中国共産党大会 強硬路線の継承を懸念する(11月9日付・読売社説)
経済力と軍事力を膨張させる富国強兵路線を、新指導部が継承することが明確になった。
5年に1度の中国共産党大会が開幕した。
今大会では習近平国家副主席が総書記に就任し、指導部が大幅に交代する。中国の今後10年の針路を決定づける重要な大会だ。
総書記を退く胡錦濤国家主席は今後5年の党の活動方針となる政治報告で、領土を防衛するために軍の近代化を加速し、海洋権益を断固守る姿勢を強調した。
尖閣諸島の国有化を巡る日本との激しい対立や南シナ海の領有権問題に関する摩擦、米国の「アジア重視」の新戦略を念頭に置いたものだろう。
尖閣問題で中国の対日強硬姿勢が続くのは避けられまい。日本は日米同盟を基軸に東南アジア諸国とも連携し、中長期的な対中戦略を練らなければならない。
胡氏はまた、2020年の国内総生産や1人当たりの所得を10年に比べて2倍にするとの目標も打ち出した。年率7%程度の成長を維持していく必要がある。だが、かつてのような高成長は望めず、目標達成は容易ではない。
この10年、中国は北京五輪と上海万博を成功させ、日本を抜き世界第2位の経済大国となった。
成長の陰で、貧富の格差が広がり、不公正な司法や地方官僚の腐敗などに対する国民の反発が暴動となって各地で噴出している。
胡氏が「所得分配制度の改革を深化させる」として格差解消に全力を挙げる方針を訴えたのは、強い危機感の裏返しと言える。
09年末に総人口の12・5%だった60歳以上の高齢者は20年に18%になる見込みだ。社会保障などの整備の遅れは、社会を一層不安定にさせる要因となろう。
大会では党規約を改正し、調和のとれた持続可能な発展を目指す胡氏の戦略思想「科学的発展観」を毛沢東ら歴代指導者の思想と同列の指導思想に格上げする方針だ。引退後も自らの影響力を保ちたい胡氏の狙いがうかがえる。
大会の日程発表は通常より1か月も遅れる異例の事態となった。巨額収賄などを理由に党籍を剥奪した元重慶市トップ薄煕来氏の処分を巡る調整が難航したためとみられる。党内の権力闘争が影を落とした形だが、真相は不明だ。
言論統制の緩和など政治改革は手付かずだ。政治報告は「政治体制改革を積極的かつ穏当に推進する」とうたうが、どこまで改革を進められるのか。習近平体制に重い宿題が残されることになる。
(2012年11月9日01時21分読売新聞)