的保護に値する権利一切,公正な競争関係における地位,
ノウハウ,信用等法人の運営上の地位が広く含まれる。また,法人等に
は様々な種類,性格のものがあり,その権利・利益も多様であるので,
不開示情報該当性の判断に当たっては,当該法人等の性格や権利利益の
性質等に応じ,当該利益の要保護性,行政との関係,競争事情等を十分
に考慮する必要があるほか,他の情報と照合することによってその利益
を侵害するおそれが生ずるか否かも問題とすべきである。
(イ) 情報公開訴訟における審理は,当該行政文書に記載された具体的文
言を明らかにすることなく行わざるを得ないから,不開示決定を行った
行政庁は,当該行政文書に記載されている情報を公にした場合に生ずる
支障等について,当該行政文書の類型的な特質に着目して主張立証する
ことが想定され,裁判所の認定・判断についても同様のことがいえる。
また,情報公開法は「, 何人も」開示請求をすることができるとして
おり(同法3条),開示請求者がいかなる目的で開示請求を行ったかは
問題とならないから,行政文書が開示された場合生ずる支障は,不特定
多数者との関係で検討すべきである。
言を明らかにすることなく行わざるを得ないから,不開示決定を行った
行政庁は,当該行政文書に記載されている情報を公にした場合に生ずる
支障等について,当該行政文書の類型的な特質に着目して主張立証する
ことが想定され,裁判所の認定・判断についても同様のことがいえる。
また,情報公開法は「, 何人も」開示請求をすることができるとして
おり(同法3条),開示請求者がいかなる目的で開示請求を行ったかは
問題とならないから,行政文書が開示された場合生ずる支障は,不特定
多数者との関係で検討すべきである。
以上からすれば,情報公開訴訟においては,当該行政文書に記録され
た情報が公にされた場合に支障が生じる蓋然性自体が証拠に基づいて直
接具体的に証明されることまでは要求されていないというべきであっ
て,被告が不開示情報に該当するとする情報の類型的な性質を明らかに
して,そのような情報が公にされた場合,経験則上,支障が生ずるおそ
れがあることを判断することが可能な程度の主張立証をすれば,不開示
情報該当性は肯定されるというべきである。
た情報が公にされた場合に支障が生じる蓋然性自体が証拠に基づいて直
接具体的に証明されることまでは要求されていないというべきであっ
て,被告が不開示情報に該当するとする情報の類型的な性質を明らかに
して,そのような情報が公にされた場合,経験則上,支障が生ずるおそ
れがあることを判断することが可能な程度の主張立証をすれば,不開示
情報該当性は肯定されるというべきである。
イ定期報告書の性質等について
省エネ法は,エネルギーの使用量が一定以上である第一種特定事業者に
対し,特に定期報告書の提出を義務付けているところ(省エネ法11条),
これは,エネルギーの使用量が企業秘密に属するものであることを前提に,
エネルギー使用者自身に対して,エネルギーの使用量等の状況,エネルギ
ー消費設備の設置改廃等の状況等の把握や整理分析を促すとともに,主務
大臣に対し,エネルギー使用者に対する必要な指導及び助言(省エネ法5
条)等を行うに当たっての基礎資料を提供しようとしたのであって,省エ
ネ法上,その公開が予定されているものではない。このことは,省エネ法
に関する国会審議の経過からも明らかである。
省エネ法は,エネルギーの使用量が一定以上である第一種特定事業者に
対し,特に定期報告書の提出を義務付けているところ(省エネ法11条),
これは,エネルギーの使用量が企業秘密に属するものであることを前提に,
エネルギー使用者自身に対して,エネルギーの使用量等の状況,エネルギ
ー消費設備の設置改廃等の状況等の把握や整理分析を促すとともに,主務
大臣に対し,エネルギー使用者に対する必要な指導及び助言(省エネ法5
条)等を行うに当たっての基礎資料を提供しようとしたのであって,省エ
ネ法上,その公開が予定されているものではない。このことは,省エネ法
に関する国会審議の経過からも明らかである。
ウ本件数値情報がその性質上一般的に情報公開法5条2号イの不開示情報
に該当すること
に該当すること
(ア) 製造原価を推計されることによる不利益
a 本件数値情報は,一般に公開されていない各事業者の事業活動に関
する内部情報であるところ,燃料や電力の単価は各種統計等や自らの
契約単価から想定可能なので,本件数値情報が明らかになれば,本件
数値情報に燃料等又は電気の単価を乗じることにより当該工場全体の
1年間のエネルギーコストが推計できる。特に定期報告書では,数値
の算出方法や記載方法の統一が図られており,正確性の担保もされて
いるから,この推計の精度は高い。また,企業は,年次報告書やパン
フレット,ウェブサイト等により当該工場での年間製品製造数量を公
表していることがあるから,第三者,特に同業他社が当該工場での年
間製品製造数量を推計することは可能であり,上記エネルギーコスト
を製品製造数量で除することにより,製品単価当たりのエネルギーコ
ストが推計できる。
製造原価は,材料費,労務費,減価償却費等のその他の経費にエネ
ルギーコストを加えたものであるところ,エネルギーコスト以外の費
用は,各種統計資料等からおおよその(同業他社であれば自社データ
を利用することにより正確な)推計をすることが可能なので,上記の
とおり推計したエネルギーコストは,製造原価を推計する有力な手掛
かりになる。
a 本件数値情報は,一般に公開されていない各事業者の事業活動に関
する内部情報であるところ,燃料や電力の単価は各種統計等や自らの
契約単価から想定可能なので,本件数値情報が明らかになれば,本件
数値情報に燃料等又は電気の単価を乗じることにより当該工場全体の
1年間のエネルギーコストが推計できる。特に定期報告書では,数値
の算出方法や記載方法の統一が図られており,正確性の担保もされて
