慰安婦報道の誤報放置「読者裏切る」 朝日新聞第三者委
2014年12月22日17時50分
朝日新聞社による慰安婦報道を検証する第三者委員会(中込秀樹委員長)は22日、報告書を公表した。虚偽だった「吉田証言」の誤報を長年放置し、取り消す対応などが遅れたことを「読者の信頼を裏切るもの」と批判し、8月に過去の記事を取り消した際に謝罪をしなかったことは経営陣の判断で誤りだったと指摘。池上彰さんのコラム掲載を見送ったのは、木村伊量前社長が掲載拒否を実質的に判断したと認定した。
報告書は、吉田清治氏(故人)が朝鮮人女性を強制連行したとする証言以外に確認を取っていなかったと指摘。1992年の研究者の現地調査で吉田証言が疑問視された後も現地取材などをせず、記事を減らしていくような消極的対応に終始したことを「ジャーナリズムのあり方として非難されるべきだ」と述べた。
97年3月に慰安婦問題をとり上げた特集記事では、吉田証言について「真偽は確認できない」との表現にとどめ、訂正や取り消しをせず、謝罪をしなかったことは「致命的な誤り」と指摘した。
今年8月の検証記事まで取り消しが遅れた理由として、
①当事者意識の欠如②引き継ぎが十分にない③訂正・取り消しのルールが不明確④社内で活発な議論をする風土が醸成されていなかった――などを挙げた。
また、8月の検証記事で取り消しが遅れた理由を十分に検証しなかったことを「読者に対する誠実な態度とはいえない」と指摘。検証記事の内容については「自己弁護の姿勢が目立ち、謙虚な反省の態度も示されず、何を言わんとするのか分かりにくいものになった」と批判した。
さらに検証記事で吉田証言を取り消す際、木村前社長が紙面で謝罪することに反対し、最終的には経営幹部らが決めたと認定。この経営陣の判断について「事実を伝える報道機関としての役割や一般読者に向き合うという視点を欠落させた」と批判した。
ジャーナリスト池上彰さんの連載コラム「新聞ななめ読み」の掲載を一時見合わせた際も、「過ちは潔く謝るべきだ」との見出しの原稿に木村前社長が難色を示し、「編集部門が抗しきれずに掲載を見送ることになった」と指摘。「掲載拒否は実質的には木村(前社長)の判断によるもの」と認定した。
慰安婦報道が国際社会に与えた影響については、4委員による三つの報告が併記された。吉田証言については、二つの報告で「韓国に影響を与えたことはなかったことを跡付け」たとし、うち一つは慰安婦報道の記事が「欧米、韓国に影響を与えたかどうかは認知できない」とした。一方、別の2委員による報告は、朝日新聞の報道が「韓国における慰安婦問題に対する過激な言説をいわば裏書きし、さらに過激化させた」などと指摘した。
第三者委は調査を踏まえた提言で、誤報への対応をまとめて載せる「訂正欄」新設など周知方法▽今後は特集記事取材班の編成やメンバーの開示▽様々な意見をもつ専門家を集めた社内勉強会など意見交換を重ねる仕組みづくり▽経営が編集に介入する可否や程度を聴く常設の第三者機関設置――などとした。
◇
第三者委員会の報告書は、中込秀樹委員長から朝日新聞社の渡辺雅隆社長に手渡された。渡辺社長は「報告を真摯(しんし)に受け止め、改革を進める」などと述べたうえで、26日に記者会見を開いて本社の見解を説明することを明らかにした。
渡辺社長の発言は以下の通り。
中込委員長をはじめ、第三者委員会の委員のみなさまには、当社の慰安婦報道について徹底した検証をもとに、詳細な報告書をご提出いただき、大変感謝いたしております。慰安婦をめぐる一連の報道では、みなさまに大変なご迷惑とご心配をおかけし、改めて深くおわび申し上げます。報告書の内容を真摯に受け止め、改めるべき点は誠実に実行してまいります。朝日新聞社を根底からつくりかえる覚悟で改革を進めることを約束いたします。
朝日新聞従軍慰安婦記事 検証委が報告書12月22日19時42分
朝日新聞社が、いわゆる従軍慰安婦を巡る自社の報道について検証するために設置した第三者委員会は、22日報告書を公表し、「慰安婦を強制連行した」とする証言に基づく記事の取り消しや謝罪が遅れたことについて、「ジャーナリズムの在り方として非難されるべきであり、報道機関としての役割や読者と向き合う視点を欠落させたものだ」と指摘しました。
この報告書は、弁護士や研究者などでつくる朝日新聞社の第三者委員会がまとめたもので、22日午後、元名古屋高等裁判所長官の中込秀樹委員長が渡辺雅隆社長に提出しました。
この中では、いわゆる従軍慰安婦の問題を巡って、朝日新聞がことし8月になって「慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の証言に基づく記事を取り消したことについて、「1992年に研究者が証言は極めて疑わしいという調査結果を発表したあとも、安易に記事を掲載し、現地に取材に行くなどの対応を講じないまま、消極的な対応に終始した」と指摘しました。そのうえで、「読者の信頼を裏切るもので、ジャーナリズムの在り方として非難されるべきだ」としています。
