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中国、隣の省から反原発の狼煙-江西の計画を安徽が反対

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中国、隣の省から反原発の狼煙-江西の計画を安徽が反対

 
  福島第一原子力発電所の事故後、中国でも原子力安全に対する一般公衆の関心が高まったが、江西省の彭澤原子力発電所の建設計画に対して、隣の安徽省の望江県人民政府が建設の中止を求めている。
  発端は、2月7日にインターネットに流れた「江西彭澤原子力発電所プロジェクトの建設停止の請求に関する報告」だ。同報告は、望江県の王進・県長が署名した正式文書で、2011年11月15日に安徽省の発展改革委員会能源局に提出された。
  この報告が多くの関心を呼んだのは、隣の江西省彭澤県に建設が計画されている原子力発電所に対して公然と中止を求めたからだ。報告は、発電所の立地点選定評価、環境影響、安全分析の点から疑問を提示した。
 
  まず、人口データが実際と食い違っていると指摘した。中国の原子力規制当局である環境保護部(国家核安全局)の「核動力廠環境副射防護規定」によると、原子力発電所の立地点の半径5キロ内に1万人以上の村や町、また半径10キロ内に10万人以上の都市があることを制限しており、こうした場所では原子力発電所の建設は適さないと規定している。
 
  望江県によると、彭澤原子力発電所の半径10キロには望江県の華陽鎮や太慈鎮等、多数の村や町が含まれており、半径3.2キロから10.9キロの範囲内には17万人が住むだけでなく、流動人口も3万人に達するという。しかし、彭澤原子力発電所の建設に関して06年に当局に報告されたデータでは、華陽鎮の人口は2万4110人、2008年の改訂版でも4万5280人となっており、事実と大きく異なるというのが望江県の主張だ。
 
  地質評価についても異議を唱えている。彭澤県の上級行政単位である九江市は、「九江-靖安断層」の上に位置し、江西省でも比較的地震活動が活発な地域の1つに数えられるとしたうえで、05年11月26日と11年9月10日には九江市でマグニチュード5.7と4.6の地震が発生したと指摘している。
  また、望江県には発電所の立地点の半径10キロ内に省級の2ヵ所の開発区があるものの、立地点選定段階の環境評価報告書では、半径15キロ内には大・中規模の企業はないと明記されており、これも事実に反すると非難した。
 
  さらに、望江県に対して実施された世論調査でも民意を全面的に反映しているとは言えず、公開・透明の原則に反すると批判した。望江県側によると、彭澤県の関連部門が望江県磨盤村で実施した世論調査では、調査目的や影響について説明がなかったとしている。さらに調査対象者に対して、歯磨きや洗剤、石鹸、シャンプーなど1個50元程度の粗品が配られたことまで暴露している。
 
  このほか、原子力発電所の立地予定地点は江西省から見ると最下流に位置するため、仮に事故が起こった場合には安徽省が大きな影響を受けると主張した。
  これに対して彭澤県側は、実施主体である中国電力投資集団公司の江西核電公司による環境影響評価や安全評価に協力を行ったとしたうえで、国の関連規定にしたがったとの見解を示した。
  彭澤原子力発電所の安全管理を担当する環境保護部核安全管理司の担当者は2月8日、立地点選定段階の評価報告は関連規定に適合しているとの見解を明らかにした。また、2月10日現在、望江県に対して上級政府からの回答はないというが、国家能源局は2月9日、調査を実施するため担当者を江西省に派遣した。
 
  今回の争議は、望江県を退職した元幹部の行動が発端になっている。望江県法院長を務めた方光文氏ら4名は11年6月、彭澤原子力発電所の建設中止を呼びかけた請願書を公表した。中止を求めた理由は、望江県の公式文書の内容と同じだが、この4名は11年12月20日、中央政府の関連部門にも陳情書を提出した。陳情書は、国務院の指導者にもすでに渡っているという。
  今回の件については、2つの省の間で事前に調整が行われていれば展開は違ってきたとの見方がある。さらに、彭澤原子力発電所の立地点が望江県の開発区から離れた場所であったら状況は違っていたと指摘する関係者もいる。ちなみに子力発電所の建設予定地は、彭澤県から20キロ、九江市から80キロ離れているのに対して、望江県からはわずか10キロしかない。
 
  加えて、原子力発電所立地にともなう経済効果という側面もある。1050億元と推定されている投資額は彭澤県や九江市など地元経済に大きく貢献すると期待されている。地元政府に対しても、建設期間中には毎年5000万元の建築施工時の営業税が入ってくる。
 同発電所では4基を建設する計画だが、全部完成すると毎年30億元の税収が見込める。彭澤県の現在の財政収入は5億元程度に過ぎないことから、同県や九江市にとっては願ってもないプロジェクトだ。一方、距離的には近い望江県にはそうした見返りはない。
 
  同発電所は82年、着工までのすべての作業を含めた「前期作業」を開始。92年に「江西原子力発電所初期実行可能性研究報告」(「江西核電廠初歩可行性研究報告」)が完成したあと、当時の電力部が核工業総公司と共同で同報告を審査した。その後、08年1月に国の原子力発電中長期発展規画に組み込まれた。米ウェスチングハウス社が開発した第3世代炉「AP1000」(PWR、125万kW)が4基建設されることになっている。
 
  また同発電所は、湖南省の桃花江や湖北省の咸寧と同じく、内陸部に建設される中国初の原子力発電所の候補となっている。中国ではこれまで、原子力発電所はほとんど沿海部に建設されてきたが、これからは内陸部での建設が活発化するとみられている。彭澤発電所もそのうちの1つだが、内陸部での原子力発電所の建設に異議を唱える向きもある。
 
  中国科学院理論物理研究所研究員の何祚麻院士は11年7月、内陸部の原子力発電所建設に反対する考えを明らかにした。内陸部の場合には河川に沿って原子力発電所が建設されるが、干ばつが起こった場合には冷却水の取得が難しくなり大きな事故につながるというのが1つの理由だ。今回の望江県の反対声明に関しても何氏は、江西省の彭澤地区では干ばつに見舞われ、水の確保に重大な問題が発生したとの懸念を示した。
  今回の問題は、地方政府の手を離れ、すでに中央政府の手中にある。まもなく公表される核安全規画と原子力発電中長期調整規画との関連もあり、中央政府がどのような判断を示すかに関係者の注目が集まっている。
 
 
 

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