尖閣「購入」 石原構想で統治強化を 対中危機意識を共有したい
2012.4.19
東京都の石原慎太郎知事が米国で講演し、「東京都が尖閣諸島を購入する」との構想を明らかにした。すでに魚釣島、北小島、南小島を所有している地権者との交渉も進んでいるという。
日本固有の領土である尖閣諸島を守り、実効統治を強化していくための有効な提案だ。国を挙げて支持したい。
石原氏の発言は「中国が(尖閣を狙って)過激な行動に走り出した」「本当は国が買い上げたらいいが、外務省がびくびくしている」「日本人が日本の国土を守るために(都が)島を取得する」という趣旨の内容だ。
≪政府は国有化をめざせ≫
この発言には、尖閣周辺で領海侵犯などを繰り返す中国に対する危機意識と、日本政府の腰の引けた対中姿勢への憤りといらだちがうかがえる。米国で講演することにより、尖閣諸島の日本領有を世界に発信し、国際社会に訴える狙いもあったとみられる。
石原発言を受け、藤村修官房長官は「必要ならそういう(国有化)発想で前に進めることもある」との認識を示した。野田佳彦首相も18日の衆院予算委員会で「所有者の真意を改めてよく確認する中で、あらゆる検討をしたい」と述べ、国有化も選択肢とする考えを示唆した。
石原氏に刺激されたとはいえ、野田政権も前向きな対応を示したのは当然だ。
尖閣諸島は現在、魚釣島など4島を民間人が所有し、国が賃借料を払って借りている。民主党政権は尖閣周辺を含む39の離島に名前を付け、うち23を国有財産化するなどの措置を取ってきた。
しかし、尖閣周辺の離島を国有財産化の対象から除外するなど、いまだ十分とはいえない。これを機に、野田政権は尖閣諸島の国有化を真剣に検討すべきだ。
また、尖閣諸島を行政区域として管轄する沖縄県石垣市の中山義隆市長は石原発言を「好意的に受け止めている」と歓迎し、仲井真弘多沖縄県知事も「何となく安定する感じ」と語った。中山市長は「市との共同所有が望ましい」とも言っている。
東京都が石垣市などと共有するのも有効な方策である。国であれ、自治体であれ、尖閣諸島が公有化されることは、そこに日本の主権が及んでいることをより明確にする重要な意義がある。
石原氏が指摘するように、最近の中国船の尖閣諸島周辺での横暴な行動は座視できない深刻な事態だ。一昨年9月の中国漁船衝突事件後、中国の海洋調査・監視船などの日本領海侵入は相次いでいる。中国共産党機関紙「人民日報」も譲れない国家利益と位置付けており、中国が尖閣奪取を狙っていることは明白である。
野田政権や沖縄県など関係自治体は石原氏と対中危機意識を共有し、速やかに行動すべきだ。
≪漁業中継基地の設置を≫
尖閣諸島の実効統治をより確かなものにするためには、公有化に加え、有人化も急がれる。
尖閣周辺は漁業資源が豊富で、付近の海底にも石油や鉱物資源が眠っている可能性が大きい。漁業中継基地の設置や海底資源を調査する研究所設立などの知恵を絞ってほしい。公有化により、自衛隊の常駐も可能だ。
かつて、日本も尖閣の実効統治を強めようとした時期がある。中国漁船が大挙して尖閣近海の領海を侵犯した事件から1年後の昭和54年5月、当時の大平正芳内閣は魚釣島に仮ヘリポートを造り、動植物、地質、水質などを調べる調査団を派遣した。
しかし、中国がこれに強く抗議してきたため、調査団を予定より早く引き揚げさせた。その後、本格的なヘリポートや灯台、避難港などの建設計画が一部で浮上したが、中国への配慮から先送りされた。現在は、日本の政治団体が昭和63年に建てた灯台を海上保安庁が管理しているだけだ。
53年8月の日中平和友好条約調印の際も、問題の解決を次世代に委ねたいとする当時の中国の最高実力者、トウ小平副首相の意向もあって、日本の領有権は明確にされなかった。
中国との事なかれ主義外交を続けてきた歴代自民党政権の責任も大きい。日本の領土を国が守るために最善の策を講じることは、主権国家として当たり前のことだ。与野党とも、政治家はこのことを肝に銘じるべきだ。