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森林に対する国民の要請は、国土の保全や水源の涵(かん)養に加え、地球温暖化の防止、生物多様性の保全等の面で期待が高まるなど、公益的機能の発揮に重点を置きつつ更に多様化しており、また、国有林と民有林を通

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公益重視の管理経営の一層の推進
森林に対する国民の要請は、国土の保全や水源の涵(かん)養に加え、地球温暖化の防止、生物多様性の保全等の面で期待が高まるなど、公益的機能の発揮に重点を置きつつ更に多様化しており、また、国有林と民有林を通じた公益的機能の発揮が強く期待されている。
このため、国有林野事業では、公益重視の管理経営を一層推進するとの方針の下、重視される機能に応じた管理経営を推進するとともに、地球温暖化防止対策の推進、生物多様性の保全、民有林との一体的な整備・保全に取り組んでいる。

(ア)重視すべき機能に応じた管理経営の推進

(重視すべき機能に応じた森林の区分と整備・保全)

国有林野の管理経営に当たっては、個々の国有林野を重視すべき機能に応じて、「山地災害防止タイプ」、「自然維持タイプ」、「森林空間利用タイプ」、「快適環境形成タイプ」及び「水源涵(かん)養タイプ」の5つに区分した上で、それぞれの流域の自然的特性等を勘案しつつ、これらの区分に応じて森林の整備・保全を推進することとしている(資料 V -3)。また、木材等生産機能については、これらの区分に応じた適切な施業の結果として得られる木材を、木材安定供給体制の整備等の施策の推進に寄与するよう計画的に供給することにより、発揮するものと位置付けている。
国有林野においては、人工林の多くがいまだ間伐が必要な育成段階にある一方、伐採適期を迎えた高齢級の人工林が年々増加していることから、将来的に均衡が取れた齢級構成としていくとともに、森林生態系全般に着目し、公益的機能の向上に配慮した施業を行っていく必要がある。このため、伐採年齢の長期化、林齢や樹種の違う高さの異なる複層状態の森林の整備、小面積・モザイク的配置に留意した施業、針葉樹と広葉樹の混交を促進する施業等に取り組んでいる。

(治山事業の推進)

国有林野事業では、自然環境保全への配慮やコストの縮減を図りながら、治山事業による荒廃地の復旧整備や保安林の整備を計画的に進めている。
国有林内では、集中豪雨や台風等により被災した山地の復旧整備、機能の低下した森林の整備等を推進する「国有林直轄治山事業」を行っている。
民有林内でも、大規模な山腹崩壊や地すべり等の復旧に高度な技術が必要となる箇所等では、地方自治体からの要請を受けて、「民有林直轄治山事業」と「直轄地すべり防止事業」を行っており、平成26(2014)年度においては、15県24地区の民有林でこれらの事業を実施した。
また、民有林と国有林間の事業の調整や情報の共有を図るため、各都道府県を単位とした「治山事業連絡調整会議」を定期的に開催している。民有林と国有林の治山事業実施箇所が近接している地域においては、流域保全の観点から一体的な全体計画を作成し、民有林と国有林が連携して荒廃地の復旧整備を行っている。
さらに、大規模な山地災害が発生した際には、国有林内の被害状況調査を実施するとともに、民有林への職員派遣やヘリコプターによる広域的な被害状況調査を実施するなど迅速な対応に取り組んでいる(*3)。


(*3)森林管理局による大規模な山地災害への対応についてはトピックス(5ページ)を参照。


(路網整備の推進)

国有林野事業では、機能類型に応じた適切な森林の整備・保全や林産物の供給等を効率的に行うため、林道(林業専用道を含む。以下同じ。)及び森林作業道について、それぞれの役割や自然条件、作業システム等に応じて組み合わせた整備を進めている。このうち、林道については、平成25(2013)年度末における路線数は13,100路線、延長は44,995kmとなっている。
路網の整備に当たっては、地形に沿った路線線形にすることで切土盛土等の土工量や構造物の設置数を減少させるとともに、現地で発生する木材や土石を土木資材として活用することにより、コスト縮減に努めている。
また、国有林と民有林が近接する地域においては、民有林林道等の開設計画と調整を図り、計画的かつ効率的な路網整備を行っている(事例V-1)。

