放射性セシウムの土壌等への吸着特性
5.1 はじめに
福島第一原発事故後に発生した一般廃棄物の焼却灰には、放射性セシウムが含まれています。このような焼却灰からは放射性セシウムの溶出が懸念されるので、安全な埋立処分のためには、
(1) 土壌等の吸着層を設置、
(2) 埋立場所を制限し降雨接触面積を減らす、
(3) 降雨を遮断する、
(4) 放射性セシウムの溶出を抑制させるといった工夫が必要です。
焼却灰の下に土壌を敷設した場合、焼却灰から溶出した放射性セシウムは土壌層に吸着し、その移動速度は遅延します。放射性セシウムには時間の経過とともに自身の濃度が減少する自然減衰性をもつので、土壌吸着による移動速度の遅延は濃度低下につながります。
したがって埋立処分では、溶出する放射性セシウムを所定濃度まで自然減衰できるような土壌吸着層の設計が重要であり、放射性セシウムの土壌等への吸着性をまず知る必要があります。
放射性セシウムの土壌吸着性が著しく高いことは、チェルノブイリ原発事故後の土壌調査結果(Petryaev et al. (1993))や数多くの吸着実験(井上と森澤(1976))から明らかにされていますが、その一方で、環境中のpH や共存イオンにより吸着性は大きく変化します(日本原子力学会(2006); 福井と桂山(1976))。埋立地の環境条件を考慮した上での性能評価が重要になります。
特に、焼却灰の直下に敷設される土壌は、焼却灰から溶出する高濃度のアルカリと電解質に曝されるので、このような条件下で放射性セシウムがどの程度吸着するのかは未解明であり、その実験評価は急務です。ここでは、福島第一原発事故後の焼却施設から採取した飛灰を用いて、その溶出液中の放射性セシウムに対して、土壌等の吸着量および分配係数を評価した例を紹介します。
5.2 実験方法
(1) 使用材料
東日本にある焼却施設から固化処理前の飛灰を採取し、液固比10、6 時間120 rpm 水平振とうの条件で溶出液を作製しました。その後、その溶出液に蒸留水や少量の塩酸を追加し、条件を整えたものを吸着実験の供与液として用いました。その濃度を表5.1 に示します。
吸着実験に用いた試料は、
(1) 蒸留水で洗浄した珪砂5 号、
(2) 茨城真砂土、
(3) 埼玉土壌、
(4) ベントナイト、
(5) 粉末ゼオライト、
(6) 顆粒ゼオライトです(写真5.1)。
これら吸着材の初期吸着イオン量および陽イオン交換容量を表5.2 に整理します。また吸着材の放射性セシウム含有量は、いずれも検出限界以下でした。
(2) 実験手順
所定量の吸着材を500 mL 容のポリスチレン容器に入れ、作製した供与液200 mL を加えました。その後、1 日間の120 rpm 水平振とうを行った後、容器内に入れた供与液の濃度を測定しました(写真5. 2)。吸着前後での濃度変化から次式により吸着量を算出しました。
所定量の吸着材を500 mL 容のポリスチレン容器に入れ、作製した供与液200 mL を加えました。その後、1 日間の120 rpm 水平振とうを行った後、容器内に入れた供与液の濃度を測定しました(写真5. 2)。吸着前後での濃度変化から次式により吸着量を算出しました。
またはmg/L)、S0:吸着材の初期吸着量(Bq/kg またはmg/kg)、V:供与液の液量(= 0.2 L)、m:投入した吸着材の乾燥質量(kg)を表わします。また投入量は、試料の吸着性を考慮して珪砂・まさ土・埼玉土壌の場合で5-25 g、ベントナイト・ゼオライトの場合で0.1-10 g として、各試料で3 水準の投入量で実験を行いました。
なお一般的な吸着試験では、試料量を一定にし供与液の濃度レベルを希釈等で変化させて吸着等温線を描きその傾きから分配係数を算出しますが、本検討では、供与液の条件は一定として、吸着材の投入量を変化させる方法を採用しました。飛灰溶出液を供与液とする必要があり、供与液の希釈は放射性セシウムのみならず共存イオン濃度の低下にもつながり吸着材に作用する共存イオンの影響を小さく見積る恐れがあるためです。
5.3 実験結果
(1) 放射性セシウムに対する吸着特性
図5.1 と図5.2 は、飛灰溶出液中の放射性セシウムに対する、吸着材の吸着特性を示しています。横軸に平衡濃度、縦軸に吸着量で整理したときのプロットの線形勾配を分配係数2と呼び、その値が大きいほど放射性セシウムに対する吸着性が高いことを意味します。
飛灰溶出液中の放射性セシウムに対する吸着性は、珪砂5 号 < 茨城真砂土 < 埼玉土壌 <ベントナイト < 顆粒ゼオライト < 粉末ゼオライトの順に大きいことがわかりました。
(1) 放射性セシウムに対する吸着特性
