コンクリート用細骨材としてのフェロニッケルスラグの利用
1. 序
フェロニッケルスラグは, ステンレス鋼などの原料で
あるフェロニッケルの製造時に排出されるスラグで, 一
般には砂状をしている. この種のスラグの排出量はわが
国だけでも年間約200万トンといわれており, その一部
は製鉄原料, 肥料原料などに利用されている. しかし,
残りの大半は, 埋立てを中心とした用途に用いられてお
り, あまり有効に利用されていないのが現状である. 一
方, わが国における最近のフェロニッケルスラグの品質
に関する報告書1)を参照すると, この種のスラグもコン
クリート用細骨材として十分に活用し得る物理的・鉱物
学的性質を有しており, 重金属等の溶出も全くないと述
べられているのである. したがって, 最近の良質な天然
産骨材の枯渇も併せ考慮すると, この種のスラグをコン
クリート用細骨材として活用する場合の問題点や利用方
法について検討しておくことは, 資源の有効利用の観点
からきわめて有意義と考えられる.
フェロニッケルスラグ(以下, 単にスラグとよぶ)を
コンクリート用細骨材として利用することを試みた研究
は比較的少ない. 特に, 1980年以前においては, スラ
グの粒度の欠点を補うために川砂との混合使用を勧めた
約20年前の白山の研究2), スラグのアルカリシリカ反
応性について試験した枷場らの研究3), などが目につく
程度である. 1980年代に入ってからは, 研究報告の数
も徐々に増え, 特に, 日本鉱業協会が土木・建築両学会
にスラグに関する研究の委託を行った1982年以後は,
年間4~5編程度の貴重な研究成果が公表されるように
なった4)~13). しかし, 1982年以前にわが国で公表され
た研究は, いずれも1つの工場から排出されたスラグの
みを対象としており, 製造過程の異なる各種のスラグに
対する問題点を一般的に明らかにしているとはいいがた
い. また, 1982年以後は, スラグのコンクリート用細骨
材としての一般的な特質がかなり明らかにされてきては
いるが, スラグを用いたコンクリートの配合設計方法や
フレッシュコンクリートの特性を詳細に論じた研究はほ
とんどなく, スラグを用いたコンクリートの耐凍害性や
コンクリート中におけるスラグの安定性に関しても解明
すべき問題点が多く残されているのである. 一方, 海外
の研究動向については, 参考となる文献がないので全く
不明であるが, 本研究で対象としている種類のスラグを
用いたコンクリートに関する研究はほとんどないものと
思われる.
フェロニッケルスラグは, ステンレス鋼などの原料で
あるフェロニッケルの製造時に排出されるスラグで, 一
般には砂状をしている. この種のスラグの排出量はわが
国だけでも年間約200万トンといわれており, その一部
は製鉄原料, 肥料原料などに利用されている. しかし,
残りの大半は, 埋立てを中心とした用途に用いられてお
り, あまり有効に利用されていないのが現状である. 一
方, わが国における最近のフェロニッケルスラグの品質
に関する報告書1)を参照すると, この種のスラグもコン
クリート用細骨材として十分に活用し得る物理的・鉱物
学的性質を有しており, 重金属等の溶出も全くないと述
べられているのである. したがって, 最近の良質な天然
産骨材の枯渇も併せ考慮すると, この種のスラグをコン
クリート用細骨材として活用する場合の問題点や利用方
法について検討しておくことは, 資源の有効利用の観点
からきわめて有意義と考えられる.
フェロニッケルスラグ(以下, 単にスラグとよぶ)を
コンクリート用細骨材として利用することを試みた研究
は比較的少ない. 特に, 1980年以前においては, スラ
グの粒度の欠点を補うために川砂との混合使用を勧めた
約20年前の白山の研究2), スラグのアルカリシリカ反
応性について試験した枷場らの研究3), などが目につく
程度である. 1980年代に入ってからは, 研究報告の数
も徐々に増え, 特に, 日本鉱業協会が土木・建築両学会
にスラグに関する研究の委託を行った1982年以後は,
年間4~5編程度の貴重な研究成果が公表されるように
なった4)~13). しかし, 1982年以前にわが国で公表され
た研究は, いずれも1つの工場から排出されたスラグの
みを対象としており, 製造過程の異なる各種のスラグに
対する問題点を一般的に明らかにしているとはいいがた
い. また, 1982年以後は, スラグのコンクリート用細骨
材としての一般的な特質がかなり明らかにされてきては
いるが, スラグを用いたコンクリートの配合設計方法や
フレッシュコンクリートの特性を詳細に論じた研究はほ
とんどなく, スラグを用いたコンクリートの耐凍害性や
コンクリート中におけるスラグの安定性に関しても解明
すべき問題点が多く残されているのである. 一方, 海外
の研究動向については, 参考となる文献がないので全く
不明であるが, 本研究で対象としている種類のスラグを
用いたコンクリートに関する研究はほとんどないものと
思われる.
