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[転載]『環境と正義』2011,10/11月号!小鳥が丘土壌汚染訴訟について

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日本環境法律家連盟JELF機関誌・『環境と正義』の2011年10/11月合併号に、「小鳥が丘土壌汚染訴訟について」が、掲載されました。
第一次訴訟・原告(3世帯住民)代理人として、この事件を手掛けた河田英正弁護士が、第一審判決(勝訴)までの経過を、弁護士の目を通して、法律家向けに寄稿した記事です。
この原稿を掲載します。
 
 
小鳥が丘土壌汚染訴訟について
    ~暴かれた団地の土壌汚染の実態
 
弁護士 河田 英正(岡山弁護士会)
 
1,宅地造成開発業者に不法行為責任が認められる
平成19831日に宅地開発業者両備ホールディングス株式会社を相手に、小鳥が丘団地に居住していた3人が、開発業者の不法行為による宅地の土壌汚染を原因として合計約23000万円の損害賠償請求訴訟を岡山地方裁判所に提起していた。この訴訟の判決が平成23531日になされ、原告らの住宅取得費用(宅地の購入代金、住宅の建築費用)の半額を損害と認めて合計約5000万円の請求を認める原告勝訴の判決であった。
 
2,事件の経過
小鳥が丘団地は昭和62年ごろに宅地造成・販売された。原告らは平成2年頃から5年にかけてこの団地を購入して家を建て、もしくは被告の仲介で宅地・建物を購入して小鳥が丘団地に居住していた者である。
平成16729日にこの団地に敷設されていた鉛の水道管をポリエチレン管に交換するために岡山市が路面の掘削工事を始めたところ、油分を大量に含んだ悪臭を放つ黒い油泥のなかに水道管が埋められていることが発覚した。それまでは、団地内で石油くさい油の臭いがすることを指摘する人がいたが、あまり問題とされていなかった。長年、埋められていた「土壌汚染」が水道管の交換作業で突如、露わになったのである。
造成当時、水道管に鉛管が使用されていたのは、この造成地には元廃油処理工場が操業していたので、その廃油工場から排出された油分による化学反応の危険があるために、造成にあたって当時は使用されなくなっていた鉛管の使用があえてなされていたとのことであった。
 
3,訴訟の提起
この団地には油分を含んだ土壌が広く覆っている状況が明らかとなり、悪臭は不快感で住宅地としてはふさわしくなく、廃白土、ベンゼン、トリクロロエチレンなどの成分によって健康を害する危険があり、原告らはもはやこの地に住み続けることはできないと考えるようになった。
しかし、すぐに他に移転できるほどの経済的余裕があるわけでなく、また被告は油分が揮発しにくくする路面の改良工事を住民によって行うよう提言するだけでなんら責任をとろうとしないので、本件訴訟を提起することとした。
購入してから既に20年を経過しようとする事案であり、また被告の仲介で購入した原告もいて、瑕疵担保責任を問うにはあまりにも法的障害が大きいと考え、不法行為構成をとった。これについても造成がなされて既に20年を経過しようとしている時期であり、かつ土壌汚染が発覚して、その原因が前述の水道管取り替え工事後に明らかになったときから3年の経過を目前に控えていたため、被告への責任追及について賛同の得られた3人(3家族)のみで訴訟を提起した。
 
4,開発業者の過失
原告の不法行為の過失のとらえ方は、違法操業を繰り返していた廃油処理工場の跡地など宅地造成すべきでなかった、宅地造成するのであれば、汚染の実態を十分に調査して汚染物質を完全に取り除いて造成すべきであった、少なくともこのような問題を起こしていた廃油工場の跡地を造成し、完全に汚染物質が除去された状況ではないことの認識が被告にあったのであるから、こうした事実関係については購入者にあらかじめ説明すべき事由であり、これらの説明がなされていれば原告らは決して購入することはなかったなどと過失の内容をまとめた。
これに対して被告は、臭いはやがて消える、原告の主張する汚染物質は当時、土壌に含まれていることについては規制されていなかったし、土壌汚染対策法などの立法はなく、これらの汚染物質が存在しているとしても過失を問われるべきではないという主張であった。
判決は、被告が本件分譲地中に廃白土、ベンゼン、トリクロロエチレン及び油分が存在する可能性があることを認識していて、居住者の安全性が害されることについては認識していたといえ、「被告としては、安全性、快適性に関するより詳細な情報を収集すべく調査をした上で、その調査内容を説明するか、このような調査をしない場合には、少なくとも認識していた各事情の外、同地中に廃白土、ベンゼン、トリクロロエチレン及び油分が存在する可能性があり、これらは居住者の安全性を害し得るものであり、また生活に不快感・違和感を生じさせ得るものであることについて説明すべき義務があったというべきである」としこの説明義務を果たさなかった不法行為を認めた。
 
