平成27年5月25 日
厚生労働省全国油症治療研究班の第25 報告集を刊行することができましたことを大変うれしく思っております.平成25 年度と平成26 年度の研究成果ならびに関連分野の情報などをまとめております.
油症は1968 年(昭和43 年)に西日本一帯の広範囲な住民の方々が,熱媒体として使用されていたPCBの混入した食用米ぬか油を摂取したことによって起こった食中毒事件です.その後,研究班によってPCDF などのダイオキシン類も混入していたことがつきとめられ,油症はPCB 類とダイオキシン類による複合中毒であったことが証明されました.事件発生5 年後くらいからPCBの血中濃度測定が可能になりました.
その後,PCQ も油症に比較的特異的に検出されることが判明し診断基準に加わりました.ダイオキシン類は血中にごくわずかにしか含まれていないために,その定量は困難な状況でしたが,研究班内での技術改良により少ない血液量で再現性のあるダイオキシン類測定が可能となり,2001年(平成13年)は福岡県の検診でパイロット的に測定を行い,2002 年(平成14年)以降は全国の検診で測定を開始しました.
これらのデータを妥当性・精度・再現性などの面から解析しました.その結果,血液中2,3,4,7,8-pentachlorodibenzofuran(PeCDF)値を診断基準に追補することが妥当と考えられ,油症診断基準(平成16 年9月29 日補遺)が新たに作成されました.
患者さんの健康管理と健康相談の窓口として,2002 年から油症相談員システムを立ち上げました.油症相談員は検診での直接面接,電話や手紙による問診や相談受付などを行ないます.油症相談員の活躍によって,従来よりも信頼性の高いアンケート調査を行なうことが可能となりました.そのようなアンケート調査や実際の検診結果などと血液中のダイオキシン類濃度を統計学的に比較することが可能となりました.本報告集のいくつかの論文はその成果です.これらの研究成果は油症ニュース(http://www.kyudaiderm.org/part/yusho/index.html)にとりあげて,認定者の方々に送付しております.こうして少しずつではありますが,認定者の方々との交流をさらに深めたいと思っています.
現時点では油症に著効する治療薬はありませんが,我々を含めた最近の研究によって,さまざまな野菜や漢方薬にダイオキシンの作用を抑制する効果が期待されることが明らかになってきました.毎年検診に参加いただいている認定者の方々に御礼申し上げますとともに,油症検診(http://www.kyudai-derm.org/yusho/index.html)にお力添えをいただいている班員の方々,そして各県の行政の方々,厚生労働省担当課の皆様にも深く感謝申し上げます.
謝辞:本誌は,厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業(カネミ油症に関する研究))研究課題名(課題番号):食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究(H24−食品−指定− 014)によって刊行されています.深く感謝申し上げます.
課題名 5C-1251 ダイオキシン類曝露による継世代健康影響と遺伝的感受性要因との関連に関す
る研究
課題代表者名 和氣 徳夫 (国立大学法人 九州大学 環境発達医学研究センター研究推進部門ゲノム
疫学分野 特任教授)
研究実施期間 平成24~26年度
累計予算額 62,970千円(うち26年度20,628千円)
予算額は、間接経費を含む。
本研究のキーワード ダイオキシン類、AhR-130bpC/T SNP、NF1C、IL1β、IL24、油症
研究体制
(1)ダイオキシン類曝露による継世代健康影響及び血中ダイオキシン類濃度との関連に関する研究(地方独立行政法人福岡市立病院機構福岡市こども病院・感染センター)
(2)ダイオキシン類の曝露量と継世代移行量の評価に関する研究(福岡県保健環境研究所)
