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[転載] 現代の戦争

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      田中良紹の「国会探検」

   現代の戦争

 ジェームズ・リカーズ著『通貨戦争』(朝日新聞出版)に興味深い記述があった。2010年9月7日、尖閣諸島沖で中国の漁船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突し、漁船の船長が逮捕された時、中国政府は船長の釈放と日本の謝罪を要求してレアアースの対日輸出を全面停止した。これに対し日本政府は9月15日に外国為替市場で日本円の価値を突然下落させて反撃したというのである。
 
 
 『通貨戦争』によれば円は人民元に対して3日間で約3パーセント下げ、日本政府がこの円安政策をとり続けていけば、中国の対日輸出は、インドネシアやベトナムなどに比べて不利になった。それから数週間で船長は釈放され、日本は形式的な謝罪を行い、円は上昇し始め、レアアースの輸出は再開された。
 
 
 「中国は輸出禁止によって日本を攻撃し、日本は通貨安政策で反撃したのである」。「深刻な事態への発展は避けられたが、両国は教訓を学び取り、次の戦いに備えてナイフを研ぐことになった」と同書は書いている。
 2010年9月15日の政府・日銀による6年半ぶりの「円売りドル買い」は、一般には1ドル82円台にまで上昇した円高を是正するために行われたと見られている。その直前に行われた小沢一郎氏と菅直人総理による民主党代表選挙で、小沢氏は菅総理の円高対応を批判し、自分なら為替介入に踏み切ると主張していた。
 
 
 そのため市場は「小沢氏が勝てば円安、菅氏が勝てば円高」と見ており、14日午後の代表戦で菅氏が勝利すると一気に円高が進み、円は15年4か月ぶりに82円台に突入したのである。そのために政府は為替介入に踏み切ったと見られていたが、ウォールストリートで長らく金融の仕事をし、ペンタゴンが主導する金融戦争シミュレーションにも参加したリカーズ氏はこれを日中経済戦争と捉えていた。
 
 
 リカーズ氏が言うように、2010年の尖閣を巡る衝突で「輸出禁止」と「通貨安政策」という武器を使い合った日中両国が、そこから「教訓を学び取り」、「ナイフを研いで」きたとするならば、今回の尖閣国有化を巡る衝突では何を武器にどのような戦いを繰り広げているのかよく目を凝らして見なければならないと思う。
 
 
 日米同盟に頼る事が中国との戦いに勝つ道だなどと主張する「他力本願」の生き方では冷戦後の世界を生き抜くことはできない。「他力本願」を主張する人たちはアメリカの軍事力に頼る事を戦争と考えているのだろうが、今や戦いは軍事力だけを意味しない。経済力、外交力、そして国民の意志こそが戦いの力なのである。
 
 
 ところで『通貨戦争』には2009年にジョンズ・ホプキンス大学のAPL(応用物理研究所)で行われた金融戦争シミュレーションの模様が描かれている。このAPLは日本軍による真珠湾攻撃の翌年に設立され、戦争に勝つための新兵器の開発に一貫して取り組んできた研究所である。そこでは金融兵器を使った模擬戦争も行われていた。
 
 
 2009年にはロシア組、アメリカ組、中国組などに分かれたチームが、インサイダー情報、相場操縦、仮装売買などあらゆる手段を使って、相手の通貨を叩き潰すために戦った。この時のシミュレーションではアメリカのドルが世界通貨の座を失いそうになった。
 
 
 私が現代の戦争は一発の弾丸も兵器も必要としないと思ったのは、1997年に起きたアジア通貨危機の時である。アメリカのヘッジファンドがタイのバーツに空売りを仕掛けたが、タイ中央銀行はこれを買い支えることが出来ず、バーツは暴落してそれまで好調だったタイ経済が破たんし内閣は総辞職に追い込まれた。
 
 
 それはインドネシアや韓国にも波及した。インドネシアでは急激なインフレが起き、食料品価格の上昇が暴動を招き、それが反政府運動につながり、32年間も独裁体制を敷いてきたスハルト大統領があっけなく失脚した。経済好調だった韓国も金融機関が巨額の不良債権を抱えて経済状態が悪化し、対外債務を払えないデフォルト寸前にまで追い込まれた。このため韓国はIMF(国際通貨基金)の管理下に入り、IMFの手で国家構造が変えられた。
 
 
 まさに一発の弾丸も飛ばずに国家体制が倒れていく様をこの時に見せつけられた。冷戦が終わって世界はグローバル化と情報化の時代を迎えたが、そうした時代の戦争とはこれではないかと私は思ったのである。
 
 
 同じような事はオウム真理教による地下鉄サリン事件の時にも思わされた。日本ではカルト教団内部の人間関係や教祖の人格などに報道の焦点が当てられたが、アメリカはこれを安全保障上の危機と捉えた。生物化学兵器を使用して小集団が国家転覆を図ろうとした事件と見たのである。
 
 
 アメリカ議会はオウムが支部を置いた各国に調査員を派遣して調査させ、またCIA、FBIを議会に招致して、ニューヨークにあった支部の捜査状況を報告させるなどまる2日をかけてオウム事件の公聴会を開いた。その結果、アメリカにはCBIRF(シーバーフ)と呼ばれる化学兵器、生物兵器、核兵器、放射能兵器に対処する即応部隊が出来た。
 
 
 3・11の福島原発事故で日本が放射能汚染にさらされた時、アメリカからこのCBIRF150名が日本に派遣されてきた。どんな活動をしたのかあまり報道されなかったが、私にはむしろ日本の自衛隊にそのような専門部隊がないことが驚きだった。原子炉建屋が爆発した時に出動したのは海水を散布するための自衛隊のヘリや、東京消防庁の消防車ばかりで、原発がテロに遭い破壊されたことを想定する専門部隊はなかったのである。
 
 
 北朝鮮の脅威を言って巨額の費用を投じ、イージス艦やMD(ミサイル防衛)をアメリカから買わされているが、現実の脅威は原発を破壊するテロや、小型スーツケースに入れた原爆によって放射能をまき散らすテロの方が、ミサイル攻撃より可能性は高いのである。あらぬ方向ばかりを向いて身を守った積りでいるのは現代の戦争に対応する感覚が麻痺しているとしか思えない。

転載元: 天地の超常現象


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