5,原告らの損害
原告らは、他に住居を求めざるを得ない状況に追い込まれたことから、現に居住している住宅と同レベルの住宅の取得費用が損害といえるとして、本件購入金額をその損害とした。因果関係を立証することまでには至らなかったが、原告らは皮膚炎(アレルギー)、副鼻腔炎などの症状で長期にわたって病院通いをしたりしていて、悪臭などの日常的な不快感など諸事情を総括的に捉えて1ヶ月あたり10万円の慰謝料の請求を一定期間の計算で付け加えていた。判決ではいっさいの事情を考慮して損害額を本件各住宅の取得費用の半額のみを損害として認めた。
 
6,判決の意義
宅地造成地の土壌汚染に関して購入者が、宅地造成をした者に対して個人として損害賠償請求をして、これが認められた数少ない判決のひとつであると言える。油汚染が隠れたる瑕疵と評価できるか否か、瑕疵担保責任の法的構成が可能な取引か、時効は問題ないかなど法的な論点が多かった事案だけに先例もなかなかない。本件事案はこれらの問題をクリアしなければならない事案であり、不法行為構成をしたが、この点についてはこの選択でよかったと思っている。
不法行為については注意義務の構成が被告の反論で指摘するとおり困難な事案であったかもしれないが、被告が本件廃油工場跡地を取得するに至った経緯などの前提となる諸事情を裁判所が評価したうえで、被告に説明義務を認めたのではないかと思っている。
この廃油工場に隣接する場所に被告は別の団地を既に分譲していた。廃油処理工場が違法な操業を繰り返し、悪臭をふりまき、近くの水路に汚水を流していたことは当然にこの団地の住民を悩ませ、被告会社に苦情が持ち込まれていた。行政がいくら指導しても是正されないなか、被告会社がこの廃油工場の操業とめさせ、これらの土地を買収して跡地を造成することを決断した。つまり、油泥が工場敷地内のあちこちに放置され、何度も行政指導を受け続けていた違法操業のすさまじい公害企業の実態についてはあらかじめ被告に明確に認識があったことである。
その証拠に、小鳥が丘団地の水道管はポリエチレン管ではなく既に一般では使用されていなかった亜鉛管をあえて使用していたのである。宅地造成するにあたっては土壌汚染対策法がなくても、汚染の実態については十分に調査したうえで、廃白土などの産業廃棄物が確認されれば完全に除去して、油分に含まれていることが疑われた発がん物質であるトリクロロエチレン、ベンゼンあるいはシアン化合物などの含有の有無、程度の実態把握を行い、宅地として安心して生活できる状態にしなければならない義務が宅地造成の業者側にあるのは当然である。
しかし、前述のとおり、判決は造成地としての企画の段階、宅地造成についての注意義務違反については認めなかったものの、販売もしくは仲介の際の説明義務違反として認めた。直接に原告ら購入者に被告が接する機会は、購入もしくは仲介を受けたときであり、その際の説明義務違反を不法行為として捉えたのは被告の直近の行為の違法性を判断したものであって、その判断の手法には特別の誤りがあったとは言えない。
本件の事案に即して、安全性、快適性に関するより詳細な情報を収集すべく調査をした上で、その調査内容を説明すべきことをまず一義的にとらえ、これらの調査がなされていないのであれば、当時被告が認識していた懸念されるべき事情について説明すべきであるとした。判決は、開発業者の事前の調査義務を実質的に認めているのである。開発業者の開発、造成の責任を認定しているのであって、その意味で意義のある判決であると評価している。
なお、小鳥が丘団地をめぐっては、後に訴訟を提起した別のグループの事件が同じ裁判所係属している。
 
被告会社は、判決の翌日に直ちに控訴した。そして、控訴審は代理人を拡大して徹底的に争う方針とのことである。当方は、損害額の認定額が少なすぎるとして附帯控訴の予定である。控訴審の初回期日は平成23922日である。
 
以上
 
 
2004年7月に岡山市水道局工事で発覚した小鳥が丘団地住宅地の土壌汚染公害問題は、発覚後7年以上経過し団地住民と宅地造成販売した両備バス㈱の考えが平行線のままで裁判に発展しています。2007年8月に住民3世帯(第1次訴訟)が岡山地方裁判所に民事提訴したあと、住民18世帯(第2次訴訟)も続いて提訴し係争中です。第1次訴訟(3世帯)の第一審判決は2011年5月31日に行われ、原告(住民)勝訴となり、知るかぎりでは土壌汚染裁判で被害住民が勝訴した「全国初」の判決となりましたが、被告(両備)が即刻控訴しました。原告(住民)も附帯控訴を提起し、引き続き第二審(広島高等裁判所・岡山支部)で争われます。
 
 
戸建住宅団地の敷地足下から真黒い土壌発覚!

転載元: 小鳥が丘団地救済協議会(土壌汚染被害)


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