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竹島問題の国際司法裁への提訴は日本の平和姿勢を示す

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竹島問題の国際司法裁への提訴は日本の平和姿勢を示す

米国は日韓の対立を望まない

 
 韓国の李明博大統領が8月10日に竹島を訪問した。その後も日本の影響力や慰安婦問題について強い発言が続いた。日韓関係はなぜ今、もつれたのか? 国際司法裁判所への提訴はどのような意味を持つのか? 元外交官、元駐イラン大使で、「日本の国境問題--尖閣・竹島・北方領土」の著書もある孫崎 享氏に解説していただいた。
 
 李明博・韓国大統領が8月10日、竹島を訪問した。韓国大統領による竹島訪問は初めてのことである。
 「韓国大統領による竹島訪問が、韓国の国内政治においてどういう影響があるか」と、「日本と韓国の外交関係において、いかなる意味があるか」を分けて考えてみたい。
 
 韓国は本年12月19日大統領選挙を迎える。李明博大統領自身は大統領選挙に出ない。けれども今は、与党セヌリ党(本年2月従来のハンナラ党から改名)が政権を維持するか、野党側が勝利するかを決める重要な時期である。どちらが勝利するかは、経済問題および南北問題をどう処理するか、その方向を大きく左右する。
 
 この時期、李明博大統領の支持率が急落している。2008年2月に大統領に就任した直後、支持率は57.3%に達した。しかし、次第に低下し、2010年は支持と不支持がほぼ拮抗。2011年に入ってからは不支持が増大し、2012年7月には不支持58%、支持30.5%となった。最近では17%にまで落ち込んだ時もあった。こうした状況において、韓国で支持率を回復させるには、対日強硬策を実施するのがもっとも手っ取り早い。
 
 ただし、対日強行策はこれまで、「禁断の政策」でもあった。韓国大統領が竹島を訪問すれば、日韓関係にマイナスが生じる。それゆえ実施できない、という共通認識があった。
 
 この点から見て、次の報道は興味深い。李明博大統領が竹島訪問後、「日本の国際社会での影響力は“昔と同じではない”と述べ、日本の国力が落ちたとの認識を示した」(8月13日付東京新聞)。李大統領は日韓関係が少しくらい悪化しても、日本の力が落ちた今、大した問題ではないと判断したのである。
 
 他方、韓国世論の反応を見てみたい。同じく8月13日付東京新聞は「世論調査機関は同日、竹島訪問を評価する人が66.8%、否定的な人は18.4%だったと明らかにした。韓国政府が依頼した別の機関の調査では評価が84.7%という」と報じている。
 李大統領が竹島を訪問したのは、日韓関係を若干犠牲にしても、支持率回復を優先させたということである。

竹島帰属に関する歴史的経緯

 竹島問題は歴史的に見ると、実に極めて複雑である。ここで幾つかの基本的事実を把握しておきたい。
(1)日本は1945年8月14日米英ソ中に対し
「天皇陛下ニオカレテハ“ポツダム”宣言ノ条項受諾ニ関スル詔書ヲ発布セラレタリ」
との通告を関連在外公館に発出した。
 
 ポツダム宣言は、
「日本の主権は本州、北海道、九州、四国と連合国側の決定する小島」としている。
本州、北海道、九州、四国以外の地は「連合国側が決定する」ことに従うとした。
 さらに9月2日、重光葵外相、梅津美治郎・参謀総長が東京湾のミズーリ艦上で署名した降伏文書には「ポツダム宣言ノ条項ヲ誠実ニ履行スル」と記されている。
 
 
(2)連合軍最高司令部訓令(1946年1月)は、日本の範囲について「竹島、千島列島、歯舞群島、色丹島等を除く」としている。
 
(3)サンフランシスコ講和条約での扱い
 ここでは「第二章 領域、第二条(a)日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」としている。放棄の対象とする島として、竹島を明記してはいない。
 
 この点に関して、米ラスク国務長官が韓国大使宛に1951年8月10日に発した書簡がある。「我々は日本との平和条約に関する韓国側要請を受理した。独島を権利放棄の中に含めるようとの要請に関しては、応ずることは出来ない。我々への情報によれば独島は朝鮮の一部と扱われたことは一度もなく、1905年以降島根県隠岐島司の所管にある」。
 