いるから,この推計の精度は高い。また,企業は,年次報告書やパン
フレット,ウェブサイト等により当該工場での年間製品製造数量を公
表していることがあるから,第三者,特に同業他社が当該工場での年
間製品製造数量を推計することは可能であり,上記エネルギーコスト
を製品製造数量で除することにより,製品単価当たりのエネルギーコ
ストが推計できる。
製造原価は,材料費,労務費,減価償却費等のその他の経費にエネ
ルギーコストを加えたものであるところ,エネルギーコスト以外の費
用は,各種統計資料等からおおよその(同業他社であれば自社データ
を利用することにより正確な)推計をすることが可能なので,上記の
とおり推計したエネルギーコストは,製造原価を推計する有力な手掛
かりになる。
したがって,本件数値情報は,当該事業者以外の第三者にとって,
エネルギーコストひいては製造原価の推計を可能ならしめるものであ
る。
エネルギーコストひいては製造原価の推計を可能ならしめるものであ
る。
b 本件数値情報が公にされれば,競業他社が製造原価を推計すること
ができ,同種製品の製造に当たって,上記推計したエネルギーコスト
や製造原価を指標として,当該事業者の製造原価より下回る又はそれ
に近似するような製造原価を設定し,これにより製品の低価格戦略を
展開することが考えられる。
また,取引先企業が上記のように製造原価を推計し,製造原価の推
移が明らかになると,製造原価が下がっていることを値下げ交渉の材
料とされ,製品を供給する者は不利益を被る可能性が高い。
加えて,製造原価の経年変化が判明すれば,製造原価の変化傾向や
その将来像を推察でき,競業他社に技術開発戦略,設備投資戦略及び
営業戦略を検討する上での貴重な情報を提供する結果となって,当該
事業者が競争上不利益を被る可能性がある。
確かに本件数値情報によっては製造原価の概算値しか判明しない
が,それでも同業他社は同情報が不明である場合よりは正確な推計が
可能であるし,この程度の不利益があれば情報公開法5条2号イ該当
性が肯定されることは,東京地方裁判所平成16年4月23日判決(訟
務月報51巻6号1548頁),東京高等裁判所平成18年6月28
日判決(乙21)等の裁判例からも明らかである。名古屋地方裁判所
平成18年10月5日判決(甲21)は,以上の裁判例に反する特異
な判断であって,本件の参考とならない。
ができ,同種製品の製造に当たって,上記推計したエネルギーコスト
や製造原価を指標として,当該事業者の製造原価より下回る又はそれ
に近似するような製造原価を設定し,これにより製品の低価格戦略を
展開することが考えられる。
また,取引先企業が上記のように製造原価を推計し,製造原価の推
移が明らかになると,製造原価が下がっていることを値下げ交渉の材
料とされ,製品を供給する者は不利益を被る可能性が高い。
加えて,製造原価の経年変化が判明すれば,製造原価の変化傾向や
その将来像を推察でき,競業他社に技術開発戦略,設備投資戦略及び
営業戦略を検討する上での貴重な情報を提供する結果となって,当該
事業者が競争上不利益を被る可能性がある。
確かに本件数値情報によっては製造原価の概算値しか判明しない
が,それでも同業他社は同情報が不明である場合よりは正確な推計が
可能であるし,この程度の不利益があれば情報公開法5条2号イ該当
性が肯定されることは,東京地方裁判所平成16年4月23日判決(訟
務月報51巻6号1548頁),東京高等裁判所平成18年6月28
日判決(乙21)等の裁判例からも明らかである。名古屋地方裁判所
平成18年10月5日判決(甲21)は,以上の裁判例に反する特異
な判断であって,本件の参考とならない。
(イ) エネルギー効率化技術の水準等を推測されることによる不利益
a 前記(ア)aのとおり,本件数値情報から製品一単位当たりのエネル
ギー使用量が推計可能である。そして,その経年変化を追跡すること
によりエネルギー使用量の推移が判明し,製造技術の改善レベルやエ
ネルギー効率化の進捗状況が判明するから,当該事業者の導入した技
術や設備の効果が判明し,当該事業所のエネルギー効率化技術水準を
容易に推知することができる。
各事業者にとって,内外市場において厳しい競争に直面しコスト削
減が焦眉の問題となっている現状の下,材料費・労務費の抑制には限
界があるため,エネルギーコストの抑制こそが競争上の重要課題であ
って,その技術水準や取組内容,進展状況等は,重要な企業戦略とし
て企業秘密となっている。
したがって,エネルギー使用量に関する情報の開示自体により,一
般的に競争上の地位等の正当な利益を害されるおそれがある。
a 前記(ア)aのとおり,本件数値情報から製品一単位当たりのエネル
ギー使用量が推計可能である。そして,その経年変化を追跡すること
によりエネルギー使用量の推移が判明し,製造技術の改善レベルやエ
ネルギー効率化の進捗状況が判明するから,当該事業者の導入した技
術や設備の効果が判明し,当該事業所のエネルギー効率化技術水準を
容易に推知することができる。
各事業者にとって,内外市場において厳しい競争に直面しコスト削
減が焦眉の問題となっている現状の下,材料費・労務費の抑制には限
界があるため,エネルギーコストの抑制こそが競争上の重要課題であ
って,その技術水準や取組内容,進展状況等は,重要な企業戦略とし
て企業秘密となっている。
したがって,エネルギー使用量に関する情報の開示自体により,一
般的に競争上の地位等の正当な利益を害されるおそれがある。
b 原告は,本件数値情報からエネルギー効率化の技術の具体的内容が
明らかになることはないと主張するが,例えば,鉄鋼業の場合,粗鋼
の生産過程においてエネルギー効率化を進展させると,石炭系燃料の
使用量は変わらず,石油系燃料の使用量が低減されるという現象が見
られ,これにより当該事業者のエネルギー効率化の技術の具体的内容
が判明し得る。このように,製造技術の進展により,エネルギー技術