(3)ダイオキシン類曝露による継世代的健康影響の発症機序に関与するゲノム研究(国立大学法人 九州大学)
る研究
課題代表者名 和氣 徳夫 (国立大学法人 九州大学 環境発達医学研究センター研究推進部門ゲノム
疫学分野 特任教授)
研究実施期間 平成24~26年度
累計予算額 62,970千円(うち26年度20,628千円)
予算額は、間接経費を含む。
本研究のキーワード ダイオキシン類、AhR-130bpC/T SNP、NF1C、IL1β、IL24、油症
研究体制
(1)ダイオキシン類曝露による継世代健康影響及び血中ダイオキシン類濃度との関連に関する研究(地方独立行政法人福岡市立病院機構福岡市こども病院・感染センター)
(2)ダイオキシン類の曝露量と継世代移行量の評価に関する研究(福岡県保健環境研究所)
(3)ダイオキシン類曝露による継世代的健康影響の発症機序に関与するゲノム研究(国立大学法人 九州大学)
研究概要
1.はじめに(研究背景等)
化学物質の胎児期暴露による影響に世界的な関心が高まっている。我が国においても環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査:エコチル調査」が平成22年度に始動し、化学物質曝露等が子どもの健康に与える影響を明らかにする目的でコホート調査をすすめている。一方、高濃度の化学物質に曝露した群において次世代への健康影響を観察することは、化学物質曝露による次世代への健康影響を明らかにするうえで重要な基礎資料となる。
1.はじめに(研究背景等)
化学物質の胎児期暴露による影響に世界的な関心が高まっている。我が国においても環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査:エコチル調査」が平成22年度に始動し、化学物質曝露等が子どもの健康に与える影響を明らかにする目的でコホート調査をすすめている。一方、高濃度の化学物質に曝露した群において次世代への健康影響を観察することは、化学物質曝露による次世代への健康影響を明らかにするうえで重要な基礎資料となる。
申請者らはpolychlorinated biphenyls(PCBs) およびダイオキシン類の曝露によるカネミ油症患者の治療法開発および発症機序の解明に向けた研究をすすめている(九州大学油症ダイオキシン研究センター)。
胎児期に油症に曝露した例では、児の出生体重は母体血中ダイオキシン類濃度に有意な負の相関を示し、この胎児発育抑制効果は男児に特異的であることを明らかにした。また、次世代、次々世代において男児出生率が有意に低いことが分かった。
一方、油症患者より出生した児の血中ダイオキシン類濃度は正常健常人と比して有意な差を認めないことから、これら次世代への健康影響の発現は、高濃度のダイオキシン類の母児間移送によるものとは異なる機序が推察される。
ダイオキシン類はAhRを介して諸種の作用を示すことが知られている。申請者らはAhRのプロモータ領域を明らかとし、この領域内の-130SNP C/T遺伝子多型によって1.5倍以上の有意なプロモータ活性の亢進を認めることを明らかにした。
一方、ラットを用いた実験では、PCBなどの化学物質曝露により次世代、次々世代の雄雌出生率の減少をきたし、この機序にはエピジェネティクス変化が関与することが報告されている。これらの成績から、ダイオキシン類曝露による次世代への健康影響の発現機序には、AhRを介する細胞内シグナル伝達機構の個体差(遺伝子多型)やエピジェネティクス変化による遺伝的感受性が関わっていることが推察される。
そこで、本研究では、油症患者を対象としてダイオキシン類曝露における次世代、次々世代の健康影響と遺伝的感受性要因との関連について明らかにすることを目的とする。
2.研究開発目的
