干ばつが招く地下水の枯渇
2014年08月21日
干ばつによる水不足を補うため地下水に頼るアメリカで、将来のリスクが懸念されている。
地表の湖や川、貯水池が干ばつで干上がった場合、帯水層からくみ上げて補うことができる地下水。アメリカ西部をはじめ世界の乾燥地帯では、今や再生困難と化した地下水源が持続不可能なペースで縮小している。
目に見える脅威や困難に直面した場合、全力を尽くして生き残りを図るのが生存本能だ。水かさが急増する洪水や接近する危険な敵はもちろん、渋滞にはまる直前で高速道路の出口が見えたときも、迫り来る危機に気付いて対応する。
一方、直接身に降りかからない脅威や、いつの間にか損なわれた自然環境は、われわれは見逃しがちだ。二酸化炭素が大気の化学構造を変化させ温暖化を招いていると言われても、なかなか理解できない人が今でも大勢いる。目に見えない危機、ほとんど視界に入らないリスクは、いつのまにか意識外に追いやられ、奮起して対応するまでに至らないケースが多い。消えゆく地下水もその好例と言えるだろう。
帯水層はいわば地下の貯水池で、砂利や砂がスポンジのように地下水を貯留している。湧き水や井戸水になって初めて、資源としての水と認識されることになる。アメリカの水需要の半分はこの目に見えない、縮小を続ける水源によって満たされているという。しかもここ数年の干ばつを受けて、湖や川、貯水池などに代わる資源として依存度はさらに上昇している。地表の水が流れ込む浅い帯水層はさておき、深い帯水層には数千年前あるいは数百万年前、地質の変化によって閉じ込められた古代の水が蓄えられている。一度汲み上げてしまえば、再び満たされることはまずない。“化石”のような貴重な水が枯渇してから、自身の生活や作物を育てる場を再考してもすでに手遅れなのは明らかだ。
カリフォルニア州では深刻な干ばつが4年近く続き、積雪や川、湖が枯渇している。そして、水不足を補うため、地下水の利用が急増している。アメリカ、スタンフォード大学の最新の報告によれば、カリフォルニア州では現在、水需要の60%近くを地下水で賄っているという。降雨量や降雪量が正常な時期に比べて40%という急増振りだ。
地下水への依存に伴って水の価格も上昇。カリフォルニア州のセントラル・バレーでは、帯水層の水を目当てに新たなゴールドラッシュが起きている。井戸掘りの業者たちは働き詰めで、水不足の農場や家庭は1年以上待たなければならない。
例年であれば、未舗装の地面に雨や川の水が浸透し、帯水層は自然に満たされる。しかし、干ばつに見舞われると、さらに速いペースで地下水がくみ上げられ、地下水面が下がる。セントラル・バレーの井戸はかつて150メートルも掘れば水に当たったが、今は300メートルでも足りない状況だ。そして、帯水層の枯渇に伴い、地盤沈下も始まっている。
地下水源の縮小はセントラル・バレーだけの現象ではない。コロラド川流域やグレートプレーンズ南部の帯水層も深刻な状況に陥っている。複数の研究によれば、地下水の枯渇の約半分は灌漑が原因だという。農業は最も多くの水を使う産業で、全世界で利用できる淡水の60%以上が灌漑によって消費されている。
7つの州に暮らす4000万人に水を供給しているコロラド川流域は、水資源が劇的に失われており、特に地下水の枯渇が目立つ。人工衛星で調査したカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)とNASAによると、2004年から2013年にかけて65立方キロが消失したという。コロラド川の流量の2年分を保持できるアメリカ最大の人造ダム湖、ミード湖の水の2倍に相当する量だ。その失われた水の最大75%を地下水が占めている。
干ばつによって地下水が枯渇すれば、飲用水や農業用水を制限せざるを得ないため、いずれ社会不安を引き起こす恐れがある。数十年前、砂漠で小麦を栽培するために深い帯水層の水をくみ上げ始めたサウジアラビアでは、計画を白紙に戻したという。この不毛の地における地下水源の重要性に気付いた政府が、食料としての小麦は輸入に頼る決断を下したのだ。
干ばつによって地表の水が枯渇している現在、地下水源の管理と保守が緊急の課題となっている。地下水は井戸があれば誰でも利用できる貴重な共有資源だ。渇水が日常化する将来を回避するためには、この縮みゆく防衛線を死守しなければならない。協調と連携の下に、今こそ生存本能を発揮するときだ。