の具体的内容を推知できる場合もあり得るから,原告の上記主張は失
当である。
明らかになることはないと主張するが,例えば,鉄鋼業の場合,粗鋼
の生産過程においてエネルギー効率化を進展させると,石炭系燃料の
使用量は変わらず,石油系燃料の使用量が低減されるという現象が見
られ,これにより当該事業者のエネルギー効率化の技術の具体的内容
が判明し得る。このように,製造技術の進展により,エネルギー技術
の具体的内容を推知できる場合もあり得るから,原告の上記主張は失
当である。
(ウ) 燃料等の調達需要を推知されることによる不利益
第一種熱管理指定工場のような燃料等の大口需要家は,燃料等の調達
先を変更することが一般的に困難であるから,燃料業者が本件数値情報
から当該工場への自己の納入比率の程度を推知した場合には,これが推
知できない場合に比べて,燃料等の価格交渉において有利な立場に立ち,
反面,当該事業者は不利な立場を強いられることとなる。実際にも,各
事業者は,以上のようなリスクを避けるため,燃料の調達先を複数確保
し,燃料業者から納入比率を推定されないよう留意している。
第一種熱管理指定工場のような燃料等の大口需要家は,燃料等の調達
先を変更することが一般的に困難であるから,燃料業者が本件数値情報
から当該工場への自己の納入比率の程度を推知した場合には,これが推
知できない場合に比べて,燃料等の価格交渉において有利な立場に立ち,
反面,当該事業者は不利な立場を強いられることとなる。実際にも,各
事業者は,以上のようなリスクを避けるため,燃料の調達先を複数確保
し,燃料業者から納入比率を推定されないよう留意している。
(エ) 当該事業者が契約違反を問われる危険
他者と技術ライセンス契約等を締結している事業者であれば,当該ラ
イセンス契約等の内容において,当該技術の水準,内容等に関連する数
値情報の公開を制限し,あるいは当該技術に関連する情報として,燃料
の使用量や種類の秘密保持義務が課されている可能性がある。
本件数値情報の情報公開法に基づく公開が当該事業者に法的責任を生
じさせるものでないとしても,本件数値情報が公にされたこと自体によ
り,技術ライセンス契約等の相手方との間で紛争が起こることが想定さ
れ,かかる事態に至ること自体が,当該事業者にとって不利益というべ
きである。
他者と技術ライセンス契約等を締結している事業者であれば,当該ラ
イセンス契約等の内容において,当該技術の水準,内容等に関連する数
値情報の公開を制限し,あるいは当該技術に関連する情報として,燃料
の使用量や種類の秘密保持義務が課されている可能性がある。
本件数値情報の情報公開法に基づく公開が当該事業者に法的責任を生
じさせるものでないとしても,本件数値情報が公にされたこと自体によ
り,技術ライセンス契約等の相手方との間で紛争が起こることが想定さ
れ,かかる事態に至ること自体が,当該事業者にとって不利益というべ
きである。
(オ) 開示に応じている事業者の存在について
環境問題に関心が高まっている今日,環境に配慮した企業活動を行っ
ているというイメージを社会に与えることが結果的に企業に経済的利益
をもたらすと考え,定期報告書の開示に積極的な姿勢を示す事業者もい
る。各事業者の事業内容,競業他社等との関係,市場における地位等は,
各事業者によって様々であり,定期報告書が公開されることによって被
る不利益の程度もまた様々であるから,不利益を甘受してでも環境に配
慮しているというイメージを重視する経営判断をすることはあり得る。
このように,定期報告書の開示に反対しない事業者の存在は,その開
示が当該事業者の正当な利益を害するおそれを生じさせる可能性が大き
いという一般的性質を有するということや,本件数値情報の開示により
当該事業者の利益を害するおそれがあることを否定するものではない。
環境問題に関心が高まっている今日,環境に配慮した企業活動を行っ
ているというイメージを社会に与えることが結果的に企業に経済的利益
をもたらすと考え,定期報告書の開示に積極的な姿勢を示す事業者もい
る。各事業者の事業内容,競業他社等との関係,市場における地位等は,
各事業者によって様々であり,定期報告書が公開されることによって被
る不利益の程度もまた様々であるから,不利益を甘受してでも環境に配
慮しているというイメージを重視する経営判断をすることはあり得る。
このように,定期報告書の開示に反対しない事業者の存在は,その開
示が当該事業者の正当な利益を害するおそれを生じさせる可能性が大き
いという一般的性質を有するということや,本件数値情報の開示により
当該事業者の利益を害するおそれがあることを否定するものではない。
(カ) 小括
以上のとおり,本件数値情報は,その性質上,開示されれば当該事業
者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれを生じさせる類型の
情報であって,情報公開法5条2号イに該当する。
以上のとおり,本件数値情報は,その性質上,開示されれば当該事業
者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれを生じさせる類型の
情報であって,情報公開法5条2号イに該当する。
エ神戸製鋼加古川製鉄所の個別事情について
(ア) 神戸製鋼は,本件一部不開示決定に先立ち,本件数値情報①,②は
エネルギー使用の実態など事業所のエネルギーコストに関する情報や経
営戦略に係わる情報であり,容易にコスト計算ができることなどから,
その開示により正当な利益が害されるとする意見書を提出した。
エネルギー使用の実態など事業所のエネルギーコストに関する情報や経
営戦略に係わる情報であり,容易にコスト計算ができることなどから,
その開示により正当な利益が害されるとする意見書を提出した。
(イ) 神戸製鋼加古川製鉄所のエネルギーコストは,本件数値情報から分