本文は, わが国のすべてのフェロニッケル製造工場か
ら入手した8種類のスラグを対象とし, スラグをコンク
リート用細骨材として活用する場合の問題点や利用方法
に関して基礎的に検討した結果をとりまとめたもので
あって, 特に, スラグを用いたコンクリートの耐凍害性
ならびにコンクリート中におけるスラグの長期安定性に
ついて論じたものである. また, スラグコンクリートの
最適細骨材率, フレッシュコンクリートの特性, 等に関
して, 著者らの既往の報告11)~13)に若干の考察を加えた.
2. 使用材料
試験に用いたスラグの種類および物理的性質はTable
1のようであった. Table1には, 同じ物性値に対し2
つの値が示されているスラグもあるが, これは2回に分
けて入手したスラグの品質が異なっていたためであっ
て, 上段に示されたスラグは3., 4の試験および6.
のコンクリートの作成に用い, 下段のものは5. の試験
および6. のモルタル作成に用いた. なお, 4ド中のエ
ントラップトエアを確認する試験あるいはスラグと川砂
の混合使用の効果を調べる試験には下段のスラグを用い
た. スラグの化学成分は, 大略, Table2のようである
といわれており1), いずれのスラグもSio2およびMgO
を主成分としているところに特徴がある. また, 乾澤お
よび水砕は, これらの製造過程においてクラッシャーに
よる破砕を受けているため, 一般に角ばった粒形をして
いるが, 風砕は小さい粒子に至るまで完全な球に近い形
をしている. スラグをコンクリートに用いる際には, あ
らかじめ表面水率が1%程度になるように調整して使用
した.
ら入手した8種類のスラグを対象とし, スラグをコンク
リート用細骨材として活用する場合の問題点や利用方法
に関して基礎的に検討した結果をとりまとめたもので
あって, 特に, スラグを用いたコンクリートの耐凍害性
ならびにコンクリート中におけるスラグの長期安定性に
ついて論じたものである. また, スラグコンクリートの
最適細骨材率, フレッシュコンクリートの特性, 等に関
して, 著者らの既往の報告11)~13)に若干の考察を加えた.
2. 使用材料
試験に用いたスラグの種類および物理的性質はTable
1のようであった. Table1には, 同じ物性値に対し2
つの値が示されているスラグもあるが, これは2回に分
けて入手したスラグの品質が異なっていたためであっ
て, 上段に示されたスラグは3., 4の試験および6.
のコンクリートの作成に用い, 下段のものは5. の試験
および6. のモルタル作成に用いた. なお, 4ド中のエ
ントラップトエアを確認する試験あるいはスラグと川砂
の混合使用の効果を調べる試験には下段のスラグを用い
た. スラグの化学成分は, 大略, Table2のようである
といわれており1), いずれのスラグもSio2およびMgO
を主成分としているところに特徴がある. また, 乾澤お
よび水砕は, これらの製造過程においてクラッシャーに
よる破砕を受けているため, 一般に角ばった粒形をして
いるが, 風砕は小さい粒子に至るまで完全な球に近い形
をしている. スラグをコンクリートに用いる際には, あ
らかじめ表面水率が1%程度になるように調整して使用
した.
スラグとの比較あるいは混合使用の目的には, 鬼怒川
産の川砂を用いた. この川砂の物理的性質もTable1に
示してある. 粗骨材には, 鬼怒川産の玉石砕石(最大寸
法=25mm, 比重=2. 60, 吸水率=1. 3o%, 実積率=
58. 8%, 粗粒率=7. 19)を表面乾燥飽水状態にして用い
た.
セメントには普通ボルトランドセメントを用いた. こ
の試験成績はTabIe3に示してあるが, 下段のセメント
はコンクリートの耐凍害性, スラグと川砂の混合使用,
およびスラグのアルカリシリカ反応性を調べる試験で用
い, その他の試験には上段のセメントを用いた. なお,
下段のセメントのアルカリ量は, 等価Na2 O量で
0. 66%であった
AE剤にはヴィンソルを用いた.