事例V−1 民有林と連携した路網の整備

民有林新設路網に接続する林業専用道を開設
民有林新設路網に接続する
林業専用道を開設
森林整備推進協定の区域における路網の整備状況
森林整備推進協定の区域における
路網の整備状況
岩手北部森林管理署(岩手県八幡平市(はちまんたいし))では、八幡平市及び浄安(じょうあん)森林組合との間で森林整備等に関して基本的な合意をする「森林整備推進協定」(区域面積約80ha)を締結し、民有林と国有林が連携して効率的な路網の開設や間伐等を推進している。
平成26(2014)年度には、一層の地域林業の振興に向け、協定区域面積を約1,200haに拡大するとともに、八幡平市と同森林管理署が林業専用道をそれぞれ開設し、既存の幹線道路等と接続することで、効率的な森林施業や木材搬出が可能となる路網が整備された。

(イ)地球温暖化対策の推進

(森林吸収源対策と木材利用の推進)

国有林野事業では、森林吸収源対策を推進する観点から、引き続き間伐の実施に取り組むとともに、保安林等に指定されている天然生林の適切な保全・管理に取り組んでいる。平成25(2013)年度には、全国の国有林野で約12万haの間伐を実施した(資料 V -4)。
また、今後、人工林の高齢級化に伴う二酸化炭素の吸収能力の低下や、資源の成熟に伴う伐採面積の増加が見込まれる中、将来にわたる二酸化炭素の吸収作用の保全及び強化を図る必要があることから、効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等に努めながら、主伐後の確実な再造林を推進することとしている。平成25(2013)年度の人工造林面積は、全国の国有林野で約0.5万haとなっている。
さらに、間伐材等の木材利用の促進は、間伐等の森林整備の推進のみならず、木材による炭素の貯蔵にも貢献することから、森林管理署等の庁舎の建替えに当たっては、木造建築物として整備するとともに、林道事業や治山事業の森林土木工事においても、間伐材等を資材として積極的に利用している。平成25(2013)年度には、林道事業で約113万m3、治山事業で約738万m3の木材・木製品を使用した(事例V-2)。

事例V−2 治山事業における木材利用の推進

国産材型枠用合板の設置状況
国産材型枠用合板の設置状況
国産材型枠用合板の構成
国産材型枠用合板の構成
東北森林管理局では、間伐材を使用したコンクリート型枠用合板の利用に積極的に取り組んでいる。山形森林管理署(山形県寒河江市(さがえし))では、平成26(2014)年9月から11月に、治山工事(コンクリート谷止工 高さ8m・延長40.5m)において、国産カラマツの間伐材を活用したコンクリート型枠用合板約200枚による試験施工を実施した。
試験施工の結果、従来の南洋材型枠用合板と比べて遜色のない性能・施工性が確認されたことから、引き続き、国有林野事業における森林土木工事での採用を進め、一般公共土木分野をはじめとする幅広い木材需要の拡大につなげていくこととしている。

(ウ)生物多様性の保全

(国有林野における生物多様性の保全に向けた取組)

国有林野事業では、森林における生物多様性の保全を図るため、「保護林」や「緑の回廊」の設定、モニタリング調査の実施、渓流等と一体となった森林の連続性の確保による森林生態系ネットワークの形成に努めており、これらは平成24(2012)年9月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012-2020」にも位置付けられている。森林生態系保全センターや森林ふれあい推進センター等と地域の関係者の協働・連携による森林生態系の保全・管理や自然再生、希少な野生生物の保護等の取組を進めている。また、来訪者の集中により植生の荒廃等が懸念される国有林野においては、「グリーン・サポート・スタッフ(森林保護員)」による巡視やマナーの啓発活動を行い、貴重な森林生態系の保全・管理に取り組んでいる。