かる燃料等及び電気の使用量に公知の情報ないし競業他社の自社情報に
より判明する単価を乗じて明らかになる。そして,公知の情報によって
容易に推計することができる材料費,労務費,経費等に,上記エネルギ
ーコストを加算すれば,神戸製鋼加古川製鉄所における製造コストが判
明してしまう。
また,単年度でのコストは推計値であるとしても,誤差の要因が年度
ごとに大きくは異ならないから,推計値の経年分析をすることにより,
実績値の推移を精度よく分析することが可能となる。
かる燃料等及び電気の使用量に公知の情報ないし競業他社の自社情報に
より判明する単価を乗じて明らかになる。そして,公知の情報によって
容易に推計することができる材料費,労務費,経費等に,上記エネルギ
ーコストを加算すれば,神戸製鋼加古川製鉄所における製造コストが判
明してしまう。
また,単年度でのコストは推計値であるとしても,誤差の要因が年度
ごとに大きくは異ならないから,推計値の経年分析をすることにより,
実績値の推移を精度よく分析することが可能となる。
(ウ) 神戸製鋼の取引先は,主に自動車メーカー等の大企業であり,鉄鉱
石及び石炭のコスト情報を収集して値下げ交渉に臨むなど,高い情報収
集能力,交渉力を有しており,具体的に価格を設定して厳しく交渉に臨
む取引先もある。また,取引先のほとんどが年単位で契約しており,継
続的な契約関係にあることから,価格交渉においては前年度の価格を基
準として行われており,コストの経年変化が重要な要素となり得る。
このことは,鉄鉱石や原料炭のコストでさえ価格交渉の材料とされて
いることから,明らかといえる。
石及び石炭のコスト情報を収集して値下げ交渉に臨むなど,高い情報収
集能力,交渉力を有しており,具体的に価格を設定して厳しく交渉に臨
む取引先もある。また,取引先のほとんどが年単位で契約しており,継
続的な契約関係にあることから,価格交渉においては前年度の価格を基
準として行われており,コストの経年変化が重要な要素となり得る。
このことは,鉄鉱石や原料炭のコストでさえ価格交渉の材料とされて
いることから,明らかといえる。
(エ) 鉄鋼業においては,近年,中国,韓国をはじめとする海外企業との
競争が激化しており,神戸製鋼の製品中海外企業と競合しているものは,
約半数に及んでいる。神戸製鋼は,海外企業が安い人件費でコストダウ
ンするのに対し,優れたエネルギー効率化技術によりエネルギーコスト
を削減して海外企業と競争してきた。本件数値情報の開示により,エネ
ルギー効率化水準を推測させる情報が海外企業に知られれば,海外企業
にとってエネルギー効率化水準の目標設定が容易となり,短期間での達
成が可能となる。鉄鋼業はいわゆる素材産業で,品質の向上にも限界が
あるから,このようにエネルギー効率化技術による優位性を喪失し得る
ことは,長期的にみて極めて大きな不利益となる。
競争が激化しており,神戸製鋼の製品中海外企業と競合しているものは,
約半数に及んでいる。神戸製鋼は,海外企業が安い人件費でコストダウ
ンするのに対し,優れたエネルギー効率化技術によりエネルギーコスト
を削減して海外企業と競争してきた。本件数値情報の開示により,エネ
ルギー効率化水準を推測させる情報が海外企業に知られれば,海外企業
にとってエネルギー効率化水準の目標設定が容易となり,短期間での達
成が可能となる。鉄鋼業はいわゆる素材産業で,品質の向上にも限界が
あるから,このようにエネルギー効率化技術による優位性を喪失し得る
ことは,長期的にみて極めて大きな不利益となる。
(オ) 神戸製鋼では,企業努力により燃料供給者と有利に交渉し,統計値
よりも低価格で燃料等を仕入れているが,本件数値情報の開示により,
この優位性を喪失するおそれがある。
オ住友金属和歌山製鉄所の個別事情について
よりも低価格で燃料等を仕入れているが,本件数値情報の開示により,
この優位性を喪失するおそれがある。
オ住友金属和歌山製鉄所の個別事情について
(ア) 住友金属は,本件一部不開示決定に先立ち,本件数値情報③,④は,
エネルギー使用の実態等の企業秘密であり,競業他者や顧客に知られれ
ば競争上の地位及び正当な利益を著しく害するおそれがあるとする意見
書を提出した。
エネルギー使用の実態等の企業秘密であり,競業他者や顧客に知られれ
ば競争上の地位及び正当な利益を著しく害するおそれがあるとする意見
書を提出した。
(イ) 住友金属は,和歌山製鉄所で薄鋼板及びシームレス鋼管(無継目鋼
管)を製造しているが,その総エネルギーコストは,上記エ(イ)と同じ
方法によって推計することができる。そして,その製造工程の前半(上
工程。両製品に共通)と後半(下工程。製品別)のエネルギーコスト比
率,上工程での歩留率,両製品のエネルギー原単価はいずれも公知の情
報といってよく,これらを用いることによって薄鋼板及びシームレス鋼
管製造のエネルギーコストの推計が可能となる。
また,単年度でのコストは推計値であるとしても,誤差の要因が年度
ごとに大きくは異ならないから,推計値の経年分析をすることにより,
実績値の推移を精度よく分析することが可能となる。
(ウ) 神戸製鋼に関する前記エ(ウ),(エ)の主張は,住友金属についても
当てはまる。
管)を製造しているが,その総エネルギーコストは,上記エ(イ)と同じ
方法によって推計することができる。そして,その製造工程の前半(上
工程。両製品に共通)と後半(下工程。製品別)のエネルギーコスト比
率,上工程での歩留率,両製品のエネルギー原単価はいずれも公知の情
報といってよく,これらを用いることによって薄鋼板及びシームレス鋼
管製造のエネルギーコストの推計が可能となる。
また,単年度でのコストは推計値であるとしても,誤差の要因が年度
ごとに大きくは異ならないから,推計値の経年分析をすることにより,
実績値の推移を精度よく分析することが可能となる。
(ウ) 神戸製鋼に関する前記エ(ウ),(エ)の主張は,住友金属についても
