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法定受託事務

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法定受託事務

   
法定受託事務(ほうていじゅたくじむ)とは、地方自治法に定める地方公共団体の事務区分の一つ。
法令により都道府県市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、または都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって、国または都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法令で特に定めるものをいう。

目次

概要

  地方分権一括法により、機関委任事務及びその他従来からの事務区分は廃止され、かわって地方公共団体の事務は法定受託事務と自治事務に再編成された。法定受託事務には自治事務に比して国(都道府県)の強力な関与の仕組みが設けられているが、自治事務と同様に地方公共団体の事務であり、「受託」という名称に関わらず、や都道府県の事務が委託の結果、地方公共団体の事務になったと観念されるわけではない[1]

 かつての機関委任事務における国の包括的指揮監督権は否定され、地方公共団体は法令に抵触しない限りで条例を定めることができる。ただし、自治事務においては原則設けられない国の権力的関与が基本類型として認められており、特に代執行手続きについては基本的に機関委任事務のそれをほぼ踏襲している。

 法定受託事務については、できる限り新たに設けることのないようにするとともに、既に法定受託事務とされたものについても、地方分権を推進する観点から検討を加え、適宜、適切な見直しを行うものとされている(地方分権一括法附則第250条)。

種類

  • 第一号法定受託事務
    法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、が本来果たすべき役割に係るものであつて、においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの。
    例)国政選挙旅券交付、生活保護国道管理 戸籍事務
    地方自治法 別表第1 第1号法定受託事務
  • 第二号法定受託事務
    法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの。
    例)都道府県議会選挙・知事選挙に関し、市町村が処理することとされている事務
    地方自治法 別表第2 第2号法定受託事務

国の関与

  • 関与の基本類型
地方自治法 第二編 第十一章 国と普通地方公共団体との関係及び普通地方公共団体相互間の関係

(技術的な助言及び勧告並びに資料の提出の要求)
第二百四十五条の四
  1. 各大臣(内閣府設置法第四条第三項 に規定する事務を分担管理する大臣たる内閣総理大臣又は国家行政組織法第五条第一項 に規定する各省大臣をいう。以下本章、次章及び第十四章において同じ。)又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、その担任する事務に関し、普通地方公共団体に対し、普通地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言若しくは勧告をし、又は当該助言若しくは勧告をするため若しくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。
  2. 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県知事その他の都道府県の執行機関に対し、前項の規定による市町村に対する助言若しくは勧告又は資料の提出の求めに関し、必要な指示をすることができる。
  3. 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関に対し、その担任する事務の管理及び執行について技術的な助言若しくは勧告又は必要な情報の提供を求めることができる。

(是正の要求)
第二百四十五条の五
  1. 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
  2. 各大臣は、その担任する事務に関し、市町村の次の各号に掲げる事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該各号に定める都道府県の執行機関に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを当該市町村に求めるよう指示をすることができる。
    一  市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する事務(第一号法定受託事務を除く。次号及び第三号において同じ。) 都道府県知事
    二  市町村教育委員会の担任する事務 都道府県教育委員会
    三  市町村選挙管理委員会の担任する事務 都道府県選挙管理委員会
  3. 前項の指示を受けた都道府県の執行機関は、当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めなければならない。
  4. 各大臣は、第二項の規定によるほか、その担任する事務に関し、市町村の事務(第一号法定受託事務を除く。)の処理が法令の規定に違反していると認める場合、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合において、緊急を要するときその他特に必要があると認めるときは、自ら当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
  5. 普通地方公共団体は、第一項、第三項又は前項の規定による求めを受けたときは、当該事務の処理について違反の是正又は改善のための必要な措置を講じなければならない。
(是正の勧告)
第二百四十五条の六
次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該市町村に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。
一  都道府県知事 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する自著事務
二  都道府県教育委員会 市町村教育委員会の担任する自治事務
三  都道府県選挙管理委員会 市町村選挙管理委員会の担任する自治事務
(是正の指示)
第二百四十五条の七
  1. 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
  2. 次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該市町村に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
    一  都道府県知事 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する法定受託事務
    二  都道府県教育委員会 市町村教育委員会の担任する法定受託事務
    三  都道府県選挙管理委員会 市町村選挙管理委員会の担任する法定受託事務
  3. 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理について、前項各号に掲げる都道府県の執行機関に対し、同項の規定による市町村に対する指示に関し、必要な指示をすることができる。
  4. 各大臣は、前項の規定によるほか、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合において、緊急を要するときその他特に必要があると認めるときは、自ら当該市町村に対し、当該第一号法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。

