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[転載]チェルノブイリ対フクシマ: チェルノブイリ事故後10年現在

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チェルノブイリ事故後10年
 1996年4月8-12日,オーストリアのウィーンで「チェルノブイリ事故後10年:事故影響のまとめ」と題した国際会議が開かれた34.その会議には,リクビダートルやチェルノブイリ事故のため放射線に被曝した大人や子供に現れた種々の身体的な影響に関する約20編の学術論文が提出された35-56.この会議は,ヨーロッパ委員会(EC),国際原子力機関(IAEA),世界保健機構(WHO)が主催し,国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR),その他の国連機関,経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)などが後援して開かれたものである.チェルノブイリ事故とその放射線影響を評価する上でもっとも重要なステップとなるこの会議は,原子力平和利用にかかわってきた実質的にすべての国際的な組織によって準備されたのであった.しかしながら,原子力平和利用史上最悪の事故の客観的分析を行なうという使命を,この会議は果たせなかった.そうした結論は,この会議の要約である以下に示す声明を読めば分かる.
 「被曝住民および特にリクビダートルの中に,ガン以外の一般的な病気の頻度が増加していると報告されている.しかし,被災住民は一般の人々に比べて,はるかに頻繁で丁寧な健康管理に基づく追跡調査を受けており,上記の報告に意味を見いだすことはできない.そうした影響のどれかが仮に本当であったとしても,それはストレスや心配から引き起こされた可能性もある.」
 要約は会議の最も重要な文書であり,それを作った「チェルノブイリ事故後10年:事故影響のまとめ」会議の主催者らは,ベラルーシ,ロシア,ウクライナの被災地で一般的な病気が増加しているという事実そのものさえ疑っていることが,上の引用から分かる.
 チェルノブイリ事故時よるすべてのカテゴリーの被災者について,病気の増加を示す数多くの学術論文35-56が会議に提出されていたにもかかわらず,上のような結論が引き出されたことは,大変奇妙なことである.この会議の基礎報告書457の著者は,被災地住民の間に一般的な病気の発生率が増加していることを認め,その増加を心理的な要因やストレスによって説明している
 チェルノブイリ事故の結果,ベラルーシ,ロシア,ウクライナの被災地において先天的な障害の頻度が増加していることについて,信頼できるデータが存在しているにもかかわらず,会議はその可能性を退けた.この会議は,チェルノブイリ事故の影響は無視できるとする国際原子力共同体の結論を実質的に変更するものとはならなかった.唯一の例外は,甲状腺ガン発生率が著しく増加していることが認められたことであった.おそらく,この件については真実を否定するいかなるこじつけももはや見いだせなかったからであろう.
 国際原子力共同体にとっては,被曝影響から人々を守ることよりも,原子力産業のイメージを守ることの方が大切なことのようである.国際原子力共同体がチェルノブイリ事故の影響は無視できる程度だという彼らの見解を守るために,信頼できる情報を拒否しようとするのであれば,冷静な専門家はそれを彼らの危機として認めるであろう.
 上に述べた国際原子力共同体の態度がどうして生じたかを,「常設人民法廷」の場において,放射線医学の分野における著名な学者であるラザリー・バーテル博士が説明した58
 ロザリー・バーテル博士によれば,放射線の有害な効果に専門家や軍の注意が向けられたのは,戦争において核兵器が用いられる可能性があったからである.そうした戦争を考える人々にとっては,核兵器によってどれだけ大量の敵を殺せるかが最大の関心事であった.軍事を目的とするこうした観点に立って,核開発の最初の段階から放射線生物学,放射線医学,放射線防護の専門家たちが働いてきた.後になって,彼らは発電用原子炉の問題に関係するようになった.しかし,軍や産業の問題を解決するにあたって,そのような関わり方をしてきたため,放射線生物学,放射線医学,放射線防護の専門家たちは,放射線の有害な影響から公衆を守るという問題に注意が向かなかった.同時にこのことは,放射線の影響として致死的なガン,白血病,いくつかの先天的および遺伝的な影響をのぞけば,放射線のいかなる医学的な影響についても,国際原子力共同体が考慮を払わない理由でもある.
 当然,放射線影響に関するそのような評価は認められない.チェルノブイリ事故のような放射線の被曝を伴う事故の場合には,致死的なガンの数だけでなく,生命そのものの全体的な状態に考慮が払われなければならない.そしてそのことこそが,放射線から人々を守る国際原子力共同体の基本的な役割のはずである.
まとめ
チェルノブイリ事故とその放射線影響に関して本報告で示したことは,“国際原子力共同体”の深刻な危機を示している.その危機の現れとして,以下のことが認められる.
  • “国際原子力共同体”は,長い間,チェルノブイリ事故の本当の原因を認識できなかった.
  • 彼らは,ベラルーシ,ロシア,ウクライナの被災者の甲状腺に対する被害を正しく評価できなかった.
  • 今日に至ってもなお,彼らは先天的障害に関する信頼性のあるデータを否定している.
  • チェルノブイリ事故で影響を受けたすべてのカテゴリーの被災者において発病率が増加している,という信頼性のあるデータを,彼らは受け入れられずにいる.
  • チェルノブイリ事故の放射線影響を過小評価しようとするソ連当局のもくろみを,“国際原子力共同体”は長い間支持してきた.
 
謝辞:本報告をまとめるにあたっての今中哲二氏のたゆまぬ関心と激励,ならびにトヨタ財団からの支援に深く感謝する.本報告の英訳また計算機原稿作成に関してウラジーミル・M・マリコの助力を得たことを記し感謝する.

転載元: ボストン日誌: 反戦! 反核! 反原発!


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