埋立処分過程における挙動と制御
7.1 モデル解析からみる挙動と埋立工法
現時点で放射性物質に汚染された廃棄物(焼却灰等含む)の埋め立ては、濃度によって分類されており、その値は、作業者の被曝線量率から求められた8,000 Bq/kg(廃棄物中に含まれる放射性物質濃度:以下、固体濃度とする)が採用されています。
重金属やその他の有害物質に関して、廃棄物最終処分場への埋め立ては、固体濃度ではなく、廃棄物処分場から発生する浸出水に対する影響という観点から、溶出試験によって分類されてきました。
したがって、現時点では、浸出水への影響よりも作業者の被爆が優先されていることになります。当然、埋立後の地域住民に対する被曝線量を十分に低くしなければならないことから、固体濃度による規制も必要ですが、放射性物質を含む浸出水が発生した場合に、既存の水処理施設では十分な対応が取れないことから、被曝量と同時に、浸出水への影響も考える必要があります。
放射性物質に汚染された廃棄物には、放射性物質を溶出しやすい廃棄物と、しにくい廃棄物があります。溶出しやすい廃棄物としては、家庭や事業所から出される一般廃棄物の焼却飛灰が挙げられます。一方で、一般廃棄物の主灰からは溶出しにくく、下水汚泥の焼却灰(飛灰)や上水汚泥からも溶出しにくいことが確認されています。
ここでは、放射性物質に汚染された廃棄物の埋め立て時において考えなければならない共通事項や留意事項を示すとともに、溶出量の大小における浸出水への影響について述べます。
(1) 放射性物質に汚染された廃棄物の埋立方法
第1 節でも述べられているように、放射性物質に汚染された廃棄物であったとしても、既存の管理型廃棄物最終処分場に埋め立てられることが示されました。これは、覆土等によって地域住民に対する被曝量を制御することが可能であることや、跡地利用制限することで一般公衆に対する被曝線量も制御可能であることが理由として挙げられます。
第1 節でも述べられているように、放射性物質に汚染された廃棄物であったとしても、既存の管理型廃棄物最終処分場に埋め立てられることが示されました。これは、覆土等によって地域住民に対する被曝量を制御することが可能であることや、跡地利用制限することで一般公衆に対する被曝線量も制御可能であることが理由として挙げられます。
管理型最終処分場は、底部に遮水工があり、水が場外へと漏洩しない封じ込め施設として建設されており、処分場内の水は、集排水管によって集められて水処理後に放流する仕組みとな
っています。
っています。
よって、浸出水に対する配慮も求められます。水処理技術が確立していない現時点においては、水処理によって放射性物質を止めることは合理的でないことから、浸出水へと溶出させないことが必須と考えられます。
放射性物質の固体濃度が8,000Bq/kg 以上の廃棄物や、8,000 Bq/kg 以下であっても溶出しやすい煤塵等の廃棄物に関しては、上部隔離層の役割が重要になります。廃棄物処分場内へと浸透する降雨量を涵養量といいますが、この涵養量の大小によって浸出水への溶出は大きく変化します。上部隔離層に求められる性能は、遮水性と変形追従性、施工性、(放射能に対する)遮蔽性です。
遮水性は、透水係数を小さくすることと、排水勾配を設けることによって確保可能です。排水勾配は、不同沈下のことも考慮すると、5%は必要と考えられます。透水係数としては、周辺の廃棄物地盤よりも少なくとも2 オーダーは低い透水係数を与えることで、十分な遮水性を確保することが可能です。
変形追従性は、不同沈下対策として求められる機能です。一般的には、自己修復性を有する膨潤性粘土鉱物を用いることで対応がとられます。
上部隔離層は、中間覆土代替として設置されることから、数日から数週間に 1 度の施工となり、連続施工とはなりません。したがって、特殊な重機等を用いないと施工できない方法では、維持管理が困難になります。このことから、通常の管理型最終処分場で用いられるシャベルカー等を用いた工法を採用する必要があると思われます。
遮蔽性は、隔離層の充填密度(かさ密度)と厚みによって制御されます。これまでの報告ですと、通常の締固め土壌であれば50 cm の厚みで十分とされています。
上部隔離層についてのみを詳述しましたが、セメント固化の強度が十分でなく、溶出しにくいと判断できない8,000~100,000 Bq/kg の廃棄物については、側面にも隔離層が求められますが、必要な性能は上部隔離層と同様です。
