布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂)
布田川(ふたがわ)断層帯は、阿蘇外輪山の西側斜面から宇土(うと)半島
の先端に至る活断層帯である。日奈久(ひなぐ)断層帯はその北端において布
田川断層帯と接し、八代海南部に至る活断層帯である。ここでは、平成7年度
及び9年度に行われた熊本県の調査、平成18 年度に行われた産業技術総合研究
所の調査及び平成22 年度に行われた産業技術総合研究所・地域地盤環境研究
所・東海大学の調査をはじめ、これまでに両断層帯に関して行われた調査研究
成果に加え、重力異常や地震活動などの再検討に基づいて、布田川断層帯・日
奈久断層帯の諸特性を次のように評価した。*1
1 断層帯の位置及び形態
布田川断層帯は、熊本県阿蘇郡南阿蘇村から上益城郡益城町(かみましきぐ
んましきまち)木山付近を経て、宇土半島の先端に至る断層帯である(図1、
図2及び表1)。本断層帯は、概ね東北東-西南西方向に延び、全体の長さは
約64 km 以上の可能性がある。布田川断層帯は、断層線の分布等から、阿蘇村
から木山付近に位置する長さ約19 km と推定される布田川区間、木山付近から
宇土市中心部に位置する長さ約20 km の可能性がある宇土区間及び宇土市住吉
町(すみよしまち)から宇土半島北岸に沿って宇土半島先端に至る長さ約27 km
以上の可能性がある宇土半島北岸区間からなる。このうち、宇土区間の一部と
宇土半島北岸区間は、従来認定されておらず、重力異常の急変帯の分布などか
ら布田川区間及び宇土区間東部の西方延長部において地下に伏在する活断層と
して新たに推定されたものである。布田川区間は、南東側が相対的に隆起する
上下成分を伴う右横ずれ断層であり、一部では複数の断層が並走して小規模な
地溝帯を形成している。宇土区間及び宇土半島北岸区間は、南東側が相対的に
隆起する上下成分を伴う可能性がある。
日奈久断層帯は、上益城郡益城町木山付近から葦北(あしきた)郡芦北町を
経て、八代海南部に至る断層帯である。本断層帯は、概ね北東-南西方向に延
び、全体の長さは約81 km である可能性がある。日奈久断層帯は過去の活動時
期から、益城町木山付近から宇城市豊野町山崎(うきしとよのまちやまさき)
付近まで延びる長さ約16 km の高野-白旗(しらはた)区間、宇城市豊野町山
崎から芦北町の御立(おたち)岬付近に分布する長さ約40 km の日奈久区間及
び御立岬付近から八代海南部に位置する長さ約30 km の可能性がある八代海区
間に区分される。日奈久断層帯は、断層南東側が相対的に隆起する上下成分を
伴う右横ずれ断層であり、一部では断層が並走して小規模な地溝帯を形成して
いる。
2 断層帯の過去の活動
(1)布田川断層帯
布田川(ふたがわ)断層帯は、阿蘇外輪山の西側斜面から宇土(うと)半島
の先端に至る活断層帯である。日奈久(ひなぐ)断層帯はその北端において布
田川断層帯と接し、八代海南部に至る活断層帯である。ここでは、平成7年度
及び9年度に行われた熊本県の調査、平成18 年度に行われた産業技術総合研究
所の調査及び平成22 年度に行われた産業技術総合研究所・地域地盤環境研究
所・東海大学の調査をはじめ、これまでに両断層帯に関して行われた調査研究
成果に加え、重力異常や地震活動などの再検討に基づいて、布田川断層帯・日
奈久断層帯の諸特性を次のように評価した。*1
1 断層帯の位置及び形態
布田川断層帯は、熊本県阿蘇郡南阿蘇村から上益城郡益城町(かみましきぐ
んましきまち)木山付近を経て、宇土半島の先端に至る断層帯である(図1、
図2及び表1)。本断層帯は、概ね東北東-西南西方向に延び、全体の長さは
約64 km 以上の可能性がある。布田川断層帯は、断層線の分布等から、阿蘇村
から木山付近に位置する長さ約19 km と推定される布田川区間、木山付近から
宇土市中心部に位置する長さ約20 km の可能性がある宇土区間及び宇土市住吉
町(すみよしまち)から宇土半島北岸に沿って宇土半島先端に至る長さ約27 km
以上の可能性がある宇土半島北岸区間からなる。このうち、宇土区間の一部と
宇土半島北岸区間は、従来認定されておらず、重力異常の急変帯の分布などか
ら布田川区間及び宇土区間東部の西方延長部において地下に伏在する活断層と
して新たに推定されたものである。布田川区間は、南東側が相対的に隆起する
上下成分を伴う右横ずれ断層であり、一部では複数の断層が並走して小規模な
地溝帯を形成している。宇土区間及び宇土半島北岸区間は、南東側が相対的に
隆起する上下成分を伴う可能性がある。
日奈久断層帯は、上益城郡益城町木山付近から葦北(あしきた)郡芦北町を
経て、八代海南部に至る断層帯である。本断層帯は、概ね北東-南西方向に延
