http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-09-04/2015090415_02_1.html
東京電力は3日、福島第1原発1~4号機建屋周辺の井戸(サブドレン)から、放射能で汚染された地下水のくみ上げを開始しました。いったんタンクにためた後、浄化施設で放射性物質を低減させて、海に流す計画です。
東電によると、41本のサブドレンのうち、まず建屋の上流側の26本が稼働対象。最初の1週間は、放射能濃度が比較的低いサブドレンで昼間だけくみ上げる計画です。3日は、午前10時から約5時間かけて20本のサブドレンで計168トンをくみ上げました。
くみ上げた水は、浄化設備でセシウムやストロンチウムなどを低減させた後、運用目標値未満だと確認されれば海に排水する計画ですが、時期は未定。
運用目標値はセシウム134、137が1リットル当たり1ベクレル、全ベータ(ストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質)が同3ベクレル。トリチウム(3重水素)は同1500ベクレルですが、浄化設備で取り除けないため、目標値以上に汚染された水は構内のタンクで保管するといいます。
サブドレンからのくみ上げによって、建屋への地下水流入量が半分程度に減り、増え続ける高濃度の汚染水の増加が抑制されるとともに、安定的な運用が確認されれば、海側遮水壁の開口部を閉じることで港湾に流出し続けている汚染地下水を減らせると、東電は説明しています。
地元の福島県漁業協同組合連合会は8月25日、計画容認を正式に決定していました。
解説
漁民の苦渋の決断 受け止めよ
福島第1原発で始まったサブドレン計画。一度は基準を超えて汚染された水を、浄化処理した後とはいえ、意図的に海に放出するのは初めてです。国と東京電力は、計画を受け入れた地元漁業者らの「苦渋の決断」を真摯(しんし)に受け止め、事故収束作業を進めることが求められます。
汚染水の海洋流出を阻止する目的で2012年に港湾内に建設を始めた全長780メートルの海側遮水壁は昨年夏にほぼ完成したものの、約10メートルの開口部を通じて毎日290トンもの汚染地下水が流出し続けています。閉合できないのは、上流側での地下水位を厳格に管理するメドが立たなかったからです。サブドレンなどの運用で、ようやく閉合が可能になり海への流出量が同10トンに減ると期待されます。
なぜ1年間も計画が遅れたのか。原因は、国と東電の無責任な態度にあります。
東電は汚染地下水の処理後の移送先をあいまいにしたまま計画を進め、海側遮水壁の完成間際になって唐突に海に放出すると発表。地元の反発を呼びました。地元の合意が得られないまま、原子力規制委員会は今年1月に計画を認可しました。
さらに2月、基準を大きく超える濃度の汚染水が排水路から海に流出している測定データを公表しなかった問題が発覚。「信頼関係が崩れた」と、地元住民は怒りました。
今回、漁業者たちは「全員の納得が得られているかは疑問」としつつも、汚染水対策の前進のために受け入れました。国と東電は、この思いに全力で応える義務があります。
サブドレン運用は厳格な水位管理が絶対不可欠です。万一、高濃度の汚染水がたまる建屋地下の水位より、地下水位が下回ると汚染水が地下に逆流する最悪の事態になるからです。そのためにも、綿密な観測、運用、情報公開が求められます。
(中村秀生)