輸入食品中の放射能の濃度限度
<概要>
チェルノブイリ原子力発電所事故により放出された多量の放射性物質によって汚染された食品の国内への流入が懸念されたため、厚生省(現厚生労働省)は輸入食品中の放射能を規制する暫定限度を設定(134Csおよび137Csの濃度として370Bq/kg以下)し、この暫定限度を越える食品については積み戻し措置を指示してきた。
チェルノブイリ原子力発電所事故により放出された多量の放射性物質によって汚染された食品の国内への流入が懸念されたため、厚生省(現厚生労働省)は輸入食品中の放射能を規制する暫定限度を設定(134Csおよび137Csの濃度として370Bq/kg以下)し、この暫定限度を越える食品については積み戻し措置を指示してきた。
<更新年月> 2004年08月
<本文>
1.はじめに
1986年4月26日に発生したソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故により放出された多量の放射性物質は、ヨーロッパを中心とする地域に拡散され、その一部はわが国にも到達した。これら放射性物質によって汚染された食品の国内への流入が懸念されたため、厚生省(現厚生労働省)は輸入食品中の放射能を規制する判断基準(暫定限度)を設定し、この暫定限度を越える食品については積み戻し措置を指示してきた。
1.はじめに
1986年4月26日に発生したソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故により放出された多量の放射性物質は、ヨーロッパを中心とする地域に拡散され、その一部はわが国にも到達した。これら放射性物質によって汚染された食品の国内への流入が懸念されたため、厚生省(現厚生労働省)は輸入食品中の放射能を規制する判断基準(暫定限度)を設定し、この暫定限度を越える食品については積み戻し措置を指示してきた。
ここでは、厚生省(現厚生労働省)内に設けられた「食品中の放射能に関する検討会」(1986年5月9日発足)における暫定限度の設定に関する考え方を中心に、わが国における食品中の放射性核種濃度の暫定限度(1986年設定)について述べる。
2.暫定限度の設定のための前提
検討会としては、将来国内法が改訂されることも考慮しながら、当時の国内法(1986年現在)などに基づいて暫定限度を検討することにした。
公衆の個人の放射線の防護のためには、医療被ばくおよび通常のレベルの自然放射線被ばくを除くすべての被ばく源からの線量の合計値が、線量限度(5mSv/年、1986年現在)を十分下回るよう制限されなければならない。そこで検討会では、公衆の個人に対する線量限度を被ばく源によって配分することとした。
検討会としては、将来国内法が改訂されることも考慮しながら、当時の国内法(1986年現在)などに基づいて暫定限度を検討することにした。
公衆の個人の放射線の防護のためには、医療被ばくおよび通常のレベルの自然放射線被ばくを除くすべての被ばく源からの線量の合計値が、線量限度(5mSv/年、1986年現在)を十分下回るよう制限されなければならない。そこで検討会では、公衆の個人に対する線量限度を被ばく源によって配分することとした。
すなわち、線量限度の1/3を特別な事態に対処するために配分することとし、輸入食品からの被ばく限度をこれにあてることにした。
また、食品中の放射性核種の組成比は、被ばく線量を予測する重要なファクターの一つであるが、食品中の137Csと134Csとの比は、わが国において検出された降下物中のそれと同じであると仮定した。そして、この仮定にしたがい、それぞれの放射性核種の被ばく線量への寄与を計算した結果、食品中に予測される全放射性核種(天然放射性核種を除く)による被ばく線量のうち、134Csと137Csの寄与は約66%、および90Srの寄与は33%、他の放射性核種による寄与は1%以下と推定された。
さらに、汚染食品をどれぐらい摂取するかという問題であるが、1人1日あたりの食品摂取量のうち輸入食品の占める割合は35%であり、そのうちヨーロッパ地域からの食品輸入は、5%程度である。しかし、検討会では、すべての国からの食品が放射性核種で汚染していると仮定した。すなわち、1人一日あたり食品摂取量のうち35%が汚染食品であると仮定した。
3.暫定限度について
種々の仮定を考慮して、輸入食品中の全放射性核種による被ばく線量が線量限度の1/3となる場合の(134Cs+137Cs)の放射能濃度を試算した結果、約421Bq/kgとなる。一方、EC(ヨーロッパ共同体)における暫定限度は、食品中の134Csおよび137Csの放射能濃度が乳幼児食品で370Bq/kg以下、一般食品で600Bq/kg以下、アメリカにおける暫定限度は、食品中の134Csおよび137Csの放射能濃度が370Bq/kg以下である(図1参照)。