「干ばつが招く地下水の枯渇」(拡大写真付きの記事)
地表の湖や川、貯水池が干ばつで干上がった場合、帯水層からくみ上げて補うことができる地下水。アメリカ西部をはじめ世界の乾燥地帯では、今や再生困難と化した地下水源が持続不可能なペースで縮小している。
目に見える脅威や困難に直面した場合、全力を尽くして生き残りを図るのが生存本能だ。水かさが急増する洪水や接近する危険な敵はもちろん、渋滞にはまる直前で高速道路の出口が見えたときも、迫り来る危機に気付いて対応する。
一方、直接身に降りかからない脅威や、いつの間にか損なわれた自然環境は、われわれは見逃しがちだ。二酸化炭素が大気の化学構造を変化させ温暖化を招いていると言われても、なかなか理解できない人が今でも大勢いる。目に見えない危機、ほとんど視界に入らないリスクは、いつのまにか意識外に追いやられ、奮起して対応するまでに至らないケースが多い。消えゆく地下水もその好例と言えるだろう。
帯水層はいわば地下の貯水池で、砂利や砂がスポンジのように地下水を貯留している。湧き水や井戸水になって初めて、資源としての水と認識されることになる。アメリカの水需要の半分はこの目に見えない、縮小を続ける水源によって満たされているという。しかもここ数年の干ばつを受けて、湖や川、貯水池などに代わる資源として依存度はさらに上昇している。地表の水が流れ込む浅い帯水層はさておき、深い帯水層には数千年前あるいは数百万年前、地質の変化によって閉じ込められた古代の水が蓄えられている。一度汲み上げてしまえば、再び満たされることはまずない。“化石”のような貴重な水が枯渇してから、自身の生活や作物を育てる場を再考してもすでに手遅れなのは明らかだ。
カリフォルニア州では深刻な干ばつが4年近く続き、積雪や川、湖が枯渇している。そして、水不足を補うため、地下水の利用が急増している。アメリカ、スタンフォード大学の最新の報告によれば、カリフォルニア州では現在、水需要の60%近くを地下水で賄っているという。降雨量や降雪量が正常な時期に比べて40%という急増振りだ。
地下水への依存に伴って水の価格も上昇。カリフォルニア州のセントラル・バレーでは、帯水層の水を目当てに新たなゴールドラッシュが起きている。井戸掘りの業者たちは働き詰めで、水不足の農場や家庭は1年以上待たなければならない。
例年であれば、未舗装の地面に雨や川の水が浸透し、帯水層は自然に満たされる。しかし、干ばつに見舞われると、さらに速いペースで地下水がくみ上げられ、地下水面が下がる。セントラル・バレーの井戸はかつて150メートルも掘れば水に当たったが、今は300メートルでも足りない状況だ。そして、帯水層の枯渇に伴い、地盤沈下も始まっている。
地下水源の縮小はセントラル・バレーだけの現象ではない。コロラド川流域やグレートプレーンズ南部の帯水層も深刻な状況に陥っている。複数の研究によれば、地下水の枯渇の約半分は灌漑が原因だという。農業は最も多くの水を使う産業で、全世界で利用できる淡水の60%以上が灌漑によって消費されている。
7つの州に暮らす4000万人に水を供給しているコロラド川流域は、水資源が劇的に失われており、特に地下水の枯渇が目立つ。人工衛星で調査したカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)とNASAによると、2004年から2013年にかけて65立方キロが消失したという。コロラド川の流量の2年分を保持できるアメリカ最大の人造ダム湖、ミード湖の水の2倍に相当する量だ。その失われた水の最大75%を地下水が占めている。
干ばつによって地下水が枯渇すれば、飲用水や農業用水を制限せざるを得ないため、いずれ社会不安を引き起こす恐れがある。数十年前、砂漠で小麦を栽培するために深い帯水層の水をくみ上げ始めたサウジアラビアでは、計画を白紙に戻したという。この不毛の地における地下水源の重要性に気付いた政府が、食料としての小麦は輸入に頼る決断を下したのだ。
干ばつによって地表の水が枯渇している現在、地下水源の管理と保守が緊急の課題となっている。地下水は井戸があれば誰でも利用できる貴重な共有資源だ。渇水が日常化する将来を回避するためには、この縮みゆく防衛線を死守しなければならない。協調と連携の下に、今こそ生存本能を発揮するときだ。
