若者が正規雇用に就けない社会の行く末とは
Business Media 誠
以前は中高年の失業ばかりを問題視していた日本でも、最近はようやく若年失業者問題に注目が集まりつつあります。
中高年の失業は、彼らが一家の“稼ぎ手”であること、すなわち妻子を養い、住宅ローンを抱え、親の面倒もみなくてはならない年齢層だったため、大きな問題とされました。若者に対しては「就職できないならコンビニでアルバイトすればいい」という話になりがちなのに、中高年に関しては「一定水準以上の賃金が支払われる正規雇用の確保」が社会的要請と考えられていたのです。
確かに中高年の失業は“今日食べるお金”の問題としてはより深刻です。しかし若年者の失業は、個人にも社会にも、より長期的かつ深刻な悪影響を及ぼします。
若いころに職業訓練が受けられないと、長期的なキャリア形成の土台が得られず、本人の経済力が長きに渡って毀損されることに加え、社会の人的資本の蓄積が進みません。報酬の低さから結婚や出産の動向にまで影響を与え、そういった人が多くなれば、今までとは異なる社会階層さえ作られてしまいます。
また、誰にとっても“報われる経験”が得られないまま努力を続けることは難しく、高じれば社会に敵対的な感情を持つ人も増加するでしょう。生活費を借金することに抵抗感がなくなる(というか、日常的にそうせざるを得ないので慣れてしまう)人も出てきて、貯蓄を通した社会資本の蓄積も行われなくなります。
こういったことから、今では日本でも多くの人が若年者の就業問題について、大きな問題意識を持つようになりました。
●道をそれた人に厳しい日本社会
にも関わらず、いったんキャリア形成の道からそれてしまった人に対して、世の中はかなりシビアです。30代になってまともな職業経験のない人は、どんなに多くの企業に応募しても、書類選考で落とされてしまうことが大半でしょう。
表「年齢階級別完全失業者及び完全失業率」
彼らに対して“甘えている”“親に依存している”と批判する意見もあるし、実際そう言われても仕方がない人もいるでしょう。けれど、たとえ多少、本人に非があったとしても、たかだか20代の時にちょっとした甘えがあったというだけで、その後の“一切のチャンス”を奪ってしまうのはいかがなものかと思います。
人間しか資源がない国として“もったいない”し、本人たちの人生は社会を恨んで無為に生きるには、まだあまりに長く残っています。けれど現実問題として、30歳まで定職経験のない人を雇う企業は多くはありません。
例えば、マンションの管理人の仕事は、定年退職後の人向けの再就職先ポジションとして定着していますが、「同じ給与でいいです」といって“30代で定職経験のない人”が応募してきても、60代の再就職派には勝てないのではないでしょうか?
日本は「長い間我慢してきた人」をとても高く評価します。現時点での能力ややる気や適性の前に、「過去にどうであったか」が重視されるのです。
たかだか数年間、生き方や仕事について悩んだり迷ったりしてきた人が、一生罰を受けなくてはならないほどの罪を犯したとは思えません。それでも彼らにはチャンスが与えられなくなってしまうのです。
●若者に“公共事業”を!
ではどうすればいいのでしょう? ちきりんは、こういう時こそ“公共事業”が必要だと考えます。民間企業はそういう人を雇う余裕がありません。市場のルールでは生きていけない層をバックアップすることこそ、公的部門の仕事なのです。
正規雇用者と非正規雇用者の推移を労働力調査に基づいてグラフにした(非農林業雇用者が対象)。図録3250では同じデータによって男女別年齢別の非正規雇用者比率の推移を見ているが、ここでは、実数の推移を追った。 非正規雇用者はパート、アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託などからなる。労働力調査は事業所ではなく世帯が対象の調査であり、ここでの集計は職場での呼称にもとづく回答者の選択によっている。なお、ニュース等で公表される非正規雇用者の数は農林業を含んだデータであり、ここでの人数より多い(例えば2009年1~3月期は非正規雇用者1,699万人と22万人多い)。ここでは時系列のなるべく長い接続のため、非農林業を対象としている。 正規雇用者は1997年までは増加していたが、それ以降、2006年まで減少し、07年以降ほぼ横ばいとなっている(図録3150参照)。これに対して非正規雇用者は2009年までは一貫して増加した。 この結果、非正規雇用者比率は1990年の20.0%から2011年の35.4%へと大きく上昇した。いまや3人に1人以上は非正規雇用者となっている。 2009年(1~3月期)の特徴は、正規雇用者は前年の採用状況が良かったためやや増加しているのに対して、非正規雇用者がはじめて42万人の減少に転じた点であり、このため非正規雇用者比率は33.3%へと低下した。2008年後半からの世界的な経済危機の中で行われた派遣切りなどの影響が端的に出ているといえる。この20年間続いてきた傾向から大きく逸脱する事態となったため派遣やパートの雇用者もパニックに陥り、非正規雇用者の問題が社会問題として大きくクローズアップされるに至ったことは改めて指摘するまでもない。 2010年(1~3月期)には女性パート中心に再度非正規雇用者が増加して、非正規比率も33.6%とふたたび増加している。2011年(1~3月期)は男のアルバイト、契約社員が増え非正規比率は35.4%で過去最高となっている。 男女別の非正規雇用者の各区分別の人数を掲げると以下の通りである。非正規雇用の多くは女性パートであることが分かる。 2008年から2011年にかけての各区分の雇用者数の増減は以下の通りである。2008年に59万人だった男性派遣社員が2009年に38万人へと21万人も減少した点(減少率36%))にショックの大きさをうかがうことができる。2010年にも今度は女性派遣社員を中心に派遣が減少している。その一方で女性パートが増加しているので2010年の非正規雇用者数は増加している。2011年は男性のアルバイトや契約社員・嘱託が増加している。 非正規雇用者対前年比較(1~3月期、万人)
なお、非正規雇用の拡大は世界的な傾向である。以下にEUにおける状況を掲げる。「先進工業国で支配的だったフォーマルな経済は、かつては、進歩的な労働市場政策、強い労働組合の影響力、そして永続的であることが普通のフルタイム雇用によって特徴づけられる傾向があった。こうした状況は大きく変わってしまった。」(図のWHO報告書) (2008年4月16日収録、2008年5月30日更新、9月1日EU非正規雇用図追加、2009年5月20日更新、2010年5月18日更新、10月22日読者からの指摘によりグラフ凡例の正規、非正規が逆だったのを修正、2011年5月18日更新) |