地下水、土壌の汚染
「現在まで、中国のすべての核廃棄物はコンクリート製の地下施設に貯蔵されているが、その安全性は、およそ十年間ほどしか確保されていない」と中国国営「中國核工業集團公司」の安全局局長は言う。
「1980年から1985年に1,200人が放射能により健康を害し 、20人が死亡した。放射能が漏れたことへの責任は、放射性廃棄物処理の規則に従わなかった管理者にもあるだろう」と中国国家環境保護局。
コンクリート容器に入れられて地中に埋められている放射性廃棄物やその他の軍事廃棄物も、風化作用により外部へと浸出し、地下水を汚染するようになるが、この地下水が、飲料、そして灌漑用に使用されるのである。地下水は、中国の水源の中でも大きな比重を占めている。
チベットからの報告によると、アムド (青海省) での地下水供給が急速に減少していることが確認されている。地下帯水層は飲料水を供給する主要な水源であるが、一度汚染されてしまうと浄化することは不可能である。このことから考えても、地下水汚染はその種類や量に関わらず憂慮すべきことであるが、とりわけそれが放射能汚染の場合には、事態は一層深刻となる。
河川の汚染、氾濫
水域近くに無計画のまま投棄された核廃棄物は、河川、湖水、そして湧水をも汚染する。チベットは南アジア、東南アジアのほとんどの地帯にとって主要な水源となっているため、この源流での汚染、特に核や産業有毒廃棄物は、下流の国々の数多くの人たちが生活する社会、そして経済機構に破滅的な打撃を与えることになるだろう。中国、パキスタン、インド、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、ブータン、そしてベトナム。これらの国々がみな深刻な影響を受け、そこでの生活様式の変更を余儀なくされるのだ。このようなことが起きれば、河川を頼りに暮らしている人が被る被害は、計り知れないものになるだろう。
チベット下流で沈泥が凝固したり、破壊的な氾濫が毎年増加しているのは、チベット高原での大規模な森林伐採が大きな原因である。チベットのウラニウム鉱山の放射性廃棄物が、ブラマプトラ川、ヤンツェ川、黄河、サルヴィン川、サトレジ川、インダス川、メコン川、そしてその他の河川によって運ばれている可能性も無視できない。これらの河川は、最終的にはアラビア海、ベンガル湾、そして南シナ海へと注ぎ込む。このような地球規模での自然環境における大惨事は、身の毛もよだつほど恐ろしいものに違いない。
1985年から1994年、中国では、36万平方キロメートルの農地から毎年その表土が失われた。この現象が特に顕著なのは、ヤンツェ川、そして黄河など、チベットにその源を発している河川沿いである。川床が、土壌侵食により周囲の農地よりも数メートル上昇し、河川の氾濫が増加する原因となっているのだ。1990年以来、中国の主要な河川は毎年広大な面積にわたって氾濫している。1996年7月には、1600人以上の人々がヤンツェ川の氾濫のため溺死している。河川の氾濫による何らかの影響を受けた人は、中国全人口の10分の1にのぼる。1994年に実施された中国の主要河川流域に関する大規模な調査によると、飲料用水としての国家基準を満たしている河川流水は全体のわずか32%だけであった。中国の全人口の大部分が、程度の差こそあれ汚染した水源を飲用としていまだに利用していると推定されている。ただし、推定される人口の割合については、さまざまな値が報告され、その差は大きい。
1996年9月28日、シドニーで開催された「危機に瀕するチベットのための会議」の席上で、ダライ・ラマ法王はこう言った。 「五年前に、南チベットの、ディングリ(Dingri)地域出身のチベット人が、村人全員が飲み水に利用していた川について私に語ったことがある。そこには中国人も居住しているが、中国人民解放軍に所属している彼らは、その川が上流の工場により汚染されているので、その水を飲まないよう通知を受けていた。ところが、チベット人たちは何も聞かされない。チベット人はいまだに汚染された水を飲んでいる。この事実は、ある種の怠慢さがはびこっていることを物語っている。これは無知からくるものではない、他の理由によるものである」