本研究では、ダイオキシン類曝露が次世代の健康にどのような影響をいかに及ぼすのかという継世代的な健康影響とその機序を明らかにすることを目的とする。この主旨に沿って、ヒトがダイオキシン類に曝露した事例である油症患者を対象として、油症曝露世代、次世代、次々世代の3世代にわたる健康影響を明らかにする。ついで、これら実態調査により明らかとなった継世代的な健康影響の機序について、血中ダイオキシン類濃度、ダイオキシン受容体(Arylhydrocarbon receptor, AhR)を介する細胞内毒性シグナル伝達機構の個体差をゲノム多様性及びエピジェネティックな遺伝子発現制御の破綻の観点から明らかにする。
本研究では、ダイオキシン類曝露が次世代の健康にどのような影響をいかに及ぼすのかという継世代的な健康影響とその機序を明らかにすることを目的とする。この主旨に沿って、ヒトがダイオキシン類に曝露した事例である油症患者を対象として、油症曝露世代、次世代、次々世代の3世代にわたる健康影響を明らかにする。ついで、これら実態調査により明らかとなった継世代的な健康影響の機序について、血中ダイオキシン類濃度、ダイオキシン受容体(Arylhydrocarbon receptor, AhR)を介する細胞内毒性シグナル伝達機構の個体差をゲノム多様性及びエピジェネティックな遺伝子発現制御の破綻の観点から明らかにする。
3.研究開発の方法 ※3.についてはサブテーマごとに記載すること。
(1)ダイオキシン類曝露による継世代健康影響及び血中ダイオキシン類濃度との関連に関する研究
ダイオキシン類曝露による曝露世代、次世代、次々世代にわたる継世代影響については、国際的にもわが国においてもほとんど検討がなされていない。今回の高濃度のダイオキシン類に曝露した油症患者より出生した児における検討では、皮膚色素沈着を発症した群では母体血中ダイオキシン類濃度が高く、母体の高濃度のダイオキシン類曝露による児の健康影響のひとつとして皮膚色素沈着が示された。また、母体が高濃度のダイオキシン類に曝露した場合には、次々世代、なかでも女系(母親)曝露においては男児出生割合が低下する可能性が示唆された。一方、油症患者より出生した児の気管支喘息の発症頻度は一般頻度よりも高く、母体の血中ダイオキシン類濃度は児の気管支喘息の発症リスクに影響を及ぼさないことから、ダイオキシン類曝露による児の気管支喘息の発症機序には曝露した量的な問題ばかりでなく、ダイオキシン類に対する感受性が関与している
可能性があることが考えられた。
(2)ダイオキシン類の曝露量と継世代移行量の評価に関する研究
妊産婦から母体及び胎児関連試料(母体血、母体脂肪、母乳、胎盤、さい帯、さい帯血(さい帯動脈血 ( A血)及びさい帯静脈血 (V血) )、羊水、胎脂、胎便、新生児尿の10種)の採取を行った。このうち今回は、羊水、胎脂、胎便、新生児尿のダイオキシン類濃度を測定し、各検体間濃度を比較解析した。また、カネミ油症患者の母親と油症発症後に生まれた子のうち血中ダイオキシン、PCB類濃度を測定した記録のある母親34人、子54人の血中ダイオキシン、PCB濃度を母乳摂取状況と比較し解析した。
(3)ダイオキシン類曝露による継世代的健康影響の発症機序に関与するゲノム研究
九州大学病院油症ダイオキシン診療研究センターで管理・登録している油症曝露患者1420名のなかで、油症発症後に児を得た油症曝露世代437名とその次世代572名、次々世代346名を対象として、アンケート調査による健康実態調査を行う。これら油症患者のうち九州大学病院で検診を行っている曝露世代200名・次世代200名・次々世代100名を対象に、ダイオキシン類血中濃度、ダイオキシンAhR関連遺伝子多型、細胞増殖・ホルモン受容体関連遺伝子などに関してエピジェネティックな変化を解析し、健康影響との関連について検討する。
4.結果及び考察 ※4.のうち、結果についてはサブテーマごとに記載すること。
(1)ダイオキシン類曝露による継世代健康影響及び血中ダイオキシン類濃度との関連に関する研究
アンケート調査を施行したカネミ油症女性患者737例のうち581例(78.8%)より回答を得、カネミ油症発生後に妊娠・出産となった油症患者は206例であった。この206例のうち64例(117妊娠)においては母体血中ダイオキシン類濃度を測定し、59例(142妊娠)においては母体ダイオキシン類受容体(AhR)遺伝子多型を解析した。
