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土のなりたちと我が国の土壤の特色

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土のなりたちと我が国の土壤の特色

(1) 土のなりたち
土は、鉱物、植物や動物の遺体や排泄物などが土壤生物により分解・再合成された腐植及び土壤中に多数生育する土壤生物からなる。

 土のなりたちを見てみよう。まず、岩石等の上に、地衣類やコケ類が生育する。これらは、太陽エネルギーを用いた光合成により生存に必要なエネルギーを自ら確保している。それらの植物が死ぬとその遺体は微生物によって分解される。その過程で生じる炭酸、有機酸は岩石等の分解を一層促進する。分解されたカルシウム、カリウムなどの塩基分を養分として、他の微生物や小さな植物が生息し始める。

 この過程が繰り返されることで、次第に大きな植物が生育するようになる。多量の有機物が表面に集積し、微生物や小動物数が増大する。有機物によって、腐植が生成される。こうして、土が徐々に形成されていくのである(第3-1-1図)。





土の生成には地質学的な時間が必要であり、種々の条件によって異なるが単位面積当たり1年で0.01mmしか生成されないとされる。土は地球が長年にわたる営為の中で生み出してきた貴重な資源であるといえる。
土は、地球規模で見ると、第3-1-2図のような生成、流出、運搬、堆積を繰り返している。







(2) 日本の土壤の特色
我が国は、湿潤な気候を有する島国であり、山岳、火山、急流な河川が多いといったことから大陸とは違った土壤構成が見られる。我が国の土壤は、多雨のため酸性になりやすい等の特徴を有するが、大きく西日本と東・北日本に分けて概要を見よう(第3-1-3図)。


 山地は、どちらも未分解の枯葉などが堆積する褐色森林土が多い。台地丘陵地では、西日本では、赤色土、黄色土といった粘土が多く緻密な土がよく見られるのに対して、関東以北、九州地方では、火山灰による黒ボク土が多い。低地では、湿った環境でできるグライ土、水はけのよい所に見られる褐色低地土及びこれらの中間で最も広く見られる灰色低地土等が見られる。


農地のうち水田については、我が国の水田の単位面積当たりの水稲の収穫量は、世界でも最高水準にある。水田は、温度の高まりかける5〜6月から水を張るため、水と接した作土の表面は藻類等によって酸化状態に保たれるものの、空気と土が遮断されることで、青味がかった還元層ができる。一方、冬には酸化状態になり、土中で酸化と還元が繰り返され鉱物の分解が激しくその分老朽化も早いが、使用する灌漑水中の各種養分や、有機物の集積等の要因によって土壤が肥沃である。
また、日本の畑は、水田が灌漑水による養分の天然供給が多いのに対して、これがほとんどないといわれる。また、地形が複雑で傾斜が強いところに多く見られる。このため今後農山村における土壤の保全管理が十分になされなくなると土壤侵食対策が必要になると考えられる。






豊かな土を守り受け継ぐ社会へ

 今日、土壤の保全とふれあいの重要性が認識されつつあり、積極的な取組が必要とされている。ここでは我が国及び諸外国における土と開発の関係などの事例も紹介しながら、現代の生活で失われがちな土との触れ合い及び土に配慮した利用を見るとともに、これらを通じて次世代に伝えるべき土の重要性と今後の取組の重要性について考えたい。



(1) 日本の努力
汚染の浄化等
土壤・地下水の汚染に対しては、汚染の防止だけでなく、過去に汚染したものの浄化対策を実施することが重要となろう。土壤・地下水中の汚染物質の分布を的確に捉え、効率よく除去することが必要となる。深くまで浸透するトリクロロエチレン等の汚染分布を把握し、取り除くことは容易ではないが、我が国でも、適切な調査手法を用いて汚染分布を把握し、多様な技術を組み合わせて浄化対策を実施する例が増えている(第3-1-14図)。

 例えば、君津市では、地下水調査、土壤ガス調査やボーリングによる土壤調査に基づいて汚染機構を解明し、汚染土壤の掘削除去、汚染土壤ガスの吸引によって事業場内の高濃度汚染を取り除くとともに、事業場外で汚染地下水を揚水し、汚染の拡散を防いでいる。熊本市でも、同様の方法で汚染分布を把握し、高濃度地点での汚染土壤ガスの吸引と汚染地下水の揚水によって浄化を行っている。吸引ガス中の汚染物質濃度が低下してきたため、現在では土壤ガスの吸引を停止し、揚水のみで汚染物質を除去している。しかし、いずれの例も、地下水中の汚染物質濃度の低下は、捗々しくなく、汚染の浄化には長期的な対策の継続が必要である。