図5.1 と図5.2 は、飛灰溶出液中の放射性セシウムに対する、吸着材の吸着特性を示しています。横軸に平衡濃度、縦軸に吸着量で整理したときのプロットの線形勾配を分配係数2と呼び、その値が大きいほど放射性セシウムに対する吸着性が高いことを意味します。
飛灰溶出液中の放射性セシウムに対する吸着性は、珪砂5 号 < 茨城真砂土 < 埼玉土壌 <ベントナイト < 顆粒ゼオライト < 粉末ゼオライトの順に大きいことがわかりました。
特にゼオライトの分配係数は、ベントナイトの約10 倍であり、極めて高い吸着性をもつことがわかります。また、これら吸着材の分配係数は、溶液のpH が中性(pH = 7)の場合とアルカリ性(pH = 12)の場合では、ほとんど同じであることもわかりました。なお埼玉土壌とベントナイトは、中性よりもアルカリ性の方が、若干高い分配係数を示していますが、これは粘性土分の陽イオン交換容量がアルカリ性側で高くなるためだと考えられます。
2 異なる量の吸着材を供与液に投入するため、それぞれの平衡状態では共存イオンの組成が若干異なることから、厳密には線形勾配を基に分配係数を算定することはできませんが、ここでは蓋然性の高い分配係数を得る手法として採用しました。
(2) 共存イオンの影響
図5.3 は、吸着試験後の供与液中の放射性セシウム濃度と共存イオン濃度を示したものです。横軸は吸着材の投入量を表わし、投入量ゼロのときの濃度は供与液の初期濃度を意味
します。
図5.3 は、吸着試験後の供与液中の放射性セシウム濃度と共存イオン濃度を示したものです。横軸は吸着材の投入量を表わし、投入量ゼロのときの濃度は供与液の初期濃度を意味
します。
供与液に吸着材を投与することで、供与液中の放射性セシウム濃度は低下する一方で、共存イオン濃度は、吸着材からの初期イオンの脱着に伴い増加する成分もあれば、吸着材への吸着に伴い低下する成分もあることがわかります。
ベントナイトと粉末ゼオライトの場合では、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの濃度は増加(脱着)し、カリウムと安定セシウムの濃度は減少(吸着)しました。このことから、放射性セシウムのみならず、カリウムと安定セシウムも同時に吸着していることが明らかになりました。
吸着材の吸着容量には限りがあるので、共存イオンの吸着は放射性セシウムの吸着性の低下につながります。
Chang et al. (1993)によれば、放射性セシウム137 単一溶液に対するベントナイトの分配係数は6,200 mL/g と報告されています。一方、本実験で測定された分配係数は20-60 mL/g であり、これは2 オーダー以上も小さいことがわかります。
これは飛灰溶液中に含まれる共存イオン(カリウムと安定セシウム)が放射性セシウム137 の吸着性を阻害したためです。
共存イオンによる吸着性の阻害は、いかに大きいものかということがわかります。そのため、埋立地内での土壌吸着層の設計では、土壌吸着層は焼却灰からの溶出液や周辺廃棄物からの共存イオンに曝されることを念頭におき、放射性セシウムに対する吸着性はそれら共存イオンにより低下することに注意しなければなりません。
5.4 結び
埋立地の環境条件下における放射性セシウムに対する土壌等の吸着特性を明らかにするために、焼却飛灰の溶出液を供与液とした吸着試験を実施しました。電気伝導度2,000 mS/mをもつ飛灰溶出液中の放射性セシウムに対する分配係数は、標準砂で5 mL/g、真砂土で10
mL/g、ベントナイトで60 mL/g 程度でした。
埋立地の環境条件下における放射性セシウムに対する土壌等の吸着特性を明らかにするために、焼却飛灰の溶出液を供与液とした吸着試験を実施しました。電気伝導度2,000 mS/mをもつ飛灰溶出液中の放射性セシウムに対する分配係数は、標準砂で5 mL/g、真砂土で10
mL/g、ベントナイトで60 mL/g 程度でした。
これらの値は、放射性セシウム単一溶液に対する分配係数よりも低い値であり、飛灰溶出液中のカリウムおよび安定セシウムが放射性
セシウムの吸着性を阻害したためだと示唆されました。
放射性セシウムに対する吸着特性は、共存する化学物質(pH、イオン、腐植物質等)の影響や、吸着材の結晶構造や初期吸着イオン、吸着容量にも左右されますので、ここで示しました分配係数は目安としての値であり、条件により変わることに留意する必要があります。
セシウムの吸着性を阻害したためだと示唆されました。
放射性セシウムに対する吸着特性は、共存する化学物質(pH、イオン、腐植物質等)の影響や、吸着材の結晶構造や初期吸着イオン、吸着容量にも左右されますので、ここで示しました分配係数は目安としての値であり、条件により変わることに留意する必要があります。