不法占用の放置と行政の責任ーはみ出し自動販売機住民訴訟へ最高裁〉
最高裁の判断
争点に係る判断
道路法三二条一項は、道路に広告塔その他これに類する工作物等を設け、継続して道路を使用しようとする場合においては、道路管理者の許可を受けなければならないと定めている。
そして、同法三九条一項は、道路管理者は道路の占用につき占用料を徴収することができる旨を定めており、
この規定に基づく占用料は、都道府県道に係るものにあっては道路管理者である都道府県の収入となる(道路法施行令一九条の四第一項)。
この規定に基づく占用料は、都道府県道に係るものにあっては道路管理者である都道府県の収入となる(道路法施行令一九条の四第一項)。
このように、道路管理者は道路の占用につき占用料を徴収して収入とすることができるのであるから、道路が権原なく占有された場合には、道路管理者は、占有者に対し、占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得するものというべきである。
これを本件についてみると、被上告入らは、前記のとおり、それぞれ、各自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した日までの間、何らの占有権原なくこれらの自動販売機を設置してはみ出し部分の都道を占有していたのであるから、東京都は、被上告人らに対し、上記各占有に係る占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものというべきである。
これを本件についてみると、被上告入らは、前記のとおり、それぞれ、各自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した日までの間、何らの占有権原なくこれらの自動販売機を設置してはみ出し部分の都道を占有していたのであるから、東京都は、被上告人らに対し、上記各占有に係る占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものというべきである。
一争点に係る判断一
地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法二四〇条、地方自治法施行令一七一条から一七一条の七までの規定によれば、客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず、原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。
しかしながら、地方公共団体の長は、債権で履行期限後相当の期間を経過してもなお完全に履行されていないものについて、「債権金額が少額で、取立てに要する費用に満たないと認められるとき」に該当し、これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるときは、以後その保全及び取立てをしないことができるものとされている(地方自治法施行令一七一条の五第三号)。
これを本件についてみると、前記事実関係等の下において、上告人ら主張のとおり、はみ出し自動販売機の占用料相当額を算定するとしても、その金額は、占用部分が一台当たり一?とすれば、一カ月当たり約一、六八三円にすぎず、他方、はみ出し自動販売機は当時約三六、000台もあったというのであるから、東京都が、はみ出し自動販売機全体について考慮する必要がある中において、一台ごとに債務者を特定して債権額を算定す
ることには多くの労力と多額の費用とを要するものであったとして、本件について、「債権金額が少額で、取立てに要する費用に満たない」と認めたことを違法であるということはできない。
ることには多くの労力と多額の費用とを要するものであったとして、本件について、「債権金額が少額で、取立てに要する費用に満たない」と認めたことを違法であるということはできない。
また、はみ出し自動販売機に係る最大の課題は、それを放置することにより通行の妨害となるなど望ましくない状況を解消するためこれを撤去させるべきであるということにあったのであるから、対価を徴収することよりも、はみ出し自動販売機の撤去という抜本的解決を図ることを優先した東京都の判断は、十分に首肯することができる。
そして、商品製造業者が、東京都に協力をし、撤去費用の負担をすることによって、はみ出し自動販売機の
撤去という目的が達成されたのであるから、そのような事情の下では、東京都が更に撤去前の占用料相当額の金員を商品製造業者から取り立てることは著しく不適当であると判断したとしても、それを違法であるということはできない。
撤去という目的が達成されたのであるから、そのような事情の下では、東京都が更に撤去前の占用料相当額の金員を商品製造業者から取り立てることは著しく不適当であると判断したとしても、それを違法であるということはできない。
以上によれば、本件の事実関係の下では、東京都が被上告人らに対して前記損害賠償請求権又は
不当利得返還請求権を行使しなかったからといって、これを違法ということはできない。
これと同旨の原審(東京高裁)の判断は正当として是認することができ、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文(上告棄却)のとおり判決する。
不当利得返還請求権を行使しなかったからといって、これを違法ということはできない。
これと同旨の原審(東京高裁)の判断は正当として是認することができ、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文(上告棄却)のとおり判決する。
おわりに