また、8月の検証記事で謝罪しなかったことについては、当時の社長の木村伊量氏からの意見をもとにおわびをしない案が拡大常務会に提出され、謝罪しないことへの懸念も表明されたものの、最終的には記事は取り消すが謝罪はしないという方針が決定したとして、「報道機関としての役割や読者と向き合う視点を欠落させたものだ」と指摘しました。
さらに、この問題に関するジャーナリストの池上彰氏のコラムの掲載を、一時、見送ったことについては、「実質的には当時社長だった木村氏の判断によるものと認められ、経営幹部による不当な干渉を防止するための概念である『経営と編集の分離』原則との関係でも不適当な関与がなされたといわざるをえない」としています。
第三者委員会は、朝日新聞と社員に対し、報道した記事についての責任を自覚し、誤報が判明したときの取り扱いを確立するよう求めています。
第三者委員会は、朝日新聞と社員に対し、報道した記事についての責任を自覚し、誤報が判明したときの取り扱いを確立するよう求めています。
報告書を受け取った渡辺社長は「報告書の内容を真摯(しんし)に受け止め、朝日新聞社を根底からつくりかえる覚悟で改革を進めます」と述べ、今月26日に改めて会見し、社としての見解を説明するとしています。
【速報】慰安婦報道、朝日新聞"第三者委"が報告書を提出、記者会見
22日、朝日新聞社は、「慰安婦報道に関する第三者委員会」(委員長・中込秀樹弁護士)の報告の提出を受け、都内で記者会見を行った。
この日発表された第三者委員会の報告書では、吉田証言を中心とする記事の検証や訂正が遅れた理由について、「自分が関与していない記事については当事者意識が希薄だった」「デスク間でも明確な引き継ぎのルールがなかった」、また、記事の訂正・取り消しについて「社として統一的な基準考えかたが定まっておらず」、「社内で問題についての活発な議論が行われる風土が醸成されていなかった」と指摘した。
この日発表された第三者委員会の報告書では、吉田証言を中心とする記事の検証や訂正が遅れた理由について、「自分が関与していない記事については当事者意識が希薄だった」「デスク間でも明確な引き継ぎのルールがなかった」、また、記事の訂正・取り消しについて「社として統一的な基準考えかたが定まっておらず」、「社内で問題についての活発な議論が行われる風土が醸成されていなかった」と指摘した。
検証記事ついては、ことし5月の経営会議の席上、木村伊量前社長から幹部らに対し、検証作業が行われている旨の説明が行われたが、W杯開催時期や新聞集金の時期、週刊誌の夏期合併号の発売時期を避けるなどした結果、8月5、6日に掲載されることになったことが明らかにされた。
また、その内容については、検証チームの紙面案が合計8ページから4ページになり、「吉田証言」についても「虚偽と判断して取り消すこととするが謝罪はしない」ことになった経緯が明らかにされており、木村前社長ら経営幹部が最終的に「謝罪しない」という判断をしたことに対して「誤りであった」と指摘。「(検証記事の)内容は読者向けではなく、朝日を攻撃する他の新聞社や、雑誌、週刊誌、インターネットの論調向けに自社の立場を弁護する業界内向きのもの」だったとした。
また、その内容については、検証チームの紙面案が合計8ページから4ページになり、「吉田証言」についても「虚偽と判断して取り消すこととするが謝罪はしない」ことになった経緯が明らかにされており、木村前社長ら経営幹部が最終的に「謝罪しない」という判断をしたことに対して「誤りであった」と指摘。「(検証記事の)内容は読者向けではなく、朝日を攻撃する他の新聞社や、雑誌、週刊誌、インターネットの論調向けに自社の立場を弁護する業界内向きのもの」だったとした。
さらに、池上彰氏のコラム不掲載問題については、原稿に目を通した木村前社長が難色を示したことから、「このままでは掲載できない」と判断。池上氏に「おわびがないという部分を押さえたものに書きなおしてもらえないかなどと依頼」、池上氏は「根幹に関わる部分は修正できない」としたことから、掲載が見送りに至ったという経緯が検証され、"杉浦編集担当によるものだった"とする不掲載の判断は、実質的には木村前社長によるものだったと指摘、紙面で読者に対する説明についても、「(池上氏との)協議内容をあまり有利に解釈したもの」とした。
