通商白書2013白書2013(HTML版)第3部 第2章 第3節 中国
第3節 中国
2012年の中国経済は緩やかな景気減速の中で幕を開けた。もともと、中国は4兆元の景気対策によりリーマンショック後、いち早く回復を遂げたが、2011年にはインフレが高進し、金融引締め政策がとられる中で、欧州債務危機から欧州向けを中心に輸出が鈍化、輸出の比重の高い沿海部を中心に経済成長が緩やかに減速を始めた。2012年は中国政府が景気の減速を受けて、金融緩和、投資プロジェクト前倒し承認等の景気対策を実施。
その効果もあり、2012年秋頃から工業生産、小売売上高、固定資産投資等の伸びが加速に転じ、第4四半期の実質GDP成長率は8四半期ぶりに上昇した。しかし、2013年になると、工業生産、個人消費等の伸びの低下が見られ、第1四半期の実質GDP成長率は再び減速するなど不透明感も生じている。
1.GDP
2012年の実質GDP成長率は7.8%と、政府目標の7.5%を上回ったものの、2011年実績(9.3%)からは低下した(第Ⅲ-2-3-1図)。需要項目別に寄与度を見ると、純輸出は前年から引き続きマイナスにとどまっており、最終消費、総資本形成はプラスであるものの、寄与度は低下している。
第Ⅲ-2-3-1図 中国の実質GDP成長率(前年同期比)の推移
四半期ごとの推移を見ると、2012年第3四半期まで緩やかな減速が続き、第4四半期に8四半期ぶりに上昇したが、2013年第1四半期は再び減速した。
2.消費
ここからは各需要項目に関連する主要な指標の動きを見ていく。
まず、消費動向を社会消費品小売(小売売上高)の伸び率の推移で見ると、2012年は年央にかけて伸びが減速し、秋以降は持ち直しの動きが見られた(第Ⅲ-2-3-2図)。しかし、2013年は1-2月に大きく落ち込み、3月、4月も2012年12月に比べて低い伸びにとどまっている。
第Ⅲ-2-3-2図 中国の小売売上高の伸び率(前年同期比)の推移
3.投資
2012年の固定資産投資は、前年に比べて低い伸び率で推移した(第Ⅲ-2-3-3図)。伸び率の推移を月次で見ると、2012年初めに鈍化したが、金融緩和、投資プロジェクト前倒し承認の効果もあり、秋頃から固定資産投資の伸びは緩やかな上昇に転じた。ただし、2013年の3月、4月は小幅ながら伸びが低下する動きも見られる。
第Ⅲ-2-3-3図 中国の固定資産投資の伸び率(年初来累計・前年同期比)の推移
4.貿易
貿易は、輸出入ともEU等を中心に年央まで伸びの鈍化が続き、秋頃から回復に向かっている(第Ⅲ-2-3-4図)。輸出ではEU向けの伸びが年初にマイナスに転じ、年央に下げ止まるまでマイナス幅が拡大、夏以降はマイナス幅が縮小していった。一方、ASEAN向けは振幅が激しいものの高い伸びが続いた。日本への輸出は我が国に対する抗議活動が激化した秋以降低調に推移している。
第Ⅲ-2-3-4図 中国の貿易の伸び率(前年同月比)の推移
輸入については、EUからの輸入が低調に推移するとともに、日本からの輸入も減少している。日本からの輸入は、年初はタイの洪水に伴うサプライチェーン寸断による減少から回復してきたが、我が国に対する抗議活動が激化した秋以降は再び悪化した。
なお、2012年通年での輸出入の伸びは輸出(7.9%)が輸入(4.4%)を上回り、貿易黒字は拡大した。
5.国際収支
国際収支の動向を見ると、中国の経常収支はリーマンショック後の2009年から黒字幅の減少が続いていたが、2012年は貿易黒字が拡大したことから、経常収支としても黒字幅が増加した(第Ⅲ-2-3-5図)。
第Ⅲ-2-3-5図 中国の国際収支の推移
