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グリーン経済の拡大に向けて

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グリーン経済の拡大に向けて
 1987年(昭和62年)に提唱された「持続可能な開発」は、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」を意味しているとされています。こうした持続可能性を実現するための新たな経済のあり方として、グリーン経済という概念が登場しています。2012年(平成24年)にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」では、「持続可能な発展及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済」が主要議題の1つとなりました。本項では、グリーン経済の考え方を整理するとともに、持続可能な経済社会システムへの転換に向けた国内外の取組を紹介します。
(1)新たな経済のあり方を求めて
ア グリーン経済とは何か
 2011年(平成23年)の国連環境計画(UNEP)の「グリーン経済報告書」では、グリーン経済を「環境問題に伴うリスクと生態系の損失を軽減しながら人間の生活の質を改善し社会の不平等を解消するための経済のあり方」であると定義しています。グリーン経済は、環境の質を向上して人々が健康で文化的な生活を送れるようにするとともに、経済成長を達成し、環境や社会問題に対処するための投資を促進することを目指しています。また、気候変動、資源の枯渇、生物多様性の損失等の問題に直面している世界情勢の中で、国家間・世代間での貧富の格差をも是正し、持続可能な開発を実現することにも焦点が当てられています。
 グリーン経済では、社会全体の富を考える際に、物質的な富と人的資本に加えて、生態系などの自然資本が考慮されます。また、グリーン経済を実現するには、環境分野への投資促進や、自然資本の評価、消費者の選択をより環境に配慮したものにするための仕組みづくり等が必要です。世界全体で、年GDPの2%(2010年(平成22年)時点で1.3兆ドル)を2050年(平成62年)までの間、農業、漁業、林業、製造業、運輸業、建設業、エネルギー業、観光業等に投資することによって、低炭素で資源効率の高いグリーン経済へと移行することができると提言しています(図2-2-12)。

図2-2-12 環境対策に年GDPの2%を投資した場合の世界全体のGDP成長率の予測

 自然資本を評価する取組としては、UNEPやドイツ銀行等による「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」の報告書が2010年(平成22年)に発表されています。TEEBは、食料や水の供給、気候調整や水質浄化などの自然の恩恵(生態系サービス)を経済的に評価し、自然の価値が認識されて人々の意思決定に反映されていくことを目指しています。個別の生態系サービスについて、その経済的な価値を評価することにより、生物多様性を保全した場合に享受する利益と生物多様性が損失した場合の経済的な損失を算出する試みを行っています。

表2-2-1 自然資本

OECDの「グリーン成長」
 グリーン経済に近い概念として、経済協力開発機構(OECD)の「グリーン成長(Green Growth)」があります。グリーン成長は、経済成長と環境保護の相乗効果により、経済を再構築しつつ、資源節約だけでなく、自然資本の持続可能な管理への投資を成長の原動力にするということに焦点を当てています。
イ リオ+20を中心とするグリーン経済を巡る最近の動向
 グリーン経済は、2012年(平成24年)6月に開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」でも、2つのテーマのうちの1つとして取りあげられました。