び、全体の長さは約81 km である可能性がある。日奈久断層帯は過去の活動時
期から、益城町木山付近から宇城市豊野町山崎(うきしとよのまちやまさき)
付近まで延びる長さ約16 km の高野-白旗(しらはた)区間、宇城市豊野町山
崎から芦北町の御立(おたち)岬付近に分布する長さ約40 km の日奈久区間及
び御立岬付近から八代海南部に位置する長さ約30 km の可能性がある八代海区
間に区分される。日奈久断層帯は、断層南東側が相対的に隆起する上下成分を
伴う右横ずれ断層であり、一部では断層が並走して小規模な地溝帯を形成して
いる。
2 断層帯の過去の活動
(1)布田川断層帯
布田川区間は、8千1百年-2万6千年程度の平均活動間隔で活動した可能
性がある。最新活動時期は約6千9百年前以後、約2千2百年前以前と推定さ
れ、活動時のずれの量は、右横ずれを主体として2m 程度であった可能性があ
る。
宇土区間及び宇土半島北岸区間は、平均活動間隔、最新活動時期や活動時の
ずれの量に関する資料は得られていない(表1)。
(2)日奈久断層帯
高野-白旗(しらはた)区間は、最新活動時期が約1千6百年前以後、約1
千2百年前以前と推定される。平均活動間隔は不明である。活動時のずれの量
は、右横ずれを主体として2m 程度であった可能性がある(表3)。
日奈久区間は、平均活動間隔が3千6百年-1万1千年程度である可能性が
ある。最新活動時期は約8千4百年前以後、約2千年前以前と推定され、活動
時には断層南東側の3m 程度の相対的隆起とそれ以上の右横ずれがあったと推
定される(表3)。
八代海区間は、平均して1千1百年-6千4百年程度の間隔で活動した可能
性がある。最新活動時期は約1千7百年前以後、約9百年前以前と推定され、
西暦744 年(天平16 年)の肥後地震の可能性がある。活動時には3m 程度ずれ
があったと推定される(表3)が、ずれの向きは不明である。
3 断層帯の将来の活動
(1)布田川断層帯
布田川区間では、マグニチュード(M)が7.0 程度の地震が発生すると推定さ
れ、その際に右横ずれを主体として2m 程度のずれを生じる可能性がある。布
田川区間において将来このような地震が発生する確率は表2に示すとおりであ
る。本評価で得られた地震の発生確率には幅があるが、その最大値をとると、
布田川区間は、今後30 年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の
中ではやや高いグループに属することになる(注1、2)。
宇土区間では、M7.0 程度の地震が発生すると推定され、その際に断層の南側
が北側に対して相対的に高まる段差を伴い、全体として2m 程度のずれを生じる
可能性がある。宇土区間においては、過去の活動が明らかでないため、将来こ
のような地震が発生する確率を求めることはできない。
宇土半島北岸区間では、M7.2 程度以上の地震が発生すると推定され、その際
に断層の南側が北側に対して相対的に高まる段差を伴い、全体として3m 程度以
上のずれを生じる可能性がある。宇土半島北岸区間においては、過去の活動が
明らかでないため、将来このような地震が発生する確率を求めることはできな
い。
布田川断層帯の3つの区間は別々に活動すると推定されるが、全体が同時に
活動する可能性も否定できない。その場合には、M7.5-7.8 程度以上の地震が
発生すると推定される。この場合の地震の発生確率は求めることができないが、
布田川断層帯の布田川区間の発生確率より大きくなることはないと考えられ
る。
(2)日奈久断層帯
高野-白旗区間では、M6.8 程度の地震が発生すると推定され、その際には右
横ずれを主体として2m 程度のずれを生じる可能性がある。高野-白旗区間に
性がある。最新活動時期は約6千9百年前以後、約2千2百年前以前と推定さ
れ、活動時のずれの量は、右横ずれを主体として2m 程度であった可能性があ
る。
宇土区間及び宇土半島北岸区間は、平均活動間隔、最新活動時期や活動時の
ずれの量に関する資料は得られていない(表1)。
(2)日奈久断層帯
高野-白旗(しらはた)区間は、最新活動時期が約1千6百年前以後、約1
千2百年前以前と推定される。平均活動間隔は不明である。活動時のずれの量
は、右横ずれを主体として2m 程度であった可能性がある(表3)。
日奈久区間は、平均活動間隔が3千6百年-1万1千年程度である可能性が
ある。最新活動時期は約8千4百年前以後、約2千年前以前と推定され、活動
時には断層南東側の3m 程度の相対的隆起とそれ以上の右横ずれがあったと推
定される(表3)。
八代海区間は、平均して1千1百年-6千4百年程度の間隔で活動した可能
性がある。最新活動時期は約1千7百年前以後、約9百年前以前と推定され、