(「保護林」の設定)

国有林野事業では、世界自然遺産をはじめとする原生的な森林生態系や希少な野生生物の生育・生息の場となっている森林など、生物多様性の核となる森林生態系を「保護林」に設定している。「保護林」には、「森林生態系保護地域」、「森林生物遺伝資源保存林」、「林木遺伝資源保存林」、「植物群落保護林」、「特定動物生息地保護林」、「特定地理等保護林」及び「郷土の森」の7種類がある。
平成25(2013)年度には、10か所の「保護林」の設定・変更等を行った。例えば、広島県廿日市市(はつかいちし)では、国内では宮島(みやじま)のみに生息するミヤジマトンボ(絶滅危惧 I A類)の生息環境の保全のため、新たに「宮島特定動物生息地保護林」を設定した。また、宮城県加美郡(かみぐん)では、船形(ふながた)山周辺の広域的な植物群落を保護するため、既設の「船形山植物群落保護林」を拡張した。この結果、平成26(2014)年4月現在における「保護林」の設定面積(箇所数)は、前年から3千ha増加して96.8万ha(853か所)となり、国有林野全体の面積の13%を占めている(資料 V -5)。
これらの「保護林」では、森林の厳格な保全・管理を行うとともに、森林や野生生物等の状況変化に関するモニタリング調査を実施して、森林生態系の保全・管理や区域の見直し等に役立てている。

(「緑の回廊」の設定)

国有林野事業では、野生生物の生育・生息地を結ぶ移動経路を確保することにより、個体群の交流を促進し、種や遺伝的な多様性を保全することを目的として、必要に応じて民有林とも連携しつつ、「保護林」を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」を設定している。平成26(2014)年4月現在における「緑の回廊」の設定箇所数は24か所、設定面積は58.3万haとなり、国有林野全体の面積の8%を占めている(資料 V -6)。
「緑の回廊」では、猛禽(きん)類の採餌環境や生息環境の改善を図るためにうっ閉した林分を伐開したり、人工林の中に芽生えた広葉樹を積極的に保残するなど、野生生物の生育・生息環境に配慮した施業を行っている。また、森林の状態と野生生物の生育・生息実態に関するモニタリング調査を実施して、保全・管理に反映している。

(「保護林」制度における課題等の点検・整理)

国有林における「保護林」制度は、大正4(1915)年に学術研究等を目的に発足して以来、原生的な天然林や貴重な動植物の保全等に重要な役割を担ってきた。このような中、近年の森林の生物多様性に対する国民の認識の高まりや、学術的な知見が蓄積されてきたことを踏まえ、現在の「保護林」の設定状況や保全・管理状況における課題等を点検・整理するため、林野庁において学識経験者等を構成員とする「保護林制度等に関する有識者会議」を平成26(2014)年6月から平成27(2015)年2月にかけて5回開催した。同会議では、森林生態系や個体群の持続性に着目したわかりやすい保護林区分の再構築、様々な原因により自立的復元力を失った森林を復元していく考え方の導入、全ての保護林を対象に自然環境に関する専門家や地域関係者の意見を聞く仕組みの導入等について検討結果の報告が取りまとめられた(事例V-3)。

