2011年(H23)11月8日に行われた、第一次訴訟(3世帯)・第2回「控訴審」に提出された準備書面を掲載します。
今回の準備書面内訳
[1]平成23年10月24日付け、附帯被控訴人(両備)より答弁書。
[2]平成23年10月24日付け、控訴人(両備)より第1準備書面。
[3]平成23年10月24日付け、控訴人(両備)より証拠説明書(2)。
[4]平成23年10月31日付け、附帯控訴人(住民)提出、準備書面。
[5]平成23年11月 4日付け、控訴人(両備)より第2準備書面。
[6]平成23年11月 7日付け、附帯控訴人(住民)提出、準備書面。
(両備)は、 控訴人 ・ 附帯被控訴人 ・ 被告 。
(住民)は、 被控訴人 ・ 附帯控訴人 ・ 原告 。
次に、[2]平成23年10月24日付け、控訴人(両備)より第1準備書面、です。
平成23年(ネ)第218号 損害賠償請求控訴事件
平成23年(ネ)第297号 損害賠償請求附帯控訴事件
控訴人(附帯被控訴人) 両備ホールディングス株式会社
被控訴人(附帯控訴人) 藤原 康 外2名
控訴人第1準備書面
平成23年10月24日
広島高等裁判所岡山支部第2部 御中
控訴人(附帯被控訴人)訴訟代理人弁護士 小澤英明
同 菊池捷男
同 渡邊典和
(本件連絡担当)
同 國友愛美
同 森 智幸
同 大山 亮
はじめに
控訴理由書では、原判決の判断の誤りについて主に主張したが、本書面では、控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)が認識していた旭油化の操業内容(第1)と旭油化撤退後の控訴人による土壌汚染浄化工事の内容(第2)を具体的に明らかにすることにより、控訴理由書32頁以下で主張した控訴人には特定有害物質の汚染等について予見可能性がなく、説明義務や調査義務を負わないこと(第3)を具体的に補充する。また、損害に関して被控訴人ら(附帯控訴人ら、以下「被控訴人ら」という。)に健康被害が生じていないこと(第4)を補充する。以下、詳述する。
第1 旭油化の操業内容と控訴人の認識
1 旭油化では、工業系の廃油ではなく、植物性油脂製造の際に発生する残さ等を原料としていたと認識されていたこと、および、控訴人は人体に影響がある特定有害物質が当該残さに含まれていると認識できなかったこと
旭油化で行われていた操業内容について、昭和58年3月付け公害等調整委員会事務局「公害苦情処理事例集(11)」(乙第26号証、以下「公害苦情処理事例集」という。)では、以下のように記載されている。
「A工業は、産業廃棄物処理業の免許を受け、県内外の植物油脂製造工場から排出される廃白土及び油滓、ダーク油等を分解釜で熱処理し、再生油の製造と石けん等の2次加工品の製造を行っている。」
「植物油脂製造工場から排出される廃白土、油滓、ダーク油」との記載のとおり、旭油化では、植物性の油脂製造工場から原料を仕入れており、いわゆる石油系の鉱物油は使用していなかったと考えられる。
公害苦情処理事例集が作成された昭和58年3月当時、日本農林規格(JAS規格)では、「植物油脂原油」を「え原油、あまに原油、きり原油、麻実原油、サフラワー原油、大豆原油、ひまわり原油、ニガー原油、とうもろこし原油、脱酸綿実原油、なたね原油、こめ原油、カポック原油、落花生原油、ひまし原油、つばき原油、パーム原油、パーム核原油及びやし原油」と定義づけており(乙第41号証)、「植物油脂」とは、具体的には、上記のような植物を原料とする油脂を指していると考えられる。上記のように、旭油化に対する公害等の調査が終了したと考えられる昭和58年時点で作成された公害苦情処理事例集に、あえて「植物油脂」と記載があることからみても、旭油化では、これら「植物油脂」の精製過程で生じる残さを原料として製品を製造していたことは明らかといえる。
一般に、植物油の精製過程は、油糧種子等に圧力等をかけて油分を搾り出す等して(圧搾)、採油する(乙第42号証)。搾り出した油には、リン脂質、遊離脂肪酸、色素等が含まれているので、これらを取り除く過程が必要となる。そこで、温湯や水蒸気等を加えてリン脂質を除去し(脱ガム)、脱ガム後、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を加えて、原油中に含まれている遊離脂肪酸、及び、脱ガム工程で完全に除去しきれなかったガム質等を除去する(脱酸)。この脱酸過程で、分離した物質を「油滓(または、ソープストック、アルカリフーツなどと呼ぶこともある)」(乙第42号証)、あるいは「ソーダ油滓」という(乙第43号証)。その後、脱酸後の油分を水洗し、活性白土等を加えて攪拌し、クロロフィル等の色素を吸着させ、ろ過をして白土を除去する(脱色)ことで植物油が精製される(乙第42号証)。この脱色の過程で使用された、使用済み活性白土が「廃白土」である。なお、「ダーク油」とは、「ソーダ油滓」を硫酸で分解したもので、褐色から黒褐色の高酸価油をいうとされる(乙第43号証)。