当てはまる。
カ花王和歌山工場の個別事情について
(ア) 花王は,本件一部不開示決定に先立ち,本件数値情報⑤,⑥の開示
は企業として不利益があるとする意見書を提出したが,燃料等の使用量
の合計及びその原油換算並びに電気の使用量の合計については反対しな
かった。
は企業として不利益があるとする意見書を提出したが,燃料等の使用量
の合計及びその原油換算並びに電気の使用量の合計については反対しな
かった。
(イ) 花王は,和歌山工場において複数製品を生産しているが,主力製品で
ある衣類用粉末洗剤については,公知の情報や同業他社の自社情報によ
って原材料費,労務費,経費等を容易に推知でき,本件数値情報によっ
てエネルギーコストも推計することができる。そして,このように算出
したコストの合計に同工場の総生産量のうち衣料用粉末洗剤の生産量が
占める割合を乗ずることにより,衣料用粉末洗剤に関するコストを推計
することができる。
ある衣類用粉末洗剤については,公知の情報や同業他社の自社情報によ
って原材料費,労務費,経費等を容易に推知でき,本件数値情報によっ
てエネルギーコストも推計することができる。そして,このように算出
したコストの合計に同工場の総生産量のうち衣料用粉末洗剤の生産量が
占める割合を乗ずることにより,衣料用粉末洗剤に関するコストを推計
することができる。
(ウ) 衣料用粉末洗剤は,量販店で安売りの目玉商品にされるなど,価格
競争の激しい製品であり,販売価格も下落し続けている。また,近時,
小売店も,激しい競争に勝つため,民間の調査会社から衣料用粉末洗剤
のシェアや販売価格等に関する資料を購入し,仕入原価の圧縮に努めて
いる。このような情勢の下,製造コストやその経年変化を分析されれば,
小売店からの値下交渉の材料とされる可能性は極めて高く,その結果,
花王は,得られるはずの利益を失うこととなる。
競争の激しい製品であり,販売価格も下落し続けている。また,近時,
小売店も,激しい競争に勝つため,民間の調査会社から衣料用粉末洗剤
のシェアや販売価格等に関する資料を購入し,仕入原価の圧縮に努めて
いる。このような情勢の下,製造コストやその経年変化を分析されれば,
小売店からの値下交渉の材料とされる可能性は極めて高く,その結果,
花王は,得られるはずの利益を失うこととなる。
(エ) 我が国においては,衣類用粉末洗剤に高い溶解性及び洗浄性能が要
求されるが,そのための具体的な製造方法は企業秘密となっている。そ
して,洗剤の製造業者は,常に競業他社の製品やその製造方法について
情報を分析している。このような状況において,特許で公開されている
基本的な製造法に,本件数値情報から得たエネルギーコストの推計値を
加味することによって,花王における衣料用粉末洗剤の具体的な製造方
法が判明するおそれがある。
求されるが,そのための具体的な製造方法は企業秘密となっている。そ
して,洗剤の製造業者は,常に競業他社の製品やその製造方法について
情報を分析している。このような状況において,特許で公開されている
基本的な製造法に,本件数値情報から得たエネルギーコストの推計値を
加味することによって,花王における衣料用粉末洗剤の具体的な製造方
法が判明するおそれがある。
キカネカ高砂工業所の個別事情について
(ア) カネカは,本件一部不開示決定に先立ち,本件数値情報⑦,⑧が開
示されればエネルギーコスト,生産コストの推定が可能となり,競争上
の不利益が生じるとする意見書を提出した。
示されればエネルギーコスト,生産コストの推定が可能となり,競争上
の不利益が生じるとする意見書を提出した。
(イ) カネカは,高砂工業所において複数製品を生産しているが,主力製品
である苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)及び塩素(以下,合わせて「苛性
ソーダ等」という。)の製造コストについては,食塩水の電気分解に係る
電力コストが製造原価中の変動費に占める割合が8割以上と大きく,その
他のコスト割合等も競業他社にとって常識となっているから,本件数値情
報により電気及び燃料等の使用量が明らかになれば,高い精度で製造原
価が推計される。
である苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)及び塩素(以下,合わせて「苛性
ソーダ等」という。)の製造コストについては,食塩水の電気分解に係る
電力コストが製造原価中の変動費に占める割合が8割以上と大きく,その
他のコスト割合等も競業他社にとって常識となっているから,本件数値情
報により電気及び燃料等の使用量が明らかになれば,高い精度で製造原
価が推計される。
(ウ) 苛性ソーダ等は,いわゆる基礎資材であり,品質の面では他社の製
品と同等であることから,取引先の最大の関心は価格にあり,カネカが
コストダウンに成功しても,取引先が製造コストを経年分析すれば,不
当な値下げ交渉にさらされ,カネカが価格交渉において不利益を被るこ
とは明らかである。
また,カネカのようなコンビナート型工場は,海外を含め広域に製品
を供給していることから,他社との競争関係が生じ易いところ,競業他
社が海外企業である場合には,カネカのコスト情報が一方的に知られる
ことになり,大きな不利益を生ずる。
なお,ソーダ業界で開示に応じている事業者は,いずれも当該地域の
みに製品を供給するタイプの事業者であり,競争の態様が大きく異なる。
品と同等であることから,取引先の最大の関心は価格にあり,カネカが
コストダウンに成功しても,取引先が製造コストを経年分析すれば,不
当な値下げ交渉にさらされ,カネカが価格交渉において不利益を被るこ
とは明らかである。
また,カネカのようなコンビナート型工場は,海外を含め広域に製品
を供給していることから,他社との競争関係が生じ易いところ,競業他