事例V−3 木曽地方の温帯性針葉樹林の保存と復元に向けた取組

「森林生物多様性復元地域」内のヒノキの天然林
「森林生物多様性復元地域」内の
ヒノキの天然林
木曽地方(長野県と岐阜県の県境付近)の国有林には、ヒノキやサワラ等の温帯性針葉樹がまとまって自然度の高い状態で分布している。中部森林管理局では、この貴重な森林の保存と復元を図るため、学識経験者等から成る検討委員会の報告を踏まえ、平成26(2014)年3月にこれらの森林を含む流域約1.7万haを「森林生物多様性復元地域」に設定した。
設定された地域は、木曽ヒノキ等の天然林がまとまって現存し厳格に保存する「核心地域(コアa)」、その外側で人工林を多く含みコアaと同様の植生を復元する「核心地域(コアb)」、その外側で木材の利用との調整を図る「緩衝地域」の3つに区分されている。従来の「保護林」と異なり、人為による植生の復元を行う地域が含まれるのが特徴である。
同森林管理局では、平成26(2014)年度から、森林生態系のモニタリング調査を行いながら、天然林に復元する人工林の取扱い、特殊な木材の供給等の課題について、科学的知見に基づき検討を行い、対策を講じることとしている。

(世界遺産等における森林の保全)

国有林野事業では、我が国の世界自然遺産区域内の陸域のほぼ全域(95%)を占める国有林野について、そのほとんどを世界自然遺産の保護担保措置となっている「森林生態系保護地域」(「保護林」の一種)に設定しており、厳格な保全・管理に努めている(資料 V -7)。また、地元関係者と連携しながら、希少な野生生物の保護や外来種等の駆除による固有の森林生態系の修復、利用ルールの導入や普及啓発等の保全対策に取り組んでいる。世界自然遺産の国内候補地である「奄美(あまみ)・琉球(りゅうきゅう)」(鹿児島県・沖縄県)の国有林野については、「森林生態系保護地域」の設定等を行っており、貴重な森林生態系の保全対策に取り組んでいる。
一方、世界文化遺産についても、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」(山梨県、静岡県)、「古都京都の文化財」(滋賀県、京都府)、「古都奈良の文化財」(奈良県)、「法隆寺地域の仏教建造物」(奈良県)、「紀伊山地の霊場と参詣道」(三重県、奈良県、和歌山県)及び「厳島(いつくしま)神社」(広島県)など、その構成資産や緩衝地帯に国有林野が含まれるものが少なくない。国有林野事業では、これらの国有林野についても、厳格な保全・管理や森林景観等に配慮した管理経営を行っている。
また、「世界文化遺産貢献の森林(もり)」として、京都市内や奈良盆地、紀伊山地及び広島の宮島における約4,600haの国有林野を設定し、文化財修復資材の供給、景観の保全、檜皮(ひわだ)採取技術者養成フィールドの提供、森林と木造文化財の関わりに関する学習の場の提供等に取り組んでいる。さらに、我が国が世界文化遺産候補地としてユネスコへ推薦している「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」についても、その構成資産の一つである「橋野(はしの)鉄鉱山・高炉跡」(岩手県)内の国有林野に「郷土の森」(「保護林」の一種)を設定し、地域と連携しながら自然景観の保全等に取り組んでいる。
また、「ユネスコエコパーク(*4)」については、平成24(2012)年に登録された「綾(あや)」(宮崎県)、平成26(2014)年6月に新規登録された「只見(ただみ)」(福島県)と「南アルプス」(山梨県、長野県、静岡県)では、その核心地域及び緩衝地域に所在する国有林野を「森林生態系保護地域」等に設定しており、厳格な保全・管理を行っている。その他のユネスコエコパークに所在する国有林野でも「保護林」や「緑の回廊」を設定するなどしており、厳格な保全・管理や野生生物の生育・生息環境に配慮した施業等を行っている(*5)。




(*4)ユネスコの「生物圏保存地域」の国内呼称で、1976年に、ユネスコの自然科学セクターの「ユネスコ人間と生物圏計画」における一事業として開始された。生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的としている。
(*5)今回新規に登録された「只見」では、雪食地形の上にブナをはじめとする落葉広葉樹林や針葉樹林等により構成されるモザイク植生が原生的な状態で広がっており、「奥会津森林生態系保護地域」や「会津山地緑の回廊」等を設定している。また、「南アルプス」では、本州中部の太平洋側における山地帯から高山帯に至る典型的な植生の垂直分布が残されており、「南アルプス南部光岳森林生態系保護地域」等を設定している。