本件は、はみ出し自動販売機が既に撤去された後に、行政が当該自動販売機の所有者から占用料を徴収しなくても、違法ではないという判断に至ったものであるが、その背景としては、冒頭に触れたように、はみ出し自動販売機が社会問題化したことにより、自動販売機の所有者の自主的取組みが促されたことが大きく作用しているものと思われる。
本件は、はみ出し自動販売機が既に撤去された後に、行政が当該自動販売機の所有者から占用料を徴収しなくても、違法ではないという判断に至ったものであるが、その背景としては、冒頭に触れたように、はみ出し自動販売機が社会問題化したことにより、自動販売機の所有者の自主的取組みが促されたことが大きく作用しているものと思われる。
具体的には、平成六年一月には、たばこや酒類の自動販売機を道路からはみ出して設置し歩行者の通行を妨害したなどとして、市民団体の告発を基に大阪府警が道路法違反(不法占用)等の疑いで大阪市内の酒類販売業者一六社・社員四八人、たばこ製造会社一社・社員一三〇人を書類送検し、平成五年二月には、飲料メーカー一社を書類送検している。
これらの動きと併せて、平成六年一〇月には、飲料メーカーの大半が、はみ出し自動販売機を自主的に撤廃する取組を見せている。
不法占用物件については、各道路管理者の不断の努力により、その是正が図られているものの、突出看板等全国の道路には多くの無許可の物件が後を絶たないことも事実である。
不法占用物件については、各道路管理者の不断の努力により、その是正が図られているものの、突出看板等全国の道路には多くの無許可の物件が後を絶たないことも事実である。
これを放置することにより歩行者等に損害が生じた場合は、管理瑕疵が問われることも想定される。引き続き、社会的関心を高めていくことも含めて行政による着実かつ有効な取組みを推進することが重要である。
○不当利得返還請求
訴訟手続等により、不法占用期間にかかる占用料相当額を請求するもの。
<はみ出し自動販売機住民訴訟>
(H16.4.23最高裁判決)
自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した日までの間、何らの占有権原なくこれらの自動販売機を設置してはみ出し部分の都道を占有していたのであるから、行政は、被上告人らに対し、上記各占有に係る占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものというべきである。
自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した日までの間、何らの占有権原なくこれらの自動販売機を設置してはみ出し部分の都道を占有していたのであるから、行政は、被上告人らに対し、上記各占有に係る占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものというべきである。
1.訴訟概要
○ 東京都民たる消費者団体の構成員が、タバコや飲料のメーカーが自動販売機を都道に権原なくはみ出して設置し、東京都が占用料相当額の損害を被ったとして、東京都に代位して不当利得返還等を請求したもの
○ 東京都民たる消費者団体の構成員が、タバコや飲料のメーカーが自動販売機を都道に権原なくはみ出して設置し、東京都が占用料相当額の損害を被ったとして、東京都に代位して不当利得返還等を請求したもの
2.経緯
H2.10月消費者団体が、東京都等に対しはみ出し自動販売機の撤去を要請その後、東京都の指導とメーカーの協力により、本件訴訟に係る自動販売機はH5.11月までに撤去され、約3万6千台あったはみ出し自動販売機のほとんどがH6初頭までに撤去された。
H6.1月住民訴訟提起
H16.4月最高裁判決
3.争点
○ 道路が権原なく占有された場合、道路管理者は、占有者に対し、占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得するか
○ はみ出し自動販売機が撤去されている状況下で、東京都がメーカーに占用料相当額の不当利得返還請求
権等を行使しないことは違法か
権等を行使しないことは違法か
4.判決
○ 道路管理者は道路の占用につき占用料を徴収して収入とすることができるのであるから、道路が権原なく占有された場合には、道路管理者は、占有者に対し、占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得する
○ 道路管理者は道路の占用につき占用料を徴収して収入とすることができるのであるから、道路が権原なく占有された場合には、道路管理者は、占有者に対し、占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得する
○ はみ出し自動販売機に係る最大の課題は、それを放置することにより通行の妨害となるなど望ましくない状況を解消するためこれを撤去させるべきであるということにあったのであるから、対価を徴収することよりも、はみ出し自動販売機の撤去という抜本的解決を図ることを優先した東京都の判断は十分に首肯することができる。メーカーが、東京都に協力し、撤去費用の負担をすることによって、はみ出し自動販売機の撤去という目的が達成されたのであるから、東京都が撤去前の占用料相当額の金員を取り立てることが著しく不適当であると判断したとしても、それを違法であるということはできない
○ 適法に許可を受けて占用料を納付している者に不公平感を与えている。
東日本大震災を受けて、
・不法占用の突出看板が落下して通行者に危害を加えたり緊急車両の通行を妨げるおそれ
・歩道上の不法占用物件が帰宅困難者の移動を妨げるおそれが認識されている。
・不法占用の突出看板が落下して通行者に危害を加えたり緊急車両の通行を妨げるおそれ
・歩道上の不法占用物件が帰宅困難者の移動を妨げるおそれが認識されている。