チベット亡命政権情報・国際関係省環境開発部(EDD)発行
「グリーンチベット」1998年ニュースレターより
「グリーンチベット」1998年ニュースレターより
核、及び毒廃棄物
核及び毒廃棄物をチベットに埋めるという中国の政策は続いている。
1987年、中国の核計画を援助することを見返りに、西ドイツから使用済み燃料をチベットに貯蔵する契約が結ばれた。ドイツ議会の緑の党と新聞の執拗な圧力から西ドイツ及び中国政府は、この取引を単に可能性を述べたものであると言及し、続いてこのことも、大々的な新聞上での論議の結果、否定された。
チベットに核廃棄物処理場を置くという中国の政策は、1991年、米国のグリーンピースが、メリーランド州バルチモア市から150万トンの汚物沈殿物を「肥料」の名目で中国に輸出しようとする計画を示す文書を得たことによって、確認されることになった。この計画では2万トンの最初の船出に144万ドルが提出されていた。輸出ブローカーは、サンフランシスコを拠点とする企業、カリフォルニア・エンタープライズ、そして中国政府側の代理人はハイナン・サンリット・グループ(Hainan Sunlitt Group)であった。この中国側の代理人によると、中国の輸入法令では、こうした輸入は何ら政府の承認を必要としておらず、汚泥がアメリカに送り返されることはないと請け負っている。
グリーンピースは、この輸入文書は、問題の輸入物を中国語で「河泥」と記しているが、「都市の汚物沈殿は川底の泥ではなく、家庭及び企業の廃棄物で汚染されたものは、『肥料』としても使うことが出来ない。そしてアメリカでは、こうした都市汚物処理施設からの汚物沈殿は、慢性的に毒に汚染されているものだ」とコメントしている。シカゴでは、こうした汚物を庭用の肥料とすることは、含まれる重金属が土に集積することが明らかになったため打ち切られている。ミルウォーキーでは、こうした利用は、筋萎縮性側索硬化症の発症と関連付けられている。こうした廃棄物が、チベットの穀物にどのように作用するかわからない。しかし、これが「新しい」そして「効果のある」という歌い文句の肥料によって引き起こされた被害に対する農民たちの抵抗運動と関連しているように思えなくもない。
輸入とは別に、中国が国内の核廃棄物をチベットに投棄していることは疑いない。最も可能性の高い投棄場所は、中国軍によって封鎖され、中国の核実験地ニャクチュカに近い北チャンタンである。貯蔵方法は知られていないが、中国は適切な地下貯蔵施設を持たないので、地上での貯蔵であろうと思われる。アムド地方からは、原因不明の土地と水の汚染そして人間の動物の謎の死が報告されている。ジャムコックとカルコックでは、1987年以来、50人以上のチベット人が、激しい発熱、嘔吐、赤痢に冒された後、不可解な死を遂げている。アムドのンゴンポ、ウー・ツァンのニャクチュカ周辺の地域では、奇形児の出産もまた有意に多数、報告されている。
チベットへの毒廃棄物の投棄が、近隣諸国に及ぼす影響に関しては、ほとんど科学的調査がなされていない。しかし、大河の下流域の相当な距離を隔てた地域にも汚染が起きると示唆する報告がある。
また関連した問題として、チベットにおける中国の化学兵器実験の影響がある。この実験そのものについては、中国の新聞紙上で公にされているが、植物・野生動物・人間に対する影響に関しては何も述べられていない。
チベット高原の広大さに加え、中国が徹底的に廃棄物投棄に関するあらゆる情報を完全に秘密としているために、廃棄場所を特定する決定的証拠を得ることは困難である。こうした投棄へ反対する執拗なアピールが国際社会へ向けて行われてきた。ごく最近もダライ・ラマ法王は「中国による核廃棄はチベットの脆弱な生態系に恒久的な毒汚染をもたらすであろう」と述べた。
チベット亡命政権情報国際関係省1992年発行
「チベット環境と開発をめぐって」より
「チベット環境と開発をめぐって」より