公害苦情処理事例集の記載では、旭油化が用いていた原料の具体例として、「廃白土」「油滓」「ダーク油」が挙げられているが、これらの記載は、実際の植物油の精製過程から生じる残さ等とぴったりと一致し、旭油化が植物油脂製造工場から排出される残さ等を用いて操業していたことを裏付けるものである。
当時の新聞でも、「食用油などつくる際に産業廃棄物として出る廃白土などを分解、精製して塗料の原料や燃料を生産して、販売している。」(甲第1号証の1)、「ソーダ油さいや廃白土から塗料やせっけんの原料となる脂肪酸を精製している」(甲第1号証の2)とあり、旭油化が、植物性油脂を原料として扱っていたことを示している。さらに、岡山県議会における質疑応答(乙44号証)でも、旭油化について「食用油の精製工程から出る含油汚泥や雑廃油を再生油に処理」しているとされ、旭油化は食用油の精製工程から出る残さ等を原料としていたという認識が一般的であったことを示している。すなわち、旭油化では、いわゆる工業用の石油系鉱物油等は扱っておらず、ナタネ油やダイズ油といった、食品等に用いられる植物油の製造過程において生じる、廃白土、油滓、ダーク油等を原料として持ち込んでいたと考えられ、少なくとも、県議会や行政機関、報道機関も含めて、そのように認識されていたのである。
すなわち、旭油化が製品の原料としていたのは、植物性油脂製造の際に排出される廃白土等と認識されていたのであって、工業系の「廃油」を原料としているとは考えられていなかった。油脂については、当時周辺への悪臭等で関心を寄せていた報道機関や法律に基づき立入り権限を有する行政機関ですら、旭油化の操業について、植物油脂系の廃油、廃白土等を原料とすると認識していたのであるから、当時は一般的にそのような認識であったし、これ以上の認識を控訴人がもちうるはずもない。また、控訴人には、立入り権限等もないのであるから、行政機関以上の情報を得る契機もなかった。
このように、行政機関も、一般的な認識としても、また控訴人も、旭油化では「食用油」等に用いられる「植物油」の精製過程で生じる残さ等を原料として用いているという認識であったから、ベンゼン、トリクロロエチレン、シスー1,2-ジクロロエチレンといった人体に影響するような有害物質が含まれていることなど予見できるはずがない(なお、原判決では、シアン化合物についても溶出量基準を超えて検出された等の記載があるが、これが誤りであることについては控訴理由書29頁を参照されたい。)原判決では、旭油化の工場内にあった廃白土や汚泥にベンゼンやトリクロロエチレンや油分が含まれていることは認識し得ると判断しているが(原判決23頁)、上記のように、控訴人は、旭油化は廃白土等を用いて旭油化が操業していることは認識し得たものの、当該廃白土等は「食用油」等に用いられる植物油の残さという認識しかなかった。したがって、工場内に堆積していた廃白土や汚泥に油分が付着しているとしてもその油分には食用油等が含まれているという認識であったにすぎない。したがって、食用油を製造するに際し人体に影響のある物質が大量に使われるなどとは到底思いもつかないことであるから、控訴人が工場内にあった廃白土あるいは汚泥に、これら特定有害物質が含まれているとは予想できなかったのも当然である。
なお、ベンゼンやトリクロロエチレン等は機械の洗浄剤に用いられていた可能性があり、現在見つかっているベンゼンやトリクロロエチレン等は旭油化が工場内の機械洗浄に用いた溶液を捨てた可能性があるが、控訴人にはこれらの溶剤の廃棄について認識可能性がなかったことについては後述のとおりである。
次回に続く。
2004年7月に岡山市水道局工事で発覚した小鳥が丘団地住宅地の土壌汚染公害問題は、発覚後7年以上経過し団地住民と宅地造成販売した両備バス㈱の考えが平行線のままで裁判に発展しています。2007年8月に住民3世帯(第1次訴訟)が岡山地方裁判所に民事提訴したあと、住民18世帯(第2次訴訟)も続いて提訴し係争中です。第1次訴訟(3世帯)の第一審判決は2011年5月31日に行われ、原告(住民)勝訴となり、知るかぎりでは土壌汚染裁判で被害住民が勝訴した「全国初」の判決となりましたが、被告(両備)が即刻控訴しました。原告(住民)も附帯控訴を提起し、引き続き第二審(広島高等裁判所・岡山支部)で争われます。
戸建住宅団地の敷地足下から真黒い土壌発覚!