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森林における生物多様性の保全

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森林における生物多様性の保全

(生物多様性保全の取組を強化)

平成24(2012)年9月に閣議決定した「生物多様性国家戦略2012-2020」は、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)(*64)」で採択された「愛知目標」の達成に向けた我が国のロードマップであり、平成32(2020)年度までの間に重点的に取り組むべき施策の大きな方向性として5つの基本戦略を掲げるとともに、我が国における国別目標や目標達成のための具体的施策を示している(資料 II -22)。
林野庁では、「生物多様性国家戦略2012-2020」を踏まえて、生物多様性の保全を含む森林の多面的機能を総合的かつ持続的に発揮させていくため、適切な間伐等の実施や多様な森林づくりを推進している。また、国有林野においては、「保護林」や「緑の回廊」の設定を通じて、原生的な森林生態系や希少な野生生物の生育・生息の場となっている森林を保全・管理している。さらに、全国土を対象とする森林生態系の多様性に関する定点観測調査、我が国における森林の生物多様性保全に関する取組の情報発信等に取り組んでいる。
このほか、農林水産省では、生物多様性への意識向上を図るため、環境省や国土交通省と連携して、「グリーンウェイブ(*65)」への参加を広く国民に呼びかけており、平成26(2014)年には、国内各地で約51,000人が参加した(*66)。




(*64)COP10については、89ページ参照。
(*65)生物多様性条約事務局が提唱したもので、世界各国の青少年や子どもたちが「国際生物多様性の日(5月22日)」に植樹等を行う活動であり、この行動が時間とともに地球上で広がっていく様子から「緑の波(グリーンウェイブ)」と呼んでいる。
(*66)農林水産省等プレスリリース「国連生物多様性の10年「グリーンウェイブ2014」の実施結果について」(平成26(2014)年10月20日付け)


(我が国の森林を世界遺産等に登録)

「世界遺産」は、ユネスコ(UNESCO(*67))総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(以下「世界遺産条約」という。)に基づいて、記念工作物、建造物群、遺跡、自然地域等で顕著な普遍的価値を有するものを一覧表に記載し保全する制度で、「文化遺産」、「自然遺産」及び文化と自然の「複合遺産」の3つがある。
我が国の世界自然遺産として、平成5(1993)年12月に「白神(しらかみ)山地」(青森県、秋田県)と「屋久島(やくしま)」(鹿児島県)、平成17(2005)年7月に「知床(しれとこ)」(北海道)、平成23(2011)年6月に「小笠原(おがさわら)諸島」(東京都)が世界遺産一覧表に記載されており、これらの陸域の大半が国有林野となっている(*68)。
林野庁では、これらの世界自然遺産の国有林野を厳格に保全・管理するとともに、固有種を含む在来種と外来種との相互作用を考慮した森林生態系の保全管理技術の開発や、森林生態系における気候変動による影響への適応策の検討等を進めている。
また、世界自然遺産の国内候補地である「奄美(あまみ)・琉球(りゅうきゅう)」(鹿児島県、沖縄県)について、林野庁、環境省、鹿児島県及び沖縄県は、有識者からの助言を得つつ、同候補地の自然環境の価値を保全するために必要な方策の検討、保全管理体制の整備及び保全の推進等の取組を連携して進めている。
このほか、林野庁では、世界文化遺産として平成25(2013)年6月に世界遺産一覧表に記載された「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」(山梨県、静岡県)について、国有林野の厳格な保全・管理等を行っている。
世界遺産のほか、ユネスコでは「人間と生物圏計画」における一事業として、「生物圏保存地域(Biosphere Reserves)」(国内呼称:ユネスコエコパーク)の登録を実施している。ユネスコエコパークは、生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的として、「保存機能(生物多様性の保全)」、「経済と社会の発展」、「学術的研究支援」の3つの機能を有する地域を登録するものである。我が国では「志賀(しが)高原」(群馬県、長野県)、「白山(はくさん)」(富山県、石川県、福井県、岐阜県)、「大台ヶ原(おおだいがはら)・大峯山(おおみねさん)」(三重県、奈良県)、「綾(あや)」(宮崎県)及び「屋久島(やくしま)」(鹿児島県)が登録されているほか、平成26(2014)年6月には、我が国が推薦した「只見(ただみ)」(福島県)及び「南アルプス」(山梨県、長野県、静岡県)の新規登録並びに「志賀(しが)高原」の拡張登録が決定した(*69)(資料 II -23)。
我が国のユネスコエコパーク

コラム 生物多様性と林木遺伝資源の収集・保存

オガサワラグワのクローン個体の培養
オガサワラグワのクローン個体の培養
自生するオガサワラグワ
自生するオガサワラグワ
生物多様性条約では、「生物多様性」を全ての生物の間に違いがあることと定義し、「生態系の多様性」、「種間(種)の多様性」、「種内(遺伝子)の多様性」の3つのレベルでの多様性があるとしている。生態系の一つである森林は、原生的な天然林から人工林まで多様な構成となっており、多様な野生生物種が生育・生息する場として、生物多様性の保全において重要な要素となっている。
森林を構成する樹木の持つ「種間(種)の多様性」や「種内(遺伝子)の多様性」については、これらを資源とみなして「林木遺伝資源」と呼んでいる。長い進化の歴史の中で形成された林木遺伝資源は、環境の変化等により失われてしまうと二度と同じものを再生することはできないことから、農林水産省では昭和60(1985)年から林木遺伝資源を収集して保存する事業に取り組んでおり、現在は独立行政法人森林総合研究所林木育種センターで継続して行われている。
同事業では、種子や穂木から増殖した成体(個体)、種子、花粉及びDNAについて、林木遺伝資源保存の必要性や優先度、利用上の重要度や将来性を勘案し、探索・収集を行った上で、保存している。保存規模は約3万7千点(平成26(2014)年現在)で、林木を対象としたものとしては国内最大級となっており、花粉症対策品種等の品種開発に利用されるとともに、試験研究用の材料として研究機関等に配布されている。
また、同センターでは、地元自治体等の要請に応じ、枯損の危険がある地域の巨樹や名木等のクローン増殖を実施しているほか、小笠原(おがさわら)諸島のみに自生する絶滅危惧種のオガサワラグワについて、外来種のアカギ、シマグワ等の影響で自然更新が困難であることから、現存する個体の組織培養により増殖して現地に戻す研究を実施するなど、地域固有の林木遺伝資源の保存にも取り組んでいる。

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