リトアニア、原発に逆風 14日に総選挙 日立製を推進の与党下野か
【モスクワ=佐々木正明】東京電力福島第1原発の事故後、初めて日本のメーカーが関わる原発建設の是非を問う国民投票が14日、バルト三国のリトアニアで行われる。リトアニアは電力の6割以上をロシアの天然ガスに頼っており、現政権はロシアへの依存状態から脱却するため、原発新設の必要性を訴えている。国民投票の結果に拘束力はないが、同日行われる議会選挙では原発新設に慎重な野党が躍進する見通しで、計画に一定の影響を与える可能性がある。
建設予定地は北東部ビサギナス。リトアニアでは旧ソ連時代、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原発と同型の原発が稼働していたが、2004年の欧州連合(EU)加盟と同時に閉鎖が決まった。
しかし原発による「自国での電力確保」を目指す政府は今年3月、日立製作所と改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の契約を結び、6月には議会の承認を得た。
だが、与党第一党の「祖国同盟・キリスト教民主党」所属のクビリウス首相率いる連立内閣は08年のリーマン・ショック後の緊縮財政で国民の支持を減らしており、議会選をめぐる直近の世論調査で同党は野党・社会民主党に大きく引き離されている。
原発建設をめぐる世論調査でも費用対効果や安全性から反対派が多数を占めるとの結果が出ている。
一方、ロシアはリトアニアと隣接するロシア・カリーニングラード州とベラルーシで原発建設を進めている。クビリウス首相は、「これらの原発は国際的な安全基準を満たしていない。ロシアとベラルーシは欧州基準のストレステストも実施していない」と反発。リトニアの治安当局は、ロシアなどを念頭に「外国勢力の資金援助」で反原発キャンペーンが行われていると主張している。
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十四日のリトアニア議会選で得票率第一党となった野党、労働党のウスパスキフ党首は十六日付のロシア紙イズベスチヤとのインタビューで、議会選と同時に行われた国民投票で反対が約63%に達したビサギナス原発の建設計画を現時点では中止しない考えを示した。
労働党は次期組閣の中心となる見通し。日立製作所が事実上受注した同原発計画は当面、推進される可能性が高まった。
原発計画についてはグリバウスカイテ大統領も十五日、推進するよう促している。日本政府や日立の関係者は新政府に対し二〇二一年ごろ稼働予定の原発計画を予定通り進めるよう、ロビー活動などを強化する構えだ。
党首は「国民投票は国民の助言であって、命令ではない」と指摘。原発建設についての具体的情報がもっと明らかになれば「新原発が国にとって経済的にどれほどプラスになるかが分かるはずだ」と述べた。その上で、全ての情報を公開した後に、あらためて国民投票を実施し、建設の是非を最終的に決めるべきだとの考えを示した。労働党は過去に与党だった際、新原発計画を推進してきた経緯がある。
リトアニアは〇九年に旧ソ連型原発を閉鎖し、隣国ロシアへのエネルギー依存が急増。クビリウス首相の与党側はビサギナス原発の建設計画を進めてきたが議会選で低迷、政権が交代する見込み。