風害が高層マンションによって起きたと証明するにはどうしたらいいのですか。
【質問】 私たちのマンションのすぐ近くに20階建てのマンションが建設されることが「お知らせ看板」で分かり、近所の人たちも大騒ぎとなりました。日照被害もありますが、私たちのマンションは風害の被害がすごいということを問題にしています。それはどうすれば分かるのでしょうか。
【答え】 まだお知らせ看板が出た時点ですから、すぐに建築主の方から近隣の人たちに説明会が開かれると思います。その説明会で日照について日影図などを示して説明があると思いますが、その時、風害について詳しく説明を要求することが大切です。
【質問】 風害が高層マンションによって起きたと証明するにはどうしたらいいのですか。
【答え】 風害については民法709条による不法行為に該当するかどうか、つまり受忍限度を超えるかが争われるものですが、不法行為の要件として、加害者側の故意・過失の証明が被害側から立証しなければならない法律構成となっています。したがって、起こった風害つまり被害が、高層マンションによってもたらされたものであることを建築主側に証明させるという協定書を、建築主から勝ちとることも大事なことでしょう。
立証を建築主側が行う協定書を作成しておいた住民側が、大阪地方裁判所、大阪高等裁判所で損害賠償請求を起こしたところ勝訴した事件があります。この事件は、20階建ての高層マンションの建設によって起された強風のため (1)住環境を侵害された精神的苦痛に対する慰謝料の請求 (2)風害による所有土地・建物の価格低下による損害賠償 ――を求めたものでした。
大阪地方裁判所、同高等裁判所は(1)の慰謝料は各戸につき60万円を認めたものの(2)については認めませんでした。
【質問】 裁判では、風害についての被害はあまり認められないのでしょうか。マンションの中の人たちは「裁判だ、裁判だ」と言っていますが。
【答え】 今まで風害については、実際には歩きづらいような強風が生じることが予想されても、建設禁止を求めた裁判や損害賠償を求めた裁判はなかなか勝訴できませんでした。 大阪の地方裁判所の判決文でも、「すべて権利の行使は、その態様ないし結果において、社会観念上妥当と認められる範囲内でのみこれを為すことを要するのであって、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによって生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において受忍するを相当とする限度を超えたと認められる時は、その権利の行使は社会観念上妥当な範囲を逸脱したものというべく、いわゆる権利の濫用(らんよう)にわたるものであって、違法性を帯び、不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない」とまず判断しました。
そして風力の被害については、次のように各学説を基準としました。 「(1)原告ら宅付近の風環境は、本件マンション建築前、村上基準によればランク2、風工学研究所基準によれば領域Bであったところ、本件マンション建築後、村上基準によればランク3を超えてランク4に、風工学研究所基準によれば領域Dに近接した領域C(ただし、これは累積頻度95パーセントの風速であって、累積頻度55パーセントの風速は領域Bである)になり、原告らが感じた風による被害を考慮すると、人が生活する上で障害のある風環境に変化したと推測されること」
しかし、(2)の不動産評価については「原告ら宅付近の風環境が悪化したことが認められるが、原告ら宅の不動産が無価値になったことを示す証拠は存在しない。この点、原告らは、風環境が悪化したことにより、居住できなくなったほか、売却することもできなくなった旨主張し、それに沿う供述も存する。しかしながら、土地については、駐車場としての使用、強固な建物による利用等、風環境が悪化したとしても、使用価値は十分に存在しているのであって無価値であると認めることはできない」と判断して棄却しました。
【質問】 建設の差し止めはできませんか。 【答え】
高層マンションが多くなってあちこちで裁判が起きています。建築予定建物の一部取り壊しを請求している事件も福岡市で1件起きています。また、防風壁の設置を求める裁判も愛知県で起きています。地方裁判所へ建築差し止めの仮処分申請等の方法がありますが、建設に着工する前のなるべく早い時点で建設禁止の仮処分の申請はするべきでしょう。建設が進むと裁判所は差し止めを求めることに、ちゅうちょしがちになると思われます。 |
2001年大阪地裁の一審判決では、
(ケンプラッツ)
「風害訴訟で勝つ」
その一つは、判決が右に述べたように風害訴訟で住民側の初の勝訴となったことのほか、風害によって不動産の価値が下落したことについて、「住宅周囲における風環境の悪化が継続する場合、建物のみならず、その敷地の価格が下落するのが自然というべきである」として、風環境の悪化がなかった場合の不動産の価格と、被害者らが売却したときの不動産の価格の差額の七割(風環境等の変化以外の価格下落要因が三割)を、風害による損害として認定したことである。
これまでは、同種の事件である日照権訴訟や眺望権訴訟において、慰藉料は認めるが請求しても不動産価格の下落を損害として認めない判決がほとんどであったと思われるが、この種の事例でこの点を突破しえたことは極めて意義があるものと思う。今後、この判決は十分に参考にできると思う。