西暦744 年(天平16 年)の肥後地震の可能性がある。活動時には3m 程度ずれ
があったと推定される(表3)が、ずれの向きは不明である。
3 断層帯の将来の活動
(1)布田川断層帯
布田川区間では、マグニチュード(M)が7.0 程度の地震が発生すると推定さ
れ、その際に右横ずれを主体として2m 程度のずれを生じる可能性がある。布
田川区間において将来このような地震が発生する確率は表2に示すとおりであ
る。本評価で得られた地震の発生確率には幅があるが、その最大値をとると、
布田川区間は、今後30 年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の
中ではやや高いグループに属することになる(注1、2)。
宇土区間では、M7.0 程度の地震が発生すると推定され、その際に断層の南側
が北側に対して相対的に高まる段差を伴い、全体として2m 程度のずれを生じる
可能性がある。宇土区間においては、過去の活動が明らかでないため、将来こ
のような地震が発生する確率を求めることはできない。
宇土半島北岸区間では、M7.2 程度以上の地震が発生すると推定され、その際
に断層の南側が北側に対して相対的に高まる段差を伴い、全体として3m 程度以
上のずれを生じる可能性がある。宇土半島北岸区間においては、過去の活動が
明らかでないため、将来このような地震が発生する確率を求めることはできな
い。
布田川断層帯の3つの区間は別々に活動すると推定されるが、全体が同時に
活動する可能性も否定できない。その場合には、M7.5-7.8 程度以上の地震が
発生すると推定される。この場合の地震の発生確率は求めることができないが、
布田川断層帯の布田川区間の発生確率より大きくなることはないと考えられ
る。
(2)日奈久断層帯
高野-白旗区間では、M6.8 程度の地震が発生すると推定され、その際には右
横ずれを主体として2m 程度のずれを生じる可能性がある。高野-白旗区間に
おいては、平均活動間隔が明らかでないため、将来このような地震が発生する
確率を求めることはできない。
日奈久区間では、M7.5 程度の地震が発生すると推定され、その際には断層南
東側の3m 程度の相対的隆起とそれ以上の右横ずれを伴う可能性がある。日奈
久区間において将来このような地震が発生する確率は表4に示すとおりであ
る。
八代海区間では、M7.3 程度の地震が発生すると推定され、その際には3m 程
度のずれを生ずる可能性があるが、ずれの向きは不明である。八代海区間にお
いて将来このような地震が発生する確率は表4に示すとおりである。本評価で
得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、八代海区
間は、今後30 年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層帯の中で
は高いグループに属することになる(注1、2)。
日奈久断層帯の3つの区間は別々に活動すると推定されるが、全体が同時に
活動する可能性も否定できない。その場合には、M7.7-8.0 程度の地震が発生す
る可能性がある。さらに、日奈久断層帯の全体及び布田川断層帯の布田川区間
が同時に活動する可能性もある。この場合にはM7.8-8.2 程度の地震が発生す
る可能性がある。これらの場合の地震発生確率を求めることはできないが、布
田川区間の発生確率や日奈久断層帯の日奈久区間や八代海区間が単独で活動す
る確率より大きくなることはないと考えられる。
4 今後に向けて
布田川断層帯の宇土区間では、活断層の詳細な位置や形状、平均活動間隔や
最新活動時期に関するデータが得られていない。同区間が活動した際の地表の
ずれや撓みが生じる位置やずれの量を正確に予測し、また地震発生確率を算出
するうえで、これらのデータを取得するための調査が必要である。
宇土半島北岸区間は、主として重力異常の急変帯の分布に基づき認定したも
のである。本評価で認定した同区間の南西端より南西でも重力異常の急変帯が
連続するようにみえることから、同区間はさらに南西の島原湾内に延長する可
能性がある。ただし、同区間は海域に分布し、断層の連続性を検討するに資す
る重力データが不足している。宇土半島北岸区間の南西端を特定するためには、
今後、島原湾内での稠密な重力探査を実施する必要がある。また、島原湾南縁
で高分解能の音波探査や採泥調査を実施し、宇土半島北岸区間の連続性や活動
性を評価することも今後の重要な課題である。
本評価では、各断層帯の活動区間が同時に活動する場合や布田川断層帯の布
田川区間と日奈久断層帯の全体が同時に活動する場合が否定できないことから、