示してある. 粗骨材には, 鬼怒川産の玉石砕石(最大寸
法=25mm, 比重=2. 60, 吸水率=1. 3o%, 実積率=
58. 8%, 粗粒率=7. 19)を表面乾燥飽水状態にして用い
た.
セメントには普通ボルトランドセメントを用いた. こ
の試験成績はTabIe3に示してあるが, 下段のセメント
はコンクリートの耐凍害性, スラグと川砂の混合使用,
およびスラグのアルカリシリカ反応性を調べる試験で用
い, その他の試験には上段のセメントを用いた. なお,
下段のセメントのアルカリ量は, 等価Na2 O量で
0. 66%であった
AE剤にはヴィンソルを用いた.
7. 結論
わが国で入手し得るすべてのスラグを対象とし, これ
らをコンクリート用細骨材として活用していく場合の問
題点ならびに利用方法について基礎的に検討した. 実験
の範囲内で次のことがいえると思われる.
(1)水砕および風砕を用いたコンクリートの細骨材
率は, スラグ粒子の角ばりの程度が大きくなるにつれて,
川砂コンクリートより0~3%程度小さくする必要があ
る. これは, 砕砂や高炉スラグ細骨材を用いる場合に対
して一般に認められている傾向と逆であるが, 角ばりの
程度が大きい細骨材を用いてワーカビリチーのよいコン
クリートを得るためには, 本研究の結果のように細骨材
率の値を小さくするか, あるいは細骨材より粒径の小さ
い部分(たとえば, セメント)の量を多くして骨材粒の
角ばりの影響を少なくするのが適当と思われる. 一方,
乾津の場合には, 粒の強度が弱く, 微粒分が多くなる傾
向にあるので, 細骨材率の値をlO%程度小さくして用
いなければならない場合もある.
わが国で入手し得るすべてのスラグを対象とし, これ
らをコンクリート用細骨材として活用していく場合の問
題点ならびに利用方法について基礎的に検討した. 実験
の範囲内で次のことがいえると思われる.
(1)水砕および風砕を用いたコンクリートの細骨材
率は, スラグ粒子の角ばりの程度が大きくなるにつれて,
川砂コンクリートより0~3%程度小さくする必要があ
る. これは, 砕砂や高炉スラグ細骨材を用いる場合に対
して一般に認められている傾向と逆であるが, 角ばりの
程度が大きい細骨材を用いてワーカビリチーのよいコン
クリートを得るためには, 本研究の結果のように細骨材
率の値を小さくするか, あるいは細骨材より粒径の小さ
い部分(たとえば, セメント)の量を多くして骨材粒の
角ばりの影響を少なくするのが適当と思われる. 一方,
乾津の場合には, 粒の強度が弱く, 微粒分が多くなる傾
向にあるので, 細骨材率の値をlO%程度小さくして用
いなければならない場合もある.
(2)風砕は, 粒形が完全球体に近く, 粒子表面もき
わめて滑らかなために, これを用いたコンクリートの所
要単位水量は, 川砂の場合より10%以上も減少する.
これに対し, 粒子が角ばっている乾澤および水砕を用い
た場合の所要単位水量は, 川砂の場合と比べて5-10%
程度増加するものが多く, この傾向は水セメント比が小
さい場合に著しい. しかし, 粒形は角ばっていても, そ
わめて滑らかなために, これを用いたコンクリートの所
要単位水量は, 川砂の場合より10%以上も減少する.
これに対し, 粒子が角ばっている乾澤および水砕を用い
た場合の所要単位水量は, 川砂の場合と比べて5-10%
程度増加するものが多く, この傾向は水セメント比が小
さい場合に著しい. しかし, 粒形は角ばっていても, そ
の実積率が川砂より大きい水砕もあり, これに属するス
ラグを用いたコンクリートの所要単位水量は川砂を用い
た場合より若干減少することもある一
(3)スラグを用いたフレッシュコンクリートの空気
連行性, ブリージングおよび凝結性状は, 定性的には高
炉スラグ細骨材の場合とほぼ同じ傾向にある. しかし,
高炉スラグ細骨材の場合と著しく相違する点は, 風砕を
用いた場合にもエントラップトエアが増加することで
あって, たとえば, 本研究の試験では, 川砂コンクリー
トの場合と比較して1%程度多いエントラップトエアが
混入された, この原因の1つとしては, 一般に風砕を用
いたコンクリートの単位セメント量が川砂コンクリート
の場合より相当に少なくなることが挙げられるが, これ
が支配的な原因ではない. なお, 微粒分を相当に多く含
んでいる乾津の場合には, 所定量の空気を連行するため
のAE剤量は, 川砂コンクリートの2~3倍になる
(4)スラグを用いたコンクリートの材令6か月まで
の圧縮強度は, 水セメント比を同じにした川砂コンク
リートの圧縮強度と比べて若干小さい傾向にあるが, そ
の差は実用的には無視できる程度である. なお, この種
のスラグは高炉スラグ細骨材にみられるような潜在水硬
性をほとんど有していないため, コンクリートの長期材
令における強度の伸びは川砂の場合とほぼ同等である.
