引き続き福島第一原発事故による放射能汚染に関して。
「毎日新聞」25日付の1面トップに「ダム底 高濃度セシウム 福島第1周辺 10ヵ所8000ベクレル超」と題した記事があった。
福島第1原発周辺の飲料用や農業用の大規模ダムの底に、森林から川を伝って流入した放射性セシウムが濃縮され、高濃度でたまり続けていることが環境省の調査で分かったという。
同省は原発事故半年後の2011年9月から、除染されない森林からの放射性物質の移動を把握するためダムや下流の河川などのモニタリング調査を開始し、岩手から東京までの9都県のダム73カ所で1カ所ずつ数カ月に1回程度、観測しているそうだ。
このうち50キロ圏内の10カ所のダムで指定廃棄物となる基準(1キロ当たり8000ベクレル超)を超えている。
底土表層濃度の11~15年度の平均値が指定廃棄物の基準を超えるダムは、いずれも福島県内の10カ所で、高い順に次のようになる。
◆岩部(がんべ)ダム(飯舘村)1キロ当たり6万4439ベクレル
◆横川ダム(南相馬市)同2万7533ベクレル
◆真野ダム(飯舘村)同2万6859ベクレル
──など。ただ、表層の水は各ダムとも1リットル当たり1~2ベクレルで、飲料水基準の同10ベクレルを下回る。
同省によれば、ダムの水の放射線量は「人の健康に影響を与えるレベルではない」と、またも従来の答弁を繰り返している。同省は「ダムに閉じ込めておくのが現時点の最善策。しゅんせつすれば巻き上がって下流を汚染する恐れがある」として、除染せずに監視を続ける方針だという。
しかし、専門家からは「将来のリスクに備えて対策を検討すべきだ」と指摘する声もある。
さらに同「毎日」の3面「クローズアップ2016」の特集。
「ダム底 高濃度セシウムたまる汚染 募る不安 国『放置が最善』/地元『決壊したらどうする』」と題して、リードで「東京電力福島第1原発周辺のダムに放射性セシウムがたまり続け、実質的に『濃縮貯蔵施設』となっている。有効な手立ては見当たらず、国は『水は安全』と静観の構えだ。だが、福島県の被災地住民には問題の先送りとしか映らない。原発事故がもたらした先の見えない課題がまた一つ明らかになった。」と書いている。
そして「このままそっとしておく方がいいのです」という環境省の担当者の言葉を、はたしてそうなのか検証している。
国が除染などを行うことを定めた「放射性物質汚染対処特別措置法」(2011年8月成立)に基づく基本方針では「人の健康の保護の観点から」必要な地域を除染すると規定しているが、ダムに高濃度のセシウムがたまっていても健康被害の恐れが差し迫っていない限り、「法的に問題ない」というのが環境省の見解だという。さらに、なんと、「ダムが水不足で干上がった場合は周囲に人が近づかないようにすればいい。もし除染するとなったら作業期間中の代替の水源の確保はどうするのか。現状では除染する方が影響が大きい」と担当者は説明しているのだそうだ。
こうした国の姿勢に地元からは、反発の声があがる。
政府が来年春に避難指示区域の一部を解除する浪江町のふるさと再生課の男性職員は「環境省はダムの水や周囲をモニタリングして監視するとしか言わない。『何かあれば対応します』と言うが、ダムが壊れたらどうするのかと聞いても答えはない。町民に対して環境省と同じ回答しかできないのがつらい」とため息をつく。
農業用ダム「大柿ダム」では農水省の調査でセシウムの堆積総量が約8兆ベクレルと推定(13年12月時点)されているが、町の男性職員は「いくら水が安全だと言われても、ダム底にセシウムがたまったままで消費者が浪江産の農産物を手に取るだろうか」と風評被害への懸念を口にする。
同町から福島県いわき市に避難中の野菜農家の男性(57)は「国は安全だと強調するばかりで抜本的な解決策を検討する姿勢が見えない。これでは安心して帰還できないし、農業の再開も難しい」と憤りを隠さない。
ここからは私見。
セシウムは、種類にもよるが、一般的にナトリウム・カリウムの仲間(アルカリ金属)で、水に溶けやすい性質があり、ダム底の泥によっても、放射性セシウムは、砂よりも粒径の小さい泥(シルトや粘土)に吸着し高濃度を呈する性質があるという。また、その蓄積の深さ、湖への流入部か、湖心か、下流域かという水の流れによっても蓄積する量が大きく変わるという。それらの関係でどうなのか。
湖底に泥と一緒にたまっている放射性セシウムが、どのように作用するのか。プランクトンや、それを食べる魚やダム湖の生物たち、そしてそれを食べる鳥など、生態系にどんな影響を及ぼすのか。環境省は「ダムに閉じ込めておくのが現時点の最善策」しているが、閉じ込められた中には生物はいないのか。
また、各地で巨大台風や記録的豪雨が当たり前のように襲う昨今、ダムの放流などで、攪拌されたり、下流に流れたりすることでの危険性はないのか。
すでにダムの水が、湖水表面の水とはいえ、農業用水として日常的に使われているところもある。放射性物質の検査をしているとはいえ問題は本当になのか。
この記事の前に書いた甲状腺検査でもそうだが、政府とその関係機関は、難しい問題になると、特に先の見えない放射能汚染問題については、自分たちがやっているうちは頭の上を通り過ぎてくれるのを待って、なるべく「表に出ないように」「騒ぎにならないように」ということばかり考えていて、将来に向けての抜本的対策を避けている気がしてならない。
この人たちの頭には「今の自分」しかなく、日本の国土、郷土の将来、とりわけ、放射能汚染の影響をもっとも受けやすい子どもたちの将来・未来のことを第一に考える思考、想像力がないのではないだろうか。
記事の中で、山田国広・京都精華大学名誉教授(環境学)は次のように指摘したいる。
「ダムは放射性物質を厳重に保管する構造物ではない。国は底にたまったセシウムの全体像を把握し、示すべきだ」
正論だと思う。
子どもたちの将来のためにも、「そっとしておく」と放置するのでなく、今後、国の責任でしっかりと調査してもらいたい