「干ばつが招く地下水の枯渇」(拡大写真付きの記事)
2014年08月21日
Fred Pearce in India for National Geographic News December 25, 2012
インドでは農家による地下水のくみ上げ、販売が全国的に拡大し、地下水の枯渇が深刻化している。しかし、これはインドだけの問題ではない。
◆化石水の枯渇
水は再生可能な資源と考えられてきた。どれだけ水を浪費しようと、雨が降れば河川や貯水池はまた満たされる。干ばつの期間を除けば、表流水についてはその通りかもしれない。だが、過剰取水によって河川が干上がり、世界的に地下水への依存が増えてきている。井戸を掘りくみ上げた地下水の多くは、雨や雪が何千年もの歳月をかけて地下に浸透し、岩石の隙間に溜まった限りある資源なのだ。
その巨大な水の蓄積が、地下に溜まるよりもはるかに速いペースでくみ上げられている。地下水位は急激に低下し、さらに井戸が深く掘られ、大きな電動ポンプが唸りを上げる。しかし、現在盛んに消費されている地下水は、次世代に受け継ぐべき遺産にほかならない。
◆農業利用の増大
地下水の枯渇問題は圧倒的に農業が負っている。世界の水の3分の2が作物栽培に回り、乾燥して水ストレス(水需給が逼迫している状態)が高い地域などは、90%にも及ぶ場合がある。
しかし、いつまでもこの状況を続けることはできない。中国有数の穀倉地帯である華北平原では、地下水位が1年あたり1メートル以上低下している。
水不足によって食糧を自給できず、他の国の水資源で育てられた作物の輸入に追い込まれる国も増加。しかし、食糧という間接的な形で水を輸出できる国は減る一方だ。輸出国でも水資源が枯渇すれば、世界的な食糧危機は避けられない。
また、多発する塩水化や水質汚染は、枯渇以前の問題ととらえられる。飲料水の地下水依存率が高いインドでは、一部の地域で骨のフッ素症が蔓延している。飲用水を汚染する、高濃度のフッ化物が原因だ。
「地下水位の低下は、持続可能な水利用が実現されていないことを示すサインだ。稼ぐあてもなく、貯金を切り崩しているにすぎない。地下水は大切に使い、次世代から奪うべきではない」と、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)の淡水戦略担当のブライアン・リヒター氏は指摘する。
◆ソリューションを求めて
何よりも農業に焦点を当てた研究が進んでいる。小量の水で育つ新しい農作物の開発などだ。
また、水不足が進んでいるにも関わらず、低い調達コストのため浪費されているケースが多い。実際に作物に必要な水はわずかなのに、世界の農家の多くが農地に大量の水をまいて灌漑している。地下に浸透して繰り返し資源として利用できる部分もあるが、大半はそのまま蒸発してしまう。
無駄を防ぐ1つの解決策としては、点滴灌漑が有効になるだろう。農地全体に配水パイプを張り巡らせて、根に近い土壌表面に直接ゆっくり灌漑水を与える。この方法ならば、次世代に禍根を残さずに済むかもしれない。
今や水の枯渇は世界共通の問題だ。国連環境計画(UNEP)によると、世界で最も水不足に悩む地域はガザ地区であるという。イスラエルとエジプトに挟まれた地中海沿いのパレスチナ自治区で、いま唯一の水供給源が失われつつある。
河川が流れぬガザ地区には、海水の淡水化を行う資金もない。約170万人の住民は飲料水を地下水に依存している。しかし、地下水の回復スピードの約3倍の勢いで揚水されているため、水位は急激に低下、海水が帯水層に浸入する事態となった。国際連合は2012年、ガザの地下水は2016年までに飲用に適さなくなる恐れがあると警告している。
水問題が先鋭化したガザは、他にも多数の問題を抱えているが、これは世界へ向けた警鐘と言えるだろう。このまま水資源を使い続けたら、子どもや孫の時代にはどうなるか。ガザの行く末に世界の注目が集まっている。
水は再生可能な資源と考えられてきた。どれだけ水を浪費しようと、雨が降れば河川や貯水池はまた満たされる。干ばつの期間を除けば、表流水についてはその通りかもしれない。だが、過剰取水によって河川が干上がり、世界的に地下水への依存が増えてきている。井戸を掘りくみ上げた地下水の多くは、雨や雪が何千年もの歳月をかけて地下に浸透し、岩石の隙間に溜まった限りある資源なのだ。