写真2-2-2 リオ+20

 同会議は、2012年(平成24年)6月20日から22日までブラジルのリオデジャネイロで開催され、国連加盟188か国及び3オブザーバー(EU、パレスチナ、バチカン)から97名の首脳及び多数の閣僚級(政府代表としての閣僚は78名)が参加したほか、各国政府関係者、国会議員、地方自治体、国際機関、企業等から約3万人が参加しました。同会議の成果文書「我々の求める未来」は、首脳及び閣僚級による3日間の議論を経て6月22日の夜に採択されました。同文書の主な内容は、[1]グリーン経済は持続可能な開発を達成する上で重要なツールであり、それを追求する国による共通の取組として認識すること、[2]持続可能な開発に関するハイレベル・フォーラムを創設すること、[3]都市や防災をはじめとする26の分野における取組についての合意、[4]持続可能な開発目標(SDGs)について政府間交渉のプロセスを立ち上げること、[5]持続可能な開発に関する資金調達戦略に関する報告書を2014年(平成26年)までに作成すること、などです。
 同会議で我が国は、[1]「環境未来都市」の世界への普及、[2]世界のグリーン経済移行への貢献、[3]災害に強い強靱な社会づくりの3つを柱とした「緑の未来イニシアティブ」を表明しました。同イニシアティブの下、7月には「世界防災会議in東北」を東北3県(岩手県、宮城県、福島県)で開催したほか、12月にはグリーン経済移行に向けた人材育成を後押しするための「緑の未来協力隊」を立ち上げました。また、リオ+20において我が国の優れた環境技術や省エネ技術、自然資本の持続的利用による農林漁業などの恵みを発信すること等を目的に、政府・民間企業等が協力して展示やセミナーを開催しました(6月13日から24日までに、延べ18,127名が来場)。
(2)グリーン経済の構築につながる国際的な取組~投資家向け情報開示を例に~
 環境分野への投資を促進するためには、投資家等が投資判断の参考にする企業情報の開示促進に取り組むことが有効です。現在、フランス、英国等のヨーロッパ諸国では国内法が整備され、企業の年次報告書への環境的・社会的側面の情報開示を義務付けています。また、米国、南アフリカ等でも、上場企業において、投資家保護等のために必要な環境に関する情報の開示が求められる傾向が強まっています。こうした情報開示の進展によって、機関投資家等が、社会的責任投資(SRI)を行う際にこれを参考にすることで、環境関連ビジネスの市場が拡大することにつながると期待されます。
 特に温暖化分野では、2000年(平成12年)にカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)が設立され、世界の機関投資家を代表して企業の気候変動に関する情報開示を要請し、企業や政府の低炭素化の取組を促進する活動を行っています。この活動に署名参加する機関投資家の数とその保有する資産規模は、2002年(平成14年)当時の35機関4.5兆ドルから、2012年(平成24年)には655機関78兆ドルに拡大しています。

図2-2-13 署名参加する機関投資家数と総資産額(左)、機関投資家の内訳(右)

 同プロジェクトは、アンケートにより、低炭素社会の到来に対する企業の対応(リスクへの備え、事業機会としての活用など)を問い、企業を情報開示と実績の2つの視点から点数付けしています。「投資家の立場から評価する企業の低炭素化への取組評価(Investor CDP)」は2002年(平成14年)より開始し、2012年(平成24年)時点では全世界で2418社(日本企業は233社)が回答しています。2012年(平成24年)のGlobal 500(世界の時価総額上位500企業)の中で、日本企業は40社が対象となり、このうち35社が回答しています。現在、新たな温室効果ガスの排出量算定・表示・報告手法として「スコープ3」という企業のサプライチェーンにおける排出を含める概念が導入されつつあります。この開示手法は、例えば企業が、購入物品や加工、販売製品の使用段階など、自社事業の活動だけでなく、サプライチェーンの排出量を開示することを求めており、そのルールづくりは国際的に活発に議論されている仕組みとなっています。

表2-2-2 Global 500上位30社のCDPスコア

図2-2-14 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出の分類

(3)グリーン経済の構築に向けた我が国の取組
 我が国の環境産業の市場規模及び雇用規模は、継続して拡大基調にあります。環境省が実施している「環境経済観測調査」(平成24年12月調査)でも、我が国における環境ビジネスの今後の発展を見込んでいる企業が引き続き大勢を占めました。環境分野への投資をさらに促進し、個人や事業者の環境配慮行動を浸透させるため、我が国でも経済のグリーン化を目指した取組が行われています。
ア 環境に配慮した金融
 事業者の経済活動は現預金等の資金を媒介して行われており、資金の流れが事業活動を通じて社会の仕組みに与える影響は大きいといえます。そのため、社会の仕組みを持続可能なものに変えていくには、資金の流れを持続可能な社会に適合したものへと変えていくことが重要であり、環境金融により、国内外の資金を企業の環境対策や環境ビジネスの促進に活用していくことが有効です。
(ア)持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則
 我が国では、平成22年に中央環境審議会「環境と金融に関する専門委員会」において報告書「環境と金融のあり方について~低炭素社会に向けた金融の新たな役割~」を取りまとめており、環境金融を拡大していく仕組みとして、日本版の環境金融行動原則の策定等を提言しました。これを受け、平成23年に銀行、証券、保険等の金融機関によって、「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」が取りまとめられました(表2-2-3)。この原則は、持続可能な社会の形成のために必要な責任と役割を果たしたいと考える金融機関の行動指針として7つの行動原則を示したものであり、署名した金融機関に対し、自らの業務内容を踏まえ、可能な限り本原則に基づく取組を実践するよう求めています。平成25年4月現在、国内187の金融機関が署名を行っています。