一方、資本収支は、中国経済の減速が続く中で、第2四半期、第3四半期に資本が流出し、2012年としては前年の大幅な黒字(流入超)から一転して赤字(流出超)に転じた。なお、工業生産等の主要経済指標が回復してきた第4四半期は黒字(流入超)に戻っている。
6.物価
消費者物価は、2011年の金融引締め政策の結果、2011年夏をピークに徐々に沈静化しており、2012年は金融緩和に転じた後も政府の抑制目標である4.0%を下回って推移した(第Ⅲ-2-3-6図)。2012年の年央に2%程度まで低下した後は、年末年始に一時的に上昇したことを除けば、ほぼ2%前後の水準を推移している。
第Ⅲ-2-3-6図 中国の消費者物価の伸び率(前年同月比)の推移
7.金融政策
2011年はインフレの抑制が最優先課題とされ金融引締め政策がとられたが、経済成長の鈍化が懸念される中で、2012年は消費者物価の動向を見ながら徐々に金融緩和が行われた。まず、2011年12月に中国人民銀行は預金準備率の引下げに踏み切り、2012年2月、5月と3回にわたって預金準備率を引き下げた(第Ⅲ-2-3-7図)。さらに、消費者物価が低下してきた2012年6月、7月は2か月連続で政策金利の引下げを実施した(第Ⅲ-2-3-8図)。
第Ⅲ-2-3-7図 中国の預金準備率の推移
第Ⅲ-2-3-8図 中国の政策金利の推移
8.人民元
人民元は2010年6月の弾力化以降、緩やかに上昇してきた。しかし、2012年は年初上昇していたものの、中国経済の減速とともに下落する時期も見られた(第Ⅲ-2-3-9図)。秋以降は再び上昇傾向で推移している。
第Ⅲ-2-3-9図 中国の人民元対ドルレートの推移
9.今後の中国経済の注意点・課題
2012年の中国経済の動向を概観してきたが、今後の中国経済を考える上での注意点・課題を挙げてみる。
(1)不動産価格
金融政策との関係で注意を要するのが不動産価格である。不動産価格の動向を全国70都市の新築住宅販売価格の動きで見ると、政策金利の引下げ(2012年6月、7月)以降、住宅価格が上昇に転じる都市が急増した(第Ⅲ-2-3-10図)。最新時点ではほとんどの都市で価格が上昇しており、金融政策が引締めに転じ景気に悪影響を及ぼす懸念もある。
第Ⅲ-2-3-10図 中国の新築住宅販売価格の動向
(2)輸出の動向
中国が景気減速に陥った要因の一つは、欧州債務危機に伴う欧州向けを中心とした輸出の減少であった。中国の輸出先に占めるEUのシェアは2010年の19.7%から2011年18.7%に、さらに2012年は16.3%まで低下した。首位の座を米国に譲ったものの、依然としてEUが大きなシェアを占めており、欧州への輸出動向が中国経済に及ぼす影響は大きい(第Ⅲ-2-3-11図)。現在、欧州債務危機は一応の落ち着きを見せているが、今後ともその動向に十分な注意が必要である。
第Ⅲ-2-3-11図 中国の主要な輸出相手先(2012年)
中国は、これまで述べてきたような景気動向に係る短期的なリスクとともに、中長期的な成長に係る課題も抱えている。今まで中国は高度成長を遂げてきたが、生産年齢人口の減少、賃金上昇による国際競争力の低下等から経済成長率は中長期的に減速していくと見られている。
そのような中で安定的な成長を維持していくためには、足下の過剰設備の整理を含む産業の近代化、消費を中心とした需要構造への転換、格差の是正等の取組を進めていく必要がある。
中国では、2012年11月の共産党大会、2013年3月の全国人民代表大会を経て新しい指導部が正式に発足した。新指導部は経済発展方式の転換に代表される経済改革の推進を掲げ、持続可能な発展に向けて取り組む姿勢を示しているが、いずれも一朝一夕に解決できる問題ではなく、今後の動向を注意深く見ていく必要がある。