その巨大な水の蓄積が、地下に溜まるよりもはるかに速いペースでくみ上げられている。地下水位は急激に低下し、さらに井戸が深く掘られ、大きな電動ポンプが唸りを上げる。しかし、現在盛んに消費されている地下水は、次世代に受け継ぐべき遺産にほかならない。
◆農業利用の増大
地下水の枯渇問題は圧倒的に農業が負っている。世界の水の3分の2が作物栽培に回り、乾燥して水ストレス(水需給が逼迫している状態)が高い地域などは、90%にも及ぶ場合がある。
しかし、いつまでもこの状況を続けることはできない。中国有数の穀倉地帯である華北平原では、地下水位が1年あたり1メートル以上低下している。
水不足によって食糧を自給できず、他の国の水資源で育てられた作物の輸入に追い込まれる国も増加。しかし、食糧という間接的な形で水を輸出できる国は減る一方だ。輸出国でも水資源が枯渇すれば、世界的な食糧危機は避けられない。
また、多発する塩水化や水質汚染は、枯渇以前の問題ととらえられる。飲料水の地下水依存率が高いインドでは、一部の地域で骨のフッ素症が蔓延している。飲用水を汚染する、高濃度のフッ化物が原因だ。
「地下水位の低下は、持続可能な水利用が実現されていないことを示すサインだ。稼ぐあてもなく、貯金を切り崩しているにすぎない。地下水は大切に使い、次世代から奪うべきではない」と、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)の淡水戦略担当のブライアン・リヒター氏は指摘する。
◆ソリューションを求めて
何よりも農業に焦点を当てた研究が進んでいる。小量の水で育つ新しい農作物の開発などだ。
また、水不足が進んでいるにも関わらず、低い調達コストのため浪費されているケースが多い。実際に作物に必要な水はわずかなのに、世界の農家の多くが農地に大量の水をまいて灌漑している。地下に浸透して繰り返し資源として利用できる部分もあるが、大半はそのまま蒸発してしまう。
無駄を防ぐ1つの解決策としては、点滴灌漑が有効になるだろう。農地全体に配水パイプを張り巡らせて、根に近い土壌表面に直接ゆっくり灌漑水を与える。この方法ならば、次世代に禍根を残さずに済むかもしれない。
今や水の枯渇は世界共通の問題だ。国連環境計画(UNEP)によると、世界で最も水不足に悩む地域はガザ地区であるという。イスラエルとエジプトに挟まれた地中海沿いのパレスチナ自治区で、いま唯一の水供給源が失われつつある。
河川が流れぬガザ地区には、海水の淡水化を行う資金もない。約170万人の住民は飲料水を地下水に依存している。しかし、地下水の回復スピードの約3倍の勢いで揚水されているため、水位は急激に低下、海水が帯水層に浸入する事態となった。国際連合は2012年、ガザの地下水は2016年までに飲用に適さなくなる恐れがあると警告している。
水問題が先鋭化したガザは、他にも多数の問題を抱えているが、これは世界へ向けた警鐘と言えるだろう。このまま水資源を使い続けたら、子どもや孫の時代にはどうなるか。ガザの行く末に世界の注目が集まっている。
Dennis Dimick,
National Geographic News
National Geographic News
May 22, 2014
南カリフォルニアで、例年よりも早く5月上旬に、森林火災のシーズンが到来した。いつもならこの時期、カリフォルニアの空はひんやりとした灰色の雲で覆われているのだが、今年の春、空には本物の灰が舞い飛んでいる。カリフォルニア州の消防機関カル・ファイア(Cal Fire)の広報官が「Los Angeles Times」紙に語ったところによると、消防隊の火災出動件数は今年既に、いつもの2倍である1400件近くにのぼっている。5月16日の「New York Times」紙は、10年前に比べて今では西部の森林火災のシーズンが75日長くなっていると報じた。
そもそもの問題は、カリフォルニアで依然として続く3年にもおよぶ干ばつだ。これに加えて冬もいつもより暖かったため、カスケード山脈とシエラネバダ山脈の雪塊氷原が縮小している。森林火災の発生率を高めるレシピだ。西部の森林火災の件数と規模は増大しているとの報告もあり、研究者らはこの干ばつが長期的傾向の始まりとなるのではないかと懸念している。過去1000年間に発生した西部の干ばつの中には、今よりもさらに深刻なものもあり、それが繰り返される可能性もある。
