世界の河川の流量予測
2005年05月13日(金)付
■干ばつ・洪水、水の世紀末 温暖化2.7度、大河流量激変の予測
■1.5度程度の上昇が限度 中環審専門委ユーフラテス川の水量は4割減って干ばつの恐れがある一方、 ガンジス川は15%増えて洪水の危険が高まる――。 地球温暖化の影響を探る日本の気象研究者らが、世界の24河川の今世紀末の流量予測をまとめた。 「災害への懸念だけでなく、水不足による紛争の恐れも生じる。 長期的な視点に立って水の有効利用を考える必要がある」と研究者は訴えている。
(大久保泰)
科学技術振興機構の野原大輔研究員や気象庁気象研究所、東大生産技術研究所のグループが、 2081年~2100年の予想気温、予想降水量などから予測した。 15日から東京で開かれる日本気象学会で発表する。 野原研究員によると、世界各国の研究機関がまとめた最新の15の予測モデルを活用した。 その結果、世界全体の平均気温は今より2・7度(陸上だけでは3・7度)上昇。 降水量は北極に近い高緯度や、インドから東アジアにかけて 1日当たり0・1ミリ~0・2ミリ増え、 地中海周辺から中近東で0・1ミリ~0・5ミリ減ることがわかった。 そのうえで、どこに降った雨がどの川に流れ込むかを 約100キロ四方ごとに予想する「河川流路網」をつくり、それぞれの川の流量を推計した。 全体的な傾向としては、北極周辺では雪が積もらなくなったり、氷が解けたりするため、 気温の上昇がほかの地域より大きく、今まで以上に雨が降りやすくなる。 赤道のすぐ北側で上昇した空気は通常、中緯度の北緯30度付近で乾燥した下降気流となるが、 温暖化でこの傾向がより顕著になり、 ユーフラテス川やドナウ川の流域では雨量が少なくなるという。 また、もともと降水量が多い東南アジアの河川では、 地面に染み込まなくなった雨がそのまま河川に流入しやすくなるため、 流量が一気に増える恐れがある。 逆に降水量が少ない中近東では乾燥化が進むため、 降った雨が地中に染み込んでますます川に流れ込みにくくなることもわかった。 個別の河川では、ユーフラテス川が41%減、ドナウ川も23%少なくなる。 増加するのは、アラスカのユーコン川23%、ガンジス川15%など。 ガンジス川では年間を通じて最も雨量が多い時期にさらに流量が増えるため、 洪水への危機が高まり、流量が減る地域では干ばつによる農作物への影響が懸念されている。 20世紀が「石油を巡る戦争」の時代だったのに対し、 21世紀には「水を巡る戦争」が懸念されるという指摘がある。 野原研究員は「ユーフラテス川やメコン川流域などの人口増加地域では、 水を巡る争いが心配だ。少ない水資源の活用を考える必要がある」と話す。 日本の降水量は増加と減少の境界付近で、「どちらになるか微妙」といい、 日本の河川は予測対象にしていない。
中央環境審議会の専門委員会は12日、 地球温暖化による2100年ごろの気温上昇を 「18~19世紀の産業革命前に比べて2度以下に抑える必要がある」とする報告案をまとめた。 世界の平均気温の上昇が2度以上になると、 人の健康や水資源、食料生産などへの地球規模での悪影響の可能性が急激に高まり、 3度以上では、海洋大循環の停止など破滅的な被害の恐れも高まると指摘。 科学的に「2度以下」が長期目標検討の出発点になるとした。 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は19世紀中盤は280ppmだったが、 現在は380ppmに上昇。これに伴い世界の平均気温も0・6度上昇している。 現在からは1・5度程度の上昇に抑える必要がある。