種々の仮定を考慮して、輸入食品中の全放射性核種による被ばく線量が線量限度の1/3となる場合の(134Cs+137Cs)の放射能濃度を試算した結果、約421Bq/kgとなる。一方、EC(ヨーロッパ共同体)における暫定限度は、食品中の134Csおよび137Csの放射能濃度が乳幼児食品で370Bq/kg以下、一般食品で600Bq/kg以下、アメリカにおける暫定限度は、食品中の134Csおよび137Csの放射能濃度が370Bq/kg以下である(図1参照)。
これらを勘案して総合的に判断した結果、輸入食品中の放射能濃度の暫定限度を134Csおよび137Csの濃度として370Bq/kg以下とした(1986年11月)。すべての輸入食品が370Bq/kgであっても、普通の食生活をしていれば1年間に受ける放射線の量は0.04mSv以下である。
4.検疫所における輸入食品の放射能検査の方式と結果
わが国に輸入される食品は、まず検疫所においてシンチレーションサーベイメータを用いて、放射能の有無を検査される。その検査の結果、暫定基準値を越えるとみられるものは、国立医薬品食品衛生研究所(旧・国立衛生試験所)に送付され、NaIシンチレーション検出器、さらにGe半導体検出器で測定を行っている。検査対象食品とその原産国別の放射能検査方式(全ロット検査、抜き取り検査など)を図2に示す。
わが国に輸入される食品は、まず検疫所においてシンチレーションサーベイメータを用いて、放射能の有無を検査される。その検査の結果、暫定基準値を越えるとみられるものは、国立医薬品食品衛生研究所(旧・国立衛生試験所)に送付され、NaIシンチレーション検出器、さらにGe半導体検出器で測定を行っている。検査対象食品とその原産国別の放射能検査方式(全ロット検査、抜き取り検査など)を図2に示す。
放射能暫定限度を超えた輸入食品の内訳の年度ごとの推移を表2に示す。
これらの表からわかるように年の経過とともに暫定限度をこえる食品が減少してきたことから、検査対象品目の一部除外など検査体制が縮小された(1991年9月以降)。1992年以降は暫定限度を超えた輸入食品は3件(1994年、1998年および2001年)が検出されたのみである。
現在でも各検疫所で実施されている輸入食品の放射能検査の他に、環境放射能調査研究の一環としてヨーロッパ地域に限定しない諸外国からの各種輸入食品について放射能濃度レベルが調査されている。
5.暫定限度の再評価
暫定限度の施行から約1年後(1987年11月)に、検討会は現行の暫定限度を再評価した。その主な理由は、
暫定限度の施行から約1年後(1987年11月)に、検討会は現行の暫定限度を再評価した。その主な理由は、
(1)公衆に対する線量限度原則として1mSv/年(1985年のICRPパリ声明)の国内法令への取り入れが予定されていた(1988年)こと、
(2)1年以上の輸入食品の分析データから主な放射性核種の存在比が分かったこと、
(3)対象食品はヨーロッパ地域原産のものと限定してよいことなどである。再評価の結果、現行の暫定限度を継続すれば、公衆の被ばく線量はICRP(1985年)勧告値を十分下回ることから、暫定限度は十分安全を見込んだ妥当なものであるとの結論に達した。
6.食品中の天然放射性核種、特に40Kについて
われわれが日常食べている食品中には、いずれも天然および人工放射性核種が含まれている。わが国の食品中に含まれている放射性核種は、ほとんどが天然放射性核種であり、人工放射性核種の濃度は、極めて少ない。食品中に含まれている天然放射性核種の中で最も多いのは40Kである(表3参照)。
われわれが日常食べている食品中には、いずれも天然および人工放射性核種が含まれている。わが国の食品中に含まれている放射性核種は、ほとんどが天然放射性核種であり、人工放射性核種の濃度は、極めて少ない。食品中に含まれている天然放射性核種の中で最も多いのは40Kである(表3参照)。
自然界に存在するカリウムのうち大部分は放射線を出さない安定元素であるが、ほんの一部(約0.0117%)は天然放射性核種の40Kである。したがって、食品中のカリウムの濃度がわかれば、40Kの放射能濃度も計算できる。
表2には、いくつかの食品中のカリウム濃度から計算により求めた40Kの放射能濃度を示した。食品によってはかなりの40Kを含むものがある。しかし、通常レベルの天然放射性核種が含まれていても汚染されているとは言わない。