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人事労務管理

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人事労務管理

 人事労務管理: human resources management, personnel labor management, etc)は、経営管理の領域の一つで、組織(主に企業)が従業員に対して行う管理活動。
 「人事管理」、「労務管理」、「人的資源管理」とも表現する。本来は論者や文脈により、それぞれ語の指す意味合いが異なる場合もあるが、本項では一括して扱う。
なお、企業の具体的な人事管理政策については人事の記事も参照。
 
概要
 簡単に説明すれば、人事労務管理とは、企業の経営資源のヒト(労働力)・モノ(生産手段…設備や原材料など)・カネ(資本)の3要素のうち、ヒト(労働力)を対象とする管理活動である。ここでの「管理」とは、自ら意思を持ち活動する人間を、企業目的の達成のために制御・統制することである。
 カール・マルクスは著書『資本論』で言及するように、資本主義社会においては、財やサービスのみならず労働力(労働力の使用権)も商品として売買されている。
 しかし、労働力はその販売者である労働者と不可分である点、購入した労働力は労働者の意志を通じて行使され、必ずしも購入者(企業側)の自由にならないという点が他の一般的な商品とは大きく異なる特徴を持つ。そこで、企業を円滑に運営するために、また労働力を効率的に利用する(労働者の能力を最大限に引き出す)ために、適切な人事労務管理が必要となるのである。

人事労務管理の体系

 人事労務管理は、労働力の効率的な使用のための「人事管理(personnel management)」と、労働者と経営者の利害対立の調整のための「労使関係管理(industrial relations)」の2つに大別される。
 本項では黒田・関口他『現代の人事労務管理』による区分例を紹介する。これらの管理機能は個別的に働いているわけではなく、それぞれ相互補完的に働いていることに留意されたい。
  • 人事管理
    • 雇用管理
    採用、配置、職務分析、人事考課など。良質な労働力の確保や適材適所の配置を目指す。
    • 作業管理
    時間研究・動作研究、職務再設計など。
    • 時間管理
    労働時間制度(変形労働時間制など)や休業・休暇のシステムの構築など。
    • 賃金管理
    職能給、出来高給、年俸制、退職金、各種手当など、賃金制度に関する管理。
    • 安全・衛生管理
    労働災害や従業員のモチベーション低下を防止することを目的として、職場の労働環境の改善や、従業員の健康管理を図る。日本においては、労働安全衛生法にて、事業者に衛生管理の実施を義務付けている。
    • 教育訓練
    研修、OJT、ジョブ・ローテーション、資格取得勧奨等の自己啓発推進など。労働力の質を向上させる。
  • 労使関係管理
    • 労働組合対策
    団体交渉労働協約など。労使協調体制を目指す。
    • 従業員対策
    福利厚生、苦情処理制度など。従業員個々人の不満を取り除く。

人事管理と労務管理の違い

 日本において、戦前は、ホワイトカラーを対象とする「人事管理」とブルーカラーを対象とする「労務管理」はそれぞれ別個に扱われていた。戦後はこのような区別がなくなり、論者によって様々な意味で使用されるようになったが、近年は両者を併せて「人事労務管理」と呼ぶのが一般的。

日本における人事管理

 日本においては、人事労務管理が諸外国と比べ独特な発達をしたと考えられていた。例えばジェイムズ・アベグレンが著書『日本の経営』(1958年)で示した「日本的経営の三種の神器」である終身雇用年功序列、企業別組合は全て人事労務管理政策の範疇であることからもわかる。アベグレンが発表した当時は、日本の異質な経営文化に基づくものであるとの見解が多かったが、1970年代末から、高生産性を見せる日本企業の特徴として世界に広まった。
 また、日本では学校において実践的な職業教育を行う例は皆無であるから、入社後の企業内での教育・訓練等、OJTによる知識・経験の蓄積が重要視され、またそれが企業の責任においてなされるべきであると考える企業が多いことから、企業内教育が重要視されてきた事も特徴と言えるだろう。
戦後の日本における人事管理の変遷
 高度経済成長期あたりまでは単純年功序列が主流であった。しかし、日本的経営がもてはやされた頃には、経済発展に伴って単純な年功序列は廃れており、新たに従業員個々人の職務遂行能力で処遇する能力主義と呼ばれる管理手法が採られていた。これは当時の日経連(日本経営者団体連盟、現在の日本経団連)が1969年に発表した『能力主義管理-その理論と実践』で提唱されたシステムである。そのための方法論として、職能資格制度が導入された。とは言え、実際の運用では、年功的な基準に能力・実績である程度の処遇差を設けるという運用が主流であった。
 