次に、これまでの埋立や仮置きに関する通知文等に一貫して述べられていることとして、廃棄物の下には土壌層を敷設することが示されています。これは、廃棄物から溶出した放射性物質を吸着させることが目的であり、土壌層には、吸着能と通水性の2 つが求められます。
ただし、これまで吸着層という設計が行われた事例は少なく、どのような土壌であれば良いか、どのように敷設するのかという具体的方法を示すことは難しいのが現状です。
土壌層という名前であることから、砂や礫、スラグ等は使用できず、真砂土やシルト質土壌等が対象となってきます。これは、砂や礫だと通水性は確保できますが、セシウム吸着能が低く、吸着性能が悪いことが理由です。また、吸着能のみを考えれば、粘土質土壌が最も性能が良いことになりますが、粘土分(75μm 以下の粒径)が多いと、通水性が悪く、浸透水が吸着層内に入り込まない可能性が高いため、吸着層としての機能を果たさないことになります。
よって、適切な土壌が手に入らなければ、通水性と吸着能を両立する材料を配合して人為的に作ることが求められます。
土壌層の設計が容易でないことから、最も重要な対策は上部隔離層と側部隔離層であり、下部の土壌層は、仮に水が入ってしまった時の補助的な役割であり、フェイルセーフ機能の一つとして考える方が無難です。
これまでの通知では、埋立や仮置きにおいて、下部にも隔離層(遮水層)が必要ということになっておりますが、水を集水しない構造で下部を遮水する行為は、工学的には危険と考えられます。溜まった水の処理を行うことができません。
原発事故時に降下したセシウムは土壌表面から数センチ以内に留まっています。このことを考えると、セシウムについては、土壌層を通水させても系外には漏洩しない、といえると思います。よって、下部は遮水性能の隔離を行うのではなく、吸着層としての隔離に留めるべきと考えています。
(2) 放射性物質の溶出量を考慮した浸出水への影響評価
焼却灰に吸着したセシウムは、その全てが水へと溶出するわけではありません。下水汚泥焼却灰からの溶出率は、固体濃度に対して3%未満であることが報告されています。
一方で、一般廃棄物の焼却飛灰からの溶出は、キレート処理やセメント添加処理にかかわらず数十%になることも報告されております。例えば、10,000 Bq/kg の焼却灰から10%溶出することと、100,000 Bq/kg から1%溶出することは、水にとっては同じ負荷量となります。
溶出時間という観点もありますが、放射性物質の移動や減衰の時間からすると、溶出時間は短く、影響評価においては大きな影響を及ぼしません。
本節では、JIS K 0058 から求められる溶出率等を利用し、不溶態のセシウムの存在を考慮した合理的な評価を行うことで、適正な埋立処分を行うための基礎データを構築します。
図7.1.1 には放射性物質に汚染された廃棄物の埋立イメージの一例を示します。
廃棄物は1 日に300 cm までしか埋め立てることができないため、フレキシブルコンテナに入れられた廃棄物であれば、おおよそ3 段積みとなります。上部には遮水性を有する隔離層が必要であることから、厚さ50 cm 程度の難透水性土壌層が設置されます。
土壌層としているのは、廃棄物の圧縮沈下等に伴う不同沈下に対する変形追随性を持たせることが理由です。
多少の沈降があったとしても、透水係数が極端に増加することのないような材料を用いる必要があります。また、廃棄物層の下部には吸着を目的とした土壌層が必要です。
上部も下部も隔離層という概念ですが、その目的は異なります。下部の吸着目的の隔離層には、セシウムが吸着する材料を選択する必要があります。土壌層と書きましたが、人工的な材料でも、変形追随性と吸着性、地耐力があれば問題ありません。
図7.1.1 には、数値モデルの条件設定も示しています。上部の隔離層である難透水性土壌層の透水係数と、地域の降雨量、廃棄物の透水係数によって、この隔離層を通過する流量は変化します。ここでは、この通過水量を涵養量としました。上部の隔離層の遮水性は25年間は発揮されますが、その後、徐々に機能劣化が起こることを想定し、涵養量が50 年後には当初の5 倍になることを模擬しました。