(希少な野生生物の保護と鳥獣被害対策)

国有林野事業では、国有林野内を生育・生息の場とする希少な野生生物の保護を図るため、野生生物の生育・生息状況の把握、生育・生息環境の維持及び整備等に取り組んでいる。
一方、近年、シカによる森林植生への食害やクマによる樹木の剥皮等の野生鳥獣による森林被害が深刻化しており、希少な高山植物など、他の生物や生態系への脅威ともなっている。
このため、各森林管理局では、野生鳥獣との共生を目指して、関係者と連携しながら、効率的な捕獲手法の確立による積極的な個体数管理、被害の防除、生育・生息環境の保全・管理、被害箇所の回復等に取り組んでいる(事例V-4)。

事例V−4 地域の実態に合わせたシカ被害対策の取組

誘引されたシカを狙撃する様子
誘引されたシカを狙撃する様子
給餌により誘引されたシカ
給餌により誘引されたシカ
日光(にっこう)森林管理署(栃木県日光市(にっこうし))では、奥日光地域の天然林におけるシカによる剥皮被害や下層植生の食害が深刻化していることから、環境省や地元自治体と連携してシカ被害対策に取り組んでいる。
加えて、平成26(2014)年度からは、地域の実態に即した効率的なシカ被害対策を実証するためのモデル地域を設定し、給餌による誘引狙撃、植生影響調査やGPSモニタリング調査など様々な技術を組み合わせた対策にも取り組んでいる。
平成26(2014)年度は、これらの対策により合計53頭のシカを捕獲するとともに、シカによる植生への影響やシカの生息分布や行動範囲等について調査結果の分析を進めている。

(自然再生の取組)

国有林野事業では、シカやクマ等の野生鳥獣、松くい虫等の病害虫や、強風や雷等の自然現象によって被害を受けた森林について、その再生及び復元に努めている。また、地域の特性を活かした効果的な森林管理が可能となる地区においては、地域、ボランティア、NPO等と連携し、生物多様性についての現地調査や荒廃した植生回復等の森林生態系の保全等の取組を実施している。
さらに、国有林野の優れた自然環境を保全・管理するため、環境省や都道府県の環境行政関係者との連絡調整や意見交換を行い、関係機関と連携して「自然再生事業(*6)」の実施や「生態系維持回復事業計画(*7)」の策定等の自然再生に向けた取組を進めている(事例V-5)。

事例V−5 尾瀬(おぜ)地域の生態系の維持回復に向けた取組

グレーチングの設置状況
グレーチングの設置状況
シカ侵入防護柵設置状況
シカ侵入防護柵設置状況
群馬県、福島県、新潟県の3県にまたがる尾瀬地域では、ニッコウキスゲをはじめとする湿原植生が広がるなど独特の生態系を形成しているが、近年、シカによる植生への被害が深刻化している。このため、関東森林管理局では、関係行政機関や関係団体等と連携し、被害状況や地域住民からの意見等の情報を共有しながら、尾瀬地域の国有林における生態系の維持回復に取り組んでいる。
平成26(2014)年度は、湿原植生をシカから保護するための防護柵(周囲約3.5km)を設置した。また、木道と防護柵が交差する箇所では、ゲートの代わりに、入山者が歩行しやすくシカが侵入しづらい格子状の溝蓋(グレーチング)を設置した。


(*6)「自然再生推進法」に基づき、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて、生態系の健全性を回復することを直接の目的として行う事業。
(*7)「自然公園法」に基づき、国立公園又は国定公園における生態系の維持又は回復を図るため、国又は都道府県が策定する計画。


(エ)民有林との一体的な整備・保全

(公益的機能維持増進協定の推進)

