那智勝浦の一家1人死亡4人不明、親類男性が連日捜索
2011.9.9
台風12号による豪雨で多くの死者、行方不明者を出した和歌山県那智勝浦町。那智川の氾濫や土石流で、壊滅的な被害を受けた市野々地区では、中平幸喜さん(45)宅が土石流にのまれ、一家5人のうち1人が亡くなり、4人は依然、行方不明のままだ。どこへ行くのも一緒というほど仲が良かった家族。中平さんの兄、敦さん(52)=同県新宮市熊野川町=は連日、捜し続けている。
「幸喜が土石流に巻き込まれたらしい。連絡がつかん」。豪雨の峠を越えた4日午後10時ごろ、敦さんは同町に住む妹(50)から一報を受け、一家の住む市野々地区へ車を走らせた。迂回(うかい)路を通り、弟の家に着いたのは5日正午前。目に飛び込んできた光景にがく然とした。裏山から川まで長さ、幅とも約300メートル以上にわたり岩と流木の混じった土石流が、家を丸ごとのみ込んでいた。
中平さんは、妻、澄子さん(46)▽長女で中学2年、彩音さん(14)▽次女で中学1年、百音(ももね)さん(13)▽次男で小学2年、景都(けいと)君(7)-との5人暮らし。いずれも行方不明となり、景都君は9日午後になって死亡が確認された。
5人は仲が良く、どこへ行くにも一緒だった。車好きで中古車販売業を営む中平さんと澄子さんはともにおっとりした性格で子煩悩。3人の子供と過ごす時間を大切にしていた。おとなしい性格の彩音さんとは対照的に、百音さんは活発なタイプ。ただ2人とも絵が得意で、コンクールでよく表彰されていたという。
末っ子の景都君はやんちゃ盛りの甘えん坊。敦さんはよくサッカーや怪獣ごっこをして遊んだ。8月末、自宅近くを流れる川へ遊びに出かけたとき、景都君に「大人になったら、ここに子供を連れてきて遊んでやれよ」と声をかけた。「分かった!」と元気よく答えた景都君の笑顔が忘れられない。
流木や岩の下、排水溝の中-。敦さんは連日、弟家族を捜している。8日朝には、川岸に小さな青いTシャツが落ちているのを見つけた。「これ絶対、景都のや」。敦さんはそれを拾い、首に巻いた。直後、下流で男の子の遺体が見つかった。「(景都だったら)まだ7年しか生きてないんやぞ…」。そうつぶやき、唇をかみしめた。いやな予感は、当たってしまった。
敦さん自身も被災者。自宅は屋根の上まで水に漬かった。連日の捜索や親類らとの連絡などで疲労もピークに達している。しかし、敦さんは言う。「あれだけ仲の良かった家族。何が何でも見つけてあげたい。絶対にあきらめない」