これまでの会見でも質問が出ていた、"報道が国際社会に与えた影響"については、「韓国における慰安婦問題に対する過激な言説を、朝日新聞その他の日本のメディアはいわばエンドース(裏書き)してきた。その中で指導的な位置にあったのが朝日新聞である。」(岡本、北岡委員)、「朝日は、慰安婦問題の本質は女性の人権や尊厳の問題だと、しばしば説くが、現実的な解決策や選択肢を示せないまま、「本質論」に逃げ込むような印象を与えることは否めない。」(波多野委員)と指摘。
海外メディアが引用した記事に関する定量的分析を行った林委員は、「朝日新聞の報道が国際社会に与えた影響は限定的であったと認定した。しかし、そのことは、本報告書が他所で指摘している同社の経営陣の判断の誤り、および報道プロセスの数々の問題点そのもののインパクトを減ずるものではない。」と述べている。また、林委員は欧米では「女性の人権」の観点からの報道が多かったことにも触れ、朝日新聞社内だけでなく、第三者委員でも「女性の人権」の観点からの議論や検証が不十分だったのではないかとの認識を示した。
第三者委員会による今回の報告書は、朝日新聞の経営組織や取材現場に残る課題を指摘しつつ、「複雑で学界などでも多くの異論が見られる問題については、今回見られたような、その都度一面的、個人的人間関係に基づく情報のみに依拠するような取材体制のあり方を再考してほしい。」と提言。
第三者委員会による今回の報告書は、朝日新聞の経営組織や取材現場に残る課題を指摘しつつ、「複雑で学界などでも多くの異論が見られる問題については、今回見られたような、その都度一面的、個人的人間関係に基づく情報のみに依拠するような取材体制のあり方を再考してほしい。」と提言。
一方で「記者たちは、言論の行使に際して萎縮することなく、そして、その社会的責任を十分自覚し、日本の健全なジャーナリズム活動を推進する原動力となっていってほしい。」としたほか、「社員および販売店が悪質な脅迫や嫌がらせを受け、非常に苦しい立場に立たされていることを改めて認識」、「言論機関に対する攻撃に強い危惧を抱くとともに、こうした卑劣な行為が日本の民主主義の破壊をもたらす危険性のあることを改めて指摘しておきたい。」と結んでいる。
今回の報告書を受けての朝日新聞社の見解については、26日に渡辺社長が会見を行うとしている。
今回の報告書を受けての朝日新聞社の見解については、26日に渡辺社長が会見を行うとしている。
提出後の記者会見では、池上氏のコラム不掲載をめぐるやりとりについて、木村前社長の会見での発言と第三者委員会の検証結果に食い違いも見られたことについての質問もあったが、その要因について中込委員長は「両者の思い込み」だと述べた。
また北岡委員からは「権力監視はジャーナリズムの重要な役割」としながらも「政府批判だけでは困る」との指摘もあり、朝日新聞の“政府批判ありき”の姿勢が今回のような結果を招いたのではないかとした。さらに北岡委員は「(ここまで検証しようとしたのは)立派なものだと思う」とも述べた。
また北岡委員からは「権力監視はジャーナリズムの重要な役割」としながらも「政府批判だけでは困る」との指摘もあり、朝日新聞の“政府批判ありき”の姿勢が今回のような結果を招いたのではないかとした。さらに北岡委員は「(ここまで検証しようとしたのは)立派なものだと思う」とも述べた。
■記者会見の様子(ニコニコ生放送)
■第三者委員会による報告書
■第三者委員会メンバー
役職 | 氏名 | 肩書 | WEB |
委員長 | 中込秀樹 | 弁護士、元名古屋高裁長官 | HP |
委員 | 岡本行夫 | 外交評論家、元外務省・総理大臣補佐官 | HP |
北岡伸一 | 国際大学学長、政策研究大学院大学学長特別補佐・特別教授 | HP | |
田原総一朗 | ジャーナリスト | HP | |
波多野澄雄 | 筑波大学名誉教授、内閣府アジア歴史資料センター長 | HP | |
林香里 | 東京大学大学院情報学環教授 | HP | |
保阪正康 | 作家 | HP |
第三者委員会の報告書を受けての朝日新聞・渡辺社長コメント
12月22日
朝日新聞社代表取締役社長
渡辺雅隆
中込委員長をはじめ、第三者委員会の委員のみなさまには、当社の慰安婦報道について徹底した検証をもとに、詳細な報告書をご提出いただき、大変感謝いたします。
慰安婦をめぐる一連の報道では、みなさまにご迷惑とご心配をおかけし、あらためて深くおわび申し上げます。
報告書の内容を真摯に受け止め、改めるべき点は誠実に実行していきます。朝日新聞社を根底からつくりかえる覚悟で改革を進めることを約束いたします。
第三者委員会の記者会見終了後、社長としてのコメントなどを発表いたします。少し時間をかけて検討しなければいけない課題もあるかと思いますので、当社としての見解をまとめたうえで、26日に私が経験して説明いたします。よろしくお願いいたします。以上