国有林に隣接し、又は介在する民有林の中には、森林所有者等による間伐等の施業が十分に行われず、国有林の発揮している公益的機能に悪影響を及ぼす場合や、民有林における外来樹種の繁茂が国有林で実施する駆除の効果の確保に支障となる場合もみられる。このような民有林の整備・保全については、平成25(2013)年度より、「森林法」に基づき森林管理局長が森林所有者等と協定を締結して、国有林野事業により国有林と一体的に行う制度(公益的機能維持増進協定制度)が開始された。
国有林野事業では、同制度の活用により、隣接し、又は介在する民有林と一体となった間伐等の施業の実施、世界自然遺産地域及びその候補地における生物多様性保全に向けた外来樹種の駆除等に向けた取組を進めることとしており、平成25(2013)年度末現在で5件(143ha)の協定が締結されている(資料 V -8)。





公益重視の管理経営の一層の推進
国土保全等の公益的機能の高度発揮に重要な役割を果たしている国有林野の特性を踏まえるとともに、多様化する国民の要請への適切な対応、森林・林業の再生への貢献のため、森林・林業基本計画等に基づき、次の施策を着実に推進した。
その際、流域の実態を踏まえながら、民有林と国有林が一体となった地域の森林整備や林業・木材産業の振興を図るため、森林の流域管理システムの下で民有林との連携を推進した。

(1)森林計画の策定

「国有林野の管理経営に関する法律」(昭和26年法律第246号)に基づき、国有林野の管理経営に関する基本計画に即して、31森林計画区において、地域管理経営計画、国有林の地域別の森林計画及び国有林野施業実施計画を策定した。

(2)健全な森林の整備の推進

個々の国有林野を重視すべき機能に応じ、山地災害防止タイプ、自然維持タイプ、森林空間利用タイプ、快適環境形成タイプ及び水源涵(かん)養タイプに区分し、これらの機能類型区分ごとの管理経営の考え方に即して、適切な森林の整備を推進するとともに、地域経済や山村社会の持続的な発展に寄与するよう努めた。特に、森林吸収量を確保できるよう、間伐や主伐後の再造林等を推進するほか、国土の保全、水源の涵(かん)養、生物多様性の保全等森林の有する公益的機能の高度発揮や野生鳥獣との共存に向けた森林の整備等の国民のニーズに応えるため、針広混交林化等を推進した。また、林道及び主として林業機械が走行する森林作業道が、それぞれの役割等に応じて適切に組み合わされた路網の整備を推進した。
また、「公益的機能維持増進協定制度」を活用した民有林との一体的な整備及び保全の取組を推進した。

(3)森林の適切な保全管理の推進

国有林においては、公益重視の管理経営を一層推進し、保安林等の保全・管理、国有林の地域別の森林計画の樹立、森林・林業に関する知識の普及及び技術指導等を行った。
生物多様性の保全の観点から、原生的な森林生態系や希少な野生生物が生育し、又は生息する森林については、厳格な保全・管理を行う「保護林」や野生生物の移動経路となる「緑の回廊」に設定し、モニタリング調査等を通じた適切な保全・管理を推進した。渓流等と一体となった森林については、その連続性を確保することにより、よりきめ細やかな森林生態系ネットワークの形成に努めた。その他の森林については、適切な間伐の実施等、多様で健全な森林の整備及び保全を推進した。
また、野生生物や森林生態系等の状況を的確に把握し、必要に応じて植生の回復等の措置を講じた。
さらに、世界自然遺産の「知床(しれとこ)」、「白神(しらかみ)山地」、「小笠原(おがさわら)諸島」及び「屋久島(やくしま)」並びに世界自然遺産の国内候補地である「奄美(あまみ)・琉球(りゅうきゅう)」における森林の保全対策を推進するとともに、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」等の世界文化遺産登録地やその候補地及びこれらの緩衝地帯内に所在する国有林野について、森林景観等に配慮した管理経営を行った。
また、森林における野生鳥獣被害防止のため新技術の導入及び実証等を実施するほか、地域住民等多様な主体との連携により野生鳥獣と住民の棲み分け又は共存に向けた地域づくり、自然再生の推進、国有林野内に生育し、又は生息する国内希少野生動植物種の保護を図る事業等を実施した。
二酸化炭素の吸収源として算入される天然生林の適切な保護及び保全を図るため、グリーン・サポート・スタッフ(森林保護員)による巡視や入林者へのマナーの啓発を行うなど、きめ細やかな森林の保全・管理活動を実施した。

