ビル風
ビル風(ビルかぜ)とは、規模の大きな建物の周辺の狭い範囲で発生する風である。ビル風は建物の形状・配置や周辺の状況などにより、非常に複雑な風の流れとなる。一般にいわれる「ビル風」として、どのようなものがあるかを以下に整理する。
- 剥離流
- 風は建物に当たると、壁面に沿って流れていくが、建物の隅角部のところまでくると、それ以上壁面に沿って流れることができなくなり、建物から剥がれて流れ去っていく。この建物隅角部から剥がれた風はその周囲の風よりも速い流速をもつ。これが剥離流と呼ばれるものである。
- 吹き降ろし
- 風は建物に当たると、建物高さの60~70%付近(分岐点と呼ばれる)で上下、左右に分かれる。左右に分かれた風は、建物の背後に生じた低い圧力領域に吸い込まれるため、建物の側面を上方から下方に斜めに向かう速い流れとなる。これが吹き降ろしである。吹き降ろしの現象は建物が高層であるほど顕著であり、それだけ上空の速い風を地上に引きずり降ろすことになる。高層建物の足下付近では、吹き降ろしと剥離流が一緒になるため、非常に速い風が吹くことになる。
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- 逆流
- 分岐点より下方に向かう風は、壁面に沿って下降し(下降流)、地面に到達すると、一部分は小さな渦をつくりながら左右に流れ去っていくが、一部分は地面に沿って上空の風とは反対の方向に向かう。この流れは逆流と呼ばれる。特に、高層建物の前面に低層建物があるような場合は、ますます速い流れとなる。
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- 谷間風
- 計画建物に隣接して高層建物が存在していたり、計画建物が2棟以上の場合には、速い風が建物の間に生じることがある。これは、それぞれの建物からの剥離流、吹き降ろしが重ね合わさったために生じる現象で、谷間風と呼ばれる。
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- 開口部風
- ピロティー風とも。建物の下層部分にピロティーのような開口部が設けられていると、建物の風上側と風下側が1つに結ばれることになる。このため、この部分は風が吹き抜けやすくなり、迷い風が吹く。これを開口部風(ピロティー風)と呼ぶことがある。
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- 街路風
- 市街地では風は街路や路地に沿って吹こうとする。家並みや建物が規則正しく配置されていればいるほど、また、道路が広ければ広いほど風は街路に沿って吹き抜けやすくなる。このため、高層建物からの剥離流や吹き降ろしも街路に沿って吹くという現象が生じることがある。このような性質をもつ風は一般に、街路風や道路風などと呼ばれる。
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- 渦領域
- 建物の背後は風速が弱く、また風向がはっきりしない部分となる。この部分は大小様々な渦からなり、渦領域(ウェイク)と呼ばれる。
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- 吹き上げ
- 建物の風下隅角部付近で、紙くずなどがくるくる舞いながら上空へと飛散してゆく現象が見られることがある。これは吹き上げと呼ばれる気流現象により生じるものである。
関連項目
外部リンク
風害による不動産価格下落の判定
大阪高裁判決の画期的なことは、風害による精神的苦痛の慰謝料支払いにとどまらず、風害により不動産価格が下落したという住民側の主張について根拠を明示して下落額を算定し、下落分の損害賠償を認容したことである。
大阪高裁の判定内容はこうだ。控訴人(甲野、乙山)の不動産(居宅+敷地)は、平成14年6月に風害による転居のため売却(売却価額は表1②)されており、風環境の変化がなかったと想定した場合の不動産価額(表1①)と売却価額②の差額(表1③)が風害に起因する下落分と一応考えられる。しかしバブル崩壊後の土地価格の下落が続いていることを考慮すると、デフレによる下落部分も当該差額のなかに30%相当額含まれるので、当該差額の70%相当額が風害による下落額と判定した。
①平成14年6月時点 (風環境の変化がないと前提) | ②平成14年6月時点 (風環境の変化を織り込んだ価格) | ①-②=③ | ③×70% | |
甲野土地価格 | 17,460,000 | |||
甲野建物価格 | 1,986,050 | |||
計 | 19,446,050 | 11,466,500 | 7,979,550 | 5,600,000 |
乙山土地価格 | 16,310,000 | |||
乙山建物価格 | 2,242,350 | |||
計 | 18,552,350 | 10,710,000 | 7,842,350 | 5,500,000 |
控訴人側は、鑑定評価書を提出しており、風環境変化を織り込んだ平成14年6月時点の売却価格は、鑑定評価書の取引事例比較法による試算価格と一致している。
控訴人側の鑑定評価は、収益還元法も適用し、風環境変化を織り込んだ収益価格試算の前提として土地が居住環境に適しない風環境下にあるため、居住用建物の賃貸を想定せず、風環境に耐えられる駐車場設備を備えた駐車場を想定して収益還元している。
収益還元価格の規範性が高いとして、この試算価格に基づいて差額を算定をすべきと主張した。
これに対し大阪高裁は、風環境が悪化しているとしても、居住が不可能なので駐車場を最有効使用とする合理的根拠はないとして収益還元価格を採用していない。