実際、粘土等を用いた遮水であれば、その機能が劣化することはなく、ここで安全側の計算ができるように安全率を設置したことになります。
廃棄物層からの溶出は、例えば、JIS K 0058(JIS 攪拌溶出試験)による溶出試験結果から得られた濃度を用いることになります。JIS 撹拌溶出試験は、廃棄物を構成している粒子を、廃棄物の10 倍の質量の水で溶出させることになります(液固比が10 ということ)。実廃棄物層では、粒子が撹拌されることなく、粒子同士の間隙を涵養した水が通過することになりますので、ここでも安全側の計算を行っていることになります。
溶出試験結果で100 Bq/L である場合、液固比が10 であることから、実廃棄物層の間隙水のセシウム濃度は10 倍の1,000 Bq/kg となります。JIS 撹拌溶出試験は、6 時間で溶出させますので、セシウムの移動や減衰挙動を評価する上では、微々たる時間であることから、JIS 撹拌溶出より得られた溶出量が、初期に瞬時に間隙水に溶出することを仮定しました。
下部の隔離層である土壌吸着層には、バッチ吸着試験より得られた分配係数を用いることとしました。この分配係数は、使用する材料にもよりますが、塩分濃度の影響を強く受けるので、実際の処分場の浸出水や溶出水等を用いてセシウムの分配係数を求める必要があります。本解析では、まさ土にて求められた分配係数 Kd = 10 L/mg を用いました。
なお、本解析では、134Cs の半減期が短く、本計算上では影響を及ぼさないことから、137Cs のみに着目して実施しています。
(あ)涵養量の条件設定
本計算で与えた涵養量のパターン図を図7.1.2 に示す。涵養量10 mm/yr とは、年間降雨量が1,800 mm と仮定した場合に、透水係数10-6~10-8 cm/s の透水係数を有する隔離層を設置した場合に相当します。涵養量が100 mm/yr であれば、透水係数で10-5~10-6 cm/s 相当になります。
本計算で与えた涵養量のパターン図を図7.1.2 に示す。涵養量10 mm/yr とは、年間降雨量が1,800 mm と仮定した場合に、透水係数10-6~10-8 cm/s の透水係数を有する隔離層を設置した場合に相当します。涵養量が100 mm/yr であれば、透水係数で10-5~10-6 cm/s 相当になります。
この涵養量は、不飽和浸透特性に影響を受けることから、単純に透水係数で求めることができないため、比例計算等で涵養量を求めることは困難です。
(い)計算結果
図7.1.1 における濃度測定点(下部土壌層の下端)での濃度変化を図7.1.3~7.1.5 に示します。それぞれ、涵養量毎で図化しました。凡例に示される溶出濃度は1~500 Bq/L として計算しました。1 Bq/L は検出限界に近い値であり、例えば土壌などの溶出試験でN.D.となった場合には、この1 Bq/L の溶出濃度を用いて評価することが可能です。
図7.1.1 の涵養量10→50 mm/yr の場合では、溶出試験結果が500 Bq/L であった場合に、濃度限界である90 Bq/L を超過することになります。溶出試験結果が500 Bq/L であるので、初期の液相濃度は10 倍の5,000 Bq/L となります。これでも、小さい涵養量を確保可能な上部隔離層を用い、分配係数 10 程度の土壌吸着層を用いれば浸出水濃度を約90 Bq/L まで抑制することが可能になります。
図7.1.1 における濃度測定点(下部土壌層の下端)での濃度変化を図7.1.3~7.1.5 に示します。それぞれ、涵養量毎で図化しました。凡例に示される溶出濃度は1~500 Bq/L として計算しました。1 Bq/L は検出限界に近い値であり、例えば土壌などの溶出試験でN.D.となった場合には、この1 Bq/L の溶出濃度を用いて評価することが可能です。
図7.1.1 の涵養量10→50 mm/yr の場合では、溶出試験結果が500 Bq/L であった場合に、濃度限界である90 Bq/L を超過することになります。溶出試験結果が500 Bq/L であるので、初期の液相濃度は10 倍の5,000 Bq/L となります。これでも、小さい涵養量を確保可能な上部隔離層を用い、分配係数 10 程度の土壌吸着層を用いれば浸出水濃度を約90 Bq/L まで抑制することが可能になります。