複数の活動区間が連動した場合の地震規模を評価した。こうした場合の実在性
を明らかにするため、各区間における活動時期の同時性についても検討するこ
とが必要である。そのためには、今後、過去の断層活動が明らかでない区間で
は活動履歴に関する調査を実施するとともに、活動時期が明らかにされている
区間についても年代範囲を絞り込むための調査が必要である。
日奈久断層帯八代海区間の周辺には、水俣南断層群、笠山周辺断層群及び長
島断層群などの断層が分布している。今回の評価では、これらの断層群の活動
性と変位様式に基づき、八代海海域に分布する出水沖断層群と併せて日奈久断
層帯に含めなかった。ただし、これらの断層群は布田川断層帯と近接すること
から、今後活動性や断層形状に関する詳細な調査を行い、関連を明らかにする
ことが必要である。
確率を求めることはできない。
日奈久区間では、M7.5 程度の地震が発生すると推定され、その際には断層南
東側の3m 程度の相対的隆起とそれ以上の右横ずれを伴う可能性がある。日奈
久区間において将来このような地震が発生する確率は表4に示すとおりであ
る。
八代海区間では、M7.3 程度の地震が発生すると推定され、その際には3m 程
度のずれを生ずる可能性があるが、ずれの向きは不明である。八代海区間にお
いて将来このような地震が発生する確率は表4に示すとおりである。本評価で
得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、八代海区
間は、今後30 年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層帯の中で
は高いグループに属することになる(注1、2)。
日奈久断層帯の3つの区間は別々に活動すると推定されるが、全体が同時に
活動する可能性も否定できない。その場合には、M7.7-8.0 程度の地震が発生す
る可能性がある。さらに、日奈久断層帯の全体及び布田川断層帯の布田川区間
が同時に活動する可能性もある。この場合にはM7.8-8.2 程度の地震が発生す
る可能性がある。これらの場合の地震発生確率を求めることはできないが、布
田川区間の発生確率や日奈久断層帯の日奈久区間や八代海区間が単独で活動す
る確率より大きくなることはないと考えられる。
4 今後に向けて
布田川断層帯の宇土区間では、活断層の詳細な位置や形状、平均活動間隔や
最新活動時期に関するデータが得られていない。同区間が活動した際の地表の
ずれや撓みが生じる位置やずれの量を正確に予測し、また地震発生確率を算出
するうえで、これらのデータを取得するための調査が必要である。
宇土半島北岸区間は、主として重力異常の急変帯の分布に基づき認定したも
のである。本評価で認定した同区間の南西端より南西でも重力異常の急変帯が
連続するようにみえることから、同区間はさらに南西の島原湾内に延長する可
能性がある。ただし、同区間は海域に分布し、断層の連続性を検討するに資す
る重力データが不足している。宇土半島北岸区間の南西端を特定するためには、
今後、島原湾内での稠密な重力探査を実施する必要がある。また、島原湾南縁
で高分解能の音波探査や採泥調査を実施し、宇土半島北岸区間の連続性や活動
性を評価することも今後の重要な課題である。
本評価では、各断層帯の活動区間が同時に活動する場合や布田川断層帯の布
田川区間と日奈久断層帯の全体が同時に活動する場合が否定できないことから、
複数の活動区間が連動した場合の地震規模を評価した。こうした場合の実在性
を明らかにするため、各区間における活動時期の同時性についても検討するこ
とが必要である。そのためには、今後、過去の断層活動が明らかでない区間で
は活動履歴に関する調査を実施するとともに、活動時期が明らかにされている
区間についても年代範囲を絞り込むための調査が必要である。
日奈久断層帯八代海区間の周辺には、水俣南断層群、笠山周辺断層群及び長
島断層群などの断層が分布している。今回の評価では、これらの断層群の活動
性と変位様式に基づき、八代海海域に分布する出水沖断層群と併せて日奈久断
層帯に含めなかった。ただし、これらの断層群は布田川断層帯と近接すること
から、今後活動性や断層形状に関する詳細な調査を行い、関連を明らかにする
ことが必要である。
92 | 布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂) <参考資料> 予測震度分布図(事務局作成資料) (2.0MB) | (9.73 MB) | 平成25年2月1日 平成25年12月10日訂正 |
〃 | 布田川・日奈久断層帯の評価 | (6.10 MB) | 平成14年5月8日公表 平成14年5月9日訂正 平成17年1月12日変更 平成18年1月11日訂正 |