除染工程表 住民帰還へ着実な前進を
2012.1.28 03:27 [主張]
東京電力福島第1原子力発電所事故で、国が直接実施する除染の工程表が発表された。
避難生活を送る住民にとって帰還できる時期の目安となる。工程表を着実に実行し、前進させることは「福島の再生なくして日本の再生はない」(野田佳彦首相)とする政府の責務である。
工程表では、2年後の平成26年3月末までに、年間被曝(ひばく)線量が50ミリシーベルト以下の地域の除染を終えるとしている。
原発周辺の「除染特別地域」を被曝線量に応じて3つに分類し、年間被曝線量が20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」では今年3月から除染に着手する。20~50ミリシーベルトの「居住制限区域」は、今秋ごろに除染を本格化させ、住民が帰還できる20ミリシーベルト以下に放射線を低減させる。
いずれも25年度末までに作業を完了し、自治体や住民の意向を踏まえて、帰還を促す考えだ。放射線に対する住民の不安を取り除くためには、可能な限り線量を下げるとともに、除染の効果を丁寧に説明することも必要である。
一方、年間被曝量が50ミリシーベルトを超える「帰還困難地域」の除染時期は、今回の工程表では明記できなかった。多くの自治体が、放射線量によって「帰れる区域」と「帰れない区域」に分断される可能性がある。住民の不公平感を解消する努力も忘れてはならない。
除染を本格的に進める上での最大の課題は、大量の汚染土壌を一時的に保管する中間貯蔵施設の確保である。細野豪志環境相が打診した福島県双葉郡内は「受け入れ反対」の姿勢を示した。
汚染土壌の行き先が決まらなければ、除染作業が停滞する恐れが生じる。民主党政権には、普天間問題を泥沼化させた鳩山由紀夫元首相、責任回避に終始して震災復興の遅れを招いた菅直人前首相のあしき前例がある。
野田政権には、改めて「国の責任で福島を再生させる」という覚悟と実行が問われている。
だが、除染だけで住民の帰還条件が整うわけではない。行政機関や学校、病院など社会インフラを整備し、国による積極的な投資と民間の活力を活用して地域の雇用を確保する必要がある。
除染を第一歩とする福島の再生に、世界が注目している。主役の住民を国と全国民が支え、「日本の底力」を世界にみせたい。
除染、14年3月末に完了 環境省が工程表発表
2012年1月27日 02時22分
環境省は26日、東京電力福島第1原発事故によってまき散らされた放射性物質を、政府が除染する「除染特別地域」の工程表を発表した。住民の同意や汚染土の仮置き場確保など条件がそろった地域から作業を始め、2014年3月末までに終了。帰還が困難な年間50ミリシーベルト超の地域を除き、早期の帰還ができるレベルにしたいとしている。
政府は昨年12月、現在の警戒区域と計画的避難区域に当たる福島県の11市町村を除染特別地域に指定。今後、年間の放射線量により、
(1)20ミリシーベルト以下(避難指示解除準備区域)
(2)20~50ミリシーベルト(居住制限区域)
(3)50ミリシーベルト超(帰還困難区域)
-の3つの区域に分ける。
20ミリシーベルト以下の区域では、3月ごろから10ミリシーベルト以上の場所を中心に除染を始め、来年8月末までに自然減を含め、昨年8月末比で被ばく線量を半減させるのが目標。子どもは6割減を目指す。
20~50ミリシーベルトの地域は今年10月ごろから作業を始め、20ミリシーベルト以下を目指す。
50ミリシーベルト超の地域では、効果的な除染方法を探るため、環境省などによる実証事業は行うが、区域としての除染を実施するかどうかは未定。国が土地を借り上げたり買い上げたりする可能性もあり、それによって対応が異なるからだという。
今年3月末までに関係市町村と具体的な進め方を調整し、除染実施計画を作成。役場などの拠点施設や上下水道、常磐自動車道などの除染を先行実施する。
本格的な除染をするには、除染特別地域内の6万世帯と連絡を取り、説明会や現地調査をして除染の同意を得る方針。避難中の世帯が多く、時間がかかりそうだ。
除染で取り除いた高線量の土壌などを仮置きする場所の確保も課題となる。
(中日新聞)