社が海外企業である場合には,カネカのコスト情報が一方的に知られる
ことになり,大きな不利益を生ずる。
なお,ソーダ業界で開示に応じている事業者は,いずれも当該地域の
みに製品を供給するタイプの事業者であり,競争の態様が大きく異なる。
[原告の主張]
ア情報公開法5条2号イ該当性の判断基準について
一定の情報を公開することによって何らかの不都合が生じる可能性がお
よそ存在しないと断定できる場合は少ないにもかかわらず,情報公開法が
公開を原則とし,非公開を例外としていることからすれば,ある情報が情
報公開法5条2号イにいう「当該法人等…の権利,競争上の地位その他正
当な利益を害するおそれのあるもの」に該当するためには,その公開によ
り一般的抽象的に侵害が生ずるおそれがあるだけでは足りず,当該情報が
事業活動上の機密事項や生産技術上の秘密に属し,その公開により競争上
の地位が具体的に侵害されることが客観的に明白である,あるいはそうい
った危険が生じる可能性が強いことが必要であると解すべきである。
そして,その立証の程度についても,不開示事由たる「おそれ」の存在
を具体的に主張立証することが必要であり,当該情報の開示によりどのよ
うな法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある
のかについて,具体的理由とその根拠を示すことが不可欠であるというべ
きである。
当該文書に記載されている具体的文言を明らかにすることができないこ
とは,一般的抽象的な観点から主張立証を行わなければならないことを論
理必然的に導くものではない。
ア情報公開法5条2号イ該当性の判断基準について
一定の情報を公開することによって何らかの不都合が生じる可能性がお
よそ存在しないと断定できる場合は少ないにもかかわらず,情報公開法が
公開を原則とし,非公開を例外としていることからすれば,ある情報が情
報公開法5条2号イにいう「当該法人等…の権利,競争上の地位その他正
当な利益を害するおそれのあるもの」に該当するためには,その公開によ
り一般的抽象的に侵害が生ずるおそれがあるだけでは足りず,当該情報が
事業活動上の機密事項や生産技術上の秘密に属し,その公開により競争上
の地位が具体的に侵害されることが客観的に明白である,あるいはそうい
った危険が生じる可能性が強いことが必要であると解すべきである。
そして,その立証の程度についても,不開示事由たる「おそれ」の存在
を具体的に主張立証することが必要であり,当該情報の開示によりどのよ
うな法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある
のかについて,具体的理由とその根拠を示すことが不可欠であるというべ
きである。
当該文書に記載されている具体的文言を明らかにすることができないこ
とは,一般的抽象的な観点から主張立証を行わなければならないことを論
理必然的に導くものではない。
イ本件数値情報が一般的に情報公開法5条2号イに該当するとの主張に対
する反論
する反論
(ア) エネルギーコスト及びその経年変化の把握が困難であること
被告は,本件数値情報の開示によりエネルギーコストないしその経年
変化の推計,さらに製品の製造原価の推計が可能になると主張する。
しかし,エネルギーコストは出荷額の1%から20%にすぎず,その
余の80%以上は材料費,人件費,経費(減価償却費等)が占めるから,
エネルギーコストのみを推計したところで,他の要素を正確に把握でき
なければ重要な意味を持たない。そもそも,エネルギー原料の購入価格
自体が変動率の高いもので,実際の購入価格は各社の交渉力により異な
るから,他社の正確なコスト計算はきわめて困難であり,これを正確に
推計する手法については何ら立証されていない。
また,各工場には多数の部門があり部門ごとに生産品や生産設備も異
なること,部門別にみても多種多様な製品が作られていること,人件費
についても有価証券報告書の平均給与等しか資料がなく,これとて管理
職の給与,各部門ごとの年齢構成や職種構成の相違,派遣労働者の存在
等が無視されたものであること,その余の経費も正確に算出することは
不可能であることなどからすれば,個別商品,製品ごとに材料費,人件
費,その他の経費を割り振ることは不可能であり,エネルギーコストを
割り振る前提を欠く。したがって,製品ごとの製造原価を推計すること
はおよそ不可能であり,取引先や競争企業において意味を有する程度に
エネルギーコスト,ひいては製造原価を推計することはできないから,
これにより不利益を受けることもない。
被告は,本件数値情報の開示によりエネルギーコストないしその経年
変化の推計,さらに製品の製造原価の推計が可能になると主張する。
しかし,エネルギーコストは出荷額の1%から20%にすぎず,その
余の80%以上は材料費,人件費,経費(減価償却費等)が占めるから,
エネルギーコストのみを推計したところで,他の要素を正確に把握でき
なければ重要な意味を持たない。そもそも,エネルギー原料の購入価格
自体が変動率の高いもので,実際の購入価格は各社の交渉力により異な
るから,他社の正確なコスト計算はきわめて困難であり,これを正確に
推計する手法については何ら立証されていない。
また,各工場には多数の部門があり部門ごとに生産品や生産設備も異
なること,部門別にみても多種多様な製品が作られていること,人件費
についても有価証券報告書の平均給与等しか資料がなく,これとて管理
職の給与,各部門ごとの年齢構成や職種構成の相違,派遣労働者の存在
等が無視されたものであること,その余の経費も正確に算出することは
不可能であることなどからすれば,個別商品,製品ごとに材料費,人件
費,その他の経費を割り振ることは不可能であり,エネルギーコストを
割り振る前提を欠く。したがって,製品ごとの製造原価を推計すること
はおよそ不可能であり,取引先や競争企業において意味を有する程度に
