来島ダム水利権 渦巻く思惑
'13/2/12 中国新聞
3月末で30年間の期限を迎える神戸(かんど)川上流の中国電力来島ダム(飯南町)の水利権の更新をめぐり、年度内にも国から問われる溝口善兵衛知事の判断が注目されている。
ダムの江の川への分水継続の是非についての判断で、地元の総意として更新権を持つ国が重視する。
分水先の水力発電所の存廃に関わり「継続は当然」との声が大勢を占める一方、流域では利害関係者の思惑も渦巻く。
1月末、松江市であった神戸川の河川環境に関する専門委員会(委員長・野中資博島根大生物資源科学部教授)。ダムから神戸川への放流量を増量するよう求める最終報告案が示された。
委員会は昨年8月、溝口知事が判断の材料として設けた。神戸川下流域の漁業者たちが流量減少に伴う水質悪化などを理由に分水中止を訴えたことが背景にある。
6回の会合を重ねた委員会は水質悪化を「おおむね環境基準内」と結論付け、分水の是非には触れなかった。野中委員長は「委員会の決める事項ではない」としつつも
「中電は報告を実行してほしい」
とする。実行には水利権の更新が前提となる。
中電が1956年に完成させた来島ダムはここ10年、平均87%の水を江の川に分水。残る13%を神戸川に流してきた。江の川への分水量が多いのは、セットで整備した水力発電所、潮発電所(美郷町)の操業のためだ。
【写真説明】水利権の更新時期が迫る来島ダム。溝口知事の判断が注目される
4万世帯の電力消費量を賄う潮発電所は、中電の94水力発電所の中で3番目の出力3万6千キロワットを持つ。中電は「電力供給の調整弁の役割も大きく、必要不可欠」として2月中に水利権の更新を国に申請する。
これに対し、神戸川下流域の漁業者は水質悪化に加え、漁業資源の減少も主張。2002~11年のアユの平均漁獲量がダム完成前の約6分の1に減ったとし、島根県に分水中止を国に働き掛けるよう求めている。
神戸川漁協(出雲市)の片寄巌組合長は「自然に流れる水を奪い生物がすめなくなる発電所は必要ない」と強調。「潮発電所の操業より水環境が重要」と訴える。
ただ分水中止を求める反対派には、神戸川の流量増を見込み、河川整備などの公共工事受注を狙う業者の影も見え隠れする。ある出雲市議は、反対派の幹部が「(神戸川支流の)十間(じっけん)川の改修工事を期待していた」と明かす。
逆にダム上流の飯南、美郷町は年間1千万円前後の固定資産税収入などを理由に分水継続を望む。
「水質悪化の主張は唐突」(飯南町の景山登美男副町長)との声も上がる。
県議会には、溝口知事が分水継続を認める半面「反対派への補償を中電に求め、環境保護の姿勢をアピールする材料にするのでは」と見る向きもある。
溝口知事は「委員会の指摘を踏まえ、国や地元市町、中電の意見をよく聞いて対応する」としている。