表2-2-3 持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)

(イ)低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ
 環境省では、金融メカニズムを活用して低炭素社会を実現するための新たな取組として、「低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ」を進めていくこととしています。このイニシアティブは、金融メカニズムを活用して民間資金を呼び込みつつ、[1]建築物の低炭素リニューアル、[2]低炭素まちづくり、[3]二国間オフセット・クレジット制度、[4]低炭素技術の対策強化・市場化・研究開発の4つを重点分野として、投資の促進、市場の創出を図ることで低炭素社会を創出しようという取組です。また、この取組により、低炭素社会の創出だけでなく、経済の再生と地域活性化も同時に達成することを目指しています。

図2-2-15 低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ

NPOバンク
 市民が主体となった金融の新しい取組として、「NPOバンク」というものがあります。NPOバンクは、市民が自発的に出資した資金により、環境保全や福祉、地域社会のための活動など社会性のある事業を行うNPOや、生活に困難を抱える市民などに融資することを目的として設立された非営利の金融機関のことで、「金融NPO」「市民金融」などとも呼ばれます。NPOバンクでは、趣旨に賛同する市民やNPOが組合員となり、組合員からの出資金を元手に融資を行っています。出資者にとっては、環境保全など目に見える形で出資金が運用されることが魅力となっています。

NPOバンク連絡会

 NPOバンクの融資審査は、税理士などの専門家だけでなく、NPO活動家や地域住民なども交えて行う事例もあり、財務面のみならず事業の社会性など多様な観点から行われています。また、融資後も融資先の情報をWEB上でPRするなど、単なる融資にとどまらず、融資事業の運営サポートに繋がるような活動も行い、融資先と顔の見える関係を築こうとしている特徴があります。
 平成17年からは、全国のNPOバンクの連絡組織である「全国NPOバンク連絡会」が活動を始め、NPOバンク事業のさらなる発展に向けた組織間の連携も進められています。
堺市における環境配慮型金融の取組~SAKAIエコ・ファイナンスサポーターズ倶楽部~
 国の環境モデル都市に選定されている大阪府堺市では、平成22年2月に市内22の金融機関(店舗数79)が、任意団体である「SAKAIエコ・ファイナンスサポーターズ倶楽部」を設立しました。同倶楽部は、堺市が目指す低炭素都市「クールシティ・堺」に賛同し、市民や事業者に対して、太陽光発電システムや省エネ住宅の設置、低公害車の購入、環境配慮型設備投資などを補助する環境配慮型金融商品の提供を市と一体で行っています。

SAKAIエコ・ファイナンスサポーターズ倶楽部の仕組み

 その他にも、参画店舗での省エネの取組や、「SAKAI環境ビジネスフェア」の開催による環境関連のビジネスマッチング等を通じた環境ビジネスの創出にも取り組んでいます。
イ 環境に配慮した事業活動
 経済のグリーン化を実現する上では、環境に配慮した事業活動が不可欠です。環境に配慮した事業活動を拡大するため、さまざまな取組が進められています。
サンデン株式会社の持続可能なものづくり
 群馬県伊勢崎市に本社を置くサンデン株式会社は、主に自動車機器システム事業、流通システム事業、住環境システム事業の3つを営む機械メーカーです。「環境から企業価値を創造する」という経営方針の下、事業活動の基軸に環境を置き、環境保全と事業活動の一体化を図った持続可能なものづくりに取り組んでいます。エコキュートやLED照明を標準搭載したノンフロンヒートポンプ自動販売機、省エネ・小型化・快適性を追求したカーエアコンシステムなどの製造がその一例です。また、新製品の環境性能を可視化する独自の製品環境指標を導入しているほか、製品の原料調達から流通・消費・廃棄に至るまでの環境負荷を評価・分析するなどの取組も進めています。
 特に、生物多様性の保全に向けた取組には力を入れており、群馬県赤城山の麓にある「サンデンフォレスト・赤城事業所」は、「環境と産業の矛盾なき共存」というコンセプトの下、21世紀に通用する「環境共存型の工場」となっています。周囲の自然環境との調和・連続性を確保するだけでなく、民間で初めてかつ大規模な近自然工法を導入して造成されました。また、希少植物の保護活動を通じて地域の生物多様性保全にも貢献しています。地域のNPOと連携した地域住民向けの自然体験活動のフィールドとしても活用しています。