エネルギーコスト,ひいては製造原価を推計することはできないから,
これにより不利益を受けることもない。
(イ) エネルギー効率化技術水準を推知されることによる不利益がないこと
被告は,エネルギー効率化技術水準ないしその進展状況も企業秘密で
あると主張する。しかし,上記技術水準ないし進展状況は,企業の取組
みの結果であってその具体的内容ではなく,燃料等や電気の使用量とい
う結果そのものからその具体的な技術内容が判明することはない。
なお,エネルギー効率化技術水準ないしその進展状況そのものが公開
により当該法人等の正当な利益を害するおそれのある情報ということも
できない。
被告は,エネルギー効率化技術水準ないしその進展状況も企業秘密で
あると主張する。しかし,上記技術水準ないし進展状況は,企業の取組
みの結果であってその具体的内容ではなく,燃料等や電気の使用量とい
う結果そのものからその具体的な技術内容が判明することはない。
なお,エネルギー効率化技術水準ないしその進展状況そのものが公開
により当該法人等の正当な利益を害するおそれのある情報ということも
できない。
(ウ) 燃料の調達需要を知られることによる不利益がないこと
省エネが進んでいく市場においては,供給側でも競争原理が働くので
あり,事業者の需要を知られることがその事業者の不利な立場に直ちに
結びつくものではない。
また,燃料等の供給業者は複数の事業者に供給しているから,各事業
者の需要の程度はおおよその見当により比較可能であって,本件数値情
報を知ることにより事業者側に対し特に有利な立場に立つということは
ない。
(エ) 契約上の秘密保持義務違反を問われることによる不利益がないこと
本件数値情報の公開が守秘義務の対象となるようなライセンス契約は
存在しない。
また,省エネ法上提出を義務付けられる定期報告書が情報公開法上の
手続により公開されることについては,当該事業者に何ら帰責性がなく,
契約違反を問われるおそれはないし,かかる場合にも事業者に責任が発
生するような内容の契約であれば,公序に反して無効であるというべき
である。
本件数値情報の公開が守秘義務の対象となるようなライセンス契約は
存在しない。
また,省エネ法上提出を義務付けられる定期報告書が情報公開法上の
手続により公開されることについては,当該事業者に何ら帰責性がなく,
契約違反を問われるおそれはないし,かかる場合にも事業者に責任が発
生するような内容の契約であれば,公序に反して無効であるというべき
である。
ウ各社個別事情についての反論
(ア) 神戸製鋼加古川製鉄所について
高炉製鉄業において還元剤として使用される原料炭をエネルギーコス
トに加えれば,経済産業省の統計(甲15)による高炉製鉄業の平均エ
ネルギーコスト6.3%を上回る可能性はあるものの,そもそも石炭は
輸入元やその時期によって価格が大きく変動するものであり,しかも現
実の仕入値は交渉力次第で平均値と大きく異なることがある。さらに,
同種の石炭であっても,品質により価格は変わり得る。このように,原
料炭の購入費用を考慮に入れても,製造原価が正確に推計できるという
ことにはならない。
また,高炉製鉄業におけるコスト構造は,割合の大きい方から原材料
費,労務費,経費,エネルギーコストの順であるところ,原材料費,労
務費及び経費については,工場ごと,部門ごとに生産品や労働力の構成,
設備の構造などが大きく異なるため,その推計は甚だ大まかなものとな
らざるを得ないのであって,エネルギーコストをある程度推計し得たと
しても,製造原価が把握できることにはならない。しかも,神戸製鋼は
大規模な自家発電をしているから,エネルギーコスト内部でもさらに推
計が困難となる。
高炉製鉄業において還元剤として使用される原料炭をエネルギーコス
トに加えれば,経済産業省の統計(甲15)による高炉製鉄業の平均エ
ネルギーコスト6.3%を上回る可能性はあるものの,そもそも石炭は
輸入元やその時期によって価格が大きく変動するものであり,しかも現
実の仕入値は交渉力次第で平均値と大きく異なることがある。さらに,
同種の石炭であっても,品質により価格は変わり得る。このように,原
料炭の購入費用を考慮に入れても,製造原価が正確に推計できるという
ことにはならない。
また,高炉製鉄業におけるコスト構造は,割合の大きい方から原材料
費,労務費,経費,エネルギーコストの順であるところ,原材料費,労
務費及び経費については,工場ごと,部門ごとに生産品や労働力の構成,
設備の構造などが大きく異なるため,その推計は甚だ大まかなものとな
らざるを得ないのであって,エネルギーコストをある程度推計し得たと
しても,製造原価が把握できることにはならない。しかも,神戸製鋼は
大規模な自家発電をしているから,エネルギーコスト内部でもさらに推
計が困難となる。
(イ) 住友金属和歌山製鉄所について
上記(ア)と同じである。
上記(ア)と同じである。
(ウ) 花王和歌山工場について
花王和歌山工場では,非常に多種類の製品を製造しており,本件数値
情報が開示されても,個別商品の製造原価中いくらが燃料原価であるか
を推定することはまったく不可能である。
経済産業省の統計(甲15)によれば,花王の属する石鹸合成洗剤製
造業では,売上に対するエネルギー経費率はわずか1%であり,燃料等
の使用量が判明することにより製造原価が推計される関係にない。
花王和歌山工場と同じ業種であるライオン千葉工場及び大阪工場並び
に資生堂久喜工場の定期報告書のうち本件数値情報に当たる部分は既に
開示されており,本件数値情報の開示により殊更に花王の競争上の地位
が脅かされることにはならない。
花王和歌山工場では,非常に多種類の製品を製造しており,本件数値
情報が開示されても,個別商品の製造原価中いくらが燃料原価であるか
を推定することはまったく不可能である。
経済産業省の統計(甲15)によれば,花王の属する石鹸合成洗剤製