カリフォルニアの水供給量は少なく、川の水位は低く、森林は乾燥している。自治体や農家は、州からの配水で地元の供給不足を補っている・・・
カリフォルニアの水供給量は少なく、川の水位は低く、森林は乾燥している。自治体や農家は、州からの配水で地元の供給不足を補っている・・・
そもそもの問題は、カリフォルニアで依然として続く3年にもおよぶ干ばつだ。これに加えて冬もいつもより暖かったため、カスケード山脈とシエラネバダ山脈の雪塊氷原が縮小している。森林火災の発生率を高めるレシピだ。西部の森林火災の件数と規模は増大しているとの報告もあり、研究者らはこの干ばつが長期的傾向の始まりとなるのではないかと懸念している。過去1000年間に発生した西部の干ばつの中には、今よりもさらに深刻なものもあり、それが繰り返される可能性もある。
カリフォルニアの水供給量は少なく、川の水位は低く、森林は乾燥している。自治体や農家は、州からの配水で地元の供給不足を補っているが、ダムや貯水池、用水路のネットワークを管理している州当局は、配水量を通常の5%にまで削減している。全米最大の農業経済を誇るカリフォルニアは、作物を育てるために灌漑用水に大きく依存している。カリフォルニア農業用水連盟は、水不足で今年約3200平方キロの農地が休耕せざるを得ないだろうと見積もっている。サクラメントやサン・ウォーキン・バレーの農家は、農地の一部でも使えるように井戸を掘っているが、これが今度は帯水層の枯渇を引き起こしている。
◆猛暑、乾燥、虫
オレゴン州立大学の気候科学者フィリップ・モート(Philip Mote)氏による50年間の調査記録は、西部の山の雪塊氷原が縮小していることを示しており、この傾向が続けば、川の魚や農作物、住宅地の水道など、年間を通して雪塊氷原からの水に大きく頼っている地域は打撃を受けるだろう。
アメリカ政府が今月発表した最新の「アメリカ気候評価」は、アメリカ西部における今後の見通しとして、南西部で「気候変動による猛暑、干ばつ、虫の大発生で森林火災が増加している。水供給の減少、農作物生産量の低下、都市部での暑さによる健康被害、沿岸部の洪水や浸食などもさらなる懸念材料である」と警告する。
◆秋に恵みの雨か?
しかし、希望の兆しは見えている。数年ごとにやってくる太平洋の嵐エル・ニーニョだ。暖かい海水が東へ移動し、南北アメリカ大陸の西海岸地域に大量の雨をもたらす。NASAの衛星によると、現在太平洋の赤道付近でエル・ニーニョの発達が見られるという。もしエル・ニーニョがやってくれば、カリフォルニアをはじめとするアメリカ西海岸は、数年来の干ばつからようやく開放されるかもしれない。しかしその一方で、大型のエル・ニーニョは短期間で必要以上に大量の雨を降らせるという懸念もある。
PHOTOGRAPH BY MARCIO JOSE SANCHEZ. ASSOCAITED PRESS
カリフォルニアの水供給量は少なく、川の水位は低く、森林は乾燥している。自治体や農家は、州からの配水で地元の供給不足を補っているが、ダムや貯水池、用水路のネットワークを管理している州当局は、配水量を通常の5%にまで削減している。全米最大の農業経済を誇るカリフォルニアは、作物を育てるために灌漑用水に大きく依存している。カリフォルニア農業用水連盟は、水不足で今年約3200平方キロの農地が休耕せざるを得ないだろうと見積もっている。サクラメントやサン・ウォーキン・バレーの農家は、農地の一部でも使えるように井戸を掘っているが、これが今度は帯水層の枯渇を引き起こしている。
◆猛暑、乾燥、虫
オレゴン州立大学の気候科学者フィリップ・モート(Philip Mote)氏による50年間の調査記録は、西部の山の雪塊氷原が縮小していることを示しており、この傾向が続けば、川の魚や農作物、住宅地の水道など、年間を通して雪塊氷原からの水に大きく頼っている地域は打撃を受けるだろう。
アメリカ政府が今月発表した最新の「アメリカ気候評価」は、アメリカ西部における今後の見通しとして、南西部で「気候変動による猛暑、干ばつ、虫の大発生で森林火災が増加している。水供給の減少、農作物生産量の低下、都市部での暑さによる健康被害、沿岸部の洪水や浸食などもさらなる懸念材料である」と警告する。
◆秋に恵みの雨か?