サンデンフォレスト・赤城事業所

 平成23年には、これらの取組が評価され、OECDが進める「Sustainable Manufacturing(持続可能なものづくり)」の先進事例として、世界7社のうちの1社に選定されました。また、平成24年10月には、インドで開催された第11回生物多様性条約締約国会議に参加し、会期中のパネルディスカッションにおいて、自社の持続可能なものづくりやサンデンフォレスト・赤城事業所の取組などを紹介しました。
(ア)環境報告書
 企業や公的法人等の事業者が、自らの事業活動による環境負荷や環境配慮の取組状況を報告する手段として、環境報告書があります。環境報告書は、顧客、取引先、投資家、地域住民、従業員に対して、自分たちの環境負荷低減の努力を知ってもらえる有効なツールであるだけでなく、自社の事業活動による環境負荷の程度を把握し、環境とのつきあい方を見直すきっかけにもなることから、さまざまな場面で活用されています(図2-2-16)。

図2-2-16 環境報告書に期待される機能と効果

 我が国では、平成17年に環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律(平成16年法律第77号)を施行し、環境報告書の作成公表を独立行政法人や国立大学法人等の一定の公的法人に対して義務付けることにより、事業者による環境配慮の取組を促しています。環境省では、事業者が環境報告書を作成するに当たっての実務的な手引きとなる環境報告ガイドラインを策定しているほか、事業者等による優れた環境コミュニケーションを表彰する環境コミュニケーション大賞を設け、優れた環境報告書の表彰を行っています。
 環境報告書は、売上高1,000億円以上の大企業では7割以上の企業で作成・公表されていますが、一方で売上高1,000億円未満の企業では作成・公表割合が低くなっていることから、今後のさらなる普及が課題となっています。
パナソニック株式会社の環境報告書
 パナソニック株式会社は、平成23年の第14回及び平成24年の第15回の環境コミュニケーション大賞において、2年連続で環境報告書部門の大賞を受賞しました。パナソニックの環境報告書は、自社の環境行動計画「グリーンプラン2018」に基づいて構成され、CO2削減、資源循環、水、化学物質、生物多様性、ステークホルダーとの協働など多岐に渡る環境分野について、環境経営に関する一年間の総決算と活動現場の取組を詳しく紹介しています。審査員からは、先進国・開発途上国・新興国における各課題に対応して自社技術を活かしたグリーンライフスタイルを提案し、新たなコミュニティの全体像を示していることなどの点が高い評価を得ています。

パナソニックグループエコアイディアレポート2011
(イ)環境会計
 事業者が、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を把握し、可能な限り定量的に測定する仕組みを環境会計といいます。環境会計の作成により、コストと効果を比較することで自社の環境保全の取組を効率的・効果的なものにできるほか、その公表により、自社が実施する環境対策に関する適切な客観的評価を得ることが可能となります(図2-2-17)。

図2-2-17 環境会計の機能と役割

 環境会計を普及促進するため、環境省では、平成17年に環境会計ガイドラインを作成しています。本ガイドラインでは、環境会計の作成意義や記載すべき基本的事項、環境保全コスト・効果の算定方法、環境会計情報の開示のあり方などについて示しています。
 環境会計は、環境負荷と環境保全に関する財務情報を体系的に開示する手法でもあり、事業者による自発的な作成・公表が加速していくことが期待されます。一方、さらなる普及を図るためには、企業の実務者や消費者、取引先、投資家、従業員などの利害関係者のニーズを把握し、環境会計利用者の情報利便性を一層高めていくことが必要となっています。
先進的な環境会計の事例 ~株式会社東芝~
 環境会計の先進的な事例として、株式会社東芝の事例が挙げられます。
 東芝の環境保全費用の算出は、環境省が策定した平成17年版の環境会計ガイドラインに準拠しており、以下の4つの環境保全効果について、潜在的な環境リスクの回避とビジネスチャンスにおけるそれぞれの内部・外部効果という4象限で捉えているという特徴を有しています。
 [1]製品の省エネ化に伴う顧客の下での効果
 [2]汚染物質等の削減に伴う経済的見なし効果
 [3]将来起こり得るリスクを未然に回避した効果
 [4]廃棄物処理量やエネルギー使用量の削減に伴う経済的実質効果