(代執行等)
第二百四十五条の八
  1. 各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。
  2. 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに同項の規定による勧告に係る事項を行わないときは、文書により、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができる。
  3. 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに当該事項を行わないときは、高等裁判所に対し、訴えをもつて、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。
  4. 各大臣は、高等裁判所に対し前項の規定により訴えを提起したときは、直ちに、文書により、その旨を当該都道府県知事に通告するとともに、当該高等裁判所に対し、その通告をした日時、場所及び方法を通知しなければならない。
  5. 当該高等裁判所は、第三項の規定により訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を定め、当事者を呼び出さなければならない。その期日は、同項の訴えの提起があつた日から十五日以内の日とする。
  6. 当該高等裁判所は、各大臣の請求に理由があると認めるときは、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判をしなければならない。
  7. 第三項の訴えは、当該都道府県の区域を管轄する高等裁判所の専属管轄とする。
  8. 各大臣は、都道府県知事が第六項の裁判に従い同項の期限までに、なお、当該事項を行わないときは、当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる。この場合においては、各大臣は、あらかじめ当該都道府県知事に対し、当該事項を行う日時、場所及び方法を通知しなければならない。
  9. 第三項の訴えに係る高等裁判所の判決に対する上告の期間は、一週間とする。
  10. 前項の上告は、執行停止の効力を有しない。
  11. 各大臣の請求に理由がない旨の判決が確定した場合において、既に第八項の規定に基づき第二項の規定による指示に係る事項が行われているときは、都道府県知事は、当該判決の確定後三月以内にその処分を取り消し、又は原状の回復その他必要な措置を執ることができる。
  12. 前各項の規定は、市町村長の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは各大臣若しくは都道府県知事の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項に規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときについて準用する。この場合においては、前各項の規定中「各大臣」とあるのは「都道府県知事」と、「都道府県知事」とあるのは「市町村長」と、「当該都道府県の区域」とあるのは「当該市町村の区域」と読み替えるものとする。
  13. 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村長の第一号法定受託事務の管理又は執行について、都道府県知事に対し、前項において準用する第一項から第八項までの規定による措置に関し、必要な指示をすることができる。
  14. 第三項(第十二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の訴えについては、行政事件訴訟法第四十三条第三項の規定にかかわらず、同法第四十一条第二項の規定は、準用しない。
  15. 前各項に定めるもののほか、第三項の訴えについては、主張及び証拠の申出の時期の制限その他審理の促進に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
  • その他個別法に基づく関与
  • 処理基準(245条の9
    • 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について、処理基準を定めることができる(1項)。
    • 各大臣は、市町村が当該第一号法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる(3項)。
    • 処理基準は、その目的を達成するために必要な最小限度のものでなければならない(5項)。

法定受託事務の判断基準

法定受託事務の創設にあたり、地方分権推進委員会が示した判断基準(メルクマール)は下記のとおりである。
  • 国家の統治の基本に密接な関連を有する事務
  • 根幹的部分を国が直接執行している事務で以下に掲げるもの
  • 国が設置した公物の管理及び国立公園の管理並びに国定公園内における指定等に関する事務
  • 広域にわたり重要な役割を果たす治山治水及び天然資源の適正管理に関する事務
  • 環境保全のために国が設定した環境の基準及び規制の基準を補完する事務
  • 信用秩序に重大な影響を及ぼす金融機関等の監督等に関する事務
  • 医薬品等の製造の規制に関する事務
  • 麻薬等の取締りに関する事務
  • 全国単一の制度又は全国一律の基準により行う給付金の支給等に関する事務で以下に掲げるもの
  • 生存にかかわるナショナル・ミニマムを確保するため、全国一律に公平・平等に行う給付金の支給等に関する事務
  • 全国単一の制度として、国が拠出を求め運営する保険及び給付金の支給等に関する事務
  • 国が行う国家補償給付等に関する事務
  • 広域にわたり国民に健康被害が生じること等を防止するために行う伝染病のまん延防止や医薬品等の流通の取締りに関する事務
  • 法定の伝染病のまん延防止に関する事務
  • 公衆衛生上、重大な影響を及ぼすおそれのある医薬品等の全国的な流通の取締りに関する事務
  • 精神障害者等に対する本人の同意によらない入院措置に関する事務
  • 国が行う災害救助に関する事務
  • 国が直接執行する事務の前提となる手続の一部のみを地方公共団体が処理することとされている事務で、当該事務のみでは行政目的を達成し得ないもの
  • 国際協定等との関連に加え、制度全体にわたる見直しが近く予定されている事務

脚注

  1. ^宇賀克也「地方自治法概説(第3版)」(有斐閣、2009年)p.83。

関連項目


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