 この時点では、米国は竹島を日本領と見なしている。
 
(4)米国に地名委員会がある。同委員会は1890年の大統領令及び1947年の法律により設置されたもので、外国を含め、地名に関する政策を扱う。2008年、ブッシュ大統領は訪韓する直前に、韓国大使と会談した。ブッシュ大統領はこの後、ライス国務長官に竹島について検討するよう指示し、同島を「韓国領」に改めた。米国地名委員会は今日でも竹島を、韓国側の名称である「独島」と記載している。
 
 この動きに対して同年7月31日付朝日新聞は「町村官房長官は7月31日の記者会見で、“米政府の一機関のやることに、あれこれ過度に反応することはない”と述べ、直ちに米政府の記述の変更を求めたりせず、事態を静観する考えを示した」と報じている。
 
 町村信孝官房長官は重大な過ちを犯した。第1に、これは「米国一機関のやっていること」と片付けられるような小さな動きではない。第2に、米国がどのように判断するかは竹島の帰属に深刻な影響を与える。
 以上を見ると、日本と韓国が各々自国領と主張する時にはそれなりの根拠を有している。

領土問題に対する8つの方策

 日本は隣国と「北方領土問題」「尖閣諸島問題」「竹島問題」を抱えている。我が国は領土問題にどのように臨んだらよいのであろうか。
 
(い)第1に相手の主張を知り、各々言い分がどれだけ客観的であるかを理解し、不要な摩擦は避ける。
 
(ろ)第2に、領土紛争を避けるための具体的な取り決めを行う。中国とASEAN諸国が2002年11月署名した「南シナ海の行動宣言」には「領有権紛争は武力行使に訴えることなく、平和的手段で解決する」「現在(当事国に)占有されていない島や岩礁上への居住などの行為を控え、領有権争いを紛糾、拡大させる行動を自制する」の項目がある。これが参考になる。
 
(は)国際司法裁判所に提訴するなど、解決に第三者をできるだけ介入させる。
 
(に)緊密な多角的相互依存関係を構築する。
 
(ほ)国連の原則を前面に出していく。国連憲章第2条第4項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」としている。
 
(へ)2国間で軍事力を使わないことを共通の原則とし、それについて、しばしば言及する。これによって、遵守の機運をお互いに醸成する。
 
(と)領土問題は、それだけで紛争に拡大することはない。しばしば、地下資源や漁業資源がからむ。従って、地下資源や漁業資源について合意し、それを遵守する。日中間には「日中漁業協定」がある。資源に関する共同開発などの話もある。これらを進め、これから対立が生じないようにする。
 
(ち)現在の世代で解決できないものは、実質的に棚上げし、対立を避ける。あわせて、棚上げ期間中は双方がこの問題の解決のために武力を利用しないことを約束する。

国際司法裁判所への提訴は、日本の平和姿勢を世界に伝える

 これらの幾つかの手段の中で、竹島に関しては、国際司法裁判所への提訴問題が浮上した。8月11日付毎日新聞は「日本政府は11日、竹島の領有権問題で約半世紀ぶりに国際司法裁判所に提訴する検討に入った」と報じた。
 
 国際司法裁判所は紛争当事者双方の合意がなければ手続きが始まらない仕組みである。8月11日付毎日新聞は「韓国外交通商省当局者は11日、島根県の竹島の国際司法裁判所への提訴について“一考の価値もない”と述べ、裁判開始に必要となる提訴への同意を拒否する考えを鮮明にした。韓国は応じない可能性が高い」と報じた。
 
 確かに国際司法裁判所への提訴は、相手国が応じなければ手続きが始まらない。しかし、日本側が提訴することは、次の2点を国際的に示す長期的な意義がある。
(1)日本は領土問題を平和的に解決したい、と考えている。
(2)日本側は「日本側主張が客観的に正しい」と信じている。領土問題を平和的に解決する方向を示すわけで、肯定的評価が与えられるべきと考える。
 
 日本政府が竹島について国際司法裁判所の判断をあおぐ方針を出したことは、将来、尖閣諸島の処理についても同様の方針をとることを示唆する。日本は竹島を実質的に管轄している韓国に自制を促している。これは、日本が尖閣諸島に対する自己主張を抑制すべきだとの論につながる。

米国は日韓の対立を望んでいない

 竹島問題で日韓の対立が深まったことを、米国は肯定的に見てはいない。中国の軍事的脅威が高まるなか、米国は、日韓が軍事協力を進展させることを望んでいる。竹島問題の先鋭化はこの流れに大きなマイナスとなる。
 
 
 
 
 
 
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