環境経営と4つの環境保全効果

 また、東芝が重要と考える環境分野への取組に関する費用対効果を明示しているほか、外部不経済の内部化、環境省作成の平成24年版環境報告ガイドラインで推奨している「環境リスクへの対応」とそれによる経済効果を記述しています。
(ウ)環境マネジメント
 事業者が自主的に環境保全に関する取組を進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、それらの達成に向けて取り組んでいくことを環境マネジメントと言います。環境マネジメントを行うための工場や事業所内の体制・手続等の仕組みを環境マネジメントシステムと言い、国際規格のISO14001などが代表的です。環境マネジメントを適正に行うことにより、環境に配慮した事業活動が可能となるだけでなく、省エネによる経費削減や、環境配慮型の商品・サービスの新たな提供、環境にやさしい企業イメージの打ち出しなどの効果も期待されます。
 我が国では、中小事業者にも取り組みやすい環境マネジメントシステムとして、「エコアクション21」を策定し、また、ガイドラインを作成するなどその普及促進を図っています。エコアクション21は、CO2排出量、廃棄物排出量、総排水量などの環境負荷を低減する取組を促すものであり、環境活動レポートの作成・公表により簡易版の環境報告を行うことになることや、認証審査人が一定の範囲で企業の環境対策へのアドバイスを行うという特徴を有しています。認証を取得した事業者は、PDCAサイクルを基本として、ガイドライン中の要求事項に適合した環境経営システムを構築、運用、維持することが必要となります。エコアクション21の認証・登録総数は年々増加しており、平成23年度時点で7000団体以上に上っています(図2-2-18)。

図2-2-18 エコ・アクション21の認証・登録の推移と現状

 事業者による自発的な環境マネジメントは大企業を中心に普及が進んでいますが、今後は、事業者の多数を占める中小事業者による取組を広げていくことが重要となります。
エコアクション21を活用している中小企業の優良事例
 埼玉県八潮市に本社を構え、金属材料を使用した容器等の製造を行っている来ハトメ工業株式会社では、事業を通じて環境保全に配慮して行動することを経営の重要課題の一つとして捉えており、平成22年にエコアクション21の認証を取得しました。同社では、エコアクション21を活用して、温室効果ガス排出量や廃棄物量の削減、有害化学物質の取り扱い禁止、グリーン調達の推進、社員への環境教育などさまざまな環境保全の取組を行ってきました。平成24年度からは、新たに生物多様性の保全やボランティア活動等による地域貢献にも着手しています。

来ハトメ工業株式会社の社員

 これらの取組が評価され、同社の環境活動レポートは、平成25年2月に表彰式が行われた第16回環境コミュニケーション大賞において、エコアクション21に基づく環境活動レポートを対象とする「環境活動レポート部門」の大賞を受賞しました。
(エ)エコ・ファースト制度
 「エコ・ファースト制度」は、企業の環境保全に関する業界のトップランナーとしての取組を促進していくため、日本国内において事業活動を行っている企業が環境大臣に対し、地球温暖化対策、生物多様性の保全など、自らの環境保全に関する取組を約束する制度です。平成20年の最初の認定から、現在までに41社がエコ・ファースト企業として認定されています(表2-2-4)。

表2-2-4 エコ・ファースト認定企業一覧(平成25年5月現在)

 エコ・ファースト企業として認められるには、環境省に対して申請したエコ・ファーストの約束が、「先進性、独自性、波及効果があるか」「3つ以上の環境分野において環境保全上適切な目標を定めているか」などの観点から審査され、評価される必要があります。認定を受けた企業は、環境省制定のエコ・ファースト・マークを使用することができます(図2-2-19)。