(1)ダイオキシン類曝露による継世代健康影響及び血中ダイオキシン類濃度との関連に関する研究
アンケート調査を施行したカネミ油症女性患者737例のうち581例(78.8%)より回答を得、カネミ油症発生後に妊娠・出産となった油症患者は206例であった。この206例のうち64例(117妊娠)においては母体血中ダイオキシン類濃度を測定し、59例(142妊娠)においては母体ダイオキシン類受容体(AhR)遺伝子多型を解析した。
また、27例においては次々世代(49例)の健康情報が得られた。
① 次世代への健康影響と母体血中ダイオキシン類濃度との関連
油症患者より出生した児(次世代)のなかで、皮膚色素沈着を発症した群では母体血中ダイオキシン類濃度が高く、母体の高濃度のダイオキシン類曝露による児の健康影響のひとつとして皮膚色素沈着が示された。また、母体の血中ダイオキシン類濃度は児の気管支喘息およびアトピー性皮膚炎の発症リスクに影響を及ぼさないが、母体の血中ダイオキシン類濃度が高いと児のアレルギー性鼻炎の発症リスクは低下する傾向があることが分かった。
一方、油症患者より出生した児の気管支喘息の発症頻度は一般頻度よりも高く、母体の血中ダイオキシン類濃度は児の気管支喘息の発症リスクに影響を及ぼさないことから、ダイオキシン類曝露による児の気管支喘息の発症機序には曝露した量的な問題ばかりでなく、ダイオキシン類に対する感受性が関与している可能性があることが考えられた。
② 次世代への健康影響と母体AhR遺伝子多型および母体血中ダイオキシン類濃度との関連
油症発生後の人工流産、自然流産、胎児死亡の頻度は油症発生前10年間に妊娠した油症患者における頻度と比較すると有意な差はなく、母体血中ダイオキシン類濃度や母体AhR遺伝子多型との間に明らかな関連はなかった。
③ 次々世代への健康影響と母体AhR遺伝子多型および母体血中ダイオキシン類濃度との関連
次々世代における男児出生割合は0.51と次世代の割合(0.55)より低下し、なかでも女系(母親)曝露では男児出生割合は0.38とさらに低下したが、general populationの割合(0.514)と比較して有意な差はなかった。また、母体AhR遺伝子多型と次世代・次々世代の男児出生割合との間においても明らかな傾向はみられなかったが、母体の血中ダイオキシン類濃度が高い場合には男児出生割合が低下する傾向があった。
このように高濃度のダイオキシン類に曝露した油症患者より出生した児で観察された健康影響のなかには、母体のダイオキシン類曝露量と関連するものと関連しないものが存在すること、さらに次々世代にも影響、すなわち継世代的な影響があるものがあることが示された。今後、ダイオキシン類の量的な問題ばかりでなく、児への健康影響と遺伝的感受性(遺伝子多型やエピジェネティックな変化)との関連について検討することが必要であると考えられた。
(2)ダイオキシン類の曝露量と継世代移行量の評価に関する研究
生体試料(母体血、母体脂肪、胎盤、さい帯血、胎脂、胎便)中の分析結果についてダイオキシン類濃度(Total TEQ) の比較を行ったところ母体血、胎盤、母体脂肪、胎脂、さい帯血、胎便の順に低くなる傾向が認められた。さらにこれら生体試料と母体血のダイオキシン類濃度間に良好な正の相関 ( r2 =0.8322~0.9399 ) が認められた。母体内でのダイオキシン類の胎児への透過は、胎盤部位で一定の抑制がなされ、胎児へ移行する毒性量は軽減されることが示唆された。
カネミ油症患者母子間の血中PCDF、PCB濃度の明確な関連は認められなかった。しかし、母子間の血液中PCDF濃度の関係より母乳摂取が影響する可能性がある。
(3)ダイオキシン類曝露による継世代的健康影響の発症機序に関与するゲノム研究
