[転載]【転載】北朝鮮の人工衛星と沖縄有事体制／沖縄国際大学非常勤教員西岡信之

東アジアの軍事緊張を高める朝鮮の「衛星」発射の動きを口実に、野田政権は戦争準備路線を一気に強めている。沖縄で進行する異常な状況を沖縄国際大学非常勤教員・西岡信之さんが報告する。

４月１２日から１６日の間に北朝鮮が人工衛星を打ち上げると発表してから、沖縄全域は“有事”になっている。

日本政府は人工衛星打ち上げを名目にした長距離弾道ミサイル発射実験という見解を示し、田中防衛相は３月３０日、日本の領土・領海に落下する事態に備えるとし、自衛隊法に基づく「破壊措置命令」を発令した。これに伴い、同日、内閣府危機管理室は、弾道ミサイル攻撃による国民保護法の緊急対処事案として、同法施行後初めてとなる避難指令を出した。私が想像していた以上の早さで有事体制が進行している。

＜戦前の始まり＞
沖縄県では、内閣府危機管理室の指示によって各市町村教育委員会から緊急事態に対処するための避難指示文書が各学校、幼稚園まで配布された。ロケットに燃料が注入された段階で県や那覇市、石垣市などで危機管理対策本部が招集され、発射が確認された場合は、全国瞬時警報システム(Ｊアラート)を活用して県内に屋内避難命令が出されるという。

有事体制など遠い未来の話と思っていた学校関係者からは内閣府の指示文書に驚きの声が上がり、私のところにも教育関係者から相談の電話が入った。「今や戦後６７年ではなく、すでに戦前が始まっているのですね」。北朝鮮による「弾道ミサイル攻撃」という危機意識を煽り、有事体制に向けて地ならしし、自衛隊アレルギーを払拭し、自衛隊への信頼感、依存度、好感度を高めようとするのが政府・防衛省の狙いだ。

２００９年４月の北朝鮮ロケット打ち上げの際には、Ｊアラートのシステム整備率は全国で１１％と低かったが、今や普及率９８％にまで向上している。東日本大震災を受けて高まった「防災意識」を利用してＪアラートを全国に整備できたことが背景にある。「防災と災害救援」という理由さえあれば、これまで進まなかった国民保護体制が急速に進むというわけだ。

沖縄県内にＰＡＣ３パトリオットミサイル４基が本土の自衛隊各基地から移送され、４月３日には沖縄本島と宮古島市に、５日には石垣市に搬入される。沖縄本島では、那覇市の陸上自衛隊那覇基地内と南城市の知念分屯基地に配備される。石垣市では、石垣市新港の埋め立て地に、宮古島市では同分屯基地内に配備される。

＜無言の米軍＞
驚いたのは、県内全域で総勢９００人の自衛官が新たに配置されることだ。石垣市には４５０人が派遣され、市役所には自衛隊業務を執行するためのスペースが確保され、自衛隊も入って市危機対策本部がたちあげられた。宮古島に２００人の自衛官が派遣されるほか、ＰＡＣ３を配備しない与那国島にも５０人、多良間島にも数人の自衛官が配置されるという。

北朝鮮の人工衛星の打ち上げが失敗した場合、田中防衛相はその破片を撃ち落とすとするが、軌道を外れた部品をイージス艦搭載のＳＭ３やＰＡＣ３で迎撃することは不可能と言われている。納得がいかないのは、日本と沖縄の安全のために駐留しているはずの米軍が、嘉手納基地にＰＡＣ３が２４基も配備されているのに１基も提供すると言わず、無言のままでいることだ。在沖米軍は米国の基地を守るために存在していることを意味するものに他ならない。

今回の事態は、北朝鮮の先軍政策＝軍事力至上主義を利用した防衛省と自衛隊による南西諸島配備強化と自衛隊増強への大規模な地ならしでしかない。沖縄戦が始まった６７年前と同じ３月末から４月にかけて、戦艦大和のようにイージス艦が出動し、特攻隊のようにＰＡＣ３が配備されるのは、悪夢としか言いようがない。(４月４日)