混迷深めるごみ屋敷問題 強制撤去「即効薬」になる?…大阪市、政令市初の条例の行方は
家の内外にごみをため込み、悪臭などを発生させる「ごみ屋敷」問題が深刻化する中、大阪市が政令市初となる〝ごみ屋敷条例〟の制定を目指している。ポイントは強制撤去の権限だが、先行して明文化した東京都足立区でも実施例はなく、課題は多い。高齢者から若い世代にも広がっているごみ屋敷問題。住民との根気強い交渉が求められそうな状況だ。
搬出量は3トンに
スープが残った即席麺の容器、腐った果物、空のペットボトル。7月末、大阪府池田市のアパート一室は膝ほどの高さまでごみが積もっていた。
30代の男性の退去に伴い、その男性に又貸ししていた借り主から清掃会社「かたづけ招き猫」(大阪市西淀川区)に片付けの依頼がきた。スタッフ3人が黙々とごみを袋に入れていく。約3時間かけて搬出したごみは約3トン。同社代表、吉川大輔さん(29)は「少ないほうですよ」と話す。
同社が請け負う家屋の清掃は月に10~15件で、ほとんどが1人暮らし。若い世代が住人の「ごみマンション」「ごみアパート」を清掃するケースも珍しくないという。
「リピーターさんもいますよ」。吉川さんは深刻な状況を説明した。
憲法で守られた「私有財産」
大阪市では15区でごみ屋敷77軒(今年3月時点)を確認しているが、把握できていないケースも多いとみられる。住人に片付けるよう説得するなどの対応は各区役所が担う。対応のルールやマニュアルはない。
市が6月に公表した条例案骨子では必要に応じて調査や勧告を行い、住人が従わない場合には第三者の審査会の意見に基づいて行政代執行で強制撤去できるとしている。条例に基づき、受け付け窓口なども明確化される見通しだ。
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大量の不要品やゴミをため込んだり、積み上げたりする「ごみ屋敷」をめぐるトラブルは近年、全国各地で発生し、周辺住民や自治体などを巻き込んで社会問題化している。そんな中、奈良県五條市で、自宅前の道路に大量の家財道具などを積み上げて通行を妨害したなどとして、奈良県警五條署が7月10日、道路法違反の疑いで無職女性(63)を逮捕した。女性宅は5年ほど前から自宅前の道路も含めてごみ屋敷化し、県警は異例の逮捕に踏み切ったが、女性が釈放された後も自宅敷地内はごみに埋もれたまま。かつては小学校で教鞭(きょうべん)もとっていたという女性が、なぜ、ごみ屋敷をつくり出したのか。専門家によると、ごみ屋敷の住人には、生活を維持する意欲や能力を失う「セルフ・ネグレクト」という心理状態が多くみられるという。 (山本考志)
あふれる“ごみ”
女性の自宅は、奈良県南西部に位置する五條市のJR和歌山線五条駅にほど近い住宅街の一角にある。
建物は木造平屋建てで敷地は約20坪。その室内から玄関の軒先まで、家財道具であふれ返っており、遠目からでもその異様さは際立つ。
市や周辺住民らによると、女性は昨年から、自宅に入り切らないパイプ椅子やキャリーバッグ、傘、ペットボトルなどを自宅前の幅約1・8メートルの市道に並べ始めた。「道路は物を置くのに便利だった」と話していたという女性が荷物で埋めた道路は、隙間が30センチほどしかなく、人一人がやっと通れるような状態だったという。
女性は数年前まで小学校で教員を務め、高齢の母親と近くの別の民家で暮らしていた。5年ほど前に、母親は介護が必要になり、福祉施設に入所。このころから女性のごみ収集が始まった。
ごみは瞬く間にあふれ返るようになり、女性宅の隣家で一人暮らしをしていた高齢女性は、はみ出してきたごみで自宅の出入りにも支障をきたすようになったため、転居を余儀なくされたほどだ。