転載
干ばつが招く地下水の枯渇
Dennis Dimick,
National Geographic News
August 21, 2014
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140820003
National Geographic News
August 21, 2014
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140820003
干ばつによる水不足を補うため地下水に頼るアメリカで、将来のリスクが懸念されている。
地表の湖や川、貯水池が干ばつで干上がった場合、帯水層からくみ上げて補うことができる地下水。アメリカ西部をはじめ世界の乾燥地帯では、今や再生困難と化した地下水源が持続不可能なペースで縮小している。 目に見える脅威や困難に直面した場合、全力を尽くして生き残りを図るのが生存本能だ。水かさが急増する洪水や接近する危険な敵はもちろん、渋滞にはまる直前で高速道路の出口が見えたときも、迫り来る危機に気付いて対応する。 一方、直接身に降りかからない脅威や、いつの間にか損なわれた自然環境は、われわれは見逃しがちだ。二酸化炭素が大気の化学構造を変化させ温暖化を招いていると言われても、なかなか理解できない人が今でも大勢いる。目に見えない危機、ほとんど視界に入らないリスクは、いつのまにか意識外に追いやられ、奮起して対応するまでに至らないケースが多い。消えゆく地下水もその好例と言えるだろう。 帯水層はいわば地下の貯水池で、砂利や砂がスポンジのように地下水を貯留している。湧き水や井戸水になって初めて、資源としての水と認識されることになる。アメリカの水需要の半分はこの目に見えない、縮小を続ける水源によって満たされているという。しかもここ数年の干ばつを受けて、湖や川、貯水池などに代わる資源として依存度はさらに上昇している。地表の水が流れ込む浅い帯水層はさておき、深い帯水層には数千年前あるいは数百万年前、地質の変化によって閉じ込められた古代の水が蓄えられている。一度汲み上げてしまえば、再び満たされることはまずない。“化石”のような貴重な水が枯渇してから、自身の生活や作物を育てる場を再考してもすでに手遅れなのは明らかだ。 カリフォルニア州では深刻な干ばつが4年近く続き、積雪や川、湖が枯渇している。そして、水不足を補うため、地下水の利用が急増している。アメリカ、スタンフォード大学の最新の報告によれば、カリフォルニア州では現在、水需要の60%近くを地下水で賄っているという。降雨量や降雪量が正常な時期に比べて40%という急増振りだ。 地下水への依存に伴って水の価格も上昇。カリフォルニア州のセントラル・バレーでは、帯水層の水を目当てに新たなゴールドラッシュが起きている。井戸掘りの業者たちは働き詰めで、水不足の農場や家庭は1年以上待たなければならない。 例年であれば、未舗装の地面に雨や川の水が浸透し、帯水層は自然に満たされる。しかし、干ばつに見舞われると、さらに速いペースで地下水がくみ上げられ、地下水面が下がる。セントラル・バレーの井戸はかつて150メートルも掘れば水に当たったが、今は300メートルでも足りない状況だ。そして、帯水層の枯渇に伴い、地盤沈下も始まっている。 地下水源の縮小はセントラル・バレーだけの現象ではない。コロラド川流域やグレートプレーンズ南部の帯水層も深刻な状況に陥っている。複数の研究によれば、地下水の枯渇の約半分は灌漑が原因だという。農業は最も多くの水を使う産業で、全世界で利用できる淡水の60%以上が灌漑によって消費されている。 7つの州に暮らす4000万人に水を供給しているコロラド川流域は、水資源が劇的に失われており、特に地下水の枯渇が目立つ。人工衛星で調査したカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)とNASAによると、2004年から2013年にかけて65立方キロが消失したという。コロラド川の流量の2年分を保持できるアメリカ最大の人造ダム湖、ミード湖の水の2倍に相当する量だ。その失われた水の最大75%を地下水が占めている。 干ばつによって地下水が枯渇すれば、飲用水や農業用水を制限せざるを得ないため、いずれ社会不安を引き起こす恐れがある。数十年前、砂漠で小麦を栽培するために深い帯水層の水をくみ上げ始めたサウジアラビアでは、計画を白紙に戻したという。この不毛の地における地下水源の重要性に気付いた政府が、食料としての小麦は輸入に頼る決断を下したのだ。 干ばつによって地表の水が枯渇している現在、地下水源の管理と保守が緊急の課題となっている。地下水は井戸があれば誰でも利用できる貴重な共有資源だ。渇水が日常化する将来を回避するためには、この縮みゆく防衛線を死守しなければならない。協調と連携の下に、今こそ生存本能を発揮するときだ。 Photograph by Peter Essick / National Geographic