土づくり
土壤の環境を損なうことなく、それを保護・育成し、調和を保ちながら食料生産を進める環境保全型の農業を推進していくことも必要である。具体的には、農薬・化学肥料、家畜ふん尿等の不適切な使用による環境負荷を低減し、土壤侵食防止機能を始めとする環境保全上良好な効果をより高め、家畜ふん尿等有機物資源の有効利用による土づくりなどを進める方向での農業の振興が有効であろう。実際に土作りを行っている例を見てみよう。
 島根県石見町では、森林組合の経営するチップ工場の樹皮・バークを活用し、土作り(堆肥作り)を進めている。山陰は冬雪が降りこれが自然に水分を補給し、またその後梅雨が来ることから土作りに恵まれた立地にあるとされる。こうした土作りによって、作物に良好な効果が出ており、米の上位等級比率は9割を越え、県下一であるとされる。

土壤流出の対策
先に見たように沖繩県ではいわゆる赤土の流出が社会問題化したが、こうした状況を踏まえ、沖繩県では、平成6年10月に、事業行為によって発生する赤土流出を規制するとともに、土地の適正な管理を促進すること等によって、赤土等の流出による公共用水域の水質の汚濁(水底の底質悪化を含む)の防止を図り、良好な生活環境の確保に資することを目的として赤土等流出防止条例を制定した。この条例により、特定事業者は、土地の区画形質を変更する事業行為を実施するときは、定められた基準に適合する赤土等流出防止施設を設置し、管理することが義務付けられるとともに、赤土等流出防止対策責任者の選定が義務付けられた。また、こうした動きに伴い、土壤流出を防止するための様々な土壤流出防止材も民間企業によって開発されている。綿製品メーカーが開発した畑の表土を覆う草類の種子を綿布に挾み込んだシートや法面緑化メーカーが開発した法面緑化マットなどがこの一例として挙げられる。この他、赤土流失を防ぐ手段として、マングローブの植林の有効性が考えられるようになり、琉球大学の研究グループ等が中心となって研究、実験が進められている。

土とのふれあい
最近、土とのふれあいを求める声の高まりに応えるべく、市民農園を開設する等の動きが見られる。東京都の例を見てみると、平成5年3月現在で、区市民農園、福祉農園、学童農園、レクレーション農園を合わせると、第3-1-15図(マップ)のように、506箇所、752,000haに及んでいる。この他、土や農作物と親しむようなまつりなどの交流活動が開催されている。


(2) 各国の努力
開発に際して土壤環境に配慮した開発を進める国や土壤保全に積極的に取り組んでいる国がある。こうした例を見てみたい。

 スイスでは、環境保護の基本原則として?予防の原則、?起因者の原則、?協力の原則、?統合の原則の4つを掲げている。この原則に沿って、自然保護に関しては、20項目のガイドラインを連邦環境森林景観局が示している。その第10番目に土地の被覆の回避を掲げている。その内容は、「建築物、インフラ整備、道路などによってさらに土地が被覆されることが、大きな環境問題となりつつある。それは、土壤が本来持っている構造を破壊する。建築計画は可能な限り土地の被覆を回避すべきである。」としている。

 次に中国で行われている緑の長城作戦を見てみよう。この計画は、中国全土の40%を対象したもので、1987年に開始され、2050年までの計画である。1985年までに第一期事業が完了し、現在1995年までの第二期が最終段階に入っている。これまでの造林面積は、1,294万4,000haに及び、黄河本流の両岸では、幅5mの森林が300kmにわたって護岸の役目を果たしている場所もでてきているとされる。最終的には、森林による大地の被覆率は1977年の4%から15%に、また木材蓄積量を7億2,000万m3から42億7,000万m3に増大するとしている。


また、米国では、1985年農業法により土壤保全が図られている。これは、土壤保全留保計画(TheConservation Reserve Program)と呼ばれ著しく侵食を受け易い土地についての保全と改善を図ろうとするものである。その概要は、?政府との間で契約を結んだ土地については、その所有者ないし経営者は、地域の保全地区の認可のもとで10年間土壤保全計画の下におく(草地、樹林地とする。少なくとも8分の1は樹林地とする)、?政府は、その土地について補償するに足りるリース料を払う(1986〜1989:1エーカー約50ドル)、?一旦保全に入った土地については採草や放牧を行ってはならないというものである。第3-1-8表は同計画の実績であり、契約面積は、米国の総耕地面積の11%にあたる。

(3) 土とともに
これまで見てきたように土の生成には極めて長い時間を必要とするが、その破壊は、驚くほど短い時間で進行する。また、水や大気に比べると、土壤中の物質の循環サイクルは極めて長い。このため、土壤はいったん汚染されると回復がなかなか難しいといった特徴を有している。また我が国では、土地は、多数の人が利用する可能性があるとともに、多くの公益的機能を有することも忘れてはならない。
地球上の生物が生存し続けるために、良好な土壤環境は必要不可欠であり、多くの人の理解と協力を得て積極的に土壤環境の保全に取り組むことが必要である。そのためには、土の持つ暖かさを肌で感じ、その恵みに感謝する気持ちを持つことが第一歩となろう。日々の生活の中で、ややもすると忘れられがちな土について目を向け、我々一人ひとりが、土を大切にする努力を傾けていくことができるなら、我々は土と共に生きていくことができるのである。



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