化学物質の胎児期暴露による影響に世界的な関心が高まっている。我が国においても環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査:エコチル調査」が平成22年度に始動し、化学物質曝露等が子どもの健康に与える影響を明らかにする目的でコホート調査をすすめている。一方、高濃度の化学物質に曝露した群において次世代への健康影響を観察することは、化学物質曝露による次世代への健康影響を明らかにするうえで重要な基礎資料となる。
申請者らはpolychlorinated biphenyls(PCBs) およびダイオキシン類の曝露によるカネミ油症患者の治療法開発および発症機序の解明に向けた研究をすすめている(九州大学油症ダイオキシン研究センター)。胎児期に油症に曝露した例では、児の出征体重は母体血中ダイオキシン類濃度の有意に負の相関を示し、この胎児発育抑制効果は男児に特異的であることを明らかにした。また、次世代、次々世代において男児出生率が有意に低いことが分かった。一方、油症患者より出生した児の血中ダイオキシン類濃度は正常健常人と比して有意な差を認めないことから、これら次世代への健康影響の発現は、高濃度のダイオキシン類の母児間移送によるものとは異なる機序が推察される。
ダイオキシン類はAhRを介して様々な機能を示すことが知られている。申請者らはAhR遺伝子内DNA多型がAhR機能に影響を及ぼし継世代的健康影響に関与するのではないかと考えた。
①AhR-130bp C/T SNPがプロモータ活性に及ぼす影響について
まずAhRプロモータ領域を決定するため、1精子受精・雄核発生全奇胎DNAを用い、様々なAhRプロモータ欠失変異体を作成し、リシフェラーゼリポータに組み込んだ。
1精子受精・雄核発生全奇胎は全ての対立遺伝子間でホモ結合を形成しているためSNP解析に有用である。ルシフェラーゼアッセイの結果、AhRプロモータは転写開始点から-452hpの領域に存在することが判明した。
本領域内にはマイナーアリルの頻度が高い2種類のDNA多型が存在した(-59bpのGGGGCリピート数変化、-130bp C/T多型)。全奇胎DNAを用い予想される9種類のハプロタイプの頻度を調べた結果、-130bp C Xリピート数2(18.0%)、-130bp T Xリピート数2(24.0%)、-130bp C Xリピート数3(52.0%)のハプロタイプが日本人には高頻度に出現することが判明した。
それぞれのハプロタイプを有するAhRプロモータをルシフェラーゼリポータに組み込み、AhRプロモータ活性を解析した。
その結果、-59bp DNA多型に関係なく-130bp C/T SNPのみがプロモータ活性の変化に関与していた。C/CよりT/Tで転写活性が1.75倍亢進していた。
AhRプロモータ領域-59bp領域には転写因子SP1が結合する領域が存在し、SP1によりAhR転写が制御されている。
AhRプロモータ領域-59bp領域には転写因子SP1が結合する領域が存在し、SP1によりAhR転写が制御されている。
一方、-130bp近傍にはNF1転写因子結合サイトが存在する。NF1にはNF1A、NF1B、NF1C及びNF1Xのサブタイプが存在する。NF1C及びNF1Xは転写抑制因子として機能する。AhR-130bp C/Cプロモータでは転写が抑制されることから申請者らはNF1Cに着目し、-130bp C/T SNPによるAhRプロモータ活性の制御機構について解析を進めた。
HeLa細胞(SNP-13bp C/C)及びTYK-nu(SNP-130T/T)からDNAを抽出し、NF1C抗体を用いたクロマチン免疫沈降を行った。NF1Cと-130bp領域のDNAは特異的に結合し、T/TよりC/Cの方がNF1C結合親和性が高いことが判明した。
さらにElectrophoretic mobility shift assayを行った。-130bpCプローブはTプローブに比し複合体
形成能が高く、さらにNF1C抗体によりスーパーシフトすることからNF1Cと-130bp領域との特異的結合が証明された。3倍量のcompetitor存在下において、NF1CはTプローブに比し、Cプローブで結合能が亢進していた。
