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Channel: 持続可能な開発(水・土・廃棄物)
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さまざまな循環システム(平成25年度版白書)

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さまざまな循環システム
(1)資源循環
 今日の社会経済活動やライフスタイルは、多くの資源を消費するとともに、自然界では分解することが困難な物質を廃棄物として環境中に排出することによって成り立つ一方通行型のものとなっています。
 そのため、特に大都市圏においては、その圏内で処理しきれないほどの大量の廃棄物が排出され、最終処分場の確保などに大きな社会的コストを必要とし、また、その処理に伴い温室効果ガスの発生などの環境負荷が生じています。
 資源の乏しい我が国では、その多くを輸入に依存しているため、国外での資源採取に伴う環境への負荷を認識しにくいことが、大量生産型社会を形成してきた一因と言えます。資源の過剰消費や、廃棄物の排出によって生じる環境負荷は、現在の我々の経済活動や生活環境に悪影響を及ぼすだけでなく、将来世代にも負の遺産を残すことになります。
 これらの問題は、大量生産、大量消費、大量廃棄に根ざしたものであり、その根本的な解決には、これまでの社会のあり方や国民のライフスタイルを見直し、[1]資源を効率的に利用してごみを出さないこと、[2]出てしまったごみは資源として利用すること、[3]どうしても利用できないごみは適正に処分すること、といった考え方が社会経済の基本原則として定着した持続可能な社会の実現を目指していく必要があります。
 持続可能な社会では、一度自然界から取り出した枯渇性資源は、製品寿命の長期化やリユース、リサイクルにより、有用な「社会ストック」としてできるだけ長く有効活用されることになります。また、バイオマスなどの再生可能資源は、その再生スピードの範囲内で活用されます。これにより、大気、水、土壌、生物等の間の持続可能な循環が構築され、自然界における循環と経済社会における循環の間で調和が保たれることになります。
 
(2)水循環
 人間の体の60%以上は水で構成されており、日本人が1日に直接利用している水の量は平均322リットルと算出されるなど、水は生きていく上で欠かせない存在です。地球には約14億km3の水が存在しています。しかし、そのほとんどは海水で、人間が使用できる淡水はそのうちの約2.5%です。淡水のほとんどは南極や北極の氷や地下水として存在しており、川や湖沼など、生活に利用可能な淡水はわずか0.01%しかありません。
 水は地球上で、雨や地下水、川、海などさまざまな形態で循環しています。この水循環は、人間の生命活動や自然の営みに必要な水量の確保のみならず、熱や物質の運搬、植物や水面からの蒸発散、水の持つ大きな比熱効果による気候緩和、土壌や流水による水質の浄化、さらには多様な生態系の維持といった重要な機能を持っています。また、地下水のバランスのとれた流動により、取水量の安定化や地盤の支持という重要な機能も働いています。

図2-5-1 水循環の模式図

 現在、人口増加に伴って水の使用量が世界的に増大しています。人がそのまま利用できる淡水が地球上に偏在していることもあり、水の需要増は水不足を引き起こします。現在、世界全体で水不足一歩手前の「水ストレス」の状況にある人は7億人いると推定されていますが、2025年(平成37年)には30億人を超える可能性があると予測されています。中東と北アフリカでは、2025年(平成37年)までに水不足の国で生活する人々の割合が90%を超える可能性があります。
 また、地球温暖化によって、世界規模で水の需給に深刻な影響が及ぶ可能性があります。IPCCの第4次報告書では、干ばつが生じる地域が増加する可能性が高く、一方で局所的な豪雨の頻度が増す可能性も非常に高いため、洪水リスクが増加すると予測されています。干ばつなどの影響により、今世紀半ばまでに、アフリカ南部、中東など現在一人当たりの利用可能水量が少ない中緯度の一部の乾燥地域と熱帯乾燥地域で、河川流量と利用可能水量がさらに10~30%減少すると予測されています。
 近年、水循環に異常が起こっています。サハラ砂漠南部のチャド湖は干ばつや灌漑農業による取水のため、水量が激減しました。湖水面積は1960年代前半には約25,000km2ありましたが、現在では15分の1程度の大きさになっています。一方、2011年(平成23年)にタイのチャオプラヤ川流域では相次ぐ台風の影響で大洪水が発生し、首都バンコクをはじめとした多くの地域で、甚大な被害が生じました。日本でも平成24年7月に九州北部で発生した集中豪雨など局地的な豪雨が増加する傾向にあります。

写真2-5-1 タイの大洪水

写真2-5-2 チャド湖の縮小

 こうした水循環の異常は、地球温暖化に伴う気候変動や灌漑農業による地下水の取水など、人間の生産活動に由来するところが大きいと考えられることから、私たち人間が経済社会システムやライフスタイルを見直すことが重要です。
バーチャルウォーター
 バーチャルウォーターとは、穀物、肉、工業製品等を輸入している国において、仮にそれらの物品等を自国で生産・製造した場合に必要とされる水資源の量を推定した概念です。
 例えば、1kgのトウモロコシを生産するには、灌漑用水として1,800リットルの水が必要です。また、牛は穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1kgを生産するには、その約20,000倍もの水が必要です。日本に投入されるバーチャルウォーターの大部分は、米国及び豪州からトウモロコシや牛肉、小麦、大豆として輸入されています。つまり、日本は海外から食料を輸入することによって、その生産に必要な分だけ他国の水を消費しています。今後、地球温暖化などによる世界的な水不足の影響は日本にも及ぶ可能性があります。