造業では,売上に対するエネルギー経費率はわずか1%であり,燃料等
の使用量が判明することにより製造原価が推計される関係にない。
花王和歌山工場と同じ業種であるライオン千葉工場及び大阪工場並び
に資生堂久喜工場の定期報告書のうち本件数値情報に当たる部分は既に
開示されており,本件数値情報の開示により殊更に花王の競争上の地位
が脅かされることにはならない。
(エ) カネカ高砂工業所について
カネカ高砂工業所では,苛性ソーダ等以外にも多様な製品が製造され
ており,食塩電解装置以外の多種多様な機械装置も使用されている。定
期報告書には,同工業所全体で使用される電力量の合計が記載されるの
みであり,食塩電解装置の消費電力を分離して把握することはできない。
また,仮にこれが可能であったとしても,食塩電解装置から発生した塩
素は,それ自体が販売されるほか,カネカにおいて生産される他の製品
の原料ともなっており,なおさらコストの分離は困難である。
カネカ高砂工業所では,苛性ソーダ等以外にも多様な製品が製造され
ており,食塩電解装置以外の多種多様な機械装置も使用されている。定
期報告書には,同工業所全体で使用される電力量の合計が記載されるの
みであり,食塩電解装置の消費電力を分離して把握することはできない。
また,仮にこれが可能であったとしても,食塩電解装置から発生した塩
素は,それ自体が販売されるほか,カネカにおいて生産される他の製品
の原料ともなっており,なおさらコストの分離は困難である。
(2) 本件不開示情報が情報公開法5条2号ただし書に該当するか〔争点2〕
[原告の主張]
ア地球温暖化は,人間活動による温室効果ガスの急激な排出増加により,
地球の平均気温の上昇とそれに伴う気候変動を引き起こしている現象であ
り,温室効果ガスの代表的なものが二酸化炭素である。二酸化炭素の大気
中濃度は,産業革命前と比べて約3割も上昇している。地球の平均気温は,
20世紀中に約0.6℃上昇している。
[原告の主張]
ア地球温暖化は,人間活動による温室効果ガスの急激な排出増加により,
地球の平均気温の上昇とそれに伴う気候変動を引き起こしている現象であ
り,温室効果ガスの代表的なものが二酸化炭素である。二酸化炭素の大気
中濃度は,産業革命前と比べて約3割も上昇している。地球の平均気温は,
20世紀中に約0.6℃上昇している。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)作成のシナリオを用いた場
合,地球の平均地上気温は1990年から2100年までの間に1.4℃
ないし5.8℃上昇するとされ,この度合いは,少なくとも過去1万年間
で例をみないものである可能性が高い。
イ気温が大幅に上昇すれば,単に暑い日が増えるだけでなく,多くの場所
で集中豪雨が増加し,アジアの夏季モンスーンによる降水量の変動性も増
大すること,内陸部では夏季に干ばつが発生する頻度が高くなり,エルニ
ーニョ現象による干ばつや洪水が激しさを増してくること,熱帯低気圧の
風力や降水量が大きく上昇することが予測されている。その結果,個人の
生命,身体,財産に対して,次のような深刻な影響がもたらされる。
で集中豪雨が増加し,アジアの夏季モンスーンによる降水量の変動性も増
大すること,内陸部では夏季に干ばつが発生する頻度が高くなり,エルニ
ーニョ現象による干ばつや洪水が激しさを増してくること,熱帯低気圧の
風力や降水量が大きく上昇することが予測されている。その結果,個人の
生命,身体,財産に対して,次のような深刻な影響がもたらされる。
(ア) マラリアとデング熱の地理的伝染可能範囲の拡大
(イ) 熱波の増加による熱に関連した死亡や疫病の増加
(ウ) 洪水による溺死,下痢,呼吸器疾患,飢餓等の増加
(エ) 食糧生産の減少
(オ) 海水面の上昇による沿岸地域への高潮被害の増加
このように,温暖化の主要な原因である二酸化炭素排出に関する情報は,
まさに人の生命,身体,財産に関する情報といえる。
このように,温暖化の主要な原因である二酸化炭素排出に関する情報は,
まさに人の生命,身体,財産に関する情報といえる。
ウ我が国は,平成14年6月に京都議定書を批准し,二酸化炭素を基準年
比で6%削減する国際的な義務を負った。そのため,政府は,地球温暖化
対策として種々の政策を実行するに至っている。
国内の二酸化炭素の約6割は,省エネ法に基づく定期報告書の提出義務
を負う事業所によって排出されており,特に高炉製鉄業が全体に占める割
合は約13%に上る。温暖化対策の政策立案やその検証のためには,一部
情報の開示では足りず,このように多くの二酸化炭素を排出する事業者に
関し,電気・燃料別の数値も含めた本件数値情報がすべて開示されること
が必要不可欠である。事業者自らの省エネ努力も重要であるが,本件数値
情報が開示されることによって,二酸化炭素排出抑制の努力をいっそう促
す効果がある。
比で6%削減する国際的な義務を負った。そのため,政府は,地球温暖化
対策として種々の政策を実行するに至っている。
国内の二酸化炭素の約6割は,省エネ法に基づく定期報告書の提出義務
を負う事業所によって排出されており,特に高炉製鉄業が全体に占める割
合は約13%に上る。温暖化対策の政策立案やその検証のためには,一部
情報の開示では足りず,このように多くの二酸化炭素を排出する事業者に
関し,電気・燃料別の数値も含めた本件数値情報がすべて開示されること
が必要不可欠である。事業者自らの省エネ努力も重要であるが,本件数値
情報が開示されることによって,二酸化炭素排出抑制の努力をいっそう促
す効果がある。
エしたがって,本件数値情報は,人の生命,健康,生活又は財産を保護す
るため,公にすることが必要であると認められるから,情報公開法5条2
号ただし書の情報に該当し,これを開示すべきである。
るため,公にすることが必要であると認められるから,情報公開法5条2
号ただし書の情報に該当し,これを開示すべきである。