形成能が高く、さらにNF1C抗体によりスーパーシフトすることからNF1Cと-130bp領域との特異的結合が証明された。3倍量のcompetitor存在下において、NF1CはTプローブに比し、Cプローブで結合能が亢進していた。
さらにHec116細胞(SNP-130bp C/T)を用いてFlag-NF1Cを遺伝子導入した。NF1C抗体を用いてクロマチン免疫沈降し、複合体中に含まれるSNP-130bp領域をPCRにより増幅した。PCR産物をサブクローニングし、塩基配列を決定した。
その結果、複合体に含まれる-130bpDNA領域はTアリルよりもCアリルの方が有意に高率であった。これらの結果から、-130bpC/CはT/Tと比較し高率にNF1Cと結合しAhRプロモータ活性が抑制されるが、T/TはNF1C結合親和性が低く、AhRプロモータ活性が有意に抑制されないことが判明した。
②NF1CによるAhR発現抑制の分子機構
NF1Cを強制発現させるためflagをタグした安定型NF1CcDNA変異体をアデノウィルスベクターに組み込んだ。さらにNF1Cノックダウンの為SiRNAを用いた。HEK293細胞へ遺伝子導入しAhR mRNA及び蛋白発現変化をrealtime PCR及びウェスタンブロッド法で解析した。
NF1Cの過剰発現によりAhRプロモータ活性がいかに変化するかを解析する為、-130bpC/C及びT/T遺伝子多型を有するAhRプロモータをルシフェラーゼ・リポータベクターに組み込み、ルシフェラーゼ活性を解析した。
NF1Cの過剰発現によりAhRプロモータ活性がいかに変化するかを解析する為、-130bpC/C及びT/T遺伝子多型を有するAhRプロモータをルシフェラーゼ・リポータベクターに組み込み、ルシフェラーゼ活性を解析した。
HeLa細胞でNF1Cを過剰発現すると-130bpC/C遺伝子型ではAhRプロモータ活性が有意に抑制されたが、T/T遺伝子型では抑制を認めなかった。同様にNF1CをノックダウンしAhRプロモータ活性の変化を解析した。
-130bpC/C遺伝子型ではAhRプロモータ活性の有意な亢進が示され、-130bp T/T遺伝子型では有意な変化は観察されなかった。
以上より、SNP-130bpがCアリルの場合、Tアリルの場合より強くNF1Cと結合し、AhR転写活性を負に制御すること、及びSNP-130bpがCアリルの場合、NF1Cの強制発現はAhRプロモータ活性を抑制し、NF1Cの発現抑制はAhRプロモータ活性を有意に上昇させることが判明した。
③ -130bp C/T SNPの子宮内膜癌進展への関与
-130bpC/T SNPが子宮内膜癌進展にいかに関与するかを明らかにするため、正常健常人130例及び内膜癌患者121例から血液を採取し、DNAを抽出した。ケース及びコントロール間で-130bp C/T SNPの遺伝子型頻度に有意差は無かった。しかしT/T遺伝子型はC/C及びC/Tに比し、進行癌患者において有意に高頻度に出現した。
さらに子宮体癌組織では、正常子宮内膜に比しAhR発現量が有意に高く、NF1C発現は有意に抑制されていた。
AhR高発現、NF1C低発現は未分化子宮内膜癌において顕著であった。
AhR高発現、NF1C低発現が内膜癌の進展にいかに関与するかを解析するためHHUA及びHEC6内膜癌細胞にSiRNAを投与しAhRをノックダウンした。親細胞ではAhR高発現に伴いNF1C発現が抑制され、ビメンチン、SNAILなどの間葉系マーカーの高発現さらにはE-カドヘリン等の上皮系マーカーの低発現が観察された。AhRノックダウンに伴い、NF1C高発現、間葉系マーカーの発現抑制、上皮系マーカーの発現誘導が観察されAhRによる上皮間葉系移行(EMT)が明らかになった。EMTにより癌細胞の増殖、運動能、浸潤能も亢進していた。
④ダイオキシン類高濃度曝露により出現する病態に関与するAhR下流シグナルの解析
ヒト絨毛細胞の培養系を用い、TCDD非存在下におけるSNP-130 C/C及びT/T型におけるAhR mRNA及び蛋白