(5)スラグを用いたコンクリートの耐凍害性は, 同
じ空気量の川砂コンクリートと比べて全般的に劣る傾向
にある. この主な原因は, スラグコンクリートのブリー
ジング量が一般に増加するためであり, 特にブリージン
グの増加が著しい場合には耐凍害性が著しく悪化する.
したがって, 耐凍害性が要求されるコンクリートにスラ
グを用いる場合には, 空気量を適切にすることはもちろ
んのこと, ブリージングを少なくする処置を講じる必要
がある.
(6)現時点においては, わが国のスラグのうち約半
数は, これらを細骨材として用いてもコンクリートの長
期安定性が損なわれる可能性は少ないと考えられる. し
かし, 残りの約半数のスラグの場合には, 条件によって
は, これらがコンクリート中においてアルカリシリカ反
応やポップアウト現象を起こす可能性がある.
(7)溶融スラグを冷却する際に最初に生成するフォ
ルステライトだけを結晶鉱物として含み, 残りがガラス
質であるスラグは, コンクリート中においてアルカリシ
リカ反応を起こす危険がある. これに対し, 相図から判
断してガラス質を全く含まない温度範囲で冷却されたス
ラグで, フォルステライトのほかにエンスタタイトある
いはダイオプサイドを含むものの場合にはアルカリシリ
カ反応を起こす可能性はない.
ラグを用いたコンクリートの所要単位水量は川砂を用い
た場合より若干減少することもある一
(3)スラグを用いたフレッシュコンクリートの空気
連行性, ブリージングおよび凝結性状は, 定性的には高
炉スラグ細骨材の場合とほぼ同じ傾向にある. しかし,
高炉スラグ細骨材の場合と著しく相違する点は, 風砕を
用いた場合にもエントラップトエアが増加することで
あって, たとえば, 本研究の試験では, 川砂コンクリー
トの場合と比較して1%程度多いエントラップトエアが
混入された, この原因の1つとしては, 一般に風砕を用
いたコンクリートの単位セメント量が川砂コンクリート
の場合より相当に少なくなることが挙げられるが, これ
が支配的な原因ではない. なお, 微粒分を相当に多く含
んでいる乾津の場合には, 所定量の空気を連行するため
のAE剤量は, 川砂コンクリートの2~3倍になる
(4)スラグを用いたコンクリートの材令6か月まで
の圧縮強度は, 水セメント比を同じにした川砂コンク
リートの圧縮強度と比べて若干小さい傾向にあるが, そ
の差は実用的には無視できる程度である. なお, この種
のスラグは高炉スラグ細骨材にみられるような潜在水硬
性をほとんど有していないため, コンクリートの長期材
令における強度の伸びは川砂の場合とほぼ同等である.
(5)スラグを用いたコンクリートの耐凍害性は, 同
じ空気量の川砂コンクリートと比べて全般的に劣る傾向
にある. この主な原因は, スラグコンクリートのブリー
ジング量が一般に増加するためであり, 特にブリージン
グの増加が著しい場合には耐凍害性が著しく悪化する.
したがって, 耐凍害性が要求されるコンクリートにスラ
グを用いる場合には, 空気量を適切にすることはもちろ
んのこと, ブリージングを少なくする処置を講じる必要
がある.
(6)現時点においては, わが国のスラグのうち約半
数は, これらを細骨材として用いてもコンクリートの長
期安定性が損なわれる可能性は少ないと考えられる. し
かし, 残りの約半数のスラグの場合には, 条件によって
は, これらがコンクリート中においてアルカリシリカ反
応やポップアウト現象を起こす可能性がある.
(7)溶融スラグを冷却する際に最初に生成するフォ
ルステライトだけを結晶鉱物として含み, 残りがガラス
質であるスラグは, コンクリート中においてアルカリシ
リカ反応を起こす危険がある. これに対し, 相図から判
断してガラス質を全く含まない温度範囲で冷却されたス
ラグで, フォルステライトのほかにエンスタタイトある
いはダイオプサイドを含むものの場合にはアルカリシリ
カ反応を起こす可能性はない.