水俣病の公式確認から54年。半世紀を経てもなお一向に解決しないのは、国が昭和52年に定めた認定基準(52年判断条件)の厳格さが一因だ。
食品公害はおそろしい。水俣病は続いている。今、食べている食品、大丈夫
DESUKA、インカ
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水俣病の公式確認から54年。半世紀を経てもなお一向に解決しないのは、国が昭和52年に定めた認定基準(52年判断条件)の厳格さが一因だ。一貫して認定を求める未認定患者は、関西水俣病訴訟で最高裁が示した緩やかな司法基準と厳格な行政基準の「二重基準」のはざまで翻弄(ほんろう)され続けてきた。大阪地裁が行政基準を否定した今回の判決は、二重基準の是正を国に迫った内容といえる。
行政が水俣病と認定した患者の救済は45年に始まり、46年の旧環境庁事務次官通知の基準に基づき、当初は「感覚障害や運動失調などのうち、いずれかの一つの症状がある」「メチル水銀に汚染された魚介類を食べた影響が否定できない」という条件を満たせば水俣病と認めていたため、審査請求が殺到。認定患者が急増したことから原因企業のチッソが補償金の支払いなどで経営難に陥った。
国は52年、「複数症状の組み合わせが必要」として認定基準を厳格化した。「これ以上、審査請求件数が増えたら困るとの思いだったのだろう」と指摘するのは熊本学園大学の水俣学研究センター長、花田昌宣教授(社会政策)だ。
一方、環境省は「決して患者を切り捨てようというつもりはなかった。当初の基準があいまいで、明確な基準を作ってほしいという審査担当者の要望に応えただけ」と反論する。
52年判断条件で水俣病と認定されれば、チッソから1600万~1800万円の一時金や医療費が支給される。ただ、厳格な基準を満たさない未認定患者が続出、訴訟提起も相次いだ。
政府は平成7年、未認定患者を幅広く救済しようと政治的解決を図り、国の責任を明示しないまま約1万人に一時金260万円を支給した。係争中だった原告の大半が救済策に応じたが、納得しなかった未認定患者関西水俣病訴訟などを通じて行政認定を求め続けた。
訴訟は平成13年、2審大阪高裁が「家族に認定患者がおり、手足に感覚障害があればよい」と緩やかな司法基準を明示。最高裁も16年に追認し確定した結果、未認定患者45人が水俣病と認められる一方、行政と司法の二重基準が生まれた。
ただ、環境省は「最高裁判決は損害賠償を前提とした個別の判断」と二重基準の存在を否定。「医学的に誤りがある」として基準を見直さかったため、再び未認定患者約2700人が熊本地裁などに集団提訴した。
そんな中で昨年7月、政府は特別措置法の水俣病被害者救済法を制定。訴訟取り下げなどを条件として、7年の救済から漏れた人を対象に一時金210万円の支払いなどを決めた。今年5月から申請受け付けが始まり、5月末現在で約9400人が申請した。
花田教授は「国は厳格な基準を変えないまま、第2の政治決着で未認定患者の救済対象範囲を拡大した。責任の所在をあいまいにしたまま幕引きを図りたいというのが本音ではないか」とみる。
国の認定基準を否定した今回の判決について「最高裁判決後も国が見直さなかった認定基準が狭すぎると明確に否定した。常識的かつ良識的な判断と評価できる。(未認定患者の)救済などの前提条件が変わってしまったことで、国と熊本県は水俣病の施策を振り出しに戻して再検討すべきだ」と話している