バーチャルウォーターの輸入量(2005年)
(3)個別の物質循環
ア 炭素循環
 炭素は二酸化炭素やメタンなどの形態で大気圏に、動植物の身体を構成する物質などとして陸上・土壌表層に、そして化石燃料やダイヤモンドなどの鉱物や土壌として地中に存在しています。また、海水中にも大量の炭素が溶け込んでいます。このように、大気、海洋は炭素の巨大な貯蔵庫となっており、炭素が燃焼などにより形態を変えながら、これらの環境や生物、土壌の間を移動する循環を「炭素循環」と言います。

図2-5-2 炭素循環の模式図(1990年代)

 地球温暖化は、大気中の炭素の大部分を占める二酸化炭素等が人間の活動により大量に排出されたことで、大気中の二酸化炭素濃度が高まっていることが主な原因である可能性が非常に高いとされています。さらに、地球温暖化によって気温や水温が上昇すると、海洋の二酸化炭素吸収量が低下することが明らかになっています。そのため、大気中の二酸化炭素が海洋に吸収される量が減ることで、大気中に二酸化炭素がより貯まりやすくなり、温暖化が一層加速する現象が起きる可能性も考えられています。IPCC第4次報告書では、不確実性があるものの、この影響により2100年には世界の平均気温がさらに1℃以上上昇する可能性があると予測されています。
地球温暖化を引き起こす黒色炭素(ブラックカーボン)
 地球温暖化に最も影響があるとされている物質は、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスですが、その他の要因として黒色炭素(ブラックカーボン)があります。温暖化への影響力の高い物質を順に見ていくと、二酸化炭素が1位、メタンガスが2位、ブラックカーボンが3位、ハロカーボン(ハロゲンを含む炭素化合物)が4位、一酸化炭素と揮発性有機物が5位とされています。この第3位のブラックカーボンは、石炭や石油、木材など炭素を主成分とする燃料を燃焼することにより発生するススのような粒子のことで、太陽エネルギーを吸収して熱を蓄える性質があります。
 ブラックカーボンが高山の氷河や、北極・南極の雪表面に沈着することで、氷の融解が加速している可能性があります。
 そのため、温室効果ガスの削減とは別に、国際的な対策が議論されています。

チベット高原付近の「ブラックカーボン」の分布を映したシミュレーション画像(2009年9月26日)
 
イ 窒素の循環
 窒素は地球の大気の78%を占める主要成分で、地球上には約3,800兆トン、地殻中には14,000兆トンあると考えられています。窒素はタンパク質などの構成成分となるため、生物にとって必須の元素ですが、生物は窒素をそのまま取り込むのではなく、アンモニアや硝酸といった窒素化合物の形で取り込みます。生物により摂取された窒素は有機窒素に形を変え、排泄されます。また、生物の排泄物や死骸が微生物によって再び無機窒素に分解されることで、自然界の中で循環しています。しかし、現代の経済社会では、工業化に伴う貿易活動の増加により、食物や肥料、工業製品などに大量に含まれた窒素が国家間で移動しており、結果的に輸入の多い国に集中しています。下水や排水によって水中に排出された窒素化合物は、海域・湖沼の富栄養化を引き起こす可能性があり、生態系の中に過剰に蓄積された窒素が生物多様性に重大な影響を与える危険性が指摘されています。

図2-5-3 世界全体の窒素肥料の消費量の推移

図2-5-4 窒素循環の模式図

図2-5-5 人為活動による反応性窒素の生産量

ウ リンの循環
 リンは、生物のDNAを構成するなど生命に不可欠な物質です。また、リンは、窒素と同じく植物の成長に特に重要な栄養素であるため、化学肥料に用いられることにより、食料生産のために大量に使用されてきました。リンは通常、降雨により陸から川へ流れますが、土地が浸食される洪水や台風時には、吸着している土粒子とともに大量に川に流れ込みます。このようにして水中に溶け込んだリンによってプランクトンが繁殖し、小魚がそれを食べ、さらに鳥が食べるという食物連鎖によって、リンは生物濃縮されていきます。そして、鳥が地上で糞をして再び陸にリンが戻るという循環が形成されています。また、鮭のように河川に戻る魚や漁業活動によっても、海から陸にリンが循環しています。
 しかし、現在、リンの消費量が世界的に増大しており、地球上に存在するリンの可採年数が問題となっています。世界の人口増加に伴う穀物需要の増加により、化学肥料の原料となるリン鉱石の消費量が拡大しています。リン鉱床はアメリカやモロッコ、中国に偏在していることもあり、世界的な枯渇や価格高騰が懸念されています。日本は従来アメリカから輸入を行っていましたが、アメリカが資源枯渇を理由に禁輸措置を実施して以来、中国から輸入しています。2008年(平成20年)には中国で四川大震災が発生し、産出量が激減したこと等により国際価格が急騰しました。これからもリンの動向は注視する必要があります。

図2-5-6 世界全体のリン肥料の消費量の推移

図2-5-7 リン鉱石商品市場価格の推移


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