しかし、希望の兆しは見えている。数年ごとにやってくる太平洋の嵐エル・ニーニョだ。暖かい海水が東へ移動し、南北アメリカ大陸の西海岸地域に大量の雨をもたらす。NASAの衛星によると、現在太平洋の赤道付近でエル・ニーニョの発達が見られるという。もしエル・ニーニョがやってくれば、カリフォルニアをはじめとするアメリカ西海岸は、数年来の干ばつからようやく開放されるかもしれない。しかしその一方で、大型のエル・ニーニョは短期間で必要以上に大量の雨を降らせるという懸念もある。
PHOTOGRAPH BY MARCIO JOSE SANCHEZ. ASSOCAITED PRESS
April 9, 2012
インド西部、グジャラート州の北部は半乾燥地帯で、干ばつに陥りやすい。年間降水量の大半は6~9月の雨期に集中している。しかし、ここ30年、多くの農場や牧場では乾期でさえも青々とした植物が茂っている。
◆エネルギーを求める農家
グジャラート州北部は地下水の枯渇と持続不可能な農業の極端な例として、学術研究の対象にもなっている。しかし、食料生産に必要な水をくみ上げるためエネルギー需要が上昇している地域はインドや中国、中東に多数存在する。専門家は、基本的にそれらの地域の農業は危機的な状況だと警告する。エネルギーと地下水が持続不可能な関係にあるためだ。
イギリスのイースト・アングリア大学が3月に発表した研究によれば、中国では1950年以降、作物栽培を目的とした地下水の利用が10倍以上に増えているという。揚水システムの深さは平均70メートルに達する地域もあり、年間3000万トン以上の二酸化炭素(CO2)を排出すると推測している。ニュージーランド全域の年間CO2排出量とほぼ同等だ。安価なエネルギーとポンプ技術の普及によって、地下水のくみ上げが急激に拡大した結果と研究チームは考えている。
影響は帯水層の枯渇と農業の破綻だけに留まらない。土壌の塩分濃度上昇とCO2排出の増加、さらに気候変動がその状況に追い打ちをかける。多くの場合、最も大きな打撃を受けるのは貧しい農家である。井戸を掘り、水をくみ上げる技術に大金を投じる余裕がないからだ。
アメリカ、コロンビア大学地球研究所のコロンビア水センター(Columbia Water Center)で教授を務めるビジャイ・モディ(Vijay Modi)氏は次のように話す。「州の農民が自分で自分の首を絞めている。わかっていながら見て見ぬふりをしているのではないか。農家、電力、環境のすべてにプラスとなる方法を考えなければならない」。
さまざまな課題はあるが、モディ氏は解決可能だと信じているという。
グジャラート州などが直面しているのは、「水資源とエネルギーの連関(Water-energy nexus)」の問題だ。双方の相互依存関係を指す用語である。
国際的な独立研究機関「ストックホルム環境研究所(SEI)」の上級研究員ホルガー・ホフ(Holger Hoff)氏は、2つの制約の解決を目指すべきだと述べる。つまり、資源利用の最適化と、システムの非効率性の排除だ。
知識は豊富に存在するが、「実行に移すのは非常に難しい」とホフ氏は語る。エネルギーと水の両分野には長い歴史があり、縦割りの関係省庁が独自の手法にこだわるためだ。
一方、世界の人口は急増し、資源の需要が伸び続けている。SEIの資料と国連食糧農業機関(FAO)のデータによれば、農業生産は2050年までに約70%、一次エネルギーは2035年までに50%増やす必要がある。増加した人口を賄えるだけの食料とエネルギーを生産しながら、水資源を守る方法の開発が期待されている。
Photograph by Anupam Nath, Associated Press