(4)国有林野内の治山事業の推進

国有林野内の治山事業においては、近年頻発する集中豪雨や地震等による大規模災害の発生のおそれが高まっていることを踏まえ、山地災害による被害を防止し、軽減する事前防災・減災の考え方に立ち、民有林における国土保全施策との一層の連携により、効果的かつ効率的な治山対策を推進し、地域の安全と安心の確保を図った。
具体的には、荒廃山地の復旧等と荒廃森林の整備の一体的な実施、治山施設の長寿命化対策、海岸防災林の整備、国有林と民有林を通じた計画的な事業の実施、流木災害の防止対策等における他の国土保全に関する施策との連携、積極的な木材利用の取組、生物多様性の保全に資する治山対策等を推進した。

(5)林産物の供給

適切な施業の結果得られる木材について、持続的かつ計画的な供給に努めるとともに、その推進に当たっては、未利用間伐材等の木質バイオマス利用等の新規需要の開拓に向け、安定供給システム販売等による国有林材の戦略的な供給に努めた。その際、林産物の供給に当たっては、間伐材の利用促進を図るため、列状間伐や路網と高性能林業機械の組合せ等による低コストで効率的な作業システムの定着に向けて取り組んだ。また、国産材の安定供給体制の構築に資するため、民有林材を需要先へ直送する取組の普及及び拡大等国産材の流通合理化を図る取組に対して支援した。
さらに、国産材の2割を供給している国有林の特性を活かし、地域の木材需要が急激に増減した場合に、需要に見合った供給を行うため、地域や樹材種ごとの木材価格、需給動向及び地域や関係者の意見を迅速かつ的確に把握する取組を推進した。

(6)国有林野の活用

国有林野の所在する地域の社会経済状況、住民の意向等を考慮して、地域における産業の振興及び住民の福祉の向上に資するよう、貸付け、売払い等による国有林野の活用を積極的に推進した。
その際、国土の保全や生物多様性の保全等に配慮しつつ、再生可能エネルギー源を利用した発電に資する国有林野の活用にも努めた。
さらに、「レクリエーションの森」について、民間活力を活かしつつ、利用者のニーズに対応した施設の整備、自然観察会等の実施、レクリエーションの場の提供等を行うなど、その活用を推進した。

2 森林・林業再生に向けた国有林の貢献

国有林野事業の組織、技術力及び資源を活用し、
① 低コストで効率的な作業システムの民有林における普及及び定着
② 林業事業体の育成
③ 森林共同施業団地の設定による民有林と連携した施業
④ 市町村を技術面で支援する人材等の育成
⑤ 先駆的な技術等の事業レベルでの試行等を通じた民有林経営に対する支援
⑥ 花粉症対策苗やコンテナ苗等の生産拡大に向けた苗木の需要見通しの提示
等に取り組んだ。

3 国民の森林(もり)としての管理経営

国有林野の管理経営の透明性の確保を図るため、情報の開示や広報の充実を進めるとともに、森林計画の策定等の機会を通じて国民の要請の的確な把握とそれを反映した管理経営の推進に努めた。
体験活動及び学習活動の場としての「遊々の森」の設定及び活用を図るとともに、農山漁村における体験活動と連携し、森林・林業に関する体験学習のためのフィールドの整備及びプログラムの作成を実施するなど、学校、NPO、企業等の多様な主体と連携して森林環境教育を推進した。
また、NPO等による森林(もり)づくり活動の場としての「ふれあいの森」、伝統文化の継承等に貢献する「木の文化を支える森」、企業等の社会貢献活動の場としての「法人の森林(もり)」など国民参加の森林(もり)づくりを推進した。


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