図2-2-19 エコ・ファースト・マーク

 エコ・ファースト企業は、エコ・ファーストの約束を確実に実践し、環境行政との連携及びエコ・ファースト企業間の連携を強化することを目的として、「エコ・ファースト推進協議会」を設立しています。同協議会では、協議会メンバー企業による情報交換や、環境イベントでの広報活動、環境省幹部との勉強会などの活動を行っています。
エコ・ファースト企業の事例~ライオン株式会社~
 平成24年度から25年度にかけてのエコ・ファースト推進協議会の議長会社を務めているライオン株式会社は、環境保全に向けた先進的な取組を推進していくとした約束が評価され、2008年に製造業として初めて環境大臣より「エコ・ファースト企業」として認定されました。
 同社は、エコ・ファーストの約束として、地球温暖化防止、循環型社会の形成、化学物質の安全性点検・リスクコミュニケーションの3分野において、積極的な取組を推進していくこととしています。地球温暖化防止の分野においては、植物原料に由来する商品開発や物流の効率化などにより、「CO2排出量を1990年比で55%削減する」とした2012年の目標を2011年時点で達成しました。また、商品の環境への配慮を評価する独自の指標である「ライオン エコ基準」を設定し、環境に配慮した商品づくりに努めています。

ライオン エコ基準

 同社は、平成24年3月にエコ・ファーストの約束を更新し、環境保全に向けたさらなる取組を推進していくこととしています。
ウ 環境に配慮した購入(グリーン購入)
 近年、環境に配慮された商品やサービスを優先的に購入するグリーン購入に取り組む消費者が増えています。グリーン購入は、消費活動を通じた環境保全活動であり、事業者が環境負荷低減に取り組むインセンティブとなるだけでなく、環境対策に積極的な事業者に対する支援ともなっています。
 グリーン購入を促進するため、以下に示すような政策、取組等が進められています。
(ア)グリーン購入法
 市場におけるグリーン購入を促進するため、我が国では国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号)を制定しています。同法はグリーン購入法とも称し、国や独立行政法人等の機関に対して環境に配慮された物品等の調達を義務付けているほか、地方公共団体に対しても同様の努力義務を課しており、公的機関による調達の推進を通じて、市場に環境配慮物品等への需要を喚起し、グリーン購入の拡大を図ることを目的としています。グリーン購入の対象となる環境物品等は、紙類、文具類、オフィス家具、OA機器など大きく19の項目に分類され、それぞれについて詳細な調達品目と判断基準が定められています。平成22年度における国や独立行政法人等の特定調達物品等の調達実績は、公共工事分野の品目を除く190品目中186品目(97.9%)において、判断基準を満たす物品等が95%以上の高い割合で調達されています(図2-2-20)。

図2-2-20 グリーン購入法の特定調達物品等の調達実績(調達率が95%以上の品目数の推移(公共工事分野の品目を除く))

 さらなるグリーン購入の推進に当たっては、今後も関係各省等との連携を深め、国や独立行政法人等における取組を一層拡大していくとともに、地方公共団体による取組が全国的に発展していくための支援や仕組みづくり等が重要です。
(イ)グリーン購入大賞
 グリーン購入に関する先進事例を表彰し広く紹介することで、グリーン購入の取組の質的向上とさらなる普及・拡大を図ることを目的とした「グリーン購入大賞」という表彰制度があります。グリーン購入大賞は、グリーン購入に率先して取り組む企業、行政機関、民間団体等のネットワークであるグリーン購入ネットワークにより平成10年に創設されました。「グリーン購入の推進の取組」「グリーン購入を促進させる製品・サービスの普及拡大の仕組み」「グリーンコンシューマーの育成・拡大への取組」などのテーマに取り組む団体が対象となり、具体的な成果・効果や先進性、発展性などの観点から評価を受けます。
 平成24年に開催された「第14回グリーン購入大賞」には、全国から56件の応募が寄せられ、鹿児島県及び沖縄県EV普及促進協議会の2団体に、それぞれ環境大臣賞と経済産業大臣賞が授与されました。
(ウ)環境ラベル
 グリーン購入を進めていく上では、環境に配慮された製品やサービスに環境ラベルを付与し、環境負荷の少ない物品等の選択的な購入を促すことが有効です。一方で、環境ラベルは「多すぎて分からない」との声もあり、次々と生まれる環境ラベルに消費者が追いついていけないという実態も垣間見えています。我が国では、各種環境ラベルを紹介した環境ラベル等データベースを運用しているほか、環境ラベルの表示方法の考え方の統一や信頼性の確保のため、環境表示ガイドラインを取りまとめています。

表2-2-5 環境ラベルの一例


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