米新国防戦略 日本は率先して協力せよ
オバマ米大統領が発表した新国防戦略は、国防費の大幅削減を強いられる中で、昨年秋から本格化した「アジア太平洋シフト」外交を軍事面で担保する内容といえる。
同時公表された新国防戦略指針には、2020年に向けて中国の軍事的台頭に正面から対抗する姿勢が明示された。日米安保体制により地域の安定を図る日本にとっても意義は大きい。
ただ、新戦略に肉付けをするには「同盟・協力国との連携が決定的に重要」(同指針)だ。野田佳彦首相は日本の安全のためにも同盟の重責を認識し、在日米軍再編の速やかな履行などに全力を投じて応えていく必要がある。
昨年夏の国債格下げ以降、米国は今後10年間で5千億ドル(約38兆円)近い国防費削減を迫られ、冷戦後の基本戦略だった「二正面作戦」を実質的に放棄する。陸軍、海兵隊も徐々に縮小される。
そうした苦境の中で、オバマ氏が昨秋の豪州訪問で「アジア太平洋は削減の犠牲にしない」とした公約を貫く姿勢を評価したい。
新戦略指針は「アジア太平洋~インド洋に至る弧は米国の国益と不可分」と位置づけた。中東やイランにも目配りしつつ、「中国の台頭は米国の経済・安全保障に潜在的影響を及ぼす」と名指しで新戦略の最重要ポイントとしているのは当然といえよう。
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米新国防戦略 「アジア重視」に日本も呼応を(1月7日付・読売社説)
オバマ米大統領が、国防予算の削減に伴う新国防戦略を発表した。
地上戦力の全体的な規模は縮小する一方、米国が重視するアジア太平洋地域では、今後、部隊展開を強化する方針を打ち出した。その通り実行されるのかを注視したい。
オバマ大統領は、「米軍はスリムになっても、あらゆる有事や脅威に機敏で柔軟に対応できる軍事的優位性は維持する」と述べ、今後一層の効率化やハイテク化を進めていく考えを表明した。
米国の深刻な財政事情を考えれれば、妥当な戦略である。
昨年夏、米議会が債務上限引き上げとセットで法制化した財政赤字削減策の一環で、国防予算を今後10年間に5000億ドル(約38兆円)近く減らさねばならない。
予算の制約の中で、様々な脅威に対応するため、優先順位を決めて、それに応じた部隊縮小や装備を選択するのは当然だ。
新戦略は、冷戦後の米国防政策の基本となってきた「二正面戦略」を基本的に見直し、同時発生した二つの地域紛争に勝つための大量の戦力維持を前提とせず、大規模紛争への対処は1か所に集中する方向性を改めて示した。
新戦略が重点を置くのは、テロや非正規戦、大量破壊兵器拡散など、新たな脅威への対処だ。
注目されるのは、中国とイランを名指しして、弾道ミサイルや巡航ミサイル、サイバー攻撃など、米軍の前方展開を阻止する「接近拒否」能力を向上させるだろう、と強い警戒を表明したことだ。
米国は、その対抗策として、空と海の兵力の一体運用を通して長距離攻撃を行う「統合海空戦闘」(ジョイント・エア・シー・バトル)構想を、今後、具体化していくものと見られる。
米国の新国防戦略は、同盟国がより大きな役割を果たすことを期待している。日本も、この新戦略を前向きに受け止め、「動的防衛力」の強化など今後の防衛政策に反映させていく必要がある。
日本の防衛予算は来年度で10年連続の減少となり、自衛隊の訓練や装備の修繕などに 歪 ( ひず ) みを生んでいる。厳しい安全保障環境を踏まえれば、予算削減に歯止めをかけ、反転させることが急務だ。
自衛隊と米軍の防衛協力を拡充することも重要である。
昨年10月のパネッタ米国防長官の来日時には、日米共同の警戒監視活動や共同訓練、基地の共同使用を拡大することで合意した。日米同盟の抑止力を維持・強化するため着実に実施に移したい。
(2012年1月7日01時32分 読売新聞)
毎日新聞社説:米国防新戦略 アジア安定のために
国防費削減に対応すべく米オバマ政権が新たな戦略を打ち出した。アジア太平洋地域で軍事的な存在感を強める一方、伝統的な「二正面作戦」は正式に放棄するという。財政難に対処しつつ、中国の膨張路線にも何とか歯止めをかけたいオバマ政権の苦しみが伝わってくるが、まずは現実的な対応として評価したい。
二つの紛争に同時に対処する「二正面作戦」はオバマ政権になる前から見直しの動きが出ていた。米国防総省が一昨年、「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)を公表した際、当時のゲーツ国防長官は「二正面作戦」を時代遅れと断じている。
新国防戦略の中でも、「第二の地域」で敵を抑止する考えが示されたが、実質的には「二正面作戦」の放棄である。特に中国やイランへの対応が新戦略の焦点になったのは時代の流れだろう。ただ、作戦変更によって紛争への備えが手薄にならぬよう要望しておきたい。
今回、国防総省に出向いて演説したオバマ大統領は、01年の同時テロから続いた国防費の増大を「異常なペース」と形容し、今後10年の国防費の伸びは緩やかになるだろうと語った。米国の国防費は今後10年で約4900億ドルも削減される。無い袖は振れないから、地上戦力を中心に米軍の規模を縮小し、アジア太平洋地域に重点を置こうというのだ。
昨年11月、オバマ大統領はオーストラリア北部に最大2500人規模の海兵隊を駐留させることで豪側と合意し、アジア太平洋地域を米国の安全保障政策の最優先に位置付けると表明した。空母建造やミサイル増強を続ける中国に対し、海軍と空軍の連携戦闘構想も打ち出した。無人機や巡航ミサイルなどを動員し、遠方から中国軍をたたく戦略だ。
米国が中国のサイバー攻撃を警戒していることも含めて、米中対立の構図は強まっている。イラクから軍を撤退させ、アフガニスタンでの戦闘にも早く幕を引きたい米国が、経済的にも大事なアジア太平洋地域に重点を移すのは、特に不思議ではない。かといって米ソの冷戦を思わせるような米中対立に至っては困る。米軍の存在によって中国などが近隣諸国と協調し、朝鮮半島情勢にも好影響が及ぶよう期待したい。
だが、オバマ大統領が言うように、米国はイラクやアフガンで得点を挙げ「祖国の防衛に成功した」のかどうか。自分が米軍の最高司令官である限り、過去の過ちは繰り返さないという大統領の決意は歓迎したいが、米国には保守層を中心に米軍縮小を危ぶむ声も強い。オバマ大統領は、新戦略を再選に向けた人気取りに終わらせず、世界にとっても意義深い転換点にしてほしい。
毎日新聞 2012年1月7日