日本のデータとの比較
ここで,大変興味深い事実に触れておく.チェルノブイリ事故被災住民に一般的な病気の発生率が有意に増加していることに対して疑問を呈する専門家たちは,そのような影響が1945年8月の広島・長崎原爆被爆者の中には見られていないと,大変しばしば述べている.しかしながら,それは正しくない.そのことは,阪南中央病院(大阪府)の専門家によって示されている33.彼らは,1985年から90年にかけて,1232人の原爆被爆者を調べた.その結果,「腰痛は3.6倍,高血圧は1.7倍,目の病気は5倍,神経痛と筋肉リウマチは4.7倍に増えており,胃痛・胃炎などでも同じ傾向である33.」
日本の専門家のデータを図1に示す.著者らによれば,日本の厚生省の「国民保健統計」には,歯の病気,頭痛,関節炎,体力低下,頸部脊椎炎が含まれていなかったとのことで33,図1には一般公衆についてはそうした病気のデータが示されていない.チェルノブイリ事故被災者と,広島・長崎被爆生存者との間に見られるデータの一致は,ベラルーシ,ロシア,ウクライナにおける一般的病気の発生率の増加が,単に心理的な要因によるものではなく,事故によって引き起こされたとの仮説を強く支持するものとなっている.このことは,チェルノブイリ事故によるすべてのカテゴリーの被災者で一般的な病気の発生率が増加しているという現象に関し,現段階では,国際原子力共同体によってしばしば表明されてきた疑問のすべてが客観的な根拠をもっていないことを示している.
図1 日本の原爆被爆生存者と一般住民の罹病率と比較(%)33