 長らく能力主義管理が行われてきたが、バブル崩壊後の景気低迷という状況下の1995年、日経連(当時)は『新時代の「日本的経営」』を発表する。同レポートの主張の主となるのは「雇用ポートフォリオ論」である。これは、『「従業員の個性と創造的能力を引き出す」と同時に「従業員のニーズに即して多様な選択肢を用意」する』という要求への回答として示された人事管理の考え方である。内容としては、従業員(もしくは雇用形態)を「長期蓄積能力活用型グループ」、「高度専門能力開発型グループ」、「雇用柔軟型グループ」の3つに分け、それぞれに応じた賃金・教育訓練等の処遇を行うとともに、必要に応じた雇用調整を容易にするなどして、人材活用の面から経営の効率化を目指すものであった。
 しかし、雇用ポートフォリオ論は2000年代に社会問題となった非正規雇用の増加や(正規雇用との)待遇格差等の原因であるとの批判する意見もある。
 
 2000年に日経連(当時)が『経営のグローバル化に対応した日本型人事システムの革新』を発表。ここで成果主義の導入を提言しており、前後して成果主義的な制度を導入する企業が相次いだ。多くは、コンピテンシーの導入や人事評価制度の修正などで、能力主義を客観的で公正な評価システムに再構築するという形をとった。しかし、一部で(評価基準を個人の業績のみに設定する等の)稚拙な成果主義制度の導入によって生産性低下等の問題が発生した例があるなど(参考)、問題点も認識されており、単純な成果主義を採る企業は少ない。
 
 また、これらの流れとは別に、労働者保護や差別撤廃、生活スタイルの変化などの社会からの要請に応える形で、男女雇用機会均等法育児・介護休業法等の新制度創設や規制の強化(場合によっては規制緩和)などが適宜行われている。

人事労務管理の実施

 日本の大手企業においては、一般に本社人事部のような専門部署が、採用・人材配置・教育訓練・福利厚生・組合対策等の人事労務政策の企画立案から実施に至るほぼ全てを担っている。各事業部や営業所事業場に人事担当部署(人事専門とは限らない)が存在する場合であっても、本社人事部が中央集権的に君臨する事が多い。また、ライン部門に対して、本来は助言や補佐を行うスタッフ部門である人事部の影響力が強いのも特徴である。
 
 ただし、ブルーカラーや短期雇用者などは、事業場毎に予算や計画の範囲内で採用等について一定の権限委譲がなされている場合もある。また、総合商社のように伝統的に各事業部の独立意識の強い企業や、意識的に分権政策を行っている企業などの例外もある。
近年は教育訓練をはじめとする幾つかの機能を外注化するケースも見られる。
中小企業においては、上述のような独立した人事部署を持たず、経理や総務担当部署が人事管理業務の担当を兼ねる事が多い。
 
 アメリカにおいては、人事部はあくまで人事政策の助言・サポートに徹すべきスタッフ部門であるという立場から、ライン各部門の長に採用や管理職も含めた人員配置等を中心とする諸権限が与えられているケースが多い。

国際人事管理

 企業が成長して海外進出し、多国籍企業となる時、国際的展開を見据えた新たな人事管理の手法を構築する必要に迫られる。こうした問題に対応する「国際人事管理」の研究もなされている。
 国際人事管理に特有の主要な機能として、「海外派遣要員の雇用管理」と「経営の現地化」が挙げられる。
 「海外派遣要員の雇用管理」は、海外派遣要員の選定、要員の教育訓練、派遣中の要員に対する各種支援(予算措置や人員の追加派遣、経済や現地情勢等の情報提供など)、派遣期間終了後のキャリア保証といった課題がある。
 「経営の現地化」とは、現地法人の経営に現地国籍人の従業員を参画させるなどして、現地の社会に浸透させ、究極的には一体化させることである。この場合、どの程度、現地住民を従業員採用したり教育訓練を施したり、技術移転したり、管理職や経営層に登用したり権限を与えたりするのかという課題がある。日本企業の多くは、あまり「経営の現地化」に積極的ではなく、これが現地法人の成